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第2章 パナミュウム皇国編

完成! 冒険者ギルド

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 ギルド長達が建設をフィリアに一任すると彼女は早速動き出した。

「では始めてしまいましょう。勇者様方の試算によるとダンジョンが表出してくるまで残り2日もございませんから」

 にこやかに言って席を立った彼女の言葉に、そうだった! とギルド長達は思い出したような顔をして一斉に立ち上がった。

「フィリア王女殿下。後2日でギルドの建物を建てるなど、無茶ではございませんか?」
「あら。御心配には及びませんわ、ダンガレース様。このフィリア、伊達や酔狂で女神の愛し子などとは呼ばれておりませんので。さ、ヴェルザンドス総会長。ギルド建設予定地までご案内くださいませ」

 ダンガレースの問いに答えてから総会長へと向き直ったフィリアは、スガル達が手紙に記載していると話していたことを彼が実行しているかを確認する意味も含めて案内を請う。

「う、うむ。手紙に記されていた通り、町の西側から海沿いに出てすぐの所を押さえてある。だが、あそこまでの広さは必要だったのかね?」
「はい。ダンジョンの入口を建物内に包括してしまいますし、職員の方々がお使いになられる寮や素材保管用の倉庫、冒険者の方々がお使いになれるような軽食処や道具屋なんかを併設したいと考えておりますので。町の方々への需要や雇用を生み出すことも上手にお付き合いしていくには必要な要素でございましょう」

 フィリアの答えに一理ある…と思いながらも何だか、どんどんと話の規模が大きくなって行くのを感じてギルド長達は顔を見合わせてしまった。

「予め色々とお考えくださっておるのですなぁ。いやはや…王女殿下、儂の代わりにギルド長をやりませんかな?」
「うふふ。魅力的なお話ですけれど、私には世界副神アルニーブ様より賜ったお役目がございますので、御辞退申し上げますわ」
「ほほう。副神よりのお役目でございますか。それはまた…」

 フィリアと楽しげに言葉を交わしながら総会長がギルド建設予定地へと会合場所から出た一同を案内して歩いて行く。
 町の中心部から少し北寄りの丘に建っている会合場所の屋敷からなだらかに下る道を眼下に眺め、馬車には乗らずぞろぞろと歩いて進む。

「いいですわね、開放感のある眺めで」
「ええ。流石は元リゾート地ですな。ああ、あそこに町の西門が見えますぞ」
「あら、ほんと」
「門から少し街道沿いに…ここからだと右手側に行くと海沿側へ向かう道が分かれておりましょう? あの辺りから指定のあった土地を含めて木々が途切れるくらいの所までをギルドの敷地として買い上げておりますな」
「では、軽食処はそちら側へ作った方が眺めもよくなりますわね。職員寮も窓をそちらへ向ければ良いかしら」
「待遇のいいギルドになりそうですな。はっはっは!」

 話の内容は特に聞かれても困らない物だからなのか ── 今更、ギルドの建設を阻止するのは事実上不可能であろう ── 2人の勇者と他のギルド長も今後の指針や新しく取り入れる冒険者のランク判定などについても話し、町の人々から大人数の徒歩移動を不思議そうな目で眺められつつ建設予定地へと到着した。

「こちらに植わっている木々もいただけますの?」
「はい。好きに使っていいと領主エドワンケルス様からお言葉を頂戴しておりますぞ」
「左様でございますか。では、始めますわね」

 フィリアがそう言った瞬間、それまで普通に和やかに話に応じていた勇者達がパッ、とギルド長達とフィリアの間を遮るように割って入った。

「はいはい。興味湧くのは分かるけど、悪ぃこと言わねぇからもっと下がって見てた方がいいぞー?」
「アルトゥレ王国と近隣諸国所轄のギルド長さん達は聞いたことくらいあるでしょう? 第3王女様がまたやらかす・・・・気満々ですよー? 察してくださいねー?」

 2人の勇者が両手を広げてギルド長達を後ろに下がらせようとしながら言うと、サッと顔色を変えた5人くらいのギルド長がアワアワしながら勇者達と共に皆とフィリアに距離を取らせようとし始めた。
何だ?何だ? と不思議そうな顔をしつつもこの場に居る人間全てが大なり小なりフィリアの所業を小耳に挟んでいるのか、少しづつ後ろへと下がって行く。

「〈建築神フレドリアグレイスよ! 地の精霊、石の精霊、火の精霊、風の精霊、水の精霊、緑の精霊達を率いてその力を示せ!〉」

 この世界の人間には分からない日本語でのなんちゃって呪文を口にしながら神力を発動する。
足元の地面、底の方から段々と強くなる地響きが始まって総会長が教えてくれた範囲の土地が一気にボコンと音を立てて18cmほど盛り上がった。
 よく見るとそれは1枚の岩石で出来ていて、丁度、2つの街道を繋ぐ角に沿って出来た部分だけが道から段差なしで上がれるスロープの一部のようになっていた。
恐らくは、ダンジョンの入口が開く予定位置なのだろう所は四角く切り取られたように土の地面のままだった。
 生えていた木々は全て根ごと上空に浮いていて、風精霊達が端から作業に入っているらしく、わちゃわちゃ言いながら木々を切断しては木材として整えていた。
 ぽかん、と口を開けたままそれを見上げていたギルド長達は再び足元に響いた地響きに目を戻し、現れていた1枚石の上にもう一段、同じような大きさの石が重ねられたのを見てしまった。
 海側と2つの街道側には丁度、奥行き25cm分面積が減っていて2段分の階段が出来上がったことになり、街道角は寸分の狂いなくぴったりと合わさったスロープの長さが延長されている格好だ。
ダンジョン入口らしき穴にもそこから上がってくる形になる段差が外階段と同じように出来ていた。
同じような具合でもう1枚石が重なった所で、これまでとは違う小刻みな擦過音が周囲を満たす。

「こ、今度は何だ⁈」

 フィリアとギルド長達の間に入っているアルトゥレ王国とその周辺国所轄のギルド長達すらも両腕を横に広げた姿勢のまま背後を振り返り、呆然と成り行きを見つめている。
 次第、音が大きくなってきていた擦過音は、最後に円筒形に3段分の石をくり抜く形で何個かの石の塊を空へと舞い上げた。
次いでその穴から生えてきたのは20m近い長さを持つ金属の円柱。
 上空で切り刻まれていた木材から水精霊が水分と共に樹液を全て抜き取り地精霊がそれに粘土質の物を混ぜ込むと風精霊が上空に舞い上がった円筒形の石と金属の円柱にそれを纏わせていく。
 円筒形の石がダンジョン入口予定穴近くにある段差前…その両端へと積み上がる。
2本の柱を形作っていた動きが止まると同時に火精霊がそれを炎で加熱し始めた。
 1度赤熱するまで温度を上げられた石柱と金属柱は、水精霊から浴びせられた冷水で一気に冷却されて黒光りする何かに変化していた。

「す、凄い……」
「私は、地妖精ドワーフ森妖精エルフ巨人族ギガースの建築風景を見たことがあるが彼らの方がまだ人間に近い建て方をしていたぞ……」
(ですよねー。僕もそう思いますぅ)
(ホントにいいんだろうな⁈ 世界副神アルニーブ様よぉ⁈ 俺達ゃマジでどうなっても知らねぇからな⁈)
「お母さん! あれ! 精霊さんがいっぱいくるくるしてるよ!」
「何だあれ⁈ 石や木が上の方にたくさん浮いてるぞ!」

 ギルド長達の呟き、勇者達の心の声。
その中に続々と声が増えて行く。

「ヤベぇぞスガル! 町の連中が見に来ちまった!」
「そりゃ見にくるよねー! こっちはもう大丈夫そうだから向こうの人達が近づき過ぎないように制止しに行こう」
「了解っ」

 ギルド長達はもう不用意には近づかないだろうと判断した勇者2人は、町から見物に来てしまった人達の整理に走った。
その間も建築神フレドリアグレイスと精霊達のギルド建築は続いていく。
 風の精霊と一緒に金属柱の周りをくるくる回っていた石の精霊が次第に金属部分を石で埋めていき、一部がへこんだ石の柱を生成していく。

「おーい! そこのガキ共! 危ないからもうちょっと下がってろー?」
「兄ちゃん、アレ何作ってんだい? 神殿か何かか?」
「違いますけど、作ってるのは建築神フレドリアグレイス様と精霊達なので、ちょおっと・・・・・派手になっちゃってるだけなんですー。お騒がせしてすみませーん」
「見てるのは構わねぇけど、上から色々落ちてくっから近づくなー? 危ねぇぞー?」
「あ!」

 興味津々の人々を制するスガルとブルーの声が響く中、その場に居た者達が揃って同じ一音を唱和した。
 上空で集まった光の粒が平らな石に変わっていき、それがある程度の大きさと数が揃って垂直に落ちて来たのだ。
大きな柱と小さな柱の間を埋めるようにズドン、ズドン、と順に配置されていく様は何かの立体パズルのようだ。
 柱のへこみはこの石の壁が嵌め込まれる為に作られていたようで、外壁から区画の壁、上階への階段などがどんどん出来上がっていく。
するとこれまで上空に浮いたまま作られていた板材が次々に降りてきて、海側の区画を板材で覆い出した。
パチンパチンと板材同士が接合されているらしき音が石の配置音に混ざって響く。

「すごいね、ままー」
「そ、そうね…」
「こんな海沿い、高波来たら危ねぇぞって言いに来たんだが、この分なら関係なさそうだな……」
(はい。関係ありません。だってこの下、ダンジョンだもの。寧ろ高波来たらここに逃げてください、安全だから)
(大体、建ててんの建築神だぞ。高波や台風程度でどうこうなるような脆弱なモン、そもそも作んねぇっての)

 年嵩の男性が零した呟きが親切から来るものなのは分かっていたが、勇者2人が心中にて突っ込む背後で、ダンジョン入口受付、依頼受付、登録受付、素材買取受付の各種カウンターと素材倉庫、道具店に使われる販売スペースと陳列棚、海側部分のデッキスペースを含めた軽食処が木材で出来上がり、倉庫の横…軽食処の裏に石材のままな区画が1部屋分残された状態で 1階部分の建築は終了した。
 1階の屋根と2階の床に使われるのだろう1枚石は、予め柱の金属部分より少し大きめの円と四角い階段部分が幾つか欠落した状態で形成されて上から嵌め込まれ、継ぎ目が綺麗に同組成の石材で埋められることで完全に一体化してしまった。
そんな調子で2階には、会議室スペースと筆記試験場、ギルド長の執務室が海側の軽食処を除いた面積の上に作り出された。
 海側向きに窓が並んだ職員寮は同じ階の街道側に洗濯物が干せるような開放スペースがベランダのように併設されていて3階部分が男性寮、4階部分を女性寮として設定されているのか、それぞれの階に上がれる階段が1階からしか存在していなかった。
 建物の内外を彩る蔦や花々は、石壁や柱から生えてきていて、1階の角に大きく開いた階段とスロープの映える入口…その上に彫り込まれた「冒険者ギルド」の文字と剣杖が盾の上で交差するデザインの絵看板を引き立てていた。

建築神フレドリアグレイス様ー! 有り難うございましたー! 精霊ちゃん達も協力有り難う!」

 きゃっきゃ笑いながら精霊界に還って行くそれぞれの精霊達。
返事のようにキラーンと空の1点を輝かせた建築神。
終わった……と心底ホッとした息を吐き出す勇者2人。
何かよく分からんが凄いもの見た、と何故か拍手を始める町の人々。
つられて拍手を始めるギルド長達。
そんな風景の中、完成したサンサラーディ冒険者ギルドは石材と木材がふんだんに使われた威風堂々とした砦のような姿で、そこに佇んでいた。






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