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プロローグ
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しおりを挟む約束より40分遅れで待ち合わせ場所に来た私を、麗奈ちゃんが呆れた目で見つめている。
全くもう、とため息を吐きながらマグカップを持つのは、細い指と綺麗に磨かれ艶めく爪。
それに対して私は、インクで黒ずんだ丸っこい指をブンブンと振る。
「もとは私の計算違いだし、課長の言うことももっともだからさー」
「そのもとのもとはアンタに仕事押し付けた奴のミスなんでしょ。そういう男ってホントムカつく、匿名で告発したら?あたしやってあげよっか」
「い、いいよぉ麗奈ちゃん」
慌てて制すると、麗奈ちゃんも本気で言ったわけではないのかあっさりとカップを置いて店員さんを呼んだ。
メニューも開かず頼むのは、いつものパスタと私の分のコーヒー。
「まあ、民子がそれで良いならしょうがないけど」
えへへっとダメ押しの誤魔化し笑いをすれば、コツッと爪先をぶつけられてお説教が終わる合図。
幼稚園の頃からずっと一緒にいる彼女は、どんなに怒っていても最終的には私の気持ちを優先してくれる。
「お、麗奈ちゃんアイライナーが違う。新作?」
「そう、来月発売予定」
「麗奈ちゃん何つけても似合うから、一段とキレイに!って言われてたところで説得力あるのかないのか」
何それ、とクスクス笑う表情が昔からすごく好きだ。
モデルみたいにスタイルがよくて高身長、茶色いゆるふわのパーマをなびかせ、そのくせ前髪から覗くのはくっきり二重の鋭い瞳というギャップ。
一度見たらすぐ覚えられる魅力ある表情を生かして、化粧品会社のチーフにまで上り詰めたキャリアウーマンという、まさに高嶺の花な麗奈ちゃん。
一方、逆さに映る鏡から出てきたように、チビでペチャパイ、肩につく真っ黒のくせっ毛を一本に束ねてる私。
ちなみに奥二重なタヌキ顔。加えて地味OL。
こんな私たちが向かい合わせでご飯を食べてる図って、傍から見たら、ただの化粧品の勧誘だろうな。
でも、気兼ねなく自分の気持ちを話すことが出来て、しかもわかってもらえる時間はとても楽しい。
彼女もそう思ってくれてるらしく、私たちは道が違ってもいつも笑顔で話せる。
このパッとしない人生の中で唯一、光り輝く大事な宝物。それが麗奈ちゃんとの関係だ。
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