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第1章 ウィムンド王国編 1
火災現場対応開始
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飛翔魔法で上空へと飛んだアーウィンは、すぐに地図魔法を起動した。
「ワイバーンのブレス着弾を主原因とする火災発生地区及び被害範囲を表示せよ!」
アーウィンの求めに従って街の丁度、東側に2つの地点が赤い点となって明滅し、同時に半透明の黄色と橙色でその被害範囲が塗り潰された。
己がこの街に入って来た1番近い門も方角から考えると東南にある門だったようなので、例の商店も含めた東から南にかけてのこの地区に被害が集中しているのは、ワイバーンの居た位置から考えればある意味、当然と言えるかもしれなかった。
「2点の内、東南側にある飲食店が並んでおる場所の方が被害範囲が広いな。先に此方を対処するとしよう」
早々に向かう場所を決定して地図表示を簡易な丸と十字だけのものに変更すると赤く明滅する東南側の点に向けて飛んだ。
空に伸びる幾筋もの真っ黒な煙の柱。
舞い上がる火の粉と木材の爆ぜる音。
遠からず現れた光景にアーウィンの面にも険が浮かぶ。
すぐに逃げ惑う人々の悲鳴と消火活動に勤しむ者達の怒号が聞こえてきて彼は、現場近くの上空に静止した。
「助太刀する!」
よく通る声でそれだけ告げて、消火の為に上空へと魔法陣を広げると幾人かがそれに見覚えがあったようで、声を上げた己の方を見上げた。
「殿下!」
「アーウィン殿下!」
己の名を知っているからには、洋裁店の現場に居た者だろうとアタリをつけてアーウィンは、その近くに着地した。
「消火依頼に関する現場責任者は誰だ?」
「俺だ。王国騎士団第3陸上師団第2部隊長のスライ・ベックリンだ。あんたは?」
尋ねた声にすぐ返答が紡がれて、アーウィンはそちらへ振り返ると左手を翻して小収納の魔法陣から取り出した指名依頼書をスライに差し出した。
「ギルドマスター直々の指名依頼⁈」
差し出され指名依頼書が、ギルドマスターの名が入った代物であったことにスライは思わず声を上げた。
彼は冒険者ギルドから来た応援の連中から「殿下」と呼ばれていたが、金髪青瞳という見た目と儀礼服らしき着衣の型が知らない物であること、末端とはいえ騎士である己が見覚えのない人物なことからこの国の王族やその関連親族ではないと判断した。
だが依頼書に焼き付けられたギルド証の証明内容が、ランクといい依頼達成数といい、実力から言って己より遥かに格上のものであることも確かだったので、スライは詰まってしまった喉を解放するように喉仏を上下させてから口を開いた。
「……現場指揮を変わればいいのか?」
「いや。そなたのままで構わぬ。ここの対応が終われば私は次へ行くからな。そんなことより、あそこに大きな魔法陣が見えるだろう?」
スライが意を決して口にした事柄を「そんなこと」と一刀両断したアーウィンは、上空に描き出した魔法陣を視線で示した。
「私1人で対処したのでは、現場で頑張って居る者達に申し訳ないのでな。水魔法が使える者と治癒魔法が使える者を集めて、あの魔法陣目掛けて術を放つよう指示を出してくれぬか?」
「あの魔法陣に? それにどんな意味が?」
「あれは、火事を可能な限り広範囲に早く消火することと逃げ遅れて今も火中に居る者を速やかに保護、治療する為に構築した魔法陣なのだ」
「えっ⁈」
そんな魔法や魔法陣の存在など聞いたことがなかった。
「あの魔法陣は一定時間で自然に消えるゆえ、早急に対応せよ」
「っ! ……わ、分かりました。水魔法が使える魔法士と治癒士は、一旦こっちに集まってくれ!」
他国の者とはいえ、王族は王族。
従っておかねば己の首が飛ぶ可能性を否定できない。
その危惧を最優先とした男が、アーウィンに言われた通りの者達を集めた。
「あ! アーウィン殿下! こっちにも来てくれたんですね!」
魔法士の中にもアーウィンの存在を知る者が居たらしく、彼の姿を見つけるとホッとしたようにその前へと駆けて来た。
「ああ。そなたは洋裁店に居た者だな?」
「はいっ!」
「ならば色は違うが、あの魔法陣が先刻の物と同じ陣なことは分かろう?」
「……うっ……な、何となく程度ですけど……」
「構わぬ。効果の程が分かっておる者が居た方が、責任者殿も安心してあれを運用できよう」
火事を消してくれた時に見たのだからそれに関係する魔法陣なのだろう、くらいしか分からなかったが、彼の言葉を聞く限りでは、その程度の理解で十分なようだった。
だが「運用」という大凡、魔法陣については使われない単語に魔法士の男は、空にある代物をついつい見上げてしまった。
「運用……ですか?」
「そうだ。また私が功績を独り占めする訳にもゆかぬのでな。では責任者殿。引き続き指揮を頼む。足りない事柄には随時、手を貸そう」
「は、はい。じゃあ、魔法士と治癒士は、あの空に浮かんでいる魔法陣に向かって魔法を使ってくれ! ……で、いいんですよね?」
「ああ」
「よし! 始めてくれ!」
全員が心情的には「?」な状態で、言われた通り水魔法と治癒魔法を空の魔法陣に向けて放つ。
それを受けた魔法陣は、まるで生きてるみたいに水魔法を受けた時には、それを増幅して燃えている火が強い順に火元へ向けて水を放ち、治癒魔法を受けた時には、逃げ遅れて屋内で焼かれている者を見つけ出しているかのような挙動をしながらその者達の身を次々に治癒の光で包み込んでいった。
「へっ⁈」
「えっ⁈」
「何あれ⁈」
「問題ない。続けよ」
そんな効果や挙動をする魔法でないことなど、放った彼等が誰よりも分かっているからだろう。
上がる疑問にアーウィンが、ごく短い言葉で魔法射の継続を指示した。
「アーウィン殿下。あの魔法陣は、どうして2種類ある魔法を使い分けてるみたいな動きが出来てるんですか?」
洋裁店でも彼の魔法を目にしていた冒険者の1人が、そう言って謎な挙動にしか見えない魔法陣についての質問をアーウィンに投げかけた。
「そなたはソテーパンで肉しか焼かんのか?」
「はい?」
「ソテーパンは肉を焼くのと同時に卵も焼ければ、纏めて野菜を焼くのにも使うであろう? 同じことだ。1つの魔法陣内に条件式を設け、受け取った魔法によって挙動を変えているに過ぎん」
「そんなこと……可能なんですね」
「寧ろ可能にする為に魔法ではなく、魔法陣を使っているとも言えるな」
彼の言葉に答えながら放たれる魔法に沿って動いている魔法陣を見上げていたら、近くにいる魔法士の女性が急にその場へ蹲った。
すぐに気づいたアーウィンが、彼女の傍に膝をついて、その背に右手を添えた。
「どうした?」
「す、すみません。私……魔力量、そんなになくて……」
「枯渇か。ではこれを飲め」
原因を察したアーウィンは、左手を翻して小収納の魔法陣から1本の四角錐に近い形状をしたガラス瓶を取り出して彼女へと差し出した。
透明なそれに満たされた液体は、不純物の全くない澄んだ水色をしていて、ほんのりと淡く光っていた。
「これ、もしかして、魔力回復ポーション⁈ ダメです! こんな高価な物……私、お金払えませんっ!」
「金などいらぬ。そんなことより今、そなたが抜けて助けられぬ命が出る方が数倍問題だ」
そんな風に言われてしまったら受け取らない訳にもいかなくて、魔法士の女性は金銭的な意味と味覚的な意味、2つの意味合いで決死の覚悟を以って手渡された瓶のガラス栓を抜き、中身を口にしたのだけれど。
「⁈ ……美味しい……えっ? 嘘っ⁈」
一口飲んだだけで違いがハッキリ分かるレベルのそれは、1本飲み干せば己の魔力が全回復したのがすぐに分かった。
「1本で全回復してる⁈ 凄っ!!」
「他の者も遠慮はいらぬ! 魔力回復ポーションは、責任者殿の所へ纏めて置いておくゆえ、枯渇を感じたら動けなくなるより先に各自で飲みに来るがよい」
言うが早いか、その場で立ち上がったアーウィンは、左手で収納の魔法陣を地面へ一瞬で描き出し、そこから競り上がってくる形で積み上げられた状態の木箱が10箱程現れた。
中には魔力回復ポーションの瓶がたっぷりと詰め込まれていて、スライが目を剥いている。
「これに民の血税は1銅片足りとも使っておらぬし、そなた達にも要求はせぬゆえ、金のことは勘案するな。それよりもこの場に於ける優先順位を間違えることこそを恐れよ! そなた達、魔法士と治癒士が枯渇で倒れれば、その背に負った火事場の命がその分、消えると思え! よいな⁈」
「はいっ!!」
これ程までに心強いバックアップを受けられることなど早々ないのだろう。
アーウィンの言葉に喜色と高揚で顔を輝かせた彼等は、2つ返事で了承を示してより一層、己の持てる力を全力で振るい始めた。
流石は王族。
人心掌握力が半端ない。
積み上げられた箱と詰め込まれたポーションを眺めながらスライは、そんな感想を抱いてしまった。
「こんなに積み上げちまって大丈夫なんですか? ここで使い切るとかなったら……金取らないなら大損しますよ?」
「構わぬ。寧ろ、使い切るくらいの気持ちで励め。数はまだある。好きなだけ使うがよい」
「えっ⁈ ホントに全然、構わないって言うんですかっ⁈」
そんな採算度外視発言、王族はおろか貴族や大商人からすら聞いたことがなくて、スライは思わず本気で聞き返していた。
「それで火事によって焼け出される者が減り、命の助かる者が1人でも増えるというのならば、安い物ではないか。違うか?」
晴れやかに笑む姿に虚偽や誇張はおろか、見栄すらも感じられることはなく、彼は騎士になって初めて仕事を邪魔することも足を引っ張ることもしない「こんな人が上司なら喜んで働くのに」と思える人間に出会えて、身奥から歓喜が湧き上がってくるのを感じた。
「よおぉし、テメェら! 気合い入れ直せ! とっとと火事消して、1人でも多く助けるぞ!」
スライの威声にも似た大音声に、その場の全ての者達が応を叫び、魔法が使えない者達も勇んで火事場の対応へと動き出した。
その様子を見やったアーウィンは、満足そうな笑みで1つ、頷いていた。
「ワイバーンのブレス着弾を主原因とする火災発生地区及び被害範囲を表示せよ!」
アーウィンの求めに従って街の丁度、東側に2つの地点が赤い点となって明滅し、同時に半透明の黄色と橙色でその被害範囲が塗り潰された。
己がこの街に入って来た1番近い門も方角から考えると東南にある門だったようなので、例の商店も含めた東から南にかけてのこの地区に被害が集中しているのは、ワイバーンの居た位置から考えればある意味、当然と言えるかもしれなかった。
「2点の内、東南側にある飲食店が並んでおる場所の方が被害範囲が広いな。先に此方を対処するとしよう」
早々に向かう場所を決定して地図表示を簡易な丸と十字だけのものに変更すると赤く明滅する東南側の点に向けて飛んだ。
空に伸びる幾筋もの真っ黒な煙の柱。
舞い上がる火の粉と木材の爆ぜる音。
遠からず現れた光景にアーウィンの面にも険が浮かぶ。
すぐに逃げ惑う人々の悲鳴と消火活動に勤しむ者達の怒号が聞こえてきて彼は、現場近くの上空に静止した。
「助太刀する!」
よく通る声でそれだけ告げて、消火の為に上空へと魔法陣を広げると幾人かがそれに見覚えがあったようで、声を上げた己の方を見上げた。
「殿下!」
「アーウィン殿下!」
己の名を知っているからには、洋裁店の現場に居た者だろうとアタリをつけてアーウィンは、その近くに着地した。
「消火依頼に関する現場責任者は誰だ?」
「俺だ。王国騎士団第3陸上師団第2部隊長のスライ・ベックリンだ。あんたは?」
尋ねた声にすぐ返答が紡がれて、アーウィンはそちらへ振り返ると左手を翻して小収納の魔法陣から取り出した指名依頼書をスライに差し出した。
「ギルドマスター直々の指名依頼⁈」
差し出され指名依頼書が、ギルドマスターの名が入った代物であったことにスライは思わず声を上げた。
彼は冒険者ギルドから来た応援の連中から「殿下」と呼ばれていたが、金髪青瞳という見た目と儀礼服らしき着衣の型が知らない物であること、末端とはいえ騎士である己が見覚えのない人物なことからこの国の王族やその関連親族ではないと判断した。
だが依頼書に焼き付けられたギルド証の証明内容が、ランクといい依頼達成数といい、実力から言って己より遥かに格上のものであることも確かだったので、スライは詰まってしまった喉を解放するように喉仏を上下させてから口を開いた。
「……現場指揮を変わればいいのか?」
「いや。そなたのままで構わぬ。ここの対応が終われば私は次へ行くからな。そんなことより、あそこに大きな魔法陣が見えるだろう?」
スライが意を決して口にした事柄を「そんなこと」と一刀両断したアーウィンは、上空に描き出した魔法陣を視線で示した。
「私1人で対処したのでは、現場で頑張って居る者達に申し訳ないのでな。水魔法が使える者と治癒魔法が使える者を集めて、あの魔法陣目掛けて術を放つよう指示を出してくれぬか?」
「あの魔法陣に? それにどんな意味が?」
「あれは、火事を可能な限り広範囲に早く消火することと逃げ遅れて今も火中に居る者を速やかに保護、治療する為に構築した魔法陣なのだ」
「えっ⁈」
そんな魔法や魔法陣の存在など聞いたことがなかった。
「あの魔法陣は一定時間で自然に消えるゆえ、早急に対応せよ」
「っ! ……わ、分かりました。水魔法が使える魔法士と治癒士は、一旦こっちに集まってくれ!」
他国の者とはいえ、王族は王族。
従っておかねば己の首が飛ぶ可能性を否定できない。
その危惧を最優先とした男が、アーウィンに言われた通りの者達を集めた。
「あ! アーウィン殿下! こっちにも来てくれたんですね!」
魔法士の中にもアーウィンの存在を知る者が居たらしく、彼の姿を見つけるとホッとしたようにその前へと駆けて来た。
「ああ。そなたは洋裁店に居た者だな?」
「はいっ!」
「ならば色は違うが、あの魔法陣が先刻の物と同じ陣なことは分かろう?」
「……うっ……な、何となく程度ですけど……」
「構わぬ。効果の程が分かっておる者が居た方が、責任者殿も安心してあれを運用できよう」
火事を消してくれた時に見たのだからそれに関係する魔法陣なのだろう、くらいしか分からなかったが、彼の言葉を聞く限りでは、その程度の理解で十分なようだった。
だが「運用」という大凡、魔法陣については使われない単語に魔法士の男は、空にある代物をついつい見上げてしまった。
「運用……ですか?」
「そうだ。また私が功績を独り占めする訳にもゆかぬのでな。では責任者殿。引き続き指揮を頼む。足りない事柄には随時、手を貸そう」
「は、はい。じゃあ、魔法士と治癒士は、あの空に浮かんでいる魔法陣に向かって魔法を使ってくれ! ……で、いいんですよね?」
「ああ」
「よし! 始めてくれ!」
全員が心情的には「?」な状態で、言われた通り水魔法と治癒魔法を空の魔法陣に向けて放つ。
それを受けた魔法陣は、まるで生きてるみたいに水魔法を受けた時には、それを増幅して燃えている火が強い順に火元へ向けて水を放ち、治癒魔法を受けた時には、逃げ遅れて屋内で焼かれている者を見つけ出しているかのような挙動をしながらその者達の身を次々に治癒の光で包み込んでいった。
「へっ⁈」
「えっ⁈」
「何あれ⁈」
「問題ない。続けよ」
そんな効果や挙動をする魔法でないことなど、放った彼等が誰よりも分かっているからだろう。
上がる疑問にアーウィンが、ごく短い言葉で魔法射の継続を指示した。
「アーウィン殿下。あの魔法陣は、どうして2種類ある魔法を使い分けてるみたいな動きが出来てるんですか?」
洋裁店でも彼の魔法を目にしていた冒険者の1人が、そう言って謎な挙動にしか見えない魔法陣についての質問をアーウィンに投げかけた。
「そなたはソテーパンで肉しか焼かんのか?」
「はい?」
「ソテーパンは肉を焼くのと同時に卵も焼ければ、纏めて野菜を焼くのにも使うであろう? 同じことだ。1つの魔法陣内に条件式を設け、受け取った魔法によって挙動を変えているに過ぎん」
「そんなこと……可能なんですね」
「寧ろ可能にする為に魔法ではなく、魔法陣を使っているとも言えるな」
彼の言葉に答えながら放たれる魔法に沿って動いている魔法陣を見上げていたら、近くにいる魔法士の女性が急にその場へ蹲った。
すぐに気づいたアーウィンが、彼女の傍に膝をついて、その背に右手を添えた。
「どうした?」
「す、すみません。私……魔力量、そんなになくて……」
「枯渇か。ではこれを飲め」
原因を察したアーウィンは、左手を翻して小収納の魔法陣から1本の四角錐に近い形状をしたガラス瓶を取り出して彼女へと差し出した。
透明なそれに満たされた液体は、不純物の全くない澄んだ水色をしていて、ほんのりと淡く光っていた。
「これ、もしかして、魔力回復ポーション⁈ ダメです! こんな高価な物……私、お金払えませんっ!」
「金などいらぬ。そんなことより今、そなたが抜けて助けられぬ命が出る方が数倍問題だ」
そんな風に言われてしまったら受け取らない訳にもいかなくて、魔法士の女性は金銭的な意味と味覚的な意味、2つの意味合いで決死の覚悟を以って手渡された瓶のガラス栓を抜き、中身を口にしたのだけれど。
「⁈ ……美味しい……えっ? 嘘っ⁈」
一口飲んだだけで違いがハッキリ分かるレベルのそれは、1本飲み干せば己の魔力が全回復したのがすぐに分かった。
「1本で全回復してる⁈ 凄っ!!」
「他の者も遠慮はいらぬ! 魔力回復ポーションは、責任者殿の所へ纏めて置いておくゆえ、枯渇を感じたら動けなくなるより先に各自で飲みに来るがよい」
言うが早いか、その場で立ち上がったアーウィンは、左手で収納の魔法陣を地面へ一瞬で描き出し、そこから競り上がってくる形で積み上げられた状態の木箱が10箱程現れた。
中には魔力回復ポーションの瓶がたっぷりと詰め込まれていて、スライが目を剥いている。
「これに民の血税は1銅片足りとも使っておらぬし、そなた達にも要求はせぬゆえ、金のことは勘案するな。それよりもこの場に於ける優先順位を間違えることこそを恐れよ! そなた達、魔法士と治癒士が枯渇で倒れれば、その背に負った火事場の命がその分、消えると思え! よいな⁈」
「はいっ!!」
これ程までに心強いバックアップを受けられることなど早々ないのだろう。
アーウィンの言葉に喜色と高揚で顔を輝かせた彼等は、2つ返事で了承を示してより一層、己の持てる力を全力で振るい始めた。
流石は王族。
人心掌握力が半端ない。
積み上げられた箱と詰め込まれたポーションを眺めながらスライは、そんな感想を抱いてしまった。
「こんなに積み上げちまって大丈夫なんですか? ここで使い切るとかなったら……金取らないなら大損しますよ?」
「構わぬ。寧ろ、使い切るくらいの気持ちで励め。数はまだある。好きなだけ使うがよい」
「えっ⁈ ホントに全然、構わないって言うんですかっ⁈」
そんな採算度外視発言、王族はおろか貴族や大商人からすら聞いたことがなくて、スライは思わず本気で聞き返していた。
「それで火事によって焼け出される者が減り、命の助かる者が1人でも増えるというのならば、安い物ではないか。違うか?」
晴れやかに笑む姿に虚偽や誇張はおろか、見栄すらも感じられることはなく、彼は騎士になって初めて仕事を邪魔することも足を引っ張ることもしない「こんな人が上司なら喜んで働くのに」と思える人間に出会えて、身奥から歓喜が湧き上がってくるのを感じた。
「よおぉし、テメェら! 気合い入れ直せ! とっとと火事消して、1人でも多く助けるぞ!」
スライの威声にも似た大音声に、その場の全ての者達が応を叫び、魔法が使えない者達も勇んで火事場の対応へと動き出した。
その様子を見やったアーウィンは、満足そうな笑みで1つ、頷いていた。
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