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第1章 ウィムンド王国編 2
貧困からの脱出を目指して
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「皆、お待たせ! 食べられる獲物狩って来たから皆で食べよう!」
昨日から急にジーフェンと名乗るようになった貧民仲間の少年が、友達だと言っていた犬と一緒に街の外へと狩りに出かけ、こうして食べる物を取ってくるようになったことを貧民街の大人達も彼とは接点のない子供達も訝し気な目で見詰めていた。
「わーい! ジーフェンにぃちゃん、エリピーダ、ありがとう!」
「おにくだー!」
「すごい! カビのはえてないパンに、はさんであるよ!」
沸き立つ子供達から食料を奪ってやろうとした者達は、昨日でそれを諦めた。
見えない壁にそれを阻まれ豆粒1つ奪うことが出来ない上、エリピーダと名付けられたらしい犬に一声吠えつかれるだけで身体が宙に浮き、遠くの壁まで吹き飛ばされて盛大に叩きつけられることになるからだ。
「……ジーフェンくん、お願い。弟と妹の分だけでいいから、食べ物を分けて」
「ちゃんと君の分もあげるよ。エリピーダ、三人を入れてあげて?」
[わかった。ジーフェンが いれろっていうから おまえたちを いれてやる でもジーフェンが ダメっていうことしたら すぐ だしちゃうからな!]
やはり気の所為なんかじゃなく、つい昨日まで普通の犬だった筈の生き物が喋っていた。
「う、うん。ありがとう。ジーフェンくんが嫌がることは、絶対しないよ。約束する。ほら。あなた達も約束しなさい」
姉らしき少女に促されて、弟と妹はジーフェンの手にしている焼いた肉の挟まれたパンから視線を外さぬままコックリと頷いた。
「やくそくする」
「わたしも。やくそくするの」
そう口にした後、三人のお腹が目の前の食事を前に大合唱を奏でた。
「ご、ごめんね」
「ううん。こっちにおいで。皆で食べよう?」
ジーフェンがそう促すと堪えきれなかったように弟と妹が走り出す。
常ならば彼から食料を奪おうとした者達と同様に見えない壁に阻まれる筈の身体は、その壁をすり抜けたような格好でジーフェンの傍まで行くことが出来て、彼に差し出された肉の挟まれたパンにありつけていた。
「っ⁈」
周囲の大人達や奪うことしか頭になかった子供達が一斉に息を飲んだ。
もう1人の少女も不思議そうにキョロキョロしながら見えない壁がある筈の距離を通過したのを見て、今なら一緒に壁を抜けられるかもしれないと感じた数名の者達が、潜んでいた物陰から駆け出した。
だが、少女が居る位置とほぼ同じ位置で見えない何かに勢いよくブチ当たった彼等は、まるで壁にでも跳ね返されているような格好で、石畳へと投げ出された。
ギョッとしたような顔をしながら彼等を見詰めていた少女は、恐々とした様子を見せながらも自分だけが通り抜ける形でジーフェン達側の位置へと歩みを進める。
「食い物寄越せ!」
「何でお前らばっかり!」
「弱っちい癖にいい物食いやがってこの野郎!」
口々に要求と悪態を並べる少年達へ、ジーフェンの面が哀しげに歪む。
[よわっちぃのは おまえらだろう⁈ おれのつくったかべ こえられないくせに!]
「何だと⁈ この犬ちくしょうが!」
「代わりにお前を殺して食ってやるからこっちに来い!」
[おれ いぬじゃない! かべこわせない おまえたちに おれ ころせない! ジーフェンも きずつけさせない!]
「犬コロの分際で人の言葉喋んな気持ち悪ぃ!」
「………」
エリピーダと舌戦を繰り広げる者達の主張を聞きながら防御魔法壁の中へと入って来た少女へ、ジーフェンは肉挟みパンを差し出した。
「……ジーフェンくん。放っといていいの?」
「うん。お腹が減ってると攻撃的になるのは、分からなくもないし。エリピーダの防御魔法は、魔法を知らない人じゃ壊せないだろうからね」
「見えない壁があるって皆、言ってたけど、魔法だったんだね」
「うん。昨日、ある人にエリピーダは湿原角狼の幼体なんだって教えてもらって、それでもエリピーダと一緒にいたかったから、冒険者ギルドに2人で登録したんだ。今はそこで簡単なお仕事させてもらって、その序でに食べられる動物や魔獣を狩って来てるんだ」
「……そうだったんだ。あ、これ、いただくね?」
「うん。食べて。まだ一杯作って貰ってるから大丈夫だよ?」
コートの内ポケットから肉挟みパンをまた取り出して、他の子達にそれを与えながら笑む彼は、昨日から別人のように頼り甲斐のあるカッコいい男の子に変わってしまっていた。
手の中のパンを一口齧る。
染み出す肉汁とソースの味わい。
土の味も黴の味もしない新しいパンの柔らかさと香ばしさ。
「美味しい…………いいな。ジーフェンくん、いいな。わたしにも戦える力があったら弟や妹に、わたしがごはんを食べさせてあげられるのに。汚くて貧相な身体のわたしじゃ、雑役婦どころか娼婦にもなれないって言われて、わたし……」
グスグスと鼻を鳴らして泣きながらも少女は、パンを食べていた。
生きる為に。
今日も明日も自分が何とか食べ物を手に入れて弟と妹と共に生を繋ぐ為に。
分かっている。
ここに居るのは、大人も子供もそんな人間が大半だ。
彼女が他の者と少しだけ違うのは、自分の為だけの欲求ではないこと。
ただ施しを受け取るだけでなく、自分で何とかしたい、という意思があること。
そのくらい。
(僕に出来ることなんて、きっとこうして食べる物を分けることくらい。だけど……)
もしかしたら、彼女にだって自分のように知らなかった自分の力があるかもしれない。
彼女の望む未来に向かって手を伸ばし、自ら歩き出せる力があるかもしれない。
それならば、ダメ元で聞くだけ聞いてみることは出来ないだろうか。
「ねぇ。もし、君にその気があるなら。僕に力をくれた人に会ってみないかい?」
自分やエリピーダだけではなく、他の人にだって救われて欲しい。
そんな思いも手伝って、ジーフェンはその言葉を口にしていた。
昨日から急にジーフェンと名乗るようになった貧民仲間の少年が、友達だと言っていた犬と一緒に街の外へと狩りに出かけ、こうして食べる物を取ってくるようになったことを貧民街の大人達も彼とは接点のない子供達も訝し気な目で見詰めていた。
「わーい! ジーフェンにぃちゃん、エリピーダ、ありがとう!」
「おにくだー!」
「すごい! カビのはえてないパンに、はさんであるよ!」
沸き立つ子供達から食料を奪ってやろうとした者達は、昨日でそれを諦めた。
見えない壁にそれを阻まれ豆粒1つ奪うことが出来ない上、エリピーダと名付けられたらしい犬に一声吠えつかれるだけで身体が宙に浮き、遠くの壁まで吹き飛ばされて盛大に叩きつけられることになるからだ。
「……ジーフェンくん、お願い。弟と妹の分だけでいいから、食べ物を分けて」
「ちゃんと君の分もあげるよ。エリピーダ、三人を入れてあげて?」
[わかった。ジーフェンが いれろっていうから おまえたちを いれてやる でもジーフェンが ダメっていうことしたら すぐ だしちゃうからな!]
やはり気の所為なんかじゃなく、つい昨日まで普通の犬だった筈の生き物が喋っていた。
「う、うん。ありがとう。ジーフェンくんが嫌がることは、絶対しないよ。約束する。ほら。あなた達も約束しなさい」
姉らしき少女に促されて、弟と妹はジーフェンの手にしている焼いた肉の挟まれたパンから視線を外さぬままコックリと頷いた。
「やくそくする」
「わたしも。やくそくするの」
そう口にした後、三人のお腹が目の前の食事を前に大合唱を奏でた。
「ご、ごめんね」
「ううん。こっちにおいで。皆で食べよう?」
ジーフェンがそう促すと堪えきれなかったように弟と妹が走り出す。
常ならば彼から食料を奪おうとした者達と同様に見えない壁に阻まれる筈の身体は、その壁をすり抜けたような格好でジーフェンの傍まで行くことが出来て、彼に差し出された肉の挟まれたパンにありつけていた。
「っ⁈」
周囲の大人達や奪うことしか頭になかった子供達が一斉に息を飲んだ。
もう1人の少女も不思議そうにキョロキョロしながら見えない壁がある筈の距離を通過したのを見て、今なら一緒に壁を抜けられるかもしれないと感じた数名の者達が、潜んでいた物陰から駆け出した。
だが、少女が居る位置とほぼ同じ位置で見えない何かに勢いよくブチ当たった彼等は、まるで壁にでも跳ね返されているような格好で、石畳へと投げ出された。
ギョッとしたような顔をしながら彼等を見詰めていた少女は、恐々とした様子を見せながらも自分だけが通り抜ける形でジーフェン達側の位置へと歩みを進める。
「食い物寄越せ!」
「何でお前らばっかり!」
「弱っちい癖にいい物食いやがってこの野郎!」
口々に要求と悪態を並べる少年達へ、ジーフェンの面が哀しげに歪む。
[よわっちぃのは おまえらだろう⁈ おれのつくったかべ こえられないくせに!]
「何だと⁈ この犬ちくしょうが!」
「代わりにお前を殺して食ってやるからこっちに来い!」
[おれ いぬじゃない! かべこわせない おまえたちに おれ ころせない! ジーフェンも きずつけさせない!]
「犬コロの分際で人の言葉喋んな気持ち悪ぃ!」
「………」
エリピーダと舌戦を繰り広げる者達の主張を聞きながら防御魔法壁の中へと入って来た少女へ、ジーフェンは肉挟みパンを差し出した。
「……ジーフェンくん。放っといていいの?」
「うん。お腹が減ってると攻撃的になるのは、分からなくもないし。エリピーダの防御魔法は、魔法を知らない人じゃ壊せないだろうからね」
「見えない壁があるって皆、言ってたけど、魔法だったんだね」
「うん。昨日、ある人にエリピーダは湿原角狼の幼体なんだって教えてもらって、それでもエリピーダと一緒にいたかったから、冒険者ギルドに2人で登録したんだ。今はそこで簡単なお仕事させてもらって、その序でに食べられる動物や魔獣を狩って来てるんだ」
「……そうだったんだ。あ、これ、いただくね?」
「うん。食べて。まだ一杯作って貰ってるから大丈夫だよ?」
コートの内ポケットから肉挟みパンをまた取り出して、他の子達にそれを与えながら笑む彼は、昨日から別人のように頼り甲斐のあるカッコいい男の子に変わってしまっていた。
手の中のパンを一口齧る。
染み出す肉汁とソースの味わい。
土の味も黴の味もしない新しいパンの柔らかさと香ばしさ。
「美味しい…………いいな。ジーフェンくん、いいな。わたしにも戦える力があったら弟や妹に、わたしがごはんを食べさせてあげられるのに。汚くて貧相な身体のわたしじゃ、雑役婦どころか娼婦にもなれないって言われて、わたし……」
グスグスと鼻を鳴らして泣きながらも少女は、パンを食べていた。
生きる為に。
今日も明日も自分が何とか食べ物を手に入れて弟と妹と共に生を繋ぐ為に。
分かっている。
ここに居るのは、大人も子供もそんな人間が大半だ。
彼女が他の者と少しだけ違うのは、自分の為だけの欲求ではないこと。
ただ施しを受け取るだけでなく、自分で何とかしたい、という意思があること。
そのくらい。
(僕に出来ることなんて、きっとこうして食べる物を分けることくらい。だけど……)
もしかしたら、彼女にだって自分のように知らなかった自分の力があるかもしれない。
彼女の望む未来に向かって手を伸ばし、自ら歩き出せる力があるかもしれない。
それならば、ダメ元で聞くだけ聞いてみることは出来ないだろうか。
「ねぇ。もし、君にその気があるなら。僕に力をくれた人に会ってみないかい?」
自分やエリピーダだけではなく、他の人にだって救われて欲しい。
そんな思いも手伝って、ジーフェンはその言葉を口にしていた。
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