天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅

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第2章 カルドランス帝国編 1

国境の村 ブレナン

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 その街は、北の国境を越えて半日程の距離にあるカルドランス帝国北端の街だった。
 名をブレナン。
 200年程前までは北の街道を通ってあちこちの国から入って来る貿易品や売り買いの商人達で賑わう陸の要所であった街だが、150年前に起きた大陸全ての国々を巻き込む一大戦争を境にその灯火は衰退の一途を辿り、今現在に於いては「街」と言うより「村」と呼んだ方が適切なレベルまで人口も産業も先細りしていた。
 唯一、この街がまだ村程度の体裁を保てていたのは、僅かながらも入国してくる他国の商人とその商人を護衛する為に同行している冒険者や傭兵が、北の国境を越えて最初に宿泊が可能な人里であるブレナンに滞在することが多いがゆえのことだった。
 街の外をぐるりと囲む木製の柵は、切り出した木材を適当な長さに切り分け、地面に突き差したものを荒縄で括り繋げただけの簡素な物で、ここだけを見てもこの街が、既に街としての体面を保てるだけの財政状況ではないことを物語っているようだった。
 そんな街柵の外側へ転移で現れたアーウィンは、揺れる灯明が淡く室内を照らし出す建物が点在するその場所を視線だけで軽く見回した。

「〈基準:街地図タウンマップ表示〉!」

 アーウィンの求めに従って目の前の空間に開いたウインドウにブレナン村の全体地図が平面図となって現れた。
 その一角に描き出された建物の中には赤い点が1つ。
 アーウィンが魔物暴走スタンピードを人為的に引き起こす為に隠蔽された迷宮の近くで発見し、接収した魔導具の使用者を残存魔力より見つけ出した人物の反応だ。
 魔法士なのか、魔導具士なのかは現時点で分からなかったけれど、少なくとも自身に追尾旗マーカーフラッグをくっつけられていることが察知出来ない程度の術者であることは確かだった。

(わざと外さずに誘いをかけている可能性も考えはしたが……)

 現状、その可能性は低いだろうとアーウィンは見ていた。
 それはウィムンド王国の正規軍に所属する者でもあり、妖精族でもあるレンリアードやローガンですら属性を4つしか知らなかったことから立てた予測だ。
 勿論、知られざる天才が地上に居ないとも限らないので、こうして距離のある所から様子見をしているのだが。
 その危惧は結局の所、杞憂に終わった。
 地図魔法上に表示されている赤点から出ている引き出し線の先。
 対象の状態が表記されている項目が「状態異常:泥酔」に変わったからだ。

(……理解出来んな。魔物暴走スタンピードが不発に終わったことを察知出来ておらぬのか?)

 そうでなくては、こんな国境に1番近い所で泥酔するまで酒精アルコールを摂取できる神経が信じられなくて、アーウィンは眉を顰めてしまう。

「この地の者達に、あまり接触したくはないのだがな」

 流石に本人の状態を確認しないまま、拐かすように身柄を押さえるのも後々のことを考えると、あまりよろしくない気がしてきたアーウィンは、暫しの間、どうするかを思案して2つ、魔法を行使した。
 それは後に、この地の人々が誰1人としてアーウィンの姿を目撃していない原因となったのだった。


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