天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第1章 ウィムンド王国編 2

その頃の食事処 -昼食組-

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 会議室を出た面々は、冒険者ギルドの左隣で主に冒険者相手の酒や食事を提供している食事処へ足を運んでいた。
 ワイバーン戦で一稼ぎしたことで懐の温かい者達が、休息も兼ねて繰り出しているらしく、店内はそれなりに混雑の様相を呈していた。

「あそこ、空いてるのニャ!」

 目敏く空席を発見したミューニャが、そこを確保する為に小走りで移動を始め、他の者達がそれについて行く。
 ギルドでも人気の受付嬢である彼女が傍を通ると半ば酔っ払った冒険者達から実に気軽な感じで「ミューニャちゃーん」と声がかかり、彼女もそれに愛想良く手を振り返したりしていた。

「アイツ、猫獣人なのに愛想いいよな。何かツンケンしたヤツが多いのにさ」
「猫種によるらしいですよ? 基本、自由人が多いのは共通みたいですが、ミューニャちゃんみたいなダブルコートの子は、遊び好きで何にでも興味持つ、社交性の高い子が多いんですって」

 歩きながらスライが呟いたことにバリナが似たような雑談音程で答えを口にした。

「ダブルコート?」
「猫としての毛の長さで、長い子と短い子と両方の特徴がある子がいて、両方の子をダブルコートって言うんですって」
「お前、何でそんなこと知ってんだ?」
「財務にいる猫マニアの子爵様に超語られました。団長に頼まれて騎士団の予算書届けに行っただけだったのに……」
「そいつは、ごくろうさん」

 その子爵は財務の有名人で、スライも話しにくらいは聞いたことがある。
 元々は奥さんと長女が猫好きだったらしいが、段々と1人1匹レベルで飼い始め、しまいには使用人にまで猫獣人を採用し始めて「貴族の猫奴隷がまた増えた」と王都NNNにゃんにゃんにゃんに激震が走ったという。
 因みにNNNというのは「にゃんこによる、にゃんこのための、にゃんこ連絡網ネットワーク」の略だそうで、王都在住の猫と猫科の獣人達が必ずこの組織に所属する地域支部に参加している……と囁かれている、実在するかも謎な組織のことだ。

「なぁ、ミューニャ。NNNってホントにあんの?」

 疑問に思っていることを遠慮ゼロで空気読まずに聞けるのは、この男の長所かもしれない。
 この食事処で、何人の人間がそう思ったかは分からないが、シーン、と場が静まり返る程度にはそう思った者達がいるようだ。
 当の本人はそれに気づきもせずに椅子へと腰を落ち着けてしまったけれど。

「んー? さぁ、どうかニャー? 皆と集会してるのは、ほんとニャ」
「どんなこと話すんだ?」
「アイツは猫見たら蹴飛ばしてくるロクデなしニャ、とか。あそこのお屋敷は庭に木天蓼またたびの木が植ってるニャ、とか? こっちのお屋敷にはキュイラーの棚があるんだニャ、とか。そんな話しなんだニャー」

 聞くだに情報交換という名の雑談が繰り広げられているらしい。
 キュイラーというのは、蔦性の果実植物種で短い毛の生えた楕円体の実をつける。
 フルーツの一種として広く普及しており、皮を剥くと緑や橙、黄色などをした果肉が現れる。
 糖度が高い種も確認されていて、貴族家の屋敷では屋敷内へ提供出来る手軽な果物として栽培している家も数多く存在している、そんな植物だった。

「何でキュイラー?」
「木天蓼科の植物なんだニャ。葉っぱつきの蔓をもらうと営巣しちゃう子もいるニャよ?」

 その場の野郎共が揃って脳内に思い浮かべたのは、円形にグルグル巻かれた蔦の真ん中で、嬉しそうに喉を鳴らしているミューニャ ── ただし、木天蓼科なので同様に乱離骨灰ラリっている状態 ── だったりして、妙なホンワカ空気が食事処に漂った。

 レンリアードとローガンは我関せずで早々に注文を決めていて、速さがウリの1つな冒険者ギルド横食事処ならではの速さで、既に昼食にありついていた。

「ローガン、魔力量が増えた感じはどうですか?」
「……うむ。それがな。寄る年並みには勝てんで、儂も目が大分くたびれとったんだが……嫌に視界がハッキリしとるのに、さっき気がついてのう」

 レンリアードからされた質問に手にしたリブロースの骨から肉を一齧りして、咀嚼した後にローガンは続ける。

「気の所為じゃなく、精霊達の声も以前のように近ぅなったし、身体の衰えを感じとったあちこちも改善しとる気がする。感覚的に100は若返った実感があるわい」
「貴方これ以上、寿命伸ばしてどうする気ですか?」

 注文品のサラダにフォークの先を突っ込みながら言うレンリアードも森妖精エルフとしては年若いが、それでも人族や獣人族である他の者達から見れば既に十分、長生きしている方の分類に入っていた。

「そんなことは決まっとろう。殿下の御国でもう一旗上げるんじゃ」
「そういえば貴方は神代古龍種を実際に見たことがあるんでしたね。見た時、どんな感じでした?」
「あっという間に飛び去ったのもあったが、何だありゃ? としか当時は思わなかったかの。すぐに周囲の木々が通過の風圧だけで薙ぎ倒された上、あっちもこっちも燃え始めて、それ所じゃなかったのもあるが」

 それを聞いてしまうとアーウィンが海上での迎撃を勧める理由にも説明された以上の理解が及ぶ。
 砕氷船を持たぬこの国が、港を氷漬けになどされたらそれだけで漁業だけでなく貿易や軍事にも支障は出まくることだろう。

「今ンとこまだ、その話し出ないけどさ……公表のタイミングって、いつになるんだろうな?」
「陛下と団長次第じゃないですか? 今って、ほら? ……やっと皆、一息ついた感じじゃないですか……すぐにまた材料投下されたりしたらヤバくないです? ……今度は理由が理由だし?」

 やってきた食事を途中途中口にしながらスライとバリナが言うことに、その場の者は「確かにな」とは思うものの、いつまでも隠し通せるものでもなく、タイミング如何によってはワイバーン戦の比ではなくなるだろうと考えれば、上が二の足を踏むのも分かってしまう気がして溜息をついた。
 ミューニャだけがマイペースに焼き魚の盛り合わせを堪能していて、魔物系の緊急事態対応に自分達よりは耐性のある彼女が、ほんの少しだけ羨ましくなったのだった。

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