天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

昼食にて

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 暫くアーウィンの様子を眺めていて、とにかく指先で触れればいいらしい、ということが理解出来たフェリシティアは、恐る恐る指先を半透明の板へと伸ばした。
 食前酒、と書かれている画面には、アルコール度数が高すぎないものが並んでいて、飲み口も甘過ぎず、スッキリとした味わいの物が選ばれているようだ、と記載内容から判断できた。
 唯一、分からなかったのは、炭酸という物が含まれているか否かの部分。

「アーウィン殿下、申し訳ございません。含まれている素材に、わたくしの知らぬ素材が含まれているようなのですが、それが何なのか、お訊ねしてもよろしいでしょうか?」
「分からぬ素材があったら、そこに指で触れてみよ。詳しい説明が追加される筈だ」
「分かりました。有り難う存じます」

 問うたことに即座でされた説明に従って、フェリシティアは「炭酸」と書かれた部分に指先で触れてみた。
 すると半透明の板の下に同じ幅をした縦の短い四角が追加され、その四角の中に「炭酸(tansan):H₂CO₃で表記される弱酸の1種。水溶液中のみに存在し、水に二酸化炭素を溶解することで生じる。飲み物に清涼感を与える目的で原料の1つとして使用されている」という記述がそこに現れた。

「………」

 少しの間だけ考えて、フェリシティアが再び半透明の板に指先を伸ばすが、それは新しく現れた縦が短い四角の方で「弱酸」と書かれている所に触れていた。
 するとまたその四角の下に同じ大きさの四角が現れて「弱酸(jaksan):水溶液中で、ごく1部しか電離せず、電離度が1に比べて極めて小さい酸のこと」と説明文を記述した。
 視線だけでその文字列を追ったフェリシティアは、眉根を寄せ、難しい顔をして考え込んでしまった。

「……取り敢えず気になった物を選んで飲んでみる方が早いと思うぞ? ダメなら別の物をまた出せばよいのだし?」
「あっ、はいっ! そうさせていただきます。何だか、ラッキョラの実を剥いている時みたいな気分になってしまって……」

 生まれて初めてそれを知ったのは、外食して酔っ払って帰って来た父が、面白いから剥いてみろ、と手土産で実を1つくれた時だった。

 子供心に何だろうと思って実を剥いてみて、全く同じ形の小さい実が中から出てきたのを見て目を瞬かせ、それも剥いてみたら再度、小さくなっただけの実が現れた。

 自分の様子を眺めながら酔っ払い特有のゲラゲラ笑いをかます父に向かって、フェリシティアは、思い切り渋面を作った記憶がある。

「あの魔物のドロップした実は、剥いても段々と小さくなって、いずれ空っぽになるだけだったように記憶しているのだが?」
「はい。これが分からない、と説明文を見て、その中にまた分からない言葉があって、それを調べるとその中にも分からない言葉が、と……何だか、幼い頃に辞書で言葉の意味を調べた時に辞書内を盥回しにされた時のようで」
「……有りがちだな。そう言う時にこそ適用すべき言葉が “1枚の絵は千語の言葉に値する” さもなくば “100回同じことを聞くくらいならば、己が目で1度、それを見よ” ではないのかね?」
「確かに、仰る通りですわ。では、失礼して……」

 ブリュエット・シャンペリアルと書かれた「辛口・炭酸の説明文が書かれたシャンパンを選択しながら、もう、使用されている言葉の時点で躓いている自分に改めて気が付いたフェリシティアは、そっと溜息を吐きたい心持ちがしてしまった。

(……ヴェルザリスの文化基準で考えると、今のわたくしの知識は幼かったあの頃レベルと言うことだわ。精進せねば……)

 新しいことを知るのも、それに挑戦するのも得意分野だ。
 態々、誰かに時間を割いて貰わなくても、こうして指先で触れるだけで知りたいことを説明して貰えるならば、それを使って学ばない手はない。
 そう思い直して、今はこれ以上、アーウィンを待たせぬよう、昼食のメニューを決めることに専念したフェリシティアだった。

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