231 / 458
第4章 集まれ仲間達
砦 of Dead -2-
しおりを挟む
夜の帳が近づく、ヴェスタハスラム辺境伯領国境砦ブレイダゾニオン。
その空は、禍々しさすら感じる赤黒い夕焼けに染まっていた。
眼下に広がるベーターグランディア側の地には鬱蒼とした森が広がり、陽の落ちかけた刻限の所為もあって、ほぼ黒の濃淡だけで描き出されたような景色となり果てていた。
それを彩るように濃い緋色に染まる空には低く走る黒い筋雲と、それより高い位置で、より多く広がる乱層雲が、解した羊毛を重ねたような複雑なおうとつを赤と黒と僅かな白を以って斑らに色付かせていて、これからこの地で起こる出来事の嫌な先行きを暗示しているかのようだった。
「いやなかんじのくもね。あめがふりそうだわ」
乱層雲って、雨雲の前兆現象だったんじゃなかったかしら?
そんなことを考えながら砦の廊下についている窓から空を見上げていたわたしの耳に靴音が2種類、近づいて来ているのが聞こえて来た。
この靴音は!
「エンディ!」
「アリィ。おつかれさま。ぼくのかわりに、へんきょうはくたちと、おはなししてくれて、ありがとう」
しっかり領軍兵のバイリートを連れ歩く体で守ってくれているエンディが、彼を伴ってこちらへやってくると同時に、そう言ってわたしを労ってくれた。
「エンディには、ほかにもしてもらわなくちゃいけないことが、たくさんあるんだもの。わたしがかわれることは、やるにきまってるわ!」
「あははっ。たよりにしてるよ」
「わたしもよ! エンディがいてくれたら、わたし、なんだってできちゃうんだから!」
胸を張ってそう言い切ったわたしに、エンディは照れたように笑んで頬の横を指先で掻いた。
17歳のゲーム版エンディミオン殿下でもよく見た仕草。
わたしは、他の転生者組と違ってプレイヤー=女主人公をそのまま踏襲してアリューシャ転生してきているので、他の皆と違って視点変更が起こっていない。
その所為か、こういう既視感が度々ある。
懐かしいような、惚れ直してしまっているような、そんな感覚。
「仲いいっすね、殿下達」
「あたりまえでしょ? わたしは、エンディのためだけに、このせかいにうまれてきたおんななんだから」
「言い切らないで、聖女様っ! その100分の1、いや、1000分の1でもいいから、俺達にも女神様と聖女様の愛をくださいっ!」
「それはアンタたちのこころがけしだいね。ちゃんとこのさき、こくおうになるエンディをしえんして、ちゅうぎをつくしてくれるなら、かんがえてあげないこともないわ」
「そりゃあもう! エンディミオン殿下の優秀さときたら、3歳とはとても思えないっすからね! 若も大概だと思ったけど、いい勝負っすよ!」
そうなのよねー。
前にエルもちょっと言ってたんだけど、わたし達、転生組と違ってエンディ、マックス、リリエンヌ、アルフレッドって素の3歳児なのよ。
前世の記憶っていうブーストなしで、わたし達と張り合えるとか、普通にチートよね。
まぁ、勇者に賢者に優薬師に聖騎士ってだけで、十分、この世界でもチートなんだけどさ。
そういう称号的なものじゃなくて、こう、個人の資質っていうのかしら?
転げ回ってギャーギャー泣き喚きながら自分の要求を通そうとするって印象しか子供に対して持っていなかったわたしとしては、ホント、有り得ないくらい、頭も聞き分けも良くて理解力もあって、言語能力もそれなりに高くて、感心しちゃうのよねー。
「わたし、エンディとのこども、こんなふうにゆうしゅうなこに、そだてられるかしら?」
思わず右手を頬に当ててボッソリと呟いたら、エンディが顔を真っ赤にして、あわあわ言い出して、バイリートが大爆笑した。
「やっべぇ! もうそんな心配してる3歳児、恐ぇえ!」
煩いわね。
こっちとら、とっとと魔王倒して王子妃END迎えたいのよ!
現実世界になってる以上、それからがわたしにとっては、本当の本番。
ノーシナリオの国政参加ルートが待ってるんだから!
流石にそれは、口に出さなかったものの、ぶすっくれたようにバイリートを睨んでいた、わたしの耳へと唐突に響き渡ったのは、敵襲を告げる砦の警鐘の音だった。
それは、アルフレッド鬱フラグ最後の1本。
“国境領防衛戦”
の幕が、遂に切って落とされた合図でもあった ──…。
その空は、禍々しさすら感じる赤黒い夕焼けに染まっていた。
眼下に広がるベーターグランディア側の地には鬱蒼とした森が広がり、陽の落ちかけた刻限の所為もあって、ほぼ黒の濃淡だけで描き出されたような景色となり果てていた。
それを彩るように濃い緋色に染まる空には低く走る黒い筋雲と、それより高い位置で、より多く広がる乱層雲が、解した羊毛を重ねたような複雑なおうとつを赤と黒と僅かな白を以って斑らに色付かせていて、これからこの地で起こる出来事の嫌な先行きを暗示しているかのようだった。
「いやなかんじのくもね。あめがふりそうだわ」
乱層雲って、雨雲の前兆現象だったんじゃなかったかしら?
そんなことを考えながら砦の廊下についている窓から空を見上げていたわたしの耳に靴音が2種類、近づいて来ているのが聞こえて来た。
この靴音は!
「エンディ!」
「アリィ。おつかれさま。ぼくのかわりに、へんきょうはくたちと、おはなししてくれて、ありがとう」
しっかり領軍兵のバイリートを連れ歩く体で守ってくれているエンディが、彼を伴ってこちらへやってくると同時に、そう言ってわたしを労ってくれた。
「エンディには、ほかにもしてもらわなくちゃいけないことが、たくさんあるんだもの。わたしがかわれることは、やるにきまってるわ!」
「あははっ。たよりにしてるよ」
「わたしもよ! エンディがいてくれたら、わたし、なんだってできちゃうんだから!」
胸を張ってそう言い切ったわたしに、エンディは照れたように笑んで頬の横を指先で掻いた。
17歳のゲーム版エンディミオン殿下でもよく見た仕草。
わたしは、他の転生者組と違ってプレイヤー=女主人公をそのまま踏襲してアリューシャ転生してきているので、他の皆と違って視点変更が起こっていない。
その所為か、こういう既視感が度々ある。
懐かしいような、惚れ直してしまっているような、そんな感覚。
「仲いいっすね、殿下達」
「あたりまえでしょ? わたしは、エンディのためだけに、このせかいにうまれてきたおんななんだから」
「言い切らないで、聖女様っ! その100分の1、いや、1000分の1でもいいから、俺達にも女神様と聖女様の愛をくださいっ!」
「それはアンタたちのこころがけしだいね。ちゃんとこのさき、こくおうになるエンディをしえんして、ちゅうぎをつくしてくれるなら、かんがえてあげないこともないわ」
「そりゃあもう! エンディミオン殿下の優秀さときたら、3歳とはとても思えないっすからね! 若も大概だと思ったけど、いい勝負っすよ!」
そうなのよねー。
前にエルもちょっと言ってたんだけど、わたし達、転生組と違ってエンディ、マックス、リリエンヌ、アルフレッドって素の3歳児なのよ。
前世の記憶っていうブーストなしで、わたし達と張り合えるとか、普通にチートよね。
まぁ、勇者に賢者に優薬師に聖騎士ってだけで、十分、この世界でもチートなんだけどさ。
そういう称号的なものじゃなくて、こう、個人の資質っていうのかしら?
転げ回ってギャーギャー泣き喚きながら自分の要求を通そうとするって印象しか子供に対して持っていなかったわたしとしては、ホント、有り得ないくらい、頭も聞き分けも良くて理解力もあって、言語能力もそれなりに高くて、感心しちゃうのよねー。
「わたし、エンディとのこども、こんなふうにゆうしゅうなこに、そだてられるかしら?」
思わず右手を頬に当ててボッソリと呟いたら、エンディが顔を真っ赤にして、あわあわ言い出して、バイリートが大爆笑した。
「やっべぇ! もうそんな心配してる3歳児、恐ぇえ!」
煩いわね。
こっちとら、とっとと魔王倒して王子妃END迎えたいのよ!
現実世界になってる以上、それからがわたしにとっては、本当の本番。
ノーシナリオの国政参加ルートが待ってるんだから!
流石にそれは、口に出さなかったものの、ぶすっくれたようにバイリートを睨んでいた、わたしの耳へと唐突に響き渡ったのは、敵襲を告げる砦の警鐘の音だった。
それは、アルフレッド鬱フラグ最後の1本。
“国境領防衛戦”
の幕が、遂に切って落とされた合図でもあった ──…。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
49
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる