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第5章 女神の間にて
隆之の場合 -8-
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『何でそんなこと言い切れるのよー!』
『少なくとも、あの子とお前が別人ってのは確定じゃん』
『そんなことないっ! あの子はわたしなのっ‼︎』
4年生俺、話し通じん、理屈通じんでお手上げ状態。
この子が何を言っているのか、全く分からんって顔をして担任教師をチラ見して言った。
『ねぇ、先生。これ、俺が間違ってるの?』
『いや、言ってることは、天宮が正しい。但し、お前の言葉には、思い遣りが欠けているから正論しか突き付けてなくて、それが正しいと分かっていても受け入れ難い事例があって、たまたま今回がそれに当てはまっているだけだ』
『じゃ、先生にパス。これ以上、俺には無理』
『いや。これはもう、心のケアが必要な話しだ』
丸投げした俺に頭を掻きながら答えた担任教師は、あの子の傍に行って、ポン、と肩を叩いた。
『先生と一緒に保健の渡辺先生の所に行こう。先生は、カウンセリングっていうのが出来る人だから、きっとお前の話しをちゃんと聞いてくれて、どうすればいいのか、教えてくれるよ』
担任教師の言葉に俯きながらも頷いたその子を連れて、先生は「この時間は自習」と残りの生徒に指示して教室を出た。
少し時間を置いてから保健室に向かった4年生俺は、廊下で掲示板みたいになってる壁に寄りかかりながら漏れてくる話しを聞いていた。
チャイムが鳴って、担任教師が保健室を出て来る。
すぐ、そこに居る俺に気づいて口を開きかけたのを見て、俺は人差し指を自分の口元に当てて先生の発言を押し留めた。
先生が、4年生俺から視線を外さないまま無言で後ろ手に扉を閉めてくれたので、俺はバラされなかったことにやや安堵しながらその場を離れたことを覚えてる。
『天宮。先生は自習って言った筈だが? どうしてここに来て、しかも外で話しを盗み聞きしてたんだ?』
『自習しに来たんだよ? 俺に欠けてた思いやりってのが、どんなものなのか知りたかったし?』
問われたことに4年生俺は、そう主張して、自分がここに居た理由を素直に暴露した。
『俺、去年生まれた妹がいるんだよね。もし、妹が、何かで悩むような歳になった時、全く分かってやれないお兄ちゃんには、なりたくないからさ』
イジメをやってた子の為でも、イジメられていた子の為でもなく、あくまで、俺自身と妹の為。
本気で当時の俺にとっては、それだけだった。
この頃、俺の思いやりや共感は、まだ祖父母を含めた家族に広がっただけで、それを他人にまで適用出来ていなかった。
他人と言うのは、俺にとって、そういう気持ちや配慮みたいなものを向ける対象外だった、と言い換えることも出来るだろう。
でも、いざと言う時、何も伝わらないんじゃ、このままの俺で居ちゃダメなのかもしれないな、と言うことが、この時、俺が理解出来た唯一のことだった。
『天宮。先生は、お前が思いやりのない、冷たい人間だとは思ってない。ただ、自分から見て “間違っている” “どうでもいい” 1度でもそう思った相手は、綺麗に切り捨てていて、その評価を変えることなく、その後、一切、お前の気持ちや関心が向かないのは、とても分かりやすい、お前の欠点だと先生は思っている』
『そうだね。俺にとって、そういう人間は、自分の人生における“モブ” だと位置付けてるから。たった一時だけ俺の人生を通過するだけのヤツに、必要以上に時間や気持ちを割くことは、俺にとっては無駄でしかない』
『天宮』
きっぱりと言った俺を溜め息混じりで呼んだ担任教師は、物凄く真面目な顔をして言った。
『ウインドウショッピングに付き合ってくれない男は、女にモテないぞ?』
当時の俺は、先生が何を言ってるのかさっぱり分からなかったけれど、今なら速攻で返せる。
確かにね! って。
『少なくとも、あの子とお前が別人ってのは確定じゃん』
『そんなことないっ! あの子はわたしなのっ‼︎』
4年生俺、話し通じん、理屈通じんでお手上げ状態。
この子が何を言っているのか、全く分からんって顔をして担任教師をチラ見して言った。
『ねぇ、先生。これ、俺が間違ってるの?』
『いや、言ってることは、天宮が正しい。但し、お前の言葉には、思い遣りが欠けているから正論しか突き付けてなくて、それが正しいと分かっていても受け入れ難い事例があって、たまたま今回がそれに当てはまっているだけだ』
『じゃ、先生にパス。これ以上、俺には無理』
『いや。これはもう、心のケアが必要な話しだ』
丸投げした俺に頭を掻きながら答えた担任教師は、あの子の傍に行って、ポン、と肩を叩いた。
『先生と一緒に保健の渡辺先生の所に行こう。先生は、カウンセリングっていうのが出来る人だから、きっとお前の話しをちゃんと聞いてくれて、どうすればいいのか、教えてくれるよ』
担任教師の言葉に俯きながらも頷いたその子を連れて、先生は「この時間は自習」と残りの生徒に指示して教室を出た。
少し時間を置いてから保健室に向かった4年生俺は、廊下で掲示板みたいになってる壁に寄りかかりながら漏れてくる話しを聞いていた。
チャイムが鳴って、担任教師が保健室を出て来る。
すぐ、そこに居る俺に気づいて口を開きかけたのを見て、俺は人差し指を自分の口元に当てて先生の発言を押し留めた。
先生が、4年生俺から視線を外さないまま無言で後ろ手に扉を閉めてくれたので、俺はバラされなかったことにやや安堵しながらその場を離れたことを覚えてる。
『天宮。先生は自習って言った筈だが? どうしてここに来て、しかも外で話しを盗み聞きしてたんだ?』
『自習しに来たんだよ? 俺に欠けてた思いやりってのが、どんなものなのか知りたかったし?』
問われたことに4年生俺は、そう主張して、自分がここに居た理由を素直に暴露した。
『俺、去年生まれた妹がいるんだよね。もし、妹が、何かで悩むような歳になった時、全く分かってやれないお兄ちゃんには、なりたくないからさ』
イジメをやってた子の為でも、イジメられていた子の為でもなく、あくまで、俺自身と妹の為。
本気で当時の俺にとっては、それだけだった。
この頃、俺の思いやりや共感は、まだ祖父母を含めた家族に広がっただけで、それを他人にまで適用出来ていなかった。
他人と言うのは、俺にとって、そういう気持ちや配慮みたいなものを向ける対象外だった、と言い換えることも出来るだろう。
でも、いざと言う時、何も伝わらないんじゃ、このままの俺で居ちゃダメなのかもしれないな、と言うことが、この時、俺が理解出来た唯一のことだった。
『天宮。先生は、お前が思いやりのない、冷たい人間だとは思ってない。ただ、自分から見て “間違っている” “どうでもいい” 1度でもそう思った相手は、綺麗に切り捨てていて、その評価を変えることなく、その後、一切、お前の気持ちや関心が向かないのは、とても分かりやすい、お前の欠点だと先生は思っている』
『そうだね。俺にとって、そういう人間は、自分の人生における“モブ” だと位置付けてるから。たった一時だけ俺の人生を通過するだけのヤツに、必要以上に時間や気持ちを割くことは、俺にとっては無駄でしかない』
『天宮』
きっぱりと言った俺を溜め息混じりで呼んだ担任教師は、物凄く真面目な顔をして言った。
『ウインドウショッピングに付き合ってくれない男は、女にモテないぞ?』
当時の俺は、先生が何を言ってるのかさっぱり分からなかったけれど、今なら速攻で返せる。
確かにね! って。
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