天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 1

情報提供と提案

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「って言うか、殿下? ワイバーンでも言ってましたが、通常種ってどういう意味ですか⁈ 通常じゃない種類が居るんですか?」

 何度か気になったそれを勢いに乗せて尋ねるとアーウィンは、少し考えを巡らせるように視線を左斜め上の虚空に投げた。

「んー……種類というか、種別だな。亜種と変異種、それに希少種。名前の後ろにこれらがつくことで、その1種ではあるのだが、別の能力を持っていることを表しているのだ」

 彼の言葉にベントレー子爵が、やや眉根を寄せて不思議そうな顔をしながら口を開いた。

「後ろ? ……名前の前につく物もあるということですかな?」
「その場合は冠名詞的な意味合いが強いな。例外的に古竜種と神代古龍種は、冠名詞の前につく。例えば “神代古龍種 溶岩竜ヴォルガニアレガース 亜種” と言った具合にな」
「あの溶岩竜が亜種ですと⁈」
「ということは、別に通常種や変異種が居るので?」

 溶岩竜を自身で見たことのあるらしいベントレー子爵と同じく、その竜を知っているローガンは、驚きに目を見開いて言い募った。

「居るな。亜種の生息域は主に火山地帯だが、通常種は山の岩壁や渓谷などの岩場だけになるし、変異種は氷海地帯になる。希少種に至っては海底が主な生息域だったりするしな。無論、それに合わせて特性や生態もある程度、変化しているぞ? 竜種に限らず魔物や魔獣は基本、同じような種別変化が存在しているのが、我が国の研究では明らかとなっている」

 対するアーウィンの返答は、実に滑らかな口調で語られて、彼の国ではそれが当然の情報として認知されていることが分かった。

「………」
「………」
「………」

 フリュヒテンゴルト公爵、ベントレー子爵、ローガンの3人は先程、彼がこの地に現れるまで交戦していたワイバーンにもこの種別が適用されていて、且つ、現在当面の問題とされている対象であるハーモニアエリゾンもまた、この法則が当て嵌まることに考え至って二の句が告げられずにいた。
 そう言えば、たまに赤いゴブリンとか黄色いオーガとかが出現するけれど、自分達が知らなかっただけで、これらももしかすると……?
 そんな空気が室内に満ちる。

「あの、殿下の知る限りでよいのですが、これまでの竜種大行進ドラゴンマーチでは、どのような竜が現れていたりするのでしょうか?」

 話しの筋を戻すべく、レンリアードが問うたことにアーウィンが、にこやな笑みと共に答える。

「案ずるな。神代古龍種が現れたことは、これまでに1度も確認されていない。精々古竜までだ」
「古竜は出るんですか⁈」

 全然安心材料ではない事実に思わず食ってかかったけれど。

「?」

 こてん、と首を右へと傾げられ、発言の意味を理解されていなさそうな目を向けられた。

「そうだな。5体以上竜を呼ばれると終わり頃は、ほぼ古竜になるな」
「⁈」

 終わり頃は、ほぼ古竜。
ただのドラゴンでさえ持て余すどころか存亡の危機状態だと言うのに例え今、逃げ出せたとしても大陸の何処かで、やってきた竜や古竜にごっそりレベルで出くわすのでは話にならない。

「た、例えば? 例えば、どんな古竜が現れるので⁈」
「我が国での記録になるが構わぬか?」
「はい!」
「参考までに是非!」

 せめてどんな古竜がやってくるのかだけは、避難方法を模索する為にも情報として知っておきたくて、室内に居る他の騎士達も含めて是を示す頷きが幾つも見られた。

「では、見せながらの方がよいかな? んー……と……我が国の王立古龍研究所の記録では、この辺りの古竜が呼ばれることが多い、という程度の話しになるのが痛い所なのだが……」

 右手を軽く前方へと振り、地図魔法の前に新たな平面を作り出した彼は、そこに何体かの古竜の絵姿を出したのだが、その古竜達は不思議と平面の中で、まるで生きているみたいに動いていた。

「左上からヴィルナルガス、ディセンティアリー、ランバランダル、ガズレアセンゲル、シャンディアグレイズ、アリステアファイラー、ダミストリィベルナ、サディスクイレバー、ナルゼリアフォウリス、セレスティアラゼバ、ヨナルデゾルマティ……ん? どうした?」

 11体目の名を上げた辺りで周囲の者達が蒼白になったり、表情を無くして立ち尽くしたり、テーブルに突っ伏してしまったりしているのに気がついてアーウィンが尋ねる。

「ど、どう聞いても国が滅亡するとしか……」
「いやいや、古竜しか来ぬ訳ではないし、これが全て来る訳でもないのだぞ?」
「いいえ! この中のどれかでも来るというのなら今の内に国王陛下に上奏し、可能な限り皆で逃げ続けるしかないのでは⁈」

 テーブルについている者ではなく、騎士の1人が己に発言権がないことなど御構い無しに叫んだことへ、アーウィンが呆れたように息をつく。

「この街の者だけに限定すると考えたとしても、周知の時間を加味しての移動となれば、後2日半でどれだけ逃げられると言うのだ? 何よりハーモニアエリゾンが何回鳴いておるのか分からぬ以上、早めにヤツを討伐して更なる竜の増加を防ぎ、喉の鳴き袋にある魔石を回収して解析せねば、何をどんな順番で呼ばれたのかすら不明なまま、いつかこの大陸のどこかでかち合った移動途中の竜と誰かが戦わねばならなくなるかもしれぬ状況は変わらぬのだぞ?」
「魔石を回収すれば、何がどう来るかは分かるのですか⁈」
「解析すれば可能だ」
「それは、御国に戻ってとかではなく、殿下個人ですぐに可能なものなのですかな?」
「元々、この解析技術は私が国と研究所に提供したものだ。ゆえに私1人で十分可能だな」

 畳み掛けるようにベントレー子爵とフリュヒテンゴルト公爵がした質問にも淀みなく答えたアーウィンは、そこで悪戯気な笑みを浮かべて一堂を見渡した。
 なるほど「規格外王子」というのは、こういう意味も込みなのか。
 武勇だけでなく、魔法だけでなく、技術面でも自国へ貢献することがたった1人で可能な王族。

「序でに言うならば? 本当に私を無罪放免してくれるというのなら古竜程度、何体来ようが私1人で屠っても一向に構わぬが?」
「⁈」

 文字通り序でのような口調で、片目を瞑ってされた提案に全員が目を剥いた。
 竜と古竜との連戦になるのだろうこの稀有な状況で躊躇なく自身単独の戦闘を持ちかけられるだけの自信があるのだから、それだけでも規格外王子とか呼称されても納得だと言えた。
だが今は。

「アーウィン殿下を我が国へ飛ばしてくれたというヴォルガニアレガースに、我々は感謝せねばならんかもしれんのう」

 ローガンが口にした感想が、アーウィンを抜かした全員の深い頷きを以って共通の認識となった。




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