天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

報告その3 - 魔物暴走と先触れの竜 2 -

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「アーウィン殿下? 何故、そんなに嬉しそうなのですか?」

 全員を代表するようにそれを問うたのは、レンリアードだった。

「うん?…… ああ、すまぬ。地上の者達にとっては、下手をすると竜種大行進ドラゴンマーチ以上の脅威となる存在なのだったな、魔王というのは」
「えっ⁈」

 この台詞には、魔導具を繁々と無言で眺めていたローガンすらも驚いて顔を上げてしまった。

「も、もしかして、ヴェルザリスでは、違うのですか?」
「うむ」

 重ねてレンリアードが尋ねたことにアーウィンは、やはりどこか楽しげな風情で首肯する。

「我が国の国土では、もう魔王なぞ出現しなくなって久しいが、たまに我が国への転移門を王家などが保存しておる地上の国や、その周辺国などが魔王出現を報せ、我が国に助けを求めてくることがあってな」
「ひょっとして、大魔王祭とか言って同じように大騒ぎしちゃうのかニャ?」

 魔物暴走スタンピードは別名「素材祭」、竜種大行進ドラゴンマーチでは「大歓迎祭」が開催されるという話しから類推したのだろうミューニャが、そんな質問を投げても彼の様子に変化は見られなかった。

「近いな。名称は “大宝猟祭だいほうりょうさい”だが。魔王城というのは、様々な魔物の宝物庫みたいなものだし、魔王を討伐すると依頼国から勇者の称号と莫大な褒賞を貰えるゆえ、老若男女を問わず、張り切る者は多いからな」
「………」

 宝物庫。
 笑顔のままで告げられたその単語の持つ意味が、明らかに脅威対象としてではなく、国ぐるみで完全に魔王城を宝の山扱いしていることが理解出来る表現だった。
 張り切る者が多いという話しもヴェルザリスの国柄を考えれば、有り得るのかもしれない……と思ってしまう辺り、自分達も大分、毒されてきた感がある。

「すまぬ、逸れたな。話しを戻そう。ハーモニアエリゾン関連として」

 話しながら己の左側に大収納の魔法陣を展開したアーウィンが、そこからハーモニアエリゾンの3つある頭の内の1つを引っ張り出した。

「今から此奴の魔石を抜き出し、やってくる竜種と襲来時期の特定をしたいと思うのだが、よいか?」
「はい! お願い致します!」

 ついにその方法を目の前で見れるのだと心が逸ったのか、ベントレー子爵が勢い込んで是を紡いだ。

「うむ。やって来る竜種が特定されれば、地図魔法と連動させて其奴そやつが何処から何時頃いつごろこの国へ来るのかも知れよう。ゆえに竜種大行進ドラゴンマーチ終了後まで此奴の魔石は提供素材の中から省くかせて貰うこととなる。だが、無事、終了を迎えれば、その時点で引き渡すことは可能となるゆえ、それで構わぬか?」
「はい。委細、お任せ申し上げます」

 この場の最終責任者であるフリュヒテンゴルト公爵がアーウィンの言葉に頷いて、委任を申し出たことで実行の結論が下った。

「では、始めるぞ」

 嵌めていた手袋を外して顔の高さまで左手を上げ、甲側を全員に見せるような所作で告げたアーウィンにその場の全員が頷いた。
 向けられていた左手の甲に白線で描かれているのは、複雑な文様のように見える何かの魔法陣だった。
 それが金色に光り輝いてから青と紫の色で明滅を繰り返す。
 次いで魔法陣から射出されてきた物を右手で掴んだアーウィンは、自身を中心として床と並行に出し伸ばす形で半円状に並べた。
 左手の甲で起動し終えたらしい魔法陣から発せられる光が収まり、左手があった位置にその明滅する光が乗り移ったような四角が現れた。
 アーウィンが、その四角の上に左の掌を置くと何処からともなく声が響く。

〈生体認証及び登録魔力、確認完了。これより魔導操作卓マギコンソールを展開致します〉

 感情を一切廃絶したような声が、そう告げ終わると同時にアーウィンを半円状に囲んでいた青紫の四角い光がパタパタと上下左右に言葉通り展開されてゆき、上左右に広がる球状を形成した。
 最後に床と水平な半透明な水色の板、その一辺に接する形でやや斜めに配置された縦板を球状内の開いた面に作り出し、一連の動きが止まった。
 それを視線だけで確認したアーウィンが、大収納の魔法陣から生えているみたいに突き出されたハーモニアエリゾンの喉上へと左手を翳して、別の魔法陣を描き出す。
 ふわり、と柔らかな白い光を灯した魔法陣とハーモニアエリゾンの喉元を繋ぐような具合で光の粒が舞う。
 やがて一筋の赤い線がその粒の中へ現れたと思ったら魔法陣の反対側へと何かが生えて来る。
 それは見る間に大きな赤い魔石となって、アーウィンが、しっかりと石を掴み取ると同時に効力を失ったようで、魔法陣もハーモニアエリゾンの頭も何処かへと消えて行った。
 アーウィンは、すぐに半透明な水色の板上へと滑り込むように着座し、右手だけで目の前に展開されている紫の半透明な板の群れを指先で叩く。
 誰も何の音声も発することが出来ないまま、固唾を飲んで見入るしかない光景の中、空中へと現れたのは、透明な物で出来た正12面体のような物だった。
 シュッ、と短く鋭い空気を吐き出すような音が聞こえて12面体の一部が左右に開く。
 慣れた様子で、そちらに目を向けることもなく魔石を中へと突っ込んだアーウィンが自由になった左手と共に紫の半透明な板を叩き出す。
 よく見れば、アーウィンが触れた瞬間だけそれは水色に色を変えていたが、それに一体、どんな意味があるのか、この場の者達は誰一人として分からなかった。
 いつの間にやら開口部を閉じた12面体の中でクルクルと高速で横回転し始めた魔石は、透明な物の外側に次々と引出し線や天空文字を描き出したけれど、地図魔法の時とは違い、それはこの国の言葉には変換されなかった。
 アーウィンの目の前に内球状で並ぶ紫の板には、次々と図や波形、数値の並んだ表などが現れて、彼は手元を見ることなく板を指先で叩き続けながらそれに目を通しているようだった。
 一通りの作業が終わったのだろうか。
 アーウィンの手が止まり、背後にある水色の半透明板へと背を預けて左手で口元を覆い、右手で左腰の布地を掴んでいるような格好で深く息をついた。

「フリュヒテンゴルト公爵」
「は、はっ!」
「ミューニャ嬢」
「はいニャ!」
「念の為に今一度尋ねておきたいのだが、この大陸に竜を相手取ることの出来る戦闘力を持つ者は存在しているのかね?」
「いる訳ないニャ!」

 本当に念の為、と言った様子を滲ませながら問い質したアーウィンにサパッと遠慮ゼロで間髪入れずに答えたのはミューニャだった。

「………残念ながら、勇者でも降臨せぬ限り、難しいかと」
「いえ、もし勇者が現れたとしてもすぐに戦力になる者であるとも限りませんので、数には入れぬ方がよろしいかと」

 苦々しく答えたフリュヒテンゴルト公爵の言葉に訂正じみた言葉を付け加えたのはレンリアードだ。

「殿下御一人では、対応が難しい個体でも居たのですか?」
「いや、そうではないのだが……まぁ、よい。この問題は、請われた時にでもまた考えよう。先に分析結果をそなた達に伝えておく」
「お願い致します」

 懸念事項を口にするよりも伝達を優先したらしいアーウィンに、それでもフリュヒテンゴルト公爵が頷いた。

「ハーモニアエリゾンの竜種召喚共鳴によって、この国へと呼ばれた竜は全部で8竜。最初の2竜が大型通常種、次いで亜種が2竜、変異種が1竜。残りの3種が古竜種となることが分かった」
「⁈」

 5体以上呼ばれると終わり頃は、ほぼ古竜。
 以前、アーウィンが教えてくれていた通りの展開に、その場の者達は言葉と顔色とを同時に失ってしまったのだった。




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