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第8章 クストディオ皇国編

黒薔薇女豹の専用武器

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「じゃあ、まずリーダーのラリリアから渡して軽く説明してくぞー?」

 言いながらブルーは収納から彼女に渡すフィンガーレスグローブを取り出してラリリアへと差し出した。

「!」

 まるでレース編みのように精緻な細工で黒薔薇と豹の姿が象られたそれは、黒のワイヤー製に見えたけれど手にとってみるとフンワリと魔力が通ることからすぐに違うのがわかった。

「アダマンタイトと黒晶輝石をワイヤー状に縒り合わせたもんだ。そこいらの鎧よか頑丈な出来になってる筈だぜ? 小手の上から装着出来るようにしたから、手首通してリングの部分になってるとこに中指入れてからリングについてる紅い石に触れると認証通ってサイズピッタリになる筈だ。試してみてくれ」

 簡単な装備説明を受けてもラリリアは、手にしたそれを見つめているだけで動かない。

「おおーい? 聞いてるかー?」
「えっ⁈ あ、ああ! 聞いてる聞いてる! 大丈夫!」

 わたわたしながら慌てて小手の上から手首を通し、リングを指に嵌めて紅い石に触れる。
左右共に装着するとラリリアの紅い鎧、その小手に最初から装飾として存在していたかのように見えた。

「ラリリア、それステキ! 黒のレースをあしらったようですわ!」
「貴婦人が装備する儀式鎧みたいだな!」

 サナンジェとリジェンダが手放しで賞賛するのも頷ける程、それは優美な出来で、とても金属や輝石を使って作り上げた物には見えなくて、両腕に嵌めたそれを目の前に掲げながら満足そうにラリリアは眺めていた。

「言っとくけどそれ、剣だからな?」
「えっ⁈」
「鎧の強化、とか、じゃないのか?」
「や、俺が作るの武器だし?」
「そういえば……」

 ブルーの言葉に一同がアストレイの腕輪に目をやった。
そう。
装飾品に見えるのは、あくまでも持ち運びが楽である、という考えに基づいた、ただの形態でしかないのだった。

「これ、どうやったら剣が出せるんだい?」
「説明書見る気ゼロか」
「あ」

 差し出している紙束を華麗にスルーしているラリリアに直球で突っ込むと一音だけを発して、やっとそれを受け取り、パラパラと捲りながら視線を紙面へと走らせる。

「ええと……こ、こんな感じ?」

 説明書を小脇に抱えて、剣を構える仕草をするとトリマプトロンエーテルの光が粒となってラリリアの手元に収束してゆく。

「!」
「わあっ! キラキラなのでのすぅ!」

 現れた黒いブロードソードは、鍔元に大きな黒い薔薇、横に広がる鍔には薔薇の蔓が棘つきで。
剣の裏表両方の鍔元から切っ先にかけて中央に走る銀色部分には、黒薔薇と豹のシルエットが刻まれていた。

「凝った装飾のブレードだねぇ……ん? ラリリア? その柄のとこについてる石、何だい?」
「石?」

 リジェンダに言われて剣の石突きを見たラリリアは、そこに嵌っている大粒の石がオパールのように9つの光を放っているのに視線をやって目を剥いた。

「ちょ、ちょっと待って! えっ⁈ 何これ⁈ 説明書っ!」
「まさかこれ……ハイパーナインですの⁈」
「いや、俺が9つの魔石混ぜただけ」
「混ぜた⁈ そんなことが可能なんですの⁈」
「おう。やり方知ってりゃ簡単だぞ」
「………」

 勿論、その簡単は星の力が使える上に高水準で魔導錬金を扱えることが出来でこその代物なのが分かるのだろう。
サナンジェは、難しい顔をして口を噤んでしまった。

「で、説明書にも書いたが、その石使って九属性、どの強化付与エンチャントでも出来るのが、その剣の最大の特徴だ。後は説明書見ながら使って覚えてくれ」
「あ、有り難う! 聖銃士様っ!」

 説明書と具現化した剣を両腕で抱きしめるようにしながらラリリアが謝礼を口にする。

「ああ。頑張って使い熟してくれよな。ここをもっとこうして欲しいっていう具体的な要望が使ってて出て来たら、この旅の間でなら調整できるからよ」
「分かった。今の所、アタシの想像や希望より全然上のもの出されてるから特にないけどね!」
「次、リジェンダ」
「はいっ」

 ラリリアの言葉に頷いてから視線を彼女に向けて、呼びかけると「待ってました」と言わんばかりの答えが返った。
思わず笑いながら収納に手を突っ込んだブルーは、そこから黒い革製のハンドグリップを取り出してリジェンダへと差し出す。

「これも小手の上から装備出来るようになってる。細い方が掌側な。両手分あるからそれぞれ手を通して、甲にある薔薇の真ん中にある石に触れると認証されてサイズが合う」

 説明を聞きながらいそいそとそれを装備したリジェンダは、両方の手の甲を目の前に揃えて、その造形を眺めた。

「豹が、薔薇咥えてる……」
「ああ。パーティー名の黒薔薇女豹を全員共通のモチーフに使ってるからな」
「ヤバ……紋章みたいでメッチャカッコイイ…」

 革を彫刻みたいに、おうとつで造形して形作られたそれは高級感と格調高い優雅さを感じられた。
言われるままに豹が咥える薔薇の真ん中に嵌め込まれた9つの光を放つ石に触れると革がキュッと締まったような感覚がして、自身の手にしっかりと馴染んだ。

「盾はハンドグリップ握って、右手を上から下、または左から右に振ると手の甲から肘の前辺りに持ち手と盾が具現化する。やってみてくれ」
「う、うん!」

 促されて右手でグリップを握りながら腕を真上に上げると、すぐにトリマプトロンエーテルの収束が始まり、目の前まで腕を振り下ろしたら縦に長い長方形のスクトゥムみたいな盾が現れた。

「横顔の豹が黒薔薇、咥えてる!」
「レリーフ盾なのですっ!」
「かっこいい」

 位置的に盾の表側が見えているラリリアとエルリーリア、そしてユリアーヤの3人が素直な感嘆を口にした。

「この盾……軽い」
重力魔法グラビティ仕込んであるから裏面にある石のとこで重さは好きに調整できるぜ?」

 言われて盾の裏面に視線を落としたリジェンダは、盾の裏側に向かって突き出ている薔薇の茎とその近くにハンドグリップと同じ9つの光を放つ石をみつけた。

「説明書にも書いたが、その盾は爪が内臓されてるから地面に固定することも可能だし、盾を捻られても肩や腕の関節を外されないように持ち手の中間と盾の間には回転軸が入ってる。視界を確保したい場合には “クリア” で透過、逆に照明系の魔法とかを遮断したい時なんかには “ブロック” で不透過に戻る。裏の石に触れながら “ガード” を発動すると指定した属性の守護壁が盾の全面に対して展開する」

 ブルーの説明を聞きながら実地で全部試してみるリジェンダに、どうせならと思って槍についての説明もすることにした。

「左手のグリップを装備してる状態で盾の左裏に出てる薔薇の茎を引っこ抜くとそれが槍になる。何本でも出るから投げて使ってもいいぞ。裏の石に触れさせて説明書にあるキーワード使うと槍に属性がつくようになってる。後、その槍だけは対になってる盾を無傷で貫通する仕様になってるんで、その辺りと絡めて使ってくれ」
「アタイ、これまでは完全にガードタンクで攻撃は序でみたいな程度だったのに……ラリリアの言う通りになっちゃった! 有り難う! 聖銃士様!」

 勝手にやってくれる訳ではないが、攻撃出来るようになったらタンクとして無敵とラリリアに言われていた条件は満たされているような気がして、リジェンダは破顔しながら謝礼を送った。

「おう。んで、次。サナンジェはこれな」
「素敵! 黒薔薇のコサージュと豹のシルエットをしたクリップのセットですわね。間の鎖もデザイン鎖で綺麗ですわ!」
「ローブとかマントなんかの前を留めるのにいいかと思ってな」
「ええ! どっちを右にしてどっちを左にしようかしら! 迷ってしまいますわ!」
「……効果に差はねぇんで、そこら辺は好きにしてくれ」

 彼女のどこかズレた論点に一瞬、返答が遅れたブルーがそう言うとサナンジェは、装着位置を散々迷いに迷って、肩口に近い左胸の上に黒薔薇を、それよりも位置的に下となる右胸に豹のシルエットを模したクリップを留めた。

「暫定です! まだ暫定ですわよ!」
「お、おう……で、薔薇の真ん中にある石に触れると認証が解除されて魔法杖が具現化する」

 ブルーの言葉に頷いて、早速左胸の石へと右手で触れるとそこを中心に渦を巻くように収束したトリマプトロンエーテルが、最後に中央から弾けるような動きを見せてから魔法杖を具現化させた。

「あら、綺麗!」
「ええ、美しいですわね!」

 その具現化の仕方にアストレイやフィリアも賞賛を送った。
現れた杖を右手に握ったサナンジェが、それを目の前へと掲げる。
 魔法杖の1番上には、薔薇の蔓に守られているかのような格好で、9つの光を放つ石がこれまで見た中でも一際大きな輝きを放っていた。

「大きな石……」
「魔法の発動速度や形式級位を上昇させるのと属性による差異を減らす為さ。魔力効率や範囲魔法の調整コントロールもしやすいように組んである」
「えっ⁈」

 形式級位の上昇。
説明された中にあった言葉へ即座に反応したサナンジェが、アルシャタンの魔法句を唱える。
すると丁度、石のある辺りを中心にする形で、杖の前に魔法陣が一瞬で現れた。

「! …で、出来ましたわ! 聖勇者様に見せていただいた短縮形!」
「サナンジェさん、成功第1号だね!」
「有り難うございます、聖銃士様! 聖勇者様!」
「後は説明書見ながら使い慣れてくれ」
「はいっ!」

 喜色満面なサナンジェは、魔法杖を相手に今にも踊り出しそうな勢いでステップを踏みながらラリリアとリジェンダが居る方へと足を向けた。

「エルリーリアは、これな。大きな方の薔薇が前に来るように左右の髪へ着けてくれ」

 収納から出して差し出された髪飾りは、半円状にポーンと跳ねているような格好をした豹のシルエットが中央にあって、大きな黒薔薇と9つの光を放つ石が中央に嵌め込まれた造形がその豹の前に、後ろに小さな黒薔薇が斜め上下に並んで配置されているバレッタのような形状をした髪飾りだった。

「可愛いのですっ」
「エルリーリアちゃん、アタシが着けてあげるわ」
「はい、なのですっ」

 アストレイの申し出に髪飾りを差し出したエルリーリアは、ツインテの髪を縛っている部分にそれを留めて貰って、嬉しげにポン、と1回飛び跳ねた。

「そいつは髪飾り全体が認証に使えるようになってる。どっちかに触れるとメイスが具現化する仕様だ」
「両方触ったらどうなるですっ?」
「2本出る」

 淡、としたブルーの答えにエルリーリアが目を瞬かせる。

「ま、ダブルメイスは、もうちょい年食って腕力ついてから使いな」
「……そうするのですっ」

 こくん、と素直に頷いてエルリーリアが右の髪飾りに触れると掌側にトリマプトロンエーテルの光が収束し、彼女は慌てて髪飾りから手を離してしまった。
その所為で、流星を思わせるような軌跡が光の粒で出来上がってからメイスが形作られた。

「身体能力と魔法使用の速度上昇、それと詠唱中に相手から仕掛けられる阻害を物理・魔法、両方とも反射出来るようにしてあるから焦って回復魔法使ったり、サポートの為の強化魔法が間に合わないなんてこともなくなる筈だ」
「! ……何でっ? あたし、何にも言ってないのにっ、何であたしがそういうの欲しかったことっ、知ってるのですっ?」

 刺々の薔薇蔦が頭部分に巻きついていて、根元にある黒薔薇と柄の飾りとして豹の造形に9つの光を放つ石。
優雅さと共に攻撃力と凶悪さも爆上げされているような形のショートメイス、その柄を両手で握り締めながらビックリ顔でエルリーリアが尋ねた。

「さてな? ただの勘だよ」

 彼女に限らず欲しがっている機能なんて擬音しか聞いていない筈のブルーだが、今の所、追加注文が1つも出ていない辺りが、この男の仕事らしかった。

「スガル。これが全員分の仕様と説明の内容。中身は彼女達に渡したものと同じなんで、目通して訓練に使ってくれ」
「分かった。じゃあ時間ないし、再開しよっか」

 書類を受け取ったスガルが、何の躊躇もなくスパッと言い放ったことにブルー以外の全員が思わず背筋を伸ばした。

「ああいや、ちょっと待った。ユリアーヤだけ俺にくれ。まだ武器渡してねぇし、彼女には個別に頼みてぇことがあんだ」

 本気で今すぐ訓練を再開しそうな雰囲気のスガルにそう依頼を投げるとスガルの返事より先に駆けて来たユリアーヤが、ブルーの腹辺りにがっしりとしがみついた。

「救世主現る」
「どうかな? 死神かもしれねぇぞ?」

 これから彼女に頼もうと思っている内容を考えれば、あながちそれも言い過ぎではあるまい、と思いながらブルーはコンソールグラスを使って背後に既に設定済みな戦闘室と今いる戦闘室の間にある壁を透過させた。

「取り敢えず隣に追加した戦闘室に移ろうや」

 ぽん、と自分にしがみついているユリアーヤの頭を軽く叩いて促し、顔を上げた彼女に口端だけで笑む。

「皆との合同訓練に参加出来ねぇのは申し訳ねぇが、シミュレーションぐれぇは、やっとかねぇとな」

 そう言って右手の親指で後ろの戦闘室を示す。
草原ステージであるこの部屋と違い、そちらの戦闘室は街中の様相に見えて、ユリアーヤだけでなく、その場の全員が何をする気なのだろうか、と透過された壁を注視していた。




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