天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 1

天空国家ヴェルザリス

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 見た目は、17、8の普通の青年に見えた。
何処にでも居る肩ぐらいまでの金の髪、水色に近い青瞳。
 細身だがしっかりとした戦闘職特有の筋力を感じさせる体躯は陽に焼けて健康的な色合いを見せ、年の割には高めの背丈。
 僅かながら右へと傾けられた首とほんの少しだけ口角の上がった唇。
 物騒この上ないくらい血塗れなのと汚れで身につけているアレコレがくすんだ色に見えていなければ、普通に好青年へ分類されているだろう容姿。
 ワイバーンの最期をその目で見ていた森妖精エルフ達は、こんな柔らかな空気を纏った青年が本当にあの離れ業をやってのけたのかと信じられない気持ちでいっぱいだった。
しかし。

「Haːeːɛlɛløːumlaut!」

 その驚きを更に助長されたのは、青年の口に上った言葉が、これまで聞いたことのない代物だったことだ。
 全員が全員ギョッとした顔をして、思わず顔を見合わせてしまった。
 こちらの驚きと、言葉が通じていないことがすぐに分かったのだろう。
 青年は「ぱしん」と音が鳴るくらいの勢いで口元を右手で覆うと何故か視線を空へと向けた。
 やや、何かを考えているような間があって、指先を揃えて広げられた左手が掌をこちらに向けて1回。
少し間を置いて2回、奥から手前へ真っ直ぐ動く。
その動きはまるで「ちょっと待って」と言われている気がして、総勢10人居る捜索隊の面々は再び顔を見合わせてしまった。
 彼から敵意を感じないのもあって、戸惑いながらもその解釈が合っているのか確かめるように青年の次の動きを待った。
すると「ヒュワン」と聞いたことのないような不可思議な音がして青年の目の前に平たい大きなものが現れた。

「おい、何だ? あれ?」
「俺が知るかよっ」

 人族の男達が後ろの方でヒソヒソ話している声が聞こえて来るのを耳にしながら目だけは青年を伺っていると平たい大きなものの左下に白い点が現れたり消えたりしていた。
 正に、何だあれ? な光景を無言のまま眺めていると青年が口元を右手で押さえたまま、左手の人差し指でその白い点を押していた。
その動きに呼応するように左下角から広がった何かは、自分達兵士には見覚えのある物だった。

「あ、あれ……この大陸の地図じゃねぇか⁈」
「やっぱ、そうだよな⁈」
「え? 何あれ⁈ 何かの魔法なのか⁈」

 そうは思うものの大陸全土の地図を見せてくれる魔法なんて自分達は、存在そのものを知りもしなかったけれど。
 平たい大きなものが、今度はこの国の位置で白い点を現れたり消したりし始めた。
 再び青年がそれを押す。
すると今度は、この国の地図が平たい大きなものに広がった。

「!」
「⁈」
「やっぱ地図だよ! コイツ、何してんだ⁈」
「し、知らねぇよ! 止めればいいのか⁈」
「待て! これは恐らく太古の失伝魔法の1つ、地図魔法マップトランスファーだ。森妖精エルフの郷で長老にこういう魔法が昔はあったんだと聞いたことがある。知らない言葉を口にしていたし、ここが何処かを確かめているんじゃないのか?」
「あ、そうか。コイツ、あのワイバーンの横に現れた黒い穴から出てきてたから」
「おお、なるほどのぅ。国境を通ってはおらなんだんから……と、いうことは、己の意思でこの地に来たのでもないということか」

 徒歩や馬車で移動した訳ではないので、現在地が分からないのかもしれないが、それを前提とするなら地妖精ドワーフの男が言うように自分から望んでこの国へと移動して来た訳ではないことにもなるだろう。
 森妖精エルフ地妖精ドワーフを中心にそんな結論に至って彼らは青年が何をしているのかに意識を戻した。
 いつの間にやらそこに描かれているのは、この辺りの周辺地図となっていて、街の外観や地形すらもよく分かる。
だが、青年は点滅している白い点や、たくさん点滅している赤の点には触れることなく、右側に見えない誰かが、今この瞬間に書いているような具合で次々と現れていく何かを目で追っていた。

「古代天空文字⁈ 500歳を越えとる儂ですら遺跡でしか見たことないぞ、あんな文字は!」

 地妖精ドワーフの男が眉間に皺を寄せながら吐露したことに人族の男達がおもてを驚愕に染めた。

「え? 天空文字?」
「何? えっ⁈」
「まさかコイツ天空人てんくうびとなのか?」
「え? 天空人って羽生えてんじゃねぇの?」
「混ざってる混ざってる混ざってる!」
「いいから人族どもは静かにしてろ!」

 神の使徒であると言われる種族と天空人がごっちゃになっているらしい彼らに森妖精エルフ達が面倒臭そうに言い置いた。
 青年が徐に口元から右手を外し、装備している小手の左手首を弄り出す。
 甲側の板をずらして持ち上げるようにしながら指先の方へ移動させることで手の甲を露出させたように見えた。
 そこには魔法陣のような模様が光りながら浮かび上がっていて、右手の人差し指で青年がそこに触れると描かれている陣が空中に拡大されたような具合で広がった。

「ま、魔法陣⁈」
「なぁ、ホントにアイツ放っといて大丈夫なのか⁈」
「落ち着け。彼は我々が国をあげて集団で戦って尚、敗色濃厚だったワイバーンを一撃で屠った強者なんだぞ? 魔法や武力でどうこうする気があるのなら、我々などとうに生きていないだろう」

 それは確かにその通りなのだが、だからこそ感じる怯えがきっとあるのだろう。
 地図が描き出されている大きな平たいものとそれを使って何かをしているらしい青年をビクビクしながら眺めていることからもそれが分かる。

(どうにも人族というのは、寿命が短くて死にやすい種族だからなのか、臆病で警戒心が強い癖に思考が排除方向に走りやすいな。その上、攻撃的なのだから全く……制御に困る)

 それが一種の自己防衛本能なのだろうことは理解出来るのだが、軍人として訓練をされている以上は、もう少し肝を太くして貰わねばいざという時、いらない方向に暴走されそうでおっかなかった。

「haːeː'ʏpsilɔn, Seː'ʏpsilɔn Haːɛløːumlautveː.
M'ʏpsilɔnɛnøːumlaut Speː¨kaːteː
Laːɛngeː¨jɔtiː? ……や'ʏpsilɔn, ご'ʏpsilɔn
みなøːumlautveː. わたɛnøːumlaut はなkaːteː
Laːɛngeː¨jかね? やぁ。ご機嫌lɔn 皆さん
私の話しLaːɛngeː¨jかね?」

 彼が話している言葉が、段々と理解出来るものに変わっていくことに驚かぬ者はこの場に居なかった。
やがて。

「やぁ。ご機嫌よう、皆さん。私の話していることは分かるかね?」

 口の動きは明らかに違う動きをしているのに、意味が理解出来る言葉として彼の口からこの国の言語が紡がれたことに全員の目が見開かれた。

「あ、ああ。分かる」

 どうにかこうにか返事をしたのは先頭に居た森妖精エルフで、青年はその答えに満足気な笑みを浮かべて1つ頷いた。

「それは重畳。私は天空国家ヴェルザリスの第3王子 アーウィン・ラナ・ヴェルザリスだ。王立古龍研究所の依頼でヴォルガニアレガース亜種の単独討伐をしている最中にヤツの転移魔法でここへ飛ばされたようだ。他意はないゆえ、国境を侵したことについては平にご容赦願いたい」

 先程の自国語混じりな調子が嘘のように流暢な言葉でそう説明と謝罪を口にした青年に全員の思考回路が見事な具合に凍りついた。




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