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外伝 勇者訓練校編

帰還報告

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 惑星フォロスレイネでの一騒動を終え、帰還したスガルとブルーは、本部への出頭を指示されて降り立った勇者派遣隊専用ステーションから真っ直ぐ続く通路を歩いていた。
 当然ながらアストレイとエルリッヒにも同行の指示が出ていたので、2人も後ろをついて行きながら建物内部や窓から見える景色をキョロキョロと見回している。

「異文明~って感じするわね! あの浮いてるの何よ?」
「普通に居住区とか商業区とかの建物だよー?」
「何で建物なのに浮いてるのよ?」
「究極の地震洪水対策は、対地面と対水面、その接地面積が存在しないことだからな」
「台風とか竜巻とか大丈夫なんスか?」
「重力魔法をマイナス方向にかけてるだけだから空中を漂ってる訳じゃねぇよ」
「ふわあ……完全に空想科学が、魔法使って現実になった風景っスよ、俺にとっちゃ! やっぱアニキ達の文明ってスゲーっ!」

 アストレイもエルリッヒも、はしゃぐ姿を隠す気もなく2人にあれこれと聞きながら歩いていて、やがて金属っぽい質感のある大きな扉の前へと辿り着いた。
 左右開きの自動ドアを思わせるそこには、2人の着ている服に入っている紋章のような造形が、金色の別金属で嵌め込まれていた。

「ここからはエリアが変わるからね? 僕達から離れないように気をつけて? 最悪、侵入者扱い受けて捕まっちゃうからね?」
「はぁい」
「分かったっス!」

 良い子のお返事をした2人にスガルが笑顔を向けたのを横目で確認しながら扉の認証をブルーが解除する。
 開かれた扉の向こうには、赤い光の線が斜めに格子を形成していたのが一瞬だけ見えたけれど、すぐに消えてなくなった。

「アニキ、今の赤い光、何っスか?」
「ああ、防犯装置の一種だよ。侵入者を細切れにする光魔法併用のレーザー網だ。見ても触るなよぉ?」
「頼まれても触んないっスよ! そんな物騒なもん!」

 意地悪げな笑みを浮かべて言われたことを即座に否定したエルリッヒは、スガルやアストレイにクスクス笑われながら通路へと足を踏み入れた。
 真っ直ぐ続く明り取りの窓すらない通路を抜けるとそれまでとは真逆に開放感溢れる開けた空間へと出て、アルザスターでも見た半透明の板が上下左右に加え斜めの動きまでしながら上空を飛び交っていた。
 見上げたエルリッヒが大きくパッカリ口を開けたままそれを眺め、口元を押さえたアストレイも流石に驚いたのか視線をあちこちへ投げた。

「壮観ねぇ。もう床もこれで移動しちゃえば早いのに」
「それやると侵入者に対する時間稼ぎが全く出来ねぇからって、議会で却下されてんだよ。お陰でこの建物の中じゃ転移も制限されてて面倒臭えったらねぇぜ」
「こればっかりはしょうがないよねー」

 心底面倒臭そうな声でアストレイの疑問に答えるブルーへ相槌を打つような台詞を口にしながらスガルが苦笑いして、拓けた解放空間の中心にある場所で足を止めた。
 そこには、辺の細かい多角形の柱が斜めに切り落とされたような代物が設えられていて、スガルがその断面になっているような所へ右手をペッタリと押し付けた。

〈登録魔力確認。聖勇者スグァラリアル・ド・ウィルスティン。同行予定者3名を確認します〉

 流れた機械音声にスガルが断面から手を離し、今度はブルーがそこへ右手を置く。

〈登録魔力確認。聖銃士ブルーゼイ・ディアノ・ウェリッシュ。確認予定者、残り2名です〉

 ブルーがそこから手を離し、アストレイに向かって顎を繰る。
それを受けてソロソロと右手を伸ばしたアストレイが断面へと触れた。

〈一時許可登録を確認。惑星フォロスレイネの勇者、アストレイ=ザン=ナディウス。確認予定者、残り1名です〉
「はぁ……よかったっ」

 本気で弾かれる心配をしていた訳ではないのだろうが、そんな感想を口にしながらいそいそとその場を離れる。
それと入れ替わりに前へとやってきたエルリッヒは、ワクワクしているのが隠し切れておらず、口元がニヤつくのを必死に堪えて、ふよふよ動いていた。

「せーの!」

 いらない気合いを入れることでそれを誤魔化しながらエルリッヒが断面へと右手をつく。

〈一時許可登録を確認。召喚勇者エルリッヒ・アディシ・ラオス。同行者全てを確認致しました。これより予定地点まで移動致します〉
「きゃっ!」
「うおっ!」

 多角形の柱ごと床面が宙に浮かび上がって足元が半透明の板に変わるとこれまで見上げていた風景の一部になるかのようにそれが飛び立った。

「スッゲ! これごと動くんだ⁈」
「ちょっと! 動くなら動くって予告してちょうだいよ! 吃驚するじゃないの、もう!」

 方や喜色に満ちた賞賛。
此方驚きに満ちた文句。
 実に2人らしい反応をスガルとブルーは声を出さずに笑いながら眺めていた。
やがて、辿り着いたらしい縦に潰れた六角形のようにへこんだ場所で半透明の板が止まる。

「さ、行くよ」

 動きの止まったそれから歩いて降りたかけた声にブルーが続き、頷いたアストレイとエルリッヒもその後を追う。
 間接照明でもあるかのようにボンヤリ青く光るそこは、アルザスターの通路に似ていた。
 端まで歩いたスガルが壁の一部に右手を翳すとそこにあったらしい入口が自動で開き2人は中へと入って行った。
 一瞬だけ視線を交わし合ったアストレイとエルリッヒが頷き合ってその後へと続く。
けれど、そこに2人の姿はもうなくて、真っ直ぐな通路が続いているだけだった。
 そう遠くない場所に他の壁とは違う橙に近い色でボンヤリ光る扉が見えた。
一瞬、置いて行かれたかと思った2人が慌ててそこまで歩を進めるとこれまでのような認証行為を特に必要とすることなくその扉が開き。

「ようこそ、勇者派遣隊へ! 我々は君達を歓迎しよう!」

 入ってすぐの左側。
3段程の段差で高くなっている高座の壇上で両手を広げ、声を張った女性の言葉にアストレイとエルリッヒは、反射でそちらを見上げた。
 銀紫色の髪を肩くらいの長さで切り揃えた聡明そうな女性。
 彼女を挟んで1段低い所にスガル、更にもう1段低い所にブルーが彼等らしい笑みを浮かべて立ち、こちらを見詰めていた。




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