天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

その頃の城内 -水面下-

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 国王アドルフィルトの勅命によって謹慎を申し渡された第1王女と第1王子。
 本人達は当然のように抵抗したし、全力で拒否したけれど、それを聞き入れて手心を加えて貰える程の人望や王命を無視出来るだけの権力が2人にある筈もなく。
 加えて2人の生母である王妃にすら国王の勅命を覆すだけの権限や権力もなければ、臣下の貴族達に言うことを聞かせられるだけの材料もなかったことは、この国にとってある意味、僥倖だったのかもしれなかった。

「よもやこんな形になるとは、わたくしも思ってはおりませなんだが、いやはや、陛下も思い切ったことをなされたものですな」

 彼はこの国に於いて、宰相の地位に就いている2人の男の内の1人である。

 ルドライファー侯爵と呼ばれる男は、困惑や戸惑いが全く含まれていない声音で、何処か楽しげに言いながら目の前の女性を視線だけで伺い見た。

「あら。ではどんな形ならば有り得ると思っていらしたのかしら?」

 コロコロと上品に笑いながら聞き返したのは、丸テーブルの向かいに座る女性。
 名をティリーアネア。
 伯爵家出身の娘だったが、現在は第1側妃の地位に在る。
 彼女の家は他国との交易を主とする商会を幾つも抱えた所謂、後援貴族だった。
 その財力と影響力を見込まれたが故に伯爵家の身分でありながら側妃に望まれた背景があり、本人自身の能力や才覚も折り紙付きと評されて、王妃よりも彼女の方が国同士の外交を任される場面も多かった。
 そんな女性が、ティリーアネア第1側妃だったのだ。

「ほっほっほ。側妃様も御人が悪い。国王陛下が健在な内は、この国が変わることなどあるまいと誰もがそう思っておったことでございましょうに」
「そうかしら? 南の国が何やら策を巡らせている様子だったのは周知の事実でございましょうし、此度のワイバーン襲来も含めて何処ぞの第3王子と仰る御仁が、あれやこれやと介入してくださらなければ、正直、昨日の時点で我が国は存続自体が危のうございましたわ」
「そうですな。ワイバーンの放ったブレスがたまたま街壁の外へと逸れて、たまたまそこに居った南の国の暗殺部隊を黒焦げにしたのも運が良うございました」
「まぁ、そうでしたの。たまたまとは言え、それは実によろしかったこと。既に城内へと運び込まれたらしいワイバーンの亡骸にでも礼をしなくてはなりませんかしらね」

 そんなたまたまなぞ、早々起こることはないし、そもそも本当にワイバーンのブレスに直接、焼かれたならば、形が残る物が存在することすら稀であるのを承知の上で言葉を交わしていた2人は、そこで視線を合わせると何方からともなく、にっこりと微笑み合った。

「……賊の狙いは、魔物を王都へ誘導することのようでしたぞ? たまたま焼け残っておりました魔導具を解析した所、刻まれておりました魔法陣にそのような働きを持たせてあったと報告がございました」
「あらあら。では、わたくしの “わんちゃん” が嗅ぎつけた情報も眉唾ではなくなりましたわねぇ。何でも例の第3王子、冒険者としてギルド長の指名依頼を受けて1度王都を出て、閉門時間ギリギリに戻ってこられたとか。神殿に居る “わんちゃん” のお話しでは、それを境に大司教が内々に進めていた魔物暴走スタンピードの対応準備が取り消しとなったそうよ?」
「ほほう。なるほど、なるほど。側妃様が飼われておられる犬達は、中々に優秀でございますなぁ」

 神殿側が感知している魔物の襲来や魔物暴走スタンピードの兆候を国へ報告せずに秘匿するのは、今に始まったことではないが、今回はワイバーンの対応も含めて、2度もアテが外れたことになる。
 その両方に「彼」は関わり、そして今また国王夫妻がずっと庇護し続けて来た掌中の珠2人を国王自ら切り捨てざるを得ない事態の要因となった。
 別の見方をするのならば、国王にとって王妃とその子供を含めた3人よりも「彼」の方が国にとって重要度が高いと言っているも同然なのだと受け取れないこともない。

「一体、何が起こるのでしょうな?」
「 “わんちゃん” 達の話しではね! 今、この大陸目掛けてドラゴンが8体くらい向かって来てるんですって!」
「………………………………は?」

 物凄く長い間を置いた後に宰相の口から漏れた疑問符は、とっても嬉しそうに己の掴んでいた情報を開示した側妃の様相と発言の内に含まれていた信じ難い4文節に対して紡がれた物だった。

「信じられる⁈ ドラゴンよ! ドラゴン! ワイバーンとか、なんちゃってドラゴンモドキじゃなくて、本物のドラゴン‼︎ それも8体も来るとか‼︎ 大陸白金貨が羽生えて飛んでくるレベルの大金が動く商売の臭いしかしないんだけど、どう思う⁈」

 商人達にとっては、戦争も魔物被害もそこから生じる様々な副産物も立派な儲けの機会なのだ。
 それは、分かる。
分かるけれども。

「側妃様。是非に、お立場をお忘れなく……」
「何言ってるのよ⁈ こんな機会、次にいつ来るか分からなくてよ⁈」
「王妃様の失脚がほぼ確定したも同じな現状で、側妃様に戦線離脱されるのは、困りますのでな!」
「陛下は⁈」
「とっくの昔に城から出られましたよ。王都内の何処かにはいらっしゃるのでしょうが、王妃様に王命の撤回を迫られぬよう先手を打たれたのでしょう」
「流石、生粋の王族。逃げ足早いわねぇ」
「……感心なさる所は、そこなのですかな?」
「だって、国的には王家絶えたら拙いもの。逃げ足大事でしょうよ!」

 何、当たり前のこと言ってるのよ? とでも言いたげな彼女の台詞に、一瞬、おかしいのは自分なんだろうか? と思いかけた宰相は、いやいやいやいやいや、と首を横に振って考えを改める。

「側妃様。話しを混ぜっ返しても私は騙されませんぞ⁈ 城外へは暫しの間、外出禁止とさせていただきますからな⁈」
「ちぇー。けちぃ」

 唇を尖らせて文句をつけた第1側妃に、宰相は深々と溜息をついてしまい……国王と側妃が意気投合した理由を再度、噛み締めてしまったような気分がしたのだった。

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