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第2章 パナミュウム皇国編
次国の事情(※G名称有ダメな方は注意)
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「もういいのか?」
コントロールルームの扉が開いた音でこちらを見たブルーは、フィリアの姿を認めるとすぐ、そう声をかけてきた。
「ええ。きちんと結果を見届けてからじゃないと安心できなくて」
「せっかちさんかよ」
けらけらと笑いながらコンソールへ正対し直したブルーが手元のキーを叩く。
「様子はどうですの?」
否定できない己の性分を笑い飛ばされて、ちょっぴり複雑な気分になりながら側へと向かいつつ尋ねる。
「お姫さんが無茶した以外は予定通りだとスガルが言ってたぜ?」
「時短を意識して実行しただけですわ」
「予告ゼロで唐突にな?」
「………」
それを非難しているのでもなければ、嫌味を言っているのでもなく、どちらかと言えば揶揄されているような響きで言われて思わず口がへの字に曲がる。
「だって、思いついてしまったんですもの」
「だから言ってるだろ? せっかちさん、って」
「っ……そんなところにまで敬称は必要ございませんことよ!」
くくっ、と笑ってみせるブルーに悔し紛れで言ってメインモニターへと映し出される側面図に目をやった。
ブルーの言う通り、計画は順調に進んでいるようで既に障脈とダンジョンコア近くへの道筋もつけられていて、後は必要ない部分の横穴を塞いでスガルが戻って来れば一先ず自分達がやるべきことが終わるようだ。
「これでようやく1つ目……先は長いですわね」
「今回みてぇに国通さねぇで動けるトコはまだいい。次のイーキュリアは手強そうだぜ?」
「そうですわね。あそこは国という体をとってはおりますけれど、地区がそれぞれ自治区のようなもので、領主は地区長が1年単位で持ち回り。国として動く際には領主達の合議で決められる…謂わば地区長国。バウレスがある東南地区の地区長は今年の領主ではなかった筈ですし、地区が単独で動く判断をしてくださらなければ、あっという間に領主合議まで案件を持っていかれてしまいかねない土地柄ですものね」
彼の国に関して彼がどこまで情報を持っているかは分からなかったけれど、己が知る話ではそんな概要の国だった筈だと考えながら言った。
「最悪、切り捨てる覚悟が必要だぜ?」
「致し方ございませんわね。白蟻に食われた柱を惜しんで家屋が倒壊したら本末転倒ですわ。その時には世界副神様に次点候補を上げていただきましょう」
厳しい表情をして言い切ったフィリアは、然りとも否とも返ってこない答えを訝って見詰めていたモニターから隣のブルーへと目を移した。
彼は目の前に小さなモニターを1つ立ち上げていて、その画面には白蟻が表示されていた。
聞いてくれれば答えるのに…と思いながら何の気なしにその画面を見やったフィリアは、そこに記されていた「昆虫網ゴキブリ目シロアリ科。当該惑星に於いて、ゴキブリと呼ばれる生物の不完全変態昆虫。世界の侵略的外来種ワースト100というリストにも掲載されている人的害虫だが自然界に於いてはセルロースという物質の分解に関与している重要生物」などという記述に目を丸くした。
(し、知らなかった……白蟻ってゴキブリの仲間だったの⁈ 蟻じゃないんだ⁈ って言うか、侵略的外来種って何⁈ …え? 自然界では重要生物? へぇ……)
知ってるつもりで知らないことってあるんだなぁ……などと思いながらついつい画面を覗き込んでいたら。
何やら不思議そうな表情をしたブルーと目が合った。
「お姫さんが元いた世界の生き物だろ? コレ」
「はい」
何でそんな珍しそうな顔してんだ? とでも続きそうな彼の問いへ簡素な答えを返して、白蟻の表示されているモニターを指し示す。
「そこに書いてある中のイエシロアリというのが先程、私が例えに出した昆虫なのですけれど、私の知らなかった情報が載っていたもので、つい」
感じたままを口にしたフィリアに「コレが?」とばかりに無言で指差したブルーに頷いてみせる。
「ふぅん?」
どこが知らなかった情報なのかには言及せずに相槌めいた音を漏らして、フィリアが名指しした項目へ視線を走らせているのが目の動きで分かった。
「なるほど。使われてる建材が木だと倒壊してもおかしかねぇな。……で? この東南地区とやらのヤツには何したんだよ?」
「うぐっ」
ほぼ決定系で問われたことに、思わずフィリアは呻いた。
「白蟻とやらに例えたトコみると、お姫さんから見たら害虫クラスのヤツだったのか? アルトゥレ王国に来たヤツは。話の感じからすると当時の領主が東南地区の地区長ってのは決まりなんだろ? どうせ」
ホレ、吐け。
とばかりに倒置法で言われて唸っていたフィリアは、溜息をついてがっくりと肩を落とした。
「イーキュリア王国は、国土の半分以上が砂漠なんですの。人が住める場所は精霊の休憩所と呼ばれるオアシス的な地域ばかりで。元々裕福な地域が少ない上に魔王復活前の影響で、唯一まともに成り立っていた魔物食にも弊害が出まして。その……隣接する3国、ヘイユーディア公国とルベルタ王国、サンザマルタ王国の一部地域にイーキュリア王国からの略奪部隊が……立ち去る時に“この略奪は食糧支援をしないアルトゥレ王国の所為だ”と」
悔しそうに唇を噛んで俯くフィリアにコンソールグラス越しに彼女を見るブルーの目に疑問の彩が浮かぶ。
「そもそもの話しとしてだな? イーキュリア王国、または東南地区単独でも何らかの支援要請とやらは、アルトゥレ王国側へあったのかい?」
「いいえ! その3国から苦情と陳情の真ん中みたいな要請があって漸くあの女が我が国に来たのです! 私の顔を見るなり挨拶もなしに、その方が仰いましたわ。“これ以上、この国の名で他国に迷惑をかけられたくなければ無償で食料を寄越せ”と!」
「……随分とデカく出たもんだな。100%言いがかりの略奪行為で?」
「はい。とにかくあちらは有無を言わせずでしたので……」
「! ……お姫さんも有無を言わせず? 誰、喚んだ?」
フィリアのした前置きにピンと来たのか、合いの手じみた突っ込みをブルーが入れる。
「正義神様と裁定神様を……」
「喚んでどうなった?」
「正義神様の判定は“悪”。裁定神様の判決は“有罪”。彼女は、2度とこのような行いをしないと神誓して生涯守り抜かねば地獄神様がすぐさま地獄へと連れて行き、大偽欺搾地獄515年の刑に服することになると……」
「だからあの時、王妃さんが2柱を指名したのか」
王と勇者の未来形頑張ろうね約束が、王妃の発言で急に神誓に変わった時のことと今回の話しを繋げて、やっと理解が及んだブルーが息をつきながら言い、フィリアが頷く。
要するに2柱が間に挟まれば事実上の執行猶予がつくのだ。
「その方、ガルディアナ聖王国の使者を私がやり込めた当時は、まだ地区長におなりでなかったようで、神を召喚するなんてデマだと思い込んでおられたようですの」
「誰か止めろや、イーキュリア王国。何の為の合議制だ。……おっと」
呆れ果てたブルーの突っ込みは、鳴り渡ったアラームでその勢いを削がれた。
コンソールへと正対し直したブルーがキーを操作すると、コントロールルームの端へ一瞬だけ歪みが生じてそこへ、スガルが降り立った。
「ただいまぁ」
「お疲れ」
「お疲れ様ですわ、聖勇者様」
「? ……どうしたの? 何か僕より2人の方が疲れてるっぽく見えるんだけど?」
不思議そうに聞いてくるスガルに、ブルーはザックリとこれまでの話しをしてみせた。
それに対するスガルの反応は実にシンプルで。
「ダメだなって思ったら場所変えよ!」
にぱっと笑んで言い切った結論は、奇しくもブルーへ細かい事情を説明する前に出していたフィリアの結論と一致していた。
コントロールルームの扉が開いた音でこちらを見たブルーは、フィリアの姿を認めるとすぐ、そう声をかけてきた。
「ええ。きちんと結果を見届けてからじゃないと安心できなくて」
「せっかちさんかよ」
けらけらと笑いながらコンソールへ正対し直したブルーが手元のキーを叩く。
「様子はどうですの?」
否定できない己の性分を笑い飛ばされて、ちょっぴり複雑な気分になりながら側へと向かいつつ尋ねる。
「お姫さんが無茶した以外は予定通りだとスガルが言ってたぜ?」
「時短を意識して実行しただけですわ」
「予告ゼロで唐突にな?」
「………」
それを非難しているのでもなければ、嫌味を言っているのでもなく、どちらかと言えば揶揄されているような響きで言われて思わず口がへの字に曲がる。
「だって、思いついてしまったんですもの」
「だから言ってるだろ? せっかちさん、って」
「っ……そんなところにまで敬称は必要ございませんことよ!」
くくっ、と笑ってみせるブルーに悔し紛れで言ってメインモニターへと映し出される側面図に目をやった。
ブルーの言う通り、計画は順調に進んでいるようで既に障脈とダンジョンコア近くへの道筋もつけられていて、後は必要ない部分の横穴を塞いでスガルが戻って来れば一先ず自分達がやるべきことが終わるようだ。
「これでようやく1つ目……先は長いですわね」
「今回みてぇに国通さねぇで動けるトコはまだいい。次のイーキュリアは手強そうだぜ?」
「そうですわね。あそこは国という体をとってはおりますけれど、地区がそれぞれ自治区のようなもので、領主は地区長が1年単位で持ち回り。国として動く際には領主達の合議で決められる…謂わば地区長国。バウレスがある東南地区の地区長は今年の領主ではなかった筈ですし、地区が単独で動く判断をしてくださらなければ、あっという間に領主合議まで案件を持っていかれてしまいかねない土地柄ですものね」
彼の国に関して彼がどこまで情報を持っているかは分からなかったけれど、己が知る話ではそんな概要の国だった筈だと考えながら言った。
「最悪、切り捨てる覚悟が必要だぜ?」
「致し方ございませんわね。白蟻に食われた柱を惜しんで家屋が倒壊したら本末転倒ですわ。その時には世界副神様に次点候補を上げていただきましょう」
厳しい表情をして言い切ったフィリアは、然りとも否とも返ってこない答えを訝って見詰めていたモニターから隣のブルーへと目を移した。
彼は目の前に小さなモニターを1つ立ち上げていて、その画面には白蟻が表示されていた。
聞いてくれれば答えるのに…と思いながら何の気なしにその画面を見やったフィリアは、そこに記されていた「昆虫網ゴキブリ目シロアリ科。当該惑星に於いて、ゴキブリと呼ばれる生物の不完全変態昆虫。世界の侵略的外来種ワースト100というリストにも掲載されている人的害虫だが自然界に於いてはセルロースという物質の分解に関与している重要生物」などという記述に目を丸くした。
(し、知らなかった……白蟻ってゴキブリの仲間だったの⁈ 蟻じゃないんだ⁈ って言うか、侵略的外来種って何⁈ …え? 自然界では重要生物? へぇ……)
知ってるつもりで知らないことってあるんだなぁ……などと思いながらついつい画面を覗き込んでいたら。
何やら不思議そうな表情をしたブルーと目が合った。
「お姫さんが元いた世界の生き物だろ? コレ」
「はい」
何でそんな珍しそうな顔してんだ? とでも続きそうな彼の問いへ簡素な答えを返して、白蟻の表示されているモニターを指し示す。
「そこに書いてある中のイエシロアリというのが先程、私が例えに出した昆虫なのですけれど、私の知らなかった情報が載っていたもので、つい」
感じたままを口にしたフィリアに「コレが?」とばかりに無言で指差したブルーに頷いてみせる。
「ふぅん?」
どこが知らなかった情報なのかには言及せずに相槌めいた音を漏らして、フィリアが名指しした項目へ視線を走らせているのが目の動きで分かった。
「なるほど。使われてる建材が木だと倒壊してもおかしかねぇな。……で? この東南地区とやらのヤツには何したんだよ?」
「うぐっ」
ほぼ決定系で問われたことに、思わずフィリアは呻いた。
「白蟻とやらに例えたトコみると、お姫さんから見たら害虫クラスのヤツだったのか? アルトゥレ王国に来たヤツは。話の感じからすると当時の領主が東南地区の地区長ってのは決まりなんだろ? どうせ」
ホレ、吐け。
とばかりに倒置法で言われて唸っていたフィリアは、溜息をついてがっくりと肩を落とした。
「イーキュリア王国は、国土の半分以上が砂漠なんですの。人が住める場所は精霊の休憩所と呼ばれるオアシス的な地域ばかりで。元々裕福な地域が少ない上に魔王復活前の影響で、唯一まともに成り立っていた魔物食にも弊害が出まして。その……隣接する3国、ヘイユーディア公国とルベルタ王国、サンザマルタ王国の一部地域にイーキュリア王国からの略奪部隊が……立ち去る時に“この略奪は食糧支援をしないアルトゥレ王国の所為だ”と」
悔しそうに唇を噛んで俯くフィリアにコンソールグラス越しに彼女を見るブルーの目に疑問の彩が浮かぶ。
「そもそもの話しとしてだな? イーキュリア王国、または東南地区単独でも何らかの支援要請とやらは、アルトゥレ王国側へあったのかい?」
「いいえ! その3国から苦情と陳情の真ん中みたいな要請があって漸くあの女が我が国に来たのです! 私の顔を見るなり挨拶もなしに、その方が仰いましたわ。“これ以上、この国の名で他国に迷惑をかけられたくなければ無償で食料を寄越せ”と!」
「……随分とデカく出たもんだな。100%言いがかりの略奪行為で?」
「はい。とにかくあちらは有無を言わせずでしたので……」
「! ……お姫さんも有無を言わせず? 誰、喚んだ?」
フィリアのした前置きにピンと来たのか、合いの手じみた突っ込みをブルーが入れる。
「正義神様と裁定神様を……」
「喚んでどうなった?」
「正義神様の判定は“悪”。裁定神様の判決は“有罪”。彼女は、2度とこのような行いをしないと神誓して生涯守り抜かねば地獄神様がすぐさま地獄へと連れて行き、大偽欺搾地獄515年の刑に服することになると……」
「だからあの時、王妃さんが2柱を指名したのか」
王と勇者の未来形頑張ろうね約束が、王妃の発言で急に神誓に変わった時のことと今回の話しを繋げて、やっと理解が及んだブルーが息をつきながら言い、フィリアが頷く。
要するに2柱が間に挟まれば事実上の執行猶予がつくのだ。
「その方、ガルディアナ聖王国の使者を私がやり込めた当時は、まだ地区長におなりでなかったようで、神を召喚するなんてデマだと思い込んでおられたようですの」
「誰か止めろや、イーキュリア王国。何の為の合議制だ。……おっと」
呆れ果てたブルーの突っ込みは、鳴り渡ったアラームでその勢いを削がれた。
コンソールへと正対し直したブルーがキーを操作すると、コントロールルームの端へ一瞬だけ歪みが生じてそこへ、スガルが降り立った。
「ただいまぁ」
「お疲れ」
「お疲れ様ですわ、聖勇者様」
「? ……どうしたの? 何か僕より2人の方が疲れてるっぽく見えるんだけど?」
不思議そうに聞いてくるスガルに、ブルーはザックリとこれまでの話しをしてみせた。
それに対するスガルの反応は実にシンプルで。
「ダメだなって思ったら場所変えよ!」
にぱっと笑んで言い切った結論は、奇しくもブルーへ細かい事情を説明する前に出していたフィリアの結論と一致していた。
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