天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

文字の大きさ
105 / 113
第1章 ウィムンド王国編 2

状況確認

しおりを挟む
 冒険者ギルドを出たアーウィンは、魔物暴走スタンピードの対応をしに街から出た時と同じコースを徒歩でゆっくりと歩いていた。

「こんにちは、アーウィン殿下! 今日はいいお天気でしたね! 夕焼けが綺麗!」
「ああ、こんにちはマリテラ嬢。よい1日を過ごせたようで何よりだ」

 王侯貴族相手に投げかけるには些か気さくに過ぎるだろう挨拶にもアーウィンは、笑顔で対応してくれて、しかもバリバリの前衛戦士職であり、冒険者でもある娘を貴族令嬢のように「嬢」をつけて名を紡いでいた。
 そんな対応が返って来ることに慣れていなかった彼女は「受付嬢とか貴族令嬢以外でもソレつけるんだ⁈」と一瞬だけ、あわあわした様子を見せてから頬を染めて咳払いをすることで自分を立て直そうとしている。

「はははっ! アーウィン殿下にマリテラ嬢とか呼ばれちまって、コイツすっかり舞い上っちまってら」
「マリテラ嬢、なんて生まれてこの方、呼ばれたことねぇんじゃねぇか? コイツ?」
「そらそうだ。あっはっはっは!」
「ああ、そうだ。リーダー・パウロ」
「うへっ⁈ は、はいっ!」

 彼女の仲間達は、そんな彼女の様子に揶揄うような言葉を口にしたけれど、マリテラがそれに文句を言うより早くアーウィンが話しの矛先をリーダーであり、パーティのもう1人の戦士であるパウロに向けた為、彼女に負けず劣らずな泡の食い具合で彼がその呼びかけに答えを返す。

「今日は街の外に出たかね?」
「おう。受けた依頼がグランズの森だったからな。今日は何でか知んねぇが依頼を受けるヤツが少なくて、割のいい仕事が残ってたんだ」
「それは何より。森の様子はどうだった? いつもと何か違いはあったかね?」
「あー……そうだなぁ……皆、何か気が付いたことあったか?」
「ワイバーンが出たばっかりなのもあっただろうけど、草食の獣や小型の魔物の姿をあんまり見なかった気がしたくらいかな?」

 パウロの言葉に答えたのはパーティの魔法職であるヴォーストだった。
 斥候職に次いで敵性存在を感知出来なくてはならない彼等がそう感じたのならば、森の様子が静かであったことは間違いないだろう。

「そうか」
「まぁ、後4・5日すれば元に戻るだろ」

 残念ながらその頃には1体目の竜がこの街へやって来るのでプラス何日かは多目に見積もっておかないとダメだろうな、と思いながらもアーウィンはそれを口には出さなかった。
 これまでもアーウィンの側からはあまり意識して情報統制を厳しく敷いていなかったこともあってか、耳の早い者は既に事態の把握が出来ているようだが、それでも国王アドルフィルトから情報公開の許可が出ていない以上、己からそれを喧伝する気はあまりなかった。

「そうか。もし、街の食肉に影響が出るレベルとなったなら商業ギルドを通して私に声をかけるよう懇意にしている店などに情報を流してやってくれぬか? 他の冒険者や街の者にもそなた達から周知して貰って構わぬ」
「いいんですかい?」
「私の手持ちを提供するだけだ。市場を混乱させず、民の生活に極力負荷をかけぬのが目的ゆえ、商業ギルドを通せば問題あるまい」
「………」

 にこやかに問題あるまい、なんて言い切られてしまったが、パウロ達は知っていた。
 彼が飲食店街の火事場に箱ごと置いて行って、最終的には余った分を皆で分け合うことになった魔力回復ポーションは、間違いなく最上級品だった。
 現場で何も考えずガバガバ飲めたのが不思議なくらい、今は怖くて鞄から出せない一品となってしまっているけれど、当時、箱で山積みされたそれを指して「数はまだある」と発言していたらしいことをスライから聞かされたことは彼等の記憶にも新しかった。

「参考になる話しを感謝する。ではな」
「はいっ! お気をつけて!」

 マリテラがかけた声にアーウィンが笑みと共に軽く左手を上げて答えてくれた。
 夕刻も深まって来たこの時間から何処へ出かけるのか、アーウィンが真っ直ぐ足を向けているのは街の門がある方角だった。

「あーあ。王侯貴族が皆、殿下みたいな御人ばっかりなら俺らも安心して暮らしてけんだけどなぁ」
「言うなよ。虚しくなるだろ」

 王城でフリュヒテンゴルト公爵とベントレー子爵が交わした遣り取りとほぼ同じ会話を交わしたパウロ達は、アーウィンがやって来た方角……冒険者ギルドの方へと足を向けた。
 依頼達成の報告に訪れた彼等は、そこで朝一にスルーした衝撃現場を見に行くことになり、何故、今日の依頼を受ける者達が少なかったのかを知ることになったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...