ハッピーエンドが程遠い。

立夏

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プロローグ

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家に帰って、ファンデーションと申し訳程度のメイクを落とし念入りにシャワーを浴びる。
ゲームをやる前はいつも身を綺麗にしてから。
18禁ゲームの場合、馬鹿みたいかもしれないけど、本当に彼に身体を見せるつもりで挑んでしまう。

「わー。声優も豪華っ」

はしゃぐ私の後ろにある本棚には、隙間なく数々のゲームや小説、漫画が並んでいる。
地味でモサくてこういう趣味で。ただのオタクと言われたらそれまで。

だけど私は、いつだってその内容に助けられてきた。

漫画や小説にはいくつもの名言があるし、ゲームは選択制だから自分の考えを養えるし、娯楽だからと馬鹿にしちゃいけない。
名前を呼ばれる気恥ずかしさは中学の頃に捨て去り、ヘッドフォン越しに響くいけない息づかいにももう慣れた。

どんなに現実とかけ離れていても良い。それだけ、夢を持てる、そこに生きてく糧を見出せるのだから。

でも、いつか本当に、ヒーローや王子様が来て私をさらってくれたら――
ううん、出来ればともに戦って並んで歩いていける方が良いかな。
守られてるだけのお姫様も悪くないけど、この世知辛いご時世で生きるには、少しは自分も戦わなくちゃね。

差し込む月明かりにふと目をやると、ちょうど流れ星が落ちて行った。
肉眼で見るのは何年ぶりだろう、良いタイミング。

「どんな形でもいいので・・・いつかヒロインになって、王子様が現れて、ハッピーエンドを迎えられますように」

なんだかすごくドキドキする。
本当に願いが叶いそうな高揚感とともに、新しいゲームのスイッチを入れた。


「メイク講座にも説得力があってよくできてるしイケメンに一から施していくのが新鮮で、メイク中にやるのもすごくスリルがあって」
「わ、わかった、いい出来だったって伝えておくわ」

次の日、感想を伝えるなら早い方が良いだろうとまた麗奈ちゃんと夜ご飯に出かけた。
今日は待ち合わせ時間に間に合ったものの、濃すぎるクマを作った私を見て麗奈ちゃんが苦笑いしている。

「まさか徹夜でやってたわけじゃないでしょうね」
「いやー、さわりだけにしてあとは休みの日にゆっくりと思ったんだけど、止まらなくて。気づいたら3人とヤッてました」
「ハッスルしすぎでしょ・・・」

どっちかといえば歴史や異世界物が好みだけど、たまには普通の恋愛もいいなあと実感する内容だったなあ。
セリフもリアルで良かったし。
思い返してニヤニヤしていたのか、麗奈ちゃんが「あーあ」といった表情で髪をかき上げる。
いかん、完全に別世界の人を見る目だ。

「おかげでいいこともあったんだよー。例の同僚が、昨日の濡れ衣のせいで私が疲れ果ててると思ったのかドリンクくれた」
「呪われると思ったんじゃないの」
「あー丑の刻参り的な・・・麗奈ちゃあん、さすがに酷いー」


あはは、と笑いあいながら、人で溢れる駅の階段を下りる。

ふと前方で、肩がぶつかったらしい男女が謝り合い頭を下げていた。
漫画だったらここから恋が始まるのにな・・・なんて他人のことまで妄想してしまう、もはや末期な私。

目を凝らしてみれば、ヒロインになるチャンスはどこにでも落ちているかもしれない。

ハッピーエンドと同様、誰にでも正当に与えられたはずのこの権利。

だけどそのうちの0.数パーセント人間は何故か

「えっ・・・」
「・・・!?民子!危ない!」


その確率からあぶれてしまうみたい。





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