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第7章 マーベラーズ帝国編

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「まあっ! こんな所から黒い水がぁ! これは一体なんですのぉ?」
「ワザとらしい。やり直し」
「聖銃士様! 厳しいですわ!」

 サクッとダメ出しをしてきたブルーにフィリアは、何故か照れ笑いのようなものを浮かべながら抗議の声を上げた。

「やっばりフィリアちゃんじゃ無理よ、ブルーゼイ。本当に初めて見た訳じゃないなら尚更だわ」
「かもな。まさかお姫さんが、こんな素人役者だとは思わなかったぜ。貴族達と渡り合ってる時ゃ自然に出来てんのに何でだよ?」
「別にあれは演技してる訳ではございませんもの。ほぼ本気ですわ」
「その延長線上の話しだと思うんだがなぁ?」
「でも難しいならしょうがないでしょ? 皇太子殿下か副団長さん辺りへ普通に話した方が無難だと思うわ」
「うん…僕もこの際、そうした方がいい気がしてきたなぁ。一応、前情報として予め埋蔵物が分かるっていう話しはチョロっとして来たじゃない?」
「まぁな。蘇生魔法なんぞより、そういうのが分かる技術や魔法の方が欲しいとまで言ってたもんな。あの皇太子サン」
「あげればぁ? 別にダメじゃないし?」

 ブルーが呆れたように言ったことへ、スガルが伺うような表情をしながら首を横へと傾ける。

「しゃあねぇなぁ。何か魔導具作るかぁ」

 スガルの言葉を受けて、側頭をバリボリ音を立てながら掻いたブルーが、自席から立ち上がってコントロールルームの端へと移動して行く。

(ほらやっぱり。ちょうだいって言って、その国や人に問題なければ作ってでも渡してくれるっていうのに……ホント、バカなことしたわね、あの)

 件の潜入工作員メイドへ今一度の評価を心の内で投げかけていたアストレイの耳にフィリアの声が届く。

「では、聖銃士様の魔導具完成後にギルベルト殿下にお話しをして、聖脈穴へ向かうという段取りでよろしいでしょうか?」
「そうなぁ。そんじゃ、ちゃっちゃと作るかぁ」

 やや離れた所からそう返したブルーが、手元の空間にいつものコンソールを腕輪から広げた。

「……えっと地属性と空間属性の魔石混ぜてぇ……経路図ダイアグラム切った方が早ぇよな絶対ぇ……変換術式面倒臭ぇ」
「じゃあ、ブルーが魔導具作ってる間に突入経路アタックラインおさらいしとこうか」

 ブツブツ言いながら収納から魔石を2つ取り出し何やら魔導具の作成を始めたブルーのことは、そっとしておくことにして、スガルがメインモニターに表示されている鉱山口から聖脈穴までの断面図へ誘うように移動した。

「この大量に黒い液体が詰まってるのが、ゲンユの部分なんでしょ?」
「うん。完全に液体な訳じゃなくて固体の部分と気体の部分もあるんだけど、ここはなるべく避けて経路ライン引いてるからいつも使ってる魔導具の指示器を確認しながら進むの忘れないでね?」
「分かりましたわ」

 簡単な説明を加えて突入経路アタックラインの動線を図示していくスガルに遠慮しいしいフィリアは声をかけた。

「あの、聖勇者様。原油の精製方法や石油の使い方なのですけれど、ギルベルト殿下達にそれもお伝えになりますの?」
「うん。毒性もない訳じゃないし、使い方を間違えると便利な反面、環境汚染を促進ししちゃう物質でもあるから先にこの使い方すると危ないよって言うのから入って、精製の仕方とか使い終わった後の始末の仕方なんかも併せて文書で渡す予定だよ?」
「そうですか。私が前世で居た所でも環境汚染に関する問題は世界規模で起きておりましたので、心配してしまいましたわ」

 スガルの回答にホッとした面持ちで笑顔を見せるフィリアへ、彼は1つ頷いて続ける。

「フィリア姫が居たとこは、機械文明偏重星だったから技術の革新や進歩がないとある程度のとこで限界くるだろうけど、ここは魔法文明偏重星だし、精霊わんさかいるし他の方法取れるから大丈夫だよー」
「因みに、どう対処するのかお聞きしても?」
「渡す文書見るー?」
「はい」
「あ、アタシも見てみたいわ。新しいエネルギーって興味あるもの」
「石油ならイーキュリアにもいっぱいあったから、星から出る前にイヴァンカさんに教えてあげればいいんじゃないかなぁ?」
「ナンデスト?」

 スガルがポロっと零したセリフにアストレイの口調が真っ平らになった。

「ちょっとスガルちゃん。そういうの、もっと早く教えてくれないかしら?」
「だってあの時、それどころじゃなさ過ぎてさ……?」
「うっ…そうね。ダメな子代表選手みたいなのが迷惑かけちゃってたものね。しょうがないわ。旅立ち前の手土産で満足しときましょ」

 スガルとアストレイのやり取りを横にフィリアは、手渡された文書へ目を通していたのだが。

(蛇牙の精霊、というとサディウス王国でお茶に入ってた薬や毒を結晶にして抜いてくれてた精霊よね……ああ、うん。確かに地球じゃ難しそう、これ。精霊魔法前提だもの。それに専門知識過ぎてチンプンカンプンな部分が……)

 炭化水素だの、低分子成分の高濃度蒸気だの、親水性リン酸基だの、ぼんやりとしか分からない単語が羅列されている項目を無意識で唸りながら読んでいると。

「何か唸ってるけど、大丈夫? フィリア姫?」
「えっ? あ、ごめんなさいまし? 私、科化学は苦手でして……」
「待って? フィリアちゃんが分かんないようなもん、この国の人間に理解できるの?」
「それは正直、見せてみないと分かんないかな」
「アタシも一回目を通すわ」
「うん。ダメそうだったら教えて?」
「分かったわ」

 一気に心配度が上がったらしいアストレイの申し出を素直に受けた所で、作業を終えたらしいブルーが此方へと戻ってきた。

「よぉ、こっちどんな感じなんだ?」

 手元でポンポンとアメトリンのような2色混ざり合った魔石を跳ねさせながら問いかけるとスガルが彼へと振り向きながら答える。

「えっとね、ライン確認しようと思ってたんだけど、別件で頓挫した感じ?」
「は?」
「何か、渡す予定の文書が専門的過ぎて難しいみたい?」
「取り扱いに関しちゃ、分かんねぇなら分かんねぇでいいから精霊にでも聞けや」
「あ、それアリなのね?」
「当たり前だろ。開発に力入れなきゃなんねぇのは寧ろ利用技術の方だからな。枯渇前提のエネルギー資源である以上、如何に効率的で無駄なく再利用できる形で使えるかに全てがかかってるようなもんなんだからよ。聞いて済むなら時間の無駄が省けるじゃねぇか。その文書の終わりの方にも書いといたろ?」

 言われてフィリアとアストレイは、手元の文書をペラペラと捲り、最終ページへ目を向ける。

「あら、ホント」
「地精霊3種、風精霊2種、火精霊2種、緑精霊3種、蛇牙精霊2種……原油1つにこれだけの精霊が関わってますのね」
「アタシ、蛇牙の精霊ってついこの間、見たのが初めてだったんだけどサディウス王国でも結構居たわよね? 蛇牙の精霊と友達になれた人。普段何処に行けば会えるの?」
「蛇牙の精霊は基本的に薬と毒に関わってる精霊だからその手の薬草とかキノコとか生えてるトコとか行くと居るよ?」
「ああ…毒持ってる生き物とかにくっついてる訳じゃないのね……」
「うん。逆にそういう生き物に攻撃された時に解毒薬の調合方法聞くのに呼び出すことはあるけどね?」
「毒とか麻痺とか食らったら蛇牙の精霊と緑の精霊をセットで呼び出すのは精霊魔法じゃ、基本だからなぁ」
「そうだねー」
「精霊の居ない世界ではどういたしますの?」
「そんな世界ねぇよ」

 前世を思い出して問いかけたフィリアに、スパッとした口調でブルーが言い切った。

「私、前世では1回も精霊なんて見たことなかったのですけれども?」
「精霊側に姿見せる気なかっただけだろ。そもそも次元の違うトコに居たまんま影響及ぼせるんだから、精霊にしてみりゃこっち側に出て来るのは必須じゃねぇし? 出てきてねぇならまず見えねぇし?」
「………」

 正論なのだけれど、何だか釈然としない内容に思わず無言で彼を見詰めていたら。

「で? 突入経路アタックラインの基本動線くらい覚えたんだろうな、テメェら? こんだけ盛大に雑談こいてんだから? ああ?」

 手にした魔石をこれ見よがしに跳ねさせながら、語外に「俺がこれ作ってる間に何してやがった?」と主張されて2人が、わたわたと文書をスガルへと返した。

「こ、これから覚えますのよっ!」
「大丈夫よっ! いつもの魔導具もあるんだし本番では、ちゃんとやるわよっ!」

 慌ててメインモニターへと向き直ったフィリアとアストレイの後ろ姿にブルーは思い切り溜息をつき、スガルは苦笑いを浮かべた。




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