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第1章 ウィムンド王国編 2
ギルドマスターの苦悩
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冒険者ギルドのギルドマスターである男 …── 名をボルガーと言う ──… は、目の前で並べられた3通の書簡にゲンナリした表情を隠せずに受付窓口で佇んで居た。
1通は、リゼパァンズ恩寵大神殿のバランガ大司祭が、呉々も先方に粗相がないよう丁重にと珍しいくらい気を使いまくりの前振り込みで、偶々近くを通っていただけらしいギルド員の1人が預かって来たもので、どうやら面会の申し込みらしい。
2通目は、先程ギルドから去って行った国王陛下から、サシでお望みな晩餐のお誘いらしい招待状が、侍従から齎されたもの。
3通目は、貴族院からの真偽問い合わせ通知で、要するに “ちょ、テメェどういうことか全部説明しに来いや”(意訳) を貴族的遠回し表現で列挙記載されたもの。
どうやら返事待ちなようで、大神殿の書状を持ってきたギルド員以外は配達人が居て、2人ともこの場で待機し、姿の見えないアーウィンが現れるのを待っているようだった。
だが、ここは冒険者ギルドであって、彼専用の連絡所ではないので「居座られると鬱陶しい」と言うのがボルガーの本音だった。
「ニャニャーン! 只今、戻りましたニャーン!」
昼食を摂る為にギルドの建屋から出ていたミューニャが、いつものように明るい調子で宣言しなからギルドの入口を潜った。
やっと戻って来たか、と息をついてそちらを見やったボルガーはアーウィンが一緒でないことにもすぐ気がついて、彼の別行動を悟る。
だが、これで少なくとも対応は進む。
「おい、ミューニャ! アーウィン殿下宛の書状が3通来てる。可能な限り早く殿下から返事を貰って来てくれ」
「ニャ?」
ボルガーのかけた言葉に疑問音だけを発したミューニャが受付窓口前に来て、差し出した書状の表書を覗き込む。
「………貴族院の配達人はまだ居るかニャ?」
「私だが?」
「却下ニャ。たかが一貴族程度の分際で一国の王子を呼びつけようとか何様なのニャ。殿下に会いたきゃ陛下を通せニャ。それが王侯貴族としての序列常識の筈ニャ」
「っ」
貴族院からの通達を記した書状を手にスタスタと応を返した男に否を突きつけて、彼女が立ったのは1番身なりのいい、違う男の前。
「お前、見たことあるのニャ」
「……陛下からの書状をお届け致しましたのは、私です」
ミューニャの問いかけに婉曲な答えを返した青年は、視線を彼女から逸らす為だけに軽く頭を下げて、その視界に貴族院の署名がある書状を突き出されて顔を上げた。
「なら、帰り序でにこれを陛下に渡すのニャ。隠れ家に逃げ込んで現実逃避するのは勝手だけど、下の者の統制くらい取れニャ」
「………何のことでしょう?」
「NNNの情報網を甘く見るニャよ? アタシら猫族は全員場所だってちゃんと知ってるのニャ」
「…………して、陛下へのお返事は?」
完全に決定形で言い切るミューニャに誤魔化すのは無駄だ、と悟った青年はその書状を受け取って懐に仕舞いつつ、せめて己の目的は遂げようと質問を投げかけた。
その彼を貴族院から来た者は、ヤバい所に証拠品を押さえられたような顔で眺めていた。
「大神殿のバランガ大司祭と同席でいいなら調整してやるニャ。お前らは知らないだろうけど、殿下もこの国も今、それどころじゃないのニャ。事が全部終わるまで親交程度のことすら待てないなら、都合は全部こっちに合わせて貰うニャ」
イケてる男漁り以外はすこぶる優秀な受付嬢であるミューニャによって、アーウィンの姿すら見ることが叶わぬまま、3通の書状……いや、3ヶ所からの打診は全て処理された。
(殿下に教える前に全部決めちまいやがって、大丈夫なのか? アイツ?)
受付嬢としては吐いたセリフ以外、全て褒めて然るべき完璧な対応だが、事それが彼女の安全面での話しとなれば幾許かの不安が残り、思わず渋面となってしまったボルガーだった。
1通は、リゼパァンズ恩寵大神殿のバランガ大司祭が、呉々も先方に粗相がないよう丁重にと珍しいくらい気を使いまくりの前振り込みで、偶々近くを通っていただけらしいギルド員の1人が預かって来たもので、どうやら面会の申し込みらしい。
2通目は、先程ギルドから去って行った国王陛下から、サシでお望みな晩餐のお誘いらしい招待状が、侍従から齎されたもの。
3通目は、貴族院からの真偽問い合わせ通知で、要するに “ちょ、テメェどういうことか全部説明しに来いや”(意訳) を貴族的遠回し表現で列挙記載されたもの。
どうやら返事待ちなようで、大神殿の書状を持ってきたギルド員以外は配達人が居て、2人ともこの場で待機し、姿の見えないアーウィンが現れるのを待っているようだった。
だが、ここは冒険者ギルドであって、彼専用の連絡所ではないので「居座られると鬱陶しい」と言うのがボルガーの本音だった。
「ニャニャーン! 只今、戻りましたニャーン!」
昼食を摂る為にギルドの建屋から出ていたミューニャが、いつものように明るい調子で宣言しなからギルドの入口を潜った。
やっと戻って来たか、と息をついてそちらを見やったボルガーはアーウィンが一緒でないことにもすぐ気がついて、彼の別行動を悟る。
だが、これで少なくとも対応は進む。
「おい、ミューニャ! アーウィン殿下宛の書状が3通来てる。可能な限り早く殿下から返事を貰って来てくれ」
「ニャ?」
ボルガーのかけた言葉に疑問音だけを発したミューニャが受付窓口前に来て、差し出した書状の表書を覗き込む。
「………貴族院の配達人はまだ居るかニャ?」
「私だが?」
「却下ニャ。たかが一貴族程度の分際で一国の王子を呼びつけようとか何様なのニャ。殿下に会いたきゃ陛下を通せニャ。それが王侯貴族としての序列常識の筈ニャ」
「っ」
貴族院からの通達を記した書状を手にスタスタと応を返した男に否を突きつけて、彼女が立ったのは1番身なりのいい、違う男の前。
「お前、見たことあるのニャ」
「……陛下からの書状をお届け致しましたのは、私です」
ミューニャの問いかけに婉曲な答えを返した青年は、視線を彼女から逸らす為だけに軽く頭を下げて、その視界に貴族院の署名がある書状を突き出されて顔を上げた。
「なら、帰り序でにこれを陛下に渡すのニャ。隠れ家に逃げ込んで現実逃避するのは勝手だけど、下の者の統制くらい取れニャ」
「………何のことでしょう?」
「NNNの情報網を甘く見るニャよ? アタシら猫族は全員場所だってちゃんと知ってるのニャ」
「…………して、陛下へのお返事は?」
完全に決定形で言い切るミューニャに誤魔化すのは無駄だ、と悟った青年はその書状を受け取って懐に仕舞いつつ、せめて己の目的は遂げようと質問を投げかけた。
その彼を貴族院から来た者は、ヤバい所に証拠品を押さえられたような顔で眺めていた。
「大神殿のバランガ大司祭と同席でいいなら調整してやるニャ。お前らは知らないだろうけど、殿下もこの国も今、それどころじゃないのニャ。事が全部終わるまで親交程度のことすら待てないなら、都合は全部こっちに合わせて貰うニャ」
イケてる男漁り以外はすこぶる優秀な受付嬢であるミューニャによって、アーウィンの姿すら見ることが叶わぬまま、3通の書状……いや、3ヶ所からの打診は全て処理された。
(殿下に教える前に全部決めちまいやがって、大丈夫なのか? アイツ?)
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