上 下
233 / 258
最終章 ガルディアナ聖王国編

変わりゆく世界

しおりを挟む
「ヤツの目的は分かった。だが合わせてやる必要はねぇな」
「うん。ハリボテなら称号つかないだろうし、追放神なら遠慮しなくてもいいよね。出て来てるあれだけでも片付けちゃおうか」
「了解」

 事もなげに言い放ったスガルが1度光剣を切り、柄を逆さに持ち替えた。
 ブルーも即座の応を返して、手にした銃を魔導形状変形マギステルメタモルフォーゼでランチャーへと変えて肩に担いだ。

「星の力を使うか」
「ならばこの娘達は、艦へ避難させておこう。治療は終えておるようだが、まだ目覚めるにも時がかかろうゆえな」

 2人の始めたことが何であるのかを察した正義神ザティアスの呟きに時空神エネルサがそう言って黒薔薇女豹の5人をアルザスターへと転移させた。

「これでそなたも戦闘に加われよう?」
「あら♡ お気遣いありがと、裁定神アリューズ様。でもアタシの役目はどの道、フィリアちゃんの守りが優先なの。アタシが自分でそう決めてるのよ」

 守護の結界を展開していて尚、フィリアの傍に留まり続けているアストレイに対するものでもあったらしい裁定神アリューズの言葉に、仕方なく居たのではなく、居たくて居たのだと彼(女)は言い切ってみせた。

「本来なら私のことはお気になさらずと申し上げたい所でございますけれど、ハリボテ程度の攻撃で瀕死となった身では、あまり御大層なことも口にできませんわね」
「勇者達に任せておいて、フィリアは世界主神エルメシアの力を守り抜くことだけを考えなさい。それも勝利条件の1つなのだからね」
「はい。承知しておりますわ」

 勝利神バーティオンディールの言葉に首肯を返してもう1度、亀裂を見上げたフィリアの目に白銀の光に包まれたスガルが、光剣でスライムみたいな体色の背を突き刺したのが見えた。
そのまま強引に背骨を切り裂くような所作で亀裂からジャハルナラーのハリボテを引き摺り出す。
 間髪入れず放たれた蒼の弾丸がその身に着弾して、サディウスの不討伐魔王の時と同様に弾け飛んだ。
 パラパラと空から落ち来るその粒は、その殆どが地上へ到達する前に溶けて消えてゆき。
亀裂の近くを通過する……寸前、その中へと一部が吸い込まれた。

「⁈」

 途端に始まった地響き。

「何よ? 何が始まったの⁈」

 アストレイの疑問に答えるように艦からの緊急報告エマージェンシーレポートがブルーのコンソールグラスへと表示される。

「スガル! 星のあっちこっちに開いてる亀裂から重力魔法の波動が検出された! 野郎、また何か始めやがったぜ?」
『報。勇者達よ。世界に開く裂け目は各地の生き物を建物やその土地ごと亀裂の先へと吸収していると思われる。現状は重力魔法を逆方向にかけることで相殺しているが、生物自体に同様のことがなされた場合、彼らの身体強度では、この引き合いに耐えられず身が裂けて死んでしまうだろう。早急な対応プランの確立を提案する』

 アヘーシュモー・ダウェーワーから艦への通信を直接、外へ流したものらしい音声が響く中、アディーステルダムの街並も地響きと共に足元の物が浮き上がり始めた。

境界神シャード!」
「分かってる!」

 勝利神バーティオンディールの呼びかけに境界を司る神として彼が引いた「線引き」によって、この街だけは静けさを取り戻した。
だが、追い討ちをかけるように空の亀裂という亀裂がパキリパキリと音を立てて、その大きさを増し、そこから何本もの腕が生えてきて、触れたもの全てを根こそぎ掴み取って亀裂の中へと引き込んで行く。

時空神エネルサ!」
「ここからでは無理だ! 数が多過ぎる!」

 先刻と同様に勝利神バーティオンディールが呼びかけるも時空神エネルサの答えは不可を示すものだった。

境界神シャード様! 時空神エネルサ様! 管理界へお戻りになられれば、この星全てへの対応は可能ですか⁈」

 刈り取られてゆく命。
毟られていく世界中の数多の物へ感じる焦燥を胸にフィリアが問う。

「っ!」
「戻ろう、境界神シャード。私達の戦場は、ここだけではないようだ」
「ちっくしょう! スグァラリアル! ブルーゼイ! 俺の分もジャハルナラーぶん殴っといてくれよ⁈」
「分かりましたー」
「頼んだぜっ!」

 スガルの返事にそれだけ言い残し、境界神シャード時空神エネルサは管理界へと戻って行った。
その瞬間、亀裂から伸びた黒い光がその場に居る者全員に向かい、全ての結界を一気に破壊して身体へと巻き付いた。
 すぐさまスガルが光剣でそれを斬って脱出し、ブルーも同じく銃口を真下から直接当てるようにしてぶっ放すことで切り離した。

レンデュウド
バディウス
有罪ギルティアット

 3柱の神々も無表情で自身の司る力を使って滅することで、その束縛から抜け出した。

「やってくれるじゃねぇか! 複合多重結界の完全貫通とか久し振りに食らったぜ」
「追放されてても神は神って? ムカつく!」

 エルリッヒの拘束をブルーが撃ち抜きながら。
アストレイとフィリアの拘束は、スガルが斬り裂きながら2人揃って毒づいた。

「サンキュ、アニキ!」
「有り難う存じます」
「ん、もう、気持ち悪いわねっ! 束縛激しい男は例え神だろうと嫌われるわよっ!」

 ブルーとエルリッヒも一旦、全員が居る場に降り立った。
 自動展開だからだろう、スガルとブルーにはすぐに多重結界が再構築されて硬質な音が辺りに響く。

「ヤツも必死なのさ。来るぞ」

 勝利神バーティオンディールの言葉と共に夕刻から夜へと切り替わってゆく空が急激に明度を落とし、雷が鳴り響く。
たが、時折光るそれは赤黒く、自然現象や魔法ではないことを一同に感じさせた。

『告。16次元よりの干渉波を確認。世界侵食深度16%より上昇中。精霊界との強制乖離現象を確認。9次元及び精霊界との連携率98%より下降中』

 艦からアヘーシュモー・ダウェーワーの音声報告が響き、同様の分析結果がブルーのコンソールグラスへも届いた。

「他世界の追放神でありながら、この世界への影響力が強い。我々は、いつから此奴が準備しておるのを見逃して居たのだろうな」

 悔恨に彩られた裁定神アリューズの言葉に勝利神バーティオンディール正義神ザティアスは、強く頷いて変わりゆく世界を悔しそうに見詰めていた。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,006pt お気に入り:2,217

【完結】転生後も愛し愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:860

処理中です...