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第4章 集まれ仲間達
マックスの初恋 -2-
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『再生を開始いたします』
感情を排したような声と、ピーッという音が開いた釣絵から響き渡りました。
『はじめまして、こんにちは。わたくしは、アルファードゥルーク王国第2王女、ルナルリア・アルファードゥルークと申します。クウェンティ侯爵家へ、婚約の打診をする許可をお父様とお母様からいただいて、矢も盾もたまらず、急遽、わたくし自身が開発した魔導板を使って、わたくしの姿と声を釣絵代わりに送らせていただいております」
何と、釣絵の表装から、お可愛らしいお声が、そう挨拶の言葉を紡ぎました。
そのことに、この場で驚かぬ者は誰一人としていませんでした。
陛下から王女殿下は、魔王戦にて様々な武具を作り出される錬金武具師の称号を得ている方だと聞いていましたが、よもや、齢3歳の砌から、既にここまでの才を開花させておいでとは。
しかも、ご挨拶の内容を聞く限り、この婚約の申し出がご本人の意思の下に行われていることが、これで明確となりました。
驚かぬ筈もございません。
少しの間、無音となった釣絵 ── いえ、これを自ら開発されたという王女殿下に敬意を表し、魔導板と呼ばせていただきましょう ── は、再び王女殿下のお声を我々に聞かせてくれます。
『マックス・クウェンティ様。わたくし、ルナルリアは、貴方様を心からお慕い申し上げております』
室内に響いたそのお声には、万感の思いが篭っているのが分かりました。
『ふふっ。今、わたくしが、どれだけ勇気を振り絞って告白させていただいたか、少しでも伝わると嬉しいですわ。会ったこともない癖に気持ち悪いとか思われないかしら? いきなり何言ってるんだ、この女は、とか呆れられないかしら? たくさん、不安に思うことはございますけれど、それでも、わたくしの正直な気持ちを伝えたかったのです』
この口振りから王女殿下は、既に若様のことをご存知なのだということが分かります。
確かに王城で既に宰相である旦那様の仕事を奥様共々手伝っておられる若様のことは、国内でも知らぬ者が少なくなっておりますので、不思議なことではございません。
よもや、それが隣国まで届いているとは思いませんでしたが。
『貴方様に相応しい女となれるよう、幼い言葉遣いを直し、シグマセンティエ王国の公用語であるセンティエ語は、自国語以上に力を入れて覚えましたわ。隣に立たせて恥ずかしくない女であると侯爵様と侯爵夫人に思っていただけるよう、教養科目と礼儀作法、ダンスのレッスンも既に始めております。釣絵の写真も何度も何度も撮り直して、一瞬でもいいから、貴方様に可愛いと思っていただけるわたくしを見ていただきたくて、開発した撮影機の向こうに貴方様がいらして、わたくしをご覧になっているのだと思いながら撮った写真を貼りました』
なるほど、釣絵が貴石絵具ではなかった理由はそれでしたか。
材料が貴石と油である関係上、どうしても独特の臭いがする釣絵の表面がツルンとした平らなものであったのを不思議に思っていたのですが、それすらも王女殿下の開発品であったとは。
王女殿下の才は、最早、産業革命級なのではないでしょうか。
その撮影機とやらで撮影されているらしい王女殿下のお姿は、柔らかな色合いのピンクブロンドが肩より少し長いくらいのレイヤーミディアムで、左右の頭頂に近い1部分の髪だけを花飾りで結んでおられました。
お召し物は、濃い緑のドレスに淡い緑の透ける生地が重ね使いされていて、若様の瞳の色に限りなく近い色合いを思わせます。
襟周りに縫い付けられている白と黄色で作られた立体的な小花レースが、ご自身の思いを反映しているように王女殿下を可愛らしい少女に見せていました。
何よりも浮かべられている微笑みが柔らかい青の瞳の輝きと共に “撮影機の向こうに貴方様がいらして、わたくしをご覧になっているのだと思いながら撮った” というくだりを彷彿とさせました。
若様に対する、敬愛と憧憬を幼ながらに精一杯込めたのでしょう。
『たった1度きりでも構いません。政略の義理でも構いません。貴方様のお姿をこの目で直に見たい。貴方様のお声をこの耳で直接、聞きたい。わたくしの、この切なる願いをお聞き届けいただけることを祈っております。せめて、貴方様手ずからの書をいただけましたならば、例え、お断りの書簡であろうと一生涯の家宝といたします!』
何故かそこで思い切り力説しているようなお声になった王女殿下のお言葉に、室内へと漂った空気は「いやいや、断りの手紙を家宝にするのはやめようよ」という突っ込み一色だった気がいたします。
『まだまだ、申し上げたい事もお話ししたいこともございます。貴方様のお声もお話しも、聞いてみとうございます。すっごくすっごくドキドキしながら、お返事、お待ち申し上げております……ロワル暦13年3の月、ルナルリアより、この思いの全てを込めて』
『再生を終了します』
始まった時と同じように感情を排した声が響いて、魔導板が沈黙いたしました。
正直に申さば、王女殿下の思いをお声と共にお聞きして、好感を抱かぬ家人は誰もいなかったことでしょう。
勿論、ルナルリア王女の開発手腕に対する関心もありましたが、何より、若様に対する思いの丈が私達使用人にとっては、何物にも変えがたい程、嬉しいものだったのです。
旦那様と奥様も私達と同じであったのか、安堵と感心の中に喜びが滲んでいるように見受けられました。
感情を排したような声と、ピーッという音が開いた釣絵から響き渡りました。
『はじめまして、こんにちは。わたくしは、アルファードゥルーク王国第2王女、ルナルリア・アルファードゥルークと申します。クウェンティ侯爵家へ、婚約の打診をする許可をお父様とお母様からいただいて、矢も盾もたまらず、急遽、わたくし自身が開発した魔導板を使って、わたくしの姿と声を釣絵代わりに送らせていただいております」
何と、釣絵の表装から、お可愛らしいお声が、そう挨拶の言葉を紡ぎました。
そのことに、この場で驚かぬ者は誰一人としていませんでした。
陛下から王女殿下は、魔王戦にて様々な武具を作り出される錬金武具師の称号を得ている方だと聞いていましたが、よもや、齢3歳の砌から、既にここまでの才を開花させておいでとは。
しかも、ご挨拶の内容を聞く限り、この婚約の申し出がご本人の意思の下に行われていることが、これで明確となりました。
驚かぬ筈もございません。
少しの間、無音となった釣絵 ── いえ、これを自ら開発されたという王女殿下に敬意を表し、魔導板と呼ばせていただきましょう ── は、再び王女殿下のお声を我々に聞かせてくれます。
『マックス・クウェンティ様。わたくし、ルナルリアは、貴方様を心からお慕い申し上げております』
室内に響いたそのお声には、万感の思いが篭っているのが分かりました。
『ふふっ。今、わたくしが、どれだけ勇気を振り絞って告白させていただいたか、少しでも伝わると嬉しいですわ。会ったこともない癖に気持ち悪いとか思われないかしら? いきなり何言ってるんだ、この女は、とか呆れられないかしら? たくさん、不安に思うことはございますけれど、それでも、わたくしの正直な気持ちを伝えたかったのです』
この口振りから王女殿下は、既に若様のことをご存知なのだということが分かります。
確かに王城で既に宰相である旦那様の仕事を奥様共々手伝っておられる若様のことは、国内でも知らぬ者が少なくなっておりますので、不思議なことではございません。
よもや、それが隣国まで届いているとは思いませんでしたが。
『貴方様に相応しい女となれるよう、幼い言葉遣いを直し、シグマセンティエ王国の公用語であるセンティエ語は、自国語以上に力を入れて覚えましたわ。隣に立たせて恥ずかしくない女であると侯爵様と侯爵夫人に思っていただけるよう、教養科目と礼儀作法、ダンスのレッスンも既に始めております。釣絵の写真も何度も何度も撮り直して、一瞬でもいいから、貴方様に可愛いと思っていただけるわたくしを見ていただきたくて、開発した撮影機の向こうに貴方様がいらして、わたくしをご覧になっているのだと思いながら撮った写真を貼りました』
なるほど、釣絵が貴石絵具ではなかった理由はそれでしたか。
材料が貴石と油である関係上、どうしても独特の臭いがする釣絵の表面がツルンとした平らなものであったのを不思議に思っていたのですが、それすらも王女殿下の開発品であったとは。
王女殿下の才は、最早、産業革命級なのではないでしょうか。
その撮影機とやらで撮影されているらしい王女殿下のお姿は、柔らかな色合いのピンクブロンドが肩より少し長いくらいのレイヤーミディアムで、左右の頭頂に近い1部分の髪だけを花飾りで結んでおられました。
お召し物は、濃い緑のドレスに淡い緑の透ける生地が重ね使いされていて、若様の瞳の色に限りなく近い色合いを思わせます。
襟周りに縫い付けられている白と黄色で作られた立体的な小花レースが、ご自身の思いを反映しているように王女殿下を可愛らしい少女に見せていました。
何よりも浮かべられている微笑みが柔らかい青の瞳の輝きと共に “撮影機の向こうに貴方様がいらして、わたくしをご覧になっているのだと思いながら撮った” というくだりを彷彿とさせました。
若様に対する、敬愛と憧憬を幼ながらに精一杯込めたのでしょう。
『たった1度きりでも構いません。政略の義理でも構いません。貴方様のお姿をこの目で直に見たい。貴方様のお声をこの耳で直接、聞きたい。わたくしの、この切なる願いをお聞き届けいただけることを祈っております。せめて、貴方様手ずからの書をいただけましたならば、例え、お断りの書簡であろうと一生涯の家宝といたします!』
何故かそこで思い切り力説しているようなお声になった王女殿下のお言葉に、室内へと漂った空気は「いやいや、断りの手紙を家宝にするのはやめようよ」という突っ込み一色だった気がいたします。
『まだまだ、申し上げたい事もお話ししたいこともございます。貴方様のお声もお話しも、聞いてみとうございます。すっごくすっごくドキドキしながら、お返事、お待ち申し上げております……ロワル暦13年3の月、ルナルリアより、この思いの全てを込めて』
『再生を終了します』
始まった時と同じように感情を排した声が響いて、魔導板が沈黙いたしました。
正直に申さば、王女殿下の思いをお声と共にお聞きして、好感を抱かぬ家人は誰もいなかったことでしょう。
勿論、ルナルリア王女の開発手腕に対する関心もありましたが、何より、若様に対する思いの丈が私達使用人にとっては、何物にも変えがたい程、嬉しいものだったのです。
旦那様と奥様も私達と同じであったのか、安堵と感心の中に喜びが滲んでいるように見受けられました。
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