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第1章 アルトゥレ王国編

予想された展開

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 案の定、宴の場であるにも関わらず、発表直後から議論は紛糾した。
 自分達人間と仲良くやっていくつもりがある害意のない者まで追い出すのは外聞的にも宜しくない派と、いつの日にかまた魔王が復活した時どうするのだ派がその最有力として場が二分し、正義神ザティアス裁定神アリューズの前だというのに収拾がつかなくなってしまったのだ。
もうこうなっては、どうしようもないので本人達の意見も聞こう、ということになって艦へと戻ってきていた勇者達の元へと早馬の報せが齎されたのだが。

「なぁ、スガル」
「なに?」
「嫌な予感しかしねぇんだけど? …てか、別の意味で火に油注ぐだけじゃねぇのか連れてったら。特にこいつら!」

 コンソールグラス越しに右手の指先で眉間を抑えたブルーは敢えてそちらを見ないようにしながら左手で、一塊りになっている集団を指差した。

「あははははは…だよねー。でも来いって言ってるの向こうだしなー…」

 残念ながら彼らはまだこの国の住人なのだ。
魔族であるため国民という括りではないのだが、王族や貴族に来いと言われてまるっと無視するのは、ここに残る同族が他国含めてある程度の数いるだけに現状ではいただけない。
そう判断せざるを得ないだけの理由もある。
人々にとって彼らは、片や、森や繁みに住み着いて増え過ぎた動物や魔物を間引いて調整を行う存在でもあった1種族。
此方、人々の生活に混じり込み、女性達を不埒な犯罪の被害者にしかけた者から女を助けるフリして横から男を掻っ攫い、老木のようになるまで搾り取る(暗喩)ことで自分達のしでかそうとしていたことを心と身体に刻み込んで教育してくれる影の治安維持部隊。
そんな側面もあったので。
反対派がそれなりの数になったのもその辺りのことが原因なのだろう。
 2人揃って深々と息をついて諦めると、報せの使者がする案内について王城へと向かったのだが。
 宴の間に入った瞬間、室内にいる一同…特に男性陣が一様にどよめいた。
ぱぃ~ん♡
ぽぃ~ん♡
あぁ~ん♡
なんて効果音が、それぞれ注目される度につきそうなレベルで抜群のスタイルと相貌を誇る、美女美女美女美女美女の群れ。

「シンディちゃん?」
「ライラちゃん!」
「ミティアちゃん⁈」

 不用意に女夢魔の名を呼んでしまった貴族の隣では、物凄い勢いで自らの伴侶へ顔を向け、カッと見開いた目でその姿を凝視する本妻の姿。

「おおっ…下は大梨果から上は水瓜、平均でカンタロープと言ったところか。実に素晴らしい…」
「いやいや、上よりもあの丸み、重量感。この世の桃源郷を想起いたしますぞ」

 どう聞いてもセクハラオンパレードな言葉と仕草の数々が投げかけられているのだが、それも女夢魔にとっては全てが褒め言葉。
獲物が自ら寄ってきている証左でしかなく、わざと挑発的なポーズを向けたりする辺り、実にあざとい。

「お母様」
「なぁに、フィリア?」
「胸の大きな女が好きな男はマザコン、尻の大きな女が好きな男は、どすけべえ。私、そんな言葉をどこかで聞いた記憶があるのですけれど、どなたが仰った言葉でしたかしら?」
「まぁ…どなたが仰ったのか私も存じ上げませんけれど、実に金言かつ、至言でございますこと。ほほほほほ」

 そんな王妃はは王女の言葉は期せずして宴の間に居る全ての者が耳にできてしまう音量のものだったし。

「なぁにボクちゃん? お姉さんとイイことしたい?」
「は、はいぃぃぃぜひぃぃぃぃぃ!!」

 早速、女夢魔のめろぉんな谷間に顔を挟まれて誘惑された男の返事を聞くなり、その後ろ頭の髪を握り掴んで引っぺがした女は、その男の顔を近くにいた豊満な体型の男性…その腹へとグリグリ押し付けた。

「皮の内側に内包されている肉の種類は同じでしてよ? お義父様で満足なさいな、あなた」

 極寒のブリザードが吹き荒れているような目線と声音で冷ややかに告げる。
そんな光景があるかと思えば。

「貴女達! 他所の国へ行くのでしょう⁈ 行くならとっとと行ってちょうだい!」
「そうよ!そうよ!」

 隣にいる婚約者の目が彼女達ばかり向いているのにオカンムリな娘達が叫んでいる、なんて風景もあり。
また。

正義神ザティアス様っ! 綺麗な女子おなごは種族を問わず世の宝! 美しさは正義でございますよねっ⁈」
裁定神アリューズ様っ! かように美しき者達をただ魔族だというだけで国から追いやることは、もはや罪といえるのではないのですかっ⁈」

 会話可能なマジモンの神が目の前に居るのをいいことに神が味方してくれそうな言葉を選んで激論の続きを始める者も居り、また違う場所では。

「まぁ、知らなかったわ。そんな方法で胸が大きくなりますの?」
「あら、いいわね。そのクビレの作り方。私もやろうかしら、その運動…」
「お肌綺麗ね。お手入れ何なさってるの?」

 などと彼女達に美しいスタイルの作り方や維持の方法で教えを請うご婦人まで現れて、室内は完全に混沌カオスと化した。
しかもその内容全部が、端的に言って“しょうもない”の一言に集約できるものだった。
そんな中、ちらり、と勇者達が横目で視線を交わし合い。

「俺し~らねっ」
「僕もっ…」

 こうなることはわかり切っていたけれど、予想通り過ぎる現状にこれは一段落するまで暫く放っておくしかないと判断した勇者達は、そそくさと部屋の隅に避難して、小鬼妖魔達と食事を摘みだした。

「お。これ美味ぇ」
「え? どれ?」
「これだよ。ほい。小鬼妖魔おまえらも食ってみ? ほれ」
[ンマイ!]
[ニンゲン クイモノ ウマイ二 クフウスル スゴイ!]
[スゴイ!]

 ここにだけ流れる和やか空気は結構だが、完全に諌める気ゼロの勇者達であった。








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