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第1章 ウィムンド王国編 2
プライベートルーム
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アーウィンが、左の掌を上に向け右回りに円を描く。
その動きに沿う形で色違いの小さな丸い球が6個、空中へと浮かび上がった。
6個の中から水色に輝く1つを右手で摘み取り、会議室の壁に出来上がっている2枚横並びの魔法陣へとそれを放り投げた。
長方形に近い矩形の接辺の丁度、中央へと当たった水色の球は吸い込まれるように消えて行き、同時に魔法陣が2枚とも輝いた。
「な、何の魔法なのニャ⁈」
「うん? 部屋の鍵を開けているだけだが?」
「えっ?」
「鍵?」
アーウィンの答えを挟んだ3つの疑問が、すぐに解消へと向かったのは、光の収まった壁に現れた2枚の金属を思わせる板が、彼の言葉を肯定するかのように機械的な音を立てて左右へと開いたからだった。
「扉が、壁の中へ引っ込みましたぞ?」
「ああ。スライド式の自動開閉扉だからな。では諸君、また後程会おう。フェリシティア嬢、私と共に、中へ」
「は、はいっ!」
唖然として開いた扉を見詰めていたフェリシティアは、アーウィンの言葉に慌てて返事を紡ぎ、扉の向こうへと消えて行くアーウィンの背を追った。
2人が中へと入ってすぐ、金属のように見える扉が壁の両側から滑り出て来て閉じられ、あっという間に消え去った。
「扉、消えちゃいましたよ⁈」
「あー……きっと、これがジーフェンくんが夕飯に招待されたって言ってた、殿下のお部屋なんだニャ」
「空間魔法、ですかね?」
「分からん。後で殿下に訊ねるとしよう。儂らは、兎にも角にも昼飯じゃ」
「そうですね。お腹減りました」
アーウィンがフェリシティアだけを連れて行った以上、自分達が今、知る必要はないのだろうと判断したローガンの言葉にレンリアードが同意して、会議室を出て行く背中に促される形で残りの者達もその場を後にした。
そこは、不思議な空間だった。
入って直ぐに見えた景色は、縦長のエントランスを思わせるような場所で、上辺が半円状になった屋根の高い造りをしていた。
正面の白い壁面には下に縦長の大きなステンドグラス。
上にも3枚のステンドグラスが嵌め込まれていて、中央の丸型の物を含め、緑、水色、黄色を基調とした明るい色彩で纏めてられていた。
天井からは大きなシャンデリアが下がっていて、ステンドグラスから注ぎ込む柔らかな陽光とは違う真っ白な光を投げかけている。
部屋の左手前から奥に向かう形で伸びている上階の廊下は、ステンドグラスのある壁で止まっていて、手前にも奥にも階段の類いは見当たらなかった。
左壁の奥には大きな絵画が掛けられていて……。
(違うわ。あの絵、動いてる。と言うことは、あれも殿下が見せてくださった動く絵画のような映像なのかもしれないわ)
空に浮かぶ大きな島が、鳥のように空を移動している。
(伝承にある空の浮島と同じ……では、もしかしてあれが、ヴェルザリス?)
動く絵画は、濃い紫色のやや起毛した厚手の生地で作られたバランスと長めのテールが、カーテン部分同様、美しいドレープの稜線を描いていて、同色のタッセルもゆったりとした長さが設けられているからか、より柔らかな印象を与え、絵画の額縁よろしく映像の周囲を象っている金の装飾を上品に纏めあげていた。
部屋の左側奥には、淡い水色の魔法陣が敷かれていて、アーウィンは真っ直ぐそこに向かっているようだった。
「まずは昼食としよう。私と共に上の階へ」
「はいっ」
差し出された手に導かれるようにして、共に魔法陣の上へと乗れば、あっと言う前に2人の身体は階段のない、あの左側にあった廊下上へと移動していた。
(……魔法陣での転移移動が、階段代わりなのね……)
自分がこれまで培って来た知識や常識は、この空間では全く通用しない予感がして、エスコートする形で己を連れゆくアーウィンに、今は黙って従った。
「ここが、主に客を伴っての食事に使っている部屋となる。今日は私と共に、ここで昼食を摂ろう」
「かしこまりました」
アーウィンが右手で壁に触れると一瞬だけ、四角い魔法陣が現れて、ギルドの会議室からこの部屋へ入った時と同様、横壁の中へと扉が吸い込まれるように移動して消えて行った。
「………えっ?」
柔らかな木漏れ日から差し込む日差しが、たっぷりと注ぎ込む室内は、大きな長いテーブルとその周囲に背面の高い椅子が幾つも置いてある返事だった。
テーブルの上には白いテーブルクロスと薄い黄色に金の刺繍が施されたセンタークロスが敷いてある。
「作法は気にせず、私の近くへ腰掛けてくれ」
そう言ってエスコートしていたフェリシティアの手を離すとテーブルの上座、短辺に1番近い所に置いてあった椅子を引いた。
「失礼いたします」
一礼して椅子の座面前へと立ち、アーウィンが自席まで行くのをそのまま待ち、彼が腰を下ろしてから席へ着く。
それを見届けてからアーウィンが、右手の指先でテーブルをとん、と1度叩くと2人の目の前に半透明の水色板が現れた。
「彼女のメニューは、表示をウィムンド王国の文字に。品の内容と使用素材を記載せよ」
〈適用します〉
アーウィンが、告げたことにフェリシティアの目の前にあった水色半透明の板へ表示されていた文字が、この国の文字へと変わった。
「食べたい物を好きなだけ指定して食べてくれ」
そう声をかけられてアーウィンへと目を向け直していたフェリシティアは、短く「はい」と答えながらぎこちなく頷いて、半透明の板を先程の会議室で様々な説明をしていた時のようにポンポン指先で叩いていく彼を眺めていた。
その動きに沿う形で色違いの小さな丸い球が6個、空中へと浮かび上がった。
6個の中から水色に輝く1つを右手で摘み取り、会議室の壁に出来上がっている2枚横並びの魔法陣へとそれを放り投げた。
長方形に近い矩形の接辺の丁度、中央へと当たった水色の球は吸い込まれるように消えて行き、同時に魔法陣が2枚とも輝いた。
「な、何の魔法なのニャ⁈」
「うん? 部屋の鍵を開けているだけだが?」
「えっ?」
「鍵?」
アーウィンの答えを挟んだ3つの疑問が、すぐに解消へと向かったのは、光の収まった壁に現れた2枚の金属を思わせる板が、彼の言葉を肯定するかのように機械的な音を立てて左右へと開いたからだった。
「扉が、壁の中へ引っ込みましたぞ?」
「ああ。スライド式の自動開閉扉だからな。では諸君、また後程会おう。フェリシティア嬢、私と共に、中へ」
「は、はいっ!」
唖然として開いた扉を見詰めていたフェリシティアは、アーウィンの言葉に慌てて返事を紡ぎ、扉の向こうへと消えて行くアーウィンの背を追った。
2人が中へと入ってすぐ、金属のように見える扉が壁の両側から滑り出て来て閉じられ、あっという間に消え去った。
「扉、消えちゃいましたよ⁈」
「あー……きっと、これがジーフェンくんが夕飯に招待されたって言ってた、殿下のお部屋なんだニャ」
「空間魔法、ですかね?」
「分からん。後で殿下に訊ねるとしよう。儂らは、兎にも角にも昼飯じゃ」
「そうですね。お腹減りました」
アーウィンがフェリシティアだけを連れて行った以上、自分達が今、知る必要はないのだろうと判断したローガンの言葉にレンリアードが同意して、会議室を出て行く背中に促される形で残りの者達もその場を後にした。
そこは、不思議な空間だった。
入って直ぐに見えた景色は、縦長のエントランスを思わせるような場所で、上辺が半円状になった屋根の高い造りをしていた。
正面の白い壁面には下に縦長の大きなステンドグラス。
上にも3枚のステンドグラスが嵌め込まれていて、中央の丸型の物を含め、緑、水色、黄色を基調とした明るい色彩で纏めてられていた。
天井からは大きなシャンデリアが下がっていて、ステンドグラスから注ぎ込む柔らかな陽光とは違う真っ白な光を投げかけている。
部屋の左手前から奥に向かう形で伸びている上階の廊下は、ステンドグラスのある壁で止まっていて、手前にも奥にも階段の類いは見当たらなかった。
左壁の奥には大きな絵画が掛けられていて……。
(違うわ。あの絵、動いてる。と言うことは、あれも殿下が見せてくださった動く絵画のような映像なのかもしれないわ)
空に浮かぶ大きな島が、鳥のように空を移動している。
(伝承にある空の浮島と同じ……では、もしかしてあれが、ヴェルザリス?)
動く絵画は、濃い紫色のやや起毛した厚手の生地で作られたバランスと長めのテールが、カーテン部分同様、美しいドレープの稜線を描いていて、同色のタッセルもゆったりとした長さが設けられているからか、より柔らかな印象を与え、絵画の額縁よろしく映像の周囲を象っている金の装飾を上品に纏めあげていた。
部屋の左側奥には、淡い水色の魔法陣が敷かれていて、アーウィンは真っ直ぐそこに向かっているようだった。
「まずは昼食としよう。私と共に上の階へ」
「はいっ」
差し出された手に導かれるようにして、共に魔法陣の上へと乗れば、あっと言う前に2人の身体は階段のない、あの左側にあった廊下上へと移動していた。
(……魔法陣での転移移動が、階段代わりなのね……)
自分がこれまで培って来た知識や常識は、この空間では全く通用しない予感がして、エスコートする形で己を連れゆくアーウィンに、今は黙って従った。
「ここが、主に客を伴っての食事に使っている部屋となる。今日は私と共に、ここで昼食を摂ろう」
「かしこまりました」
アーウィンが右手で壁に触れると一瞬だけ、四角い魔法陣が現れて、ギルドの会議室からこの部屋へ入った時と同様、横壁の中へと扉が吸い込まれるように移動して消えて行った。
「………えっ?」
柔らかな木漏れ日から差し込む日差しが、たっぷりと注ぎ込む室内は、大きな長いテーブルとその周囲に背面の高い椅子が幾つも置いてある返事だった。
テーブルの上には白いテーブルクロスと薄い黄色に金の刺繍が施されたセンタークロスが敷いてある。
「作法は気にせず、私の近くへ腰掛けてくれ」
そう言ってエスコートしていたフェリシティアの手を離すとテーブルの上座、短辺に1番近い所に置いてあった椅子を引いた。
「失礼いたします」
一礼して椅子の座面前へと立ち、アーウィンが自席まで行くのをそのまま待ち、彼が腰を下ろしてから席へ着く。
それを見届けてからアーウィンが、右手の指先でテーブルをとん、と1度叩くと2人の目の前に半透明の水色板が現れた。
「彼女のメニューは、表示をウィムンド王国の文字に。品の内容と使用素材を記載せよ」
〈適用します〉
アーウィンが、告げたことにフェリシティアの目の前にあった水色半透明の板へ表示されていた文字が、この国の文字へと変わった。
「食べたい物を好きなだけ指定して食べてくれ」
そう声をかけられてアーウィンへと目を向け直していたフェリシティアは、短く「はい」と答えながらぎこちなく頷いて、半透明の板を先程の会議室で様々な説明をしていた時のようにポンポン指先で叩いていく彼を眺めていた。
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