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第4章 星間指名手配犯襲来編

専用武器 その1

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 仮想戦闘室へ戻った2人は3番の部屋に1度、上階からアクセスした後に合流した。
 バトンみたいな形状をした専用武器の柄を2本、アストレイに差し出すと鏡のように磨かれた銀と己の髪色をあしらった魔導文字、煌めく4色の石に彼(女)は一目で虜になった。

「こ、これっ! アタシの? アタシのなのっ⁈」
「ああ」
「嬉しいっ! ねぇ、これどうやって使うのっ⁈ 教えてちょうだい!」
「まず、その2本の柄だけの状態で殴打武器として使える。先端についてる石は、ちょっとやそっとのことじゃ傷1つ入らねぇから心配すんな。で、この石を接続させる組み合わせでコイツは全く別の4つの武器になる」
「えっ? 4つもなの⁈」

 さらりと言われたことに目を瞠ってアストレイが問い返す。

「何使うか迷ってるみてぇだったし “これ” って1つに決めきらねぇで、状況であれこれ柔軟に使える方が、お前には合ってる気がしてな」

 スガルの言った「ブルーが作る物を待つ方がいい」という評価は、彼のこういう配慮や使う人間に対する考察がされた上で製作されるレベルの高い専用品ワンオフ ── 冗談抜きで職人に片足突っ込んでいるような ── が出来上がってくるからこそのものなのだろう。
 誰かに何かを作ってもらうことも、それを当たり前みたいに贈られるのも久しぶりで昂ぶった喜びの気持ちが半分照れ隠しみたいになって、全力で振り抜いた右の平手でブルーの背中をぶっ叩いてしまった。

「………っん、もう! イイ男なんだからっ!!」
「いぃ痛っ! 全力は、やめろっ」

 心は女でも膂力は紛れもなく男性のソレなので、平手とはいえ全力で叩かれるとかなり痛かった。

「説明続けるぞ?」
「うふふっ。お願い♡」

 ぶっ叩かれた背中をスガルに撫でられながら溜息混じりに話を進めようとしたブルーへ、しっかりと2本の柄を抱きしめながら彼(女)は、上機嫌で答えた。

「……魔導文字の何処かに触れてる状態で魔力を通すと予め魔導錬金マギステルアルケミーで初期認証の登録をしてある魔力と照合されて、合致すれば解除。以降は魔力を流すだけで、お前だけが使える専用武器になる。認証が解除されると同時に4つの石ん中に切ってある術式が発動状態に移行して、連結接続リンケージコネクトが使えるようになる仕組みだ。やりながら説明するから、まずは認証を解除してみてくれ」
「分かったわ」

 ブルーの説明に右手と左手で一本ずつ柄を握ったアストレイの側にフィリアが移動して、興味津々でその様を見守る。
ゆっくりと魔力操作を身体の外へ延長するような具合で柄に魔力を流し込むと赤紫で刻まれた文字がキラキラと輝き、それに連動して4つの石の中心にも瞬く煌めきが灯った。

「まぁ! 綺麗ですわね! 武器というより何かの楽器のようですわ」

 感動を素直に言葉へと上らせたフィリアに、ブルーの口端がニヤリと笑んだ。

「順に説明してくな。まずは簡単なトコで1本目の紫の石と2本目の橙の石をピッタリ合わせて1本の長い棒が出来上がるような感じにして持ってみてくれ」
「えっと……こうかしら?」

 己の胸前でブルーの言う通り2本の柄を石同士でピッタリと合わせると2つの石が交じり合い、2本の柄は完全に1本へと結合した。
同時に輝きを増した緑の石が魔導形状変形マギステルメタモルフォーゼで姿を変える。
 石の中心から両側に半円ずつを描くようにして現れたのは、葉枝を伴ったライラックの花を模した結晶。
中心にあるのは、縦に細長い八面体をした白い石で、槍状に配置されたその石と花結晶からは強い魔力が内包されていることが感じられた。

「こいつが魔法杖モード。神聖魔法、守護魔法、結界魔法、増強魔法、減弱魔法の5種類の魔法を2段階の広範囲、または指定相手まで飛ばすことのできる代物だ」
「⁈」
「機能がもうこれだけで古代文明の遺物アーティファクトレベルなのですけれども⁈」

 ブルーの説明に驚愕に染まったアストレイの顔が、杖とブルーとを行ったり来たりする中、彼(女)の心の叫びを代弁してフィリアが叫ぶ。

「そこ気にするとブルーの作るもの、怖くて使えなくなっちゃうよー?」

 ブルーの側で、くすくすと笑いながら言ったスガルが収納から自分の光剣、その柄を1本だけ取り出した。

「これも最初に作ってもらったのは、僕が〈聖〉の獲得に出た最後の修行の時だったんだけど、光・火・雷って3つも同時に使ってる剣だったから教官達もお父さん達も凄い顔してたよねー?」
「ああ。コイツを最初に作った時は、俺もまだ今ほど魔導錬金マギステルアルケミーの練度が高くなかったからな。苦労したんだぜぇ? 今だから言うけど納得できる代物になるまで1週間徹夜だったんだからな、実際」
「わぁあ…今じゃ考えらんないねー。何度も言うようだけど、ありがとね」
「よせよ。俺にできることをしただけさ。……で? 御2人さん? そろそろ話し進めてぇんだけどよ? 返ってくる気ねぇのかー?」

 スガルとブルーのやり取りを聞きながら、アストレイの手にした魔法杖をそら恐ろしい物を見るように食い気味で睨んでいた2人が、ハッとしたように顔を上げる。

「あ、あぁら。ごめんなさい? おほほほほほほほほ」
「聖銃士様っ、それでこの杖はどうやって使えばよろしいのかしら? 見てみたいですわっ」

 誤魔化しきれていない促しに左の目だけを眇めながらも先に進める為にブルーが続きを口にする。

「さっき言った5種類の魔法は全て無詠唱か略式詠唱で使用できるように術式を組んである。そうだな…試しに浄化ピュリファイでも使ってみるか?」
「略式詠唱ってことは、呪文名だけでいいのよね?」
「ああ。両手で杖持って、呪文名を宣言したら上に掲げる。そしたら杖が呪文を受諾した音が鳴る。そこまでやってみな?」
「分かったわ。浄化ピュリファイ!」

 言われた通り、略式の呪文名のみの詠唱を行なって杖を上へと掲げる。
「シャラン」と高い鈴の音に似た澄んだ音色が杖から響いて、ライラックの花から神聖魔法の白い光の粒が舞う。

「!」
「この音がしたら略式詠唱が受諾されてるから、杖の石突を地面に当てることで受諾された魔法の陣が自動で描かれる」
「全自動……」

 まるで食器洗い機や洗濯機みたいな表現を呟いたのはフィリアだ。
だってこの杖の便利さは古代文明の遺物アーティファクトを通り越して反則級ではないか、と思ってしまった所為だった。
 やり方を覚えるのに注力していたアストレイは、ブルーの説明を実行するのに一杯一杯だったので無視スルーされたが、スガルにはちゃっかり拾われていたようで苦笑いを向けられた。

「え、っと、こう?」

 手にしている杖を真っ直ぐに下ろして地面につけると一瞬で浄化の魔法陣が足元に広がって、すぐに杖へと真ん中から吸い込まれるように消えていった。

「で、こうやって魔法陣が全て杖に吸収されたらもう1度、杖を掲げて。小さく振ると範囲発動、大きく振ると拡大範囲発動、対象相手に向けると指定発動な」

 スッと両手で掲げ持った杖を小さく振るとまた軽やかな鈴の音が響いて中心にあった白い八面体が浄化の光粒を周囲1mくらいに拡散し、範囲内にある全てのものから汚れや穢れを浄化した。

「素敵ですわ…!」
「んー……発動と効果は悪くねぇかな?」
「そうだね。消費魔力はいつも通り1だし、トリマプトロンエーテルからの変換も問題なかったと思うよ?」
「だな。お前さんはどうだ? 見た目とか使ってみてとか感じとか」
「美しいわ! 最高! 文句なんかある訳ないわよ! 何よこれ⁈ アンタ天才⁈」

 杖をガッチリ抱きしめてホールドしながら興奮して言うアストレイにブルーが呆れたような顔をして瞬く。

「大袈裟なヤツだなァ。……2つ目の武器の説明するぞ? 柄を両手で持って、接続切断コネクトアウトって言うか思うかすると柄が2つに分かれて元の形状に戻る。そしたら紫と白の石がついた柄を左右逆にする形で回して、白と橙の石を合わせてくれ」
接続切断コネクトアウト

 言われるままを口にしたアストレイの指示に従って杖頭の部分が弾けるように紫色の粒となって散り消え、柄が再び2つに分かれた。

(えっと…白と紫の方を回して、白と橙を合わせる)

 間違えないように気をつけながら実行すると先程同様、自動的に始まった連結接続リンケージコネクトで1つになった柄は、両方の先端部分が細まり、中央部分が丸く膨らんで平らになると杖の時同様、ライラックの花を象った透かし彫刻が本体と中央部分に現れた。
透かしには緑と紫の結晶がステンドグラスのように嵌め込まれ、魔力の光を灯している。

「これが2つ目の武器形態で、トリマプトロンエーテルを使った属性矢が射てる弓モードだ」
「え? 弓⁈ 弦ないわよ? どうやって射るの?」
「あっちにある的、向いてくれ。危ねぇから」
「あ、ごめんなさい?」

 確かに杖の時に使った浄化魔法と違って、属性矢と言われている以上、こちらの武器は攻撃がメインとなるのは明白なので、素直に謝罪を送って的の並んでる方へと向いた。

「弓を構えて、的を見ながら中央にある平たい円の部分に触れると弦、矢筈、末矧うらはぎ、羽根の部分が現れる。この時点でどの属性矢にするか決める。属性なし、所謂 “無属性” ってのも選択可能だ。その後、普通に矢を射る時みてぇに弦と末矧うらはぎを引くとと矢尻が形成されて指定した属性を帯びるから、後は放つだけだ。最初に中央の部分に触れる時、的から目を離さなきゃ、そいつが移動しても勝手に放たれた矢は追尾してくれる」
「追尾! 反則なヤツですわね! 便利なんですのよ! 私も艦から砲撃する時に使わせていただきましたけれど、適当に撃っても外れないんですもの! 最初は密かに感動いたしましたわ! いくら撃ちまくっても弾がなくならない、よく分からない武器種へ勝手に変更されない、何より絶対に外れない! 正に神☆ でしたわ!」

 ブルーの説明を受けてアストレイが反応するより早くフィリアが両の拳を握って力説した。
シューティングゲームなんて一面始まって数秒で撃ち落とされるし、ガンシューティングだってまともに弾が当たりもせず自分がやられて終了だった花梨時代を思えば、対アヘーシュモー・ダウェーワー戦のあれは正に神仕様だったのだ。

「キラキラしてるトコ悪いけど、感動の基準低いよー?」
「突っ込んでやるな。苦手分野だったらしいから」
「言っとくけど、アタシはあそこまで酷くないわよ?」

 三者三様の反応を返してから的の1つに狙いを絞ったアストレイが弓の中央に触れるとライラック型のステンドグラスのような部分から瞬間的に金の粒が現れた。
見る間に金から紫に変わってゆく光が集まって弦と矢を形成していく様は、ある種の神々しささえ醸し出している。
 美しいその光景に満足げな笑みを浮かべながら属性を決定して放たれた属性矢は「風」を纏っていて、ど真ん中へ突き刺さると同時に無数の風による刃を生み出した。
 ザクザクと切り刻まれた跡を的に残して効果を終えた矢は、的が崩れると同時に紫から金色の粒へと姿を変えて消失した。

「いいわね! 気に入ったわ!」

 杖も弓も性能や機能は元より、自分が満足に足る美しさを持っていて、弦のなくなった弓を杖同様、ギュッと抱き締めたアストレイは、嬉しそうにそう言って笑顔を見せた。





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