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第5章 女神の間にて

隆之の場合 -15-

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 その日、前世の俺は滅多にない連休の2日目を満喫していた。

 初日に買い込んで来た材料を使ってリリエンヌ(等身大ポスター)と一緒に食べるスイーツを作ったりしてて。

「エルのぜんせのおとこのひと、ホントにリリエンヌじょうがめのまえにいるみたいにして、しゃべってるよね」
「同じような事を絵画に描かれた亡き妻にしている男を知っとるが、もっと独り言の延長線みたいな印象があったもんだがな」

 エンディミオン殿下の言葉に国王が答えた内容は、この世界でも似たようなことをしている人間がいる証左であると同時に国王の目から見て、俺とその人物へ抱く印象とが、何とは無しに違って見えるからなんだろうな。

「……ごめんなさい、みなさま。これからわたくしがすることをすこしのあいだ、みなかったことにしてくださいませ」

 暫く黙って映像を見ていたリリエンヌが、唐突にそうことわりを入れて、真剣な表情でスイーツを作る俺を見詰めた。

『リリエンヌ。ババロアのケーキ作ろうかと思ってるんだけどさ。イチゴとラズベリー、どっちがいい?』

 画面の俺がポスターのリリエンヌに話しかけた。

「わたくしは、どちらもすきですけれど、きょうは、いちごがいいかなっておもいます!」
「リ、リリちゃん?」

 画面を見詰めながら映像の俺にリリエンヌが答え、驚いたような声で亜梨沙さんルナルリアが彼女に呼びかけた。

『そっか! じゃあ、イチゴにするね!』
「⁈」

 まるで、映像とこっちで会話が成立しているみたいな感じになったことへ、皆が驚愕も露わにリリエンヌを凝視した。

「はいっ! うれしいです! たかゆきさま。ババロアって、どうやってつくるのですか?」
『簡単だよ? ババロアそのままより、ビスキュイの方が、食感あって好きかなって思ったからそっちの材料も買ってあるんだけど、良かったら食べてみない?』
「ビスキュイ、ですか? わたくし、そのおかしはしりませんわ。はじめてききました。よろしかったら、そのビスキュイというのをおねがいできますか?」
『了解』
「あ! わたくしもてつだいますわ!」
『それはまたの機会にね! 今日は俺が作ってご馳走したいんだ。いいかな?』
「わかりましたわ。では、おねがいいたします。でも、つくるのにむちゅうになって、わたくしをほうっておいたら、おてつだいにいっちゃいますからね!」
『あははっ。大丈夫大丈夫。俺がリリエンヌを放っとくなんて、ありえないさ!』

 完全に成立している会話に、俺は何だか小っ恥ずかしくなってきて、両手で顔を覆ってしまった。

「……リリちゃん、アフレコのさいのうあるんじゃない?」
「えんぎのさいのうも、あるきがいたしますわね」
「それいぜんのもんだいよ。なんではじめてみるはずの、しかもかこえいぞうの、ぜんせのエルと、かいわがせいりつするのよ⁈」
「あ」

 亜梨沙さんルナルリア友理恵さんフランソワーヌが、半ば感心しながら交わす会話に舞子さんアリューシャが、当然抱くべき疑問を口にした。

 リリエンヌは、それでもじっと映像を見詰めていたけれど、ふと、握った右手の指側を口元に当てるような仕草をして呟いた。

「やっぱりきのせいじゃなかった。わたくし、たかゆきさまと、おあいしていますわ」
「えっ⁈」
「おとうさまと、おにいさまにたのまれた、おくすりをずっとなんにちも、ねないでつくっていて、しらないうちに、いつのまにかねてしまっていることが、なんかいかあったのですけど」
「ねおち?」
「ちがうわよ!」

 リリエンヌの言葉を聞いて、亜梨沙さんルナルリアが思わず口にしたのだろう単語に、舞子さんアリューシャが秒で反応した。

「それは、ねてんじゃなくて、きぜつしてんのよ‼︎ ねむくてしぜんにねむるときとちがって、なにかしてるさいちゅうで、いきなりいしきがおちるのは、ねたんじゃなくて、きぜつしたの! そこかんちがいしてむりしないでよ⁈ ……こら、そこ! ぜんいんそろって、めぇそらすな!」

 国王とダリルを除いた親世代組と勇者パーティ男子組プラス亜梨沙さんルナルリアが、揃って明後日の方へ顔を逸らしたのに舞子さんアリューシャが全力で突っ込む。

「え、えっと……リリエンヌ嬢? その、気絶? した時に師匠にお会いになったという解釈でよろしいのですか?」
「はい。ゆめだとおもって、わすれていたのですけれど。ずっとおなじ、しらないおとこのかたがでてきていて、そのかたが、おいしいごはんや、おかしをつくってたべさせてくれるゆめを、そのたびにみていて……こうして、えがおで、はなしかけてくださって……ゆめだけど、しらないおとこのひとだし、いったことすらないばしょだったけど、そのゆめをみたあとは、ちょっとだけ、きもちがあかるくなって、しあわせになれたきがして、めがさめたあとも、がんばれましたの」
「……サーシャエール、どいうこと?」

 奇妙な一致に俺は思わず女神の関与を疑って、そう問いかけていた。

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