天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 1

含まれる毒と疾る衝撃

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 平均的な夕餉の時刻も終わりに近付きつつある頃合いにエリピーダとメリンダを伴って、ひょっこりとギルドに顔を覗かせたのはジーフェンだった。

「あ。戻ってきたニャ!」
「ミューニャお姉さん」

 受付カウンターの向こうから自分達が来たことに気付いたミューニャが上げた声へ、彼女のことを呼び返したジーフェンは、エリピーダ、メリンダと共にカウンターへと走り込んで行く。
 途中、ほんの一瞬だけチラッと騎士団が集まる左側に視線が向いたことで、周囲の人間は彼がフェリシティアの存在を注意しなければならない人物として、きちんと認知していることを垣間見た。

「ニャー。もう大丈夫ニャア」

 それを感じ取った1人であるミューニャが、警戒を解くように促した言葉へ、ジーフェンとメリンダは怪訝な顔をして、エリピーダは首を傾げた。

「もう大丈夫って……どう言うこと? ミューニャちゃん」
「どうせ追い返しても次が来るだけだから、とっととこっちに寝返って貰ったのニャ」
「………」

 にぱらりん、とした笑顔で言い返された内容にジーフェンとメリンダばかりかエリピーダまでもがフェリシティアの方を見た。
 多少はバツが悪いのだろう。
伯爵家の娘という立場にありながら、フェリシティアが2人と1匹に対して、ほんの僅かな角度で会釈と目礼を送った。

「凄い! 流石はミューニャお姉さんだね! アーウィンお兄さんが言ってた通りだ!」
「ニャ? 殿下、何か言ってたのかニャ?」
「うん。僕達、アーウィンお兄さんが外出した時に使ってるっていう専用のお部屋で、僕とエリピーダのお祝いにってすっごい美味しい晩御飯をご馳走になったんだけど、その時に言ってたんだ。伝言してくれたのがミューニャお姉さんなら、お姉さんはとっても優秀な女性ひとだから、きっと明日の朝までには事態が好転してる。だから問題ないって」
「にゃあああ……そこまで手放しで褒めちぎられて信頼されると何か照れくさいニャア」

 軽く拳に握った手の指先側を前にして猫が顔を洗っているような仕草でモジモジしながら照れるミューニャにジーフェンとメリンダも思わず顔を綻ばせる。

「うふふ。ミューニャちゃん。わたし達、殿下から伝言を預かってここへ来たの」

 そこまで言って表情を改めたメリンダは、真摯な色を湛えた瞳で真っ直ぐにミューニャを見つめて再度、口を開いた。

「殿下は、ヴォルガニアレガースと4日3晩不休でやり合ってる途中でこの国へ飛ばされてきて、すぐワイバーンと火事場の対処、騎士団とギルドから頼まれた件の対応を連続して行われておられたらしくて、流石に一旦休んでおきたいから明日の朝、またギルドへいらしゃるそうよ」
「僕ね、初めてヴォルガニアレガースっていう、怖そうな龍の、映像? っていうの? アーウィンお兄さんに見せてもらったんだけどね、あんなのと4日も1人で戦ってて、その後にずっと僕らの為に飛び回ってくれてたなら疲れちゃっても当たり前だよねって思った。だから僕からもお休みくれるように皆にお願いするねってアーウィンお兄さんと約束したんだ。ね? ミューニャお姉さん、いいよね?」

 途中、騎士団側から沸き起こる「4日3晩……」なんて呟きと騒めきが、ヴォルガニアレガースとの戦闘自体は口にしたものの対戦時間までは彼が公表していなかったのだろう事実を窺わせた。
 そんな背景音を交えながら行われたメリンダとジーフェンの伝言&お願いだったが、ミューニャはさして驚きも戸惑いも見せずに頷いた。

「分かったのニャ。お休みは誰にだって必要だし、本来ならアタシ達が都合のいい時間をお聞きして、お訪ねしなきゃいけない立場なのに、わざわざおいでくださると仰るのなら、ギルド側に否やはないのニャ。あそこにいるマスターや騎士団の人達だって “ならお前が竜と単独、4日ぶっ続けで戦った後に半日以上魔力全開で仕事してみせろニャー” って言われて実際にやらされるよりは ”殿下にお休み取らせてあげてください” の方が素直に納得してくれる筈なのニャア」

 ミューニャの返事に含まれる毒は、これから連続で竜がやって来ることを既に知っている騎士団やギルドマスターにとっては、ただの例文では済まされない可能性を示唆していて、齎された驚きの所為だけではない沈黙が左側のテーブル席を満たした。
 報告と相談で右側のスペースに集まっていた冒険者や傭兵達、それぞれの火事場の責任者達もアーウィンが火事場で何をしていたのか知っているが故に、それが大天災害級最上位とされる竜との4日に渡る戦闘の後のことなのだと知らされれば、是非に休んでいただきたい、と1も2もなく思ってしまった。

「ちッ、まるでワイバーン戦なんかなかったみたいに知らぬフリを通す王子とすぐさま目についた男、捕まえる為だけに使者寄越す王女。他国の王子がこれだけ俺達の為に頑張ってくれてんのに自国うちの王族どもは何してやがんだよ」

 陣頭指揮を執っていたのすら騎士団長とはいえ公爵止まり。
 現場指揮の師団長なんて子爵レベルだ。
 国の中心、王城を擁する都の危機対応として、おかしいとは思わないのだろうか。
 そんなことだから未だに第1王子は王太子として冊立出来ないのだ、とばかりに吐き捨てたのはギルドに火事場報告をしていた騎士の1人、スライだった。

「隊長。気持ちは分かりますけど、あっち側に貴族騎士達がしこたま居るんですから。不敬罪で捕まるか除隊させられますよー?」
「はんッ、ホントのこと言われて不敬とか、それこそ能無しを認めたようなモンじゃねぇか。まぁ、辞めろってんならいつでも辞めてやるよ。もうこの国で仕事するのも税金払うのもバカバカしくなって来てたからな。いざって時に知らんぷりしてるヤツが大半とか何の為に国や王侯貴族に高い税金払ってんだっての。アホらしい」
「だから言ってるじゃないですか。気持ちは分かります、って。下手にそうじゃない方を知ってしまうと普段とは比べ物にならないレベルの下方修正が評価に対して働きますよねー。私も辞めちゃおっかなー。別に自分が生活する為だけならこの国じゃなきゃダメって訳でもないしー?」

 スライとバリナが庶民感覚丸出しの愚痴に交えて辞職&出国希望らしきものを口にするとテーブル席の端に腰を落ち着けていたフェリシティアが彼等の方へと目を向けて話し出す。

「あら。ならば貴方がたも、わたくし達と共に殿下が国を出られる時に帯同すればよろしいのではなくて?」
「えっ?」

 驚いた2人がギルドの左側へ目を向けると声をかけたフェリシティアが小首を傾げて見せ、レンリアードとローガンがヒラヒラと手を振って来た。
 彼女の言う「達」が、少なくとも既に3人いるらしいと理解して、顔を見合わせたスライとバリナの表情に喜色が浮かぶ。

「いいな、それ!」
「はいっ!」

 もう報告も粗方終わったことだし、と割り切ってしまった2人は、側にいたギルド職員に報告書の束を手早く押しつけてフェリシティア達のいるテーブル席側へと走り込む。

「俺はスライ・ベックリン。六代前くらいは貧乏男爵だったらしいぜ? まっ、俺は平民暮らしが性に合ってるだろうけどな!」
「バリナと申します。よろしくお願いします!」
「セギュワール伯爵家のフェリシティアですわ。今は、ですけれど」

 時期にそうではなくなると言わんばかりに「今は」の部分を強調したフェリシティアの後を軽く右手を上げてレンリアードが続ける。

「あ。森妖精エルフのレンリアードだ」
地妖精ドワーフのローガンじゃ」

 ローガンが名乗りを上げたすぐ後に受付カウンターの向こうから、ずびしっ! と音が鳴るような勢いでミューニャが右腕を上げてブンブンと振りまくる。

「ニャー! 猫獣人のミューニャなのニャア!」
「えっ⁈」
「何でミューニャちゃんまで⁈」

 ここで自己紹介する意味を話しの流れで理解してしまっていた冒険者や傭兵達から疑問の声が上がった。

「ニャア! 左遷という名の栄転希望なのニャー! 殿下の御国の冒険者ギルドに、ミューニャはものすっごく興味あるのニャ! 今度はそこで受付嬢したいのニャー!」

 カウンターから出てきてテーブル席へとやって来たミューニャにレンリアードが拳を握って腰を下ろしていた席から立ち上がる。

「なるほど! 出没するモンスターの約8割が竜種という殿下の御国で再修行も悪くありませんね! 私の森妖精エルフ生、まだまだこれから長いんですからイケそうな気がします!」

 レンリアードが勢い込んで語る希望にローガンまでもが頷いて見せる。

「ふむ。確かにのぅ。殿下の御国では、平民でも3つの頃から通わねばならぬ教育施設があって、そこで鍛えられれば農作業に従事するような民ですらワイバーンを討伐出来るだけの力を得られるまでになるらしい。儂らもそこで知識や技術を得ることが叶うのならば、今より遥かに強くなれるやもしれぬな」
「わたくし勉強は得意ですわ。これでも座学と魔法教練では学生時代、女子で首席でしたのよ。連れて行っていただけたなら必ずやお役に立てるだけの力を身につけてみせますわ!」

 わいのわいのと天空国家への夢を語り出す面々にベントレー子爵は、本気で頭を抱えてしまった。

「だからな? お前達。もう全部終わったような空気で話しを進めるなー!」

 会議室での話しが再沸騰したかのような流れにツッコミせずには居られず。
 頼むから早く帰って来てください、と国王に報告へ赴いたフリュヒテンゴルト公爵の帰還を待ち侘びるベントレー子爵だった。




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