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ハッピーエンドが予想外
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しおりを挟む物語に例えるならようやく第一話が終わったところだと思う。
地味で冴えない私が突然異世界にトリップし、イケメンに出会って即脱処女なんていう乙女ゲーとAV混ぜたような展開が起きて。
そして今、第二話の始まりを迎えこれから巻き起こるであろう数々の事態にドキワクしている私の横で――
「チッ」
相変わらず不機嫌なイケメン。さらに、舌打ちプラスされました。
「あの・・・」
「うるさい気が散る話しかけるな」
一刀両断。ノンブレスであしらわれ、さすがにそれ以上突っ込んで話しかけることが出来ず口ごもる。
さて、彼の機嫌を治すにはどうするべきか、というか何故こんな風になってしまったのか・・・黙ってる間に思い返してみよう。
*****
『嘘だろ』と唇で唱えた彼の瞳が揺れている。
私の左胸に浮かぶ痣を映しながら。
一変してしまった空気に思わず後ずさりすると、彼が腕を伸ばし、震える指先でこの痣を撫でた。
「今までは無かったんだな」
「へっ あ、これですか?はい・・・よくぶつけて痣は出来ますけど、こんな風に器用なものは」
もうふざけない方が良いかもしれない。彼の、まるで真剣かつ怯えを孕んだような瞳が、ただ事じゃないのを物語っている。
緊張が私にも伝わり、ゴクリと息を飲んで次の言葉を待つ。すると、彼は痣から指を離し、そのまま私の腰に添えた。
正面から抱き寄せられる形になり、張り詰めた不安な緊張が一気にトキメキの心拍数へと変わってしまう。
なんだか私、ここに飛ばされた時から良い思いばかりしてない?
一体どこの誰が仕向けたのか、この先待つのは盛大な罠かもしれないけど、こんな素敵な経験が続くなら喜んで受け入れよう・・・
再び直に感じるイケメンの体温に酔いしれていると、回された腕に力がこもった。
「とりあえず、大聖堂に連れて行く。一気に飛ぶから余計なこと考えるなよ」
「はっ、はいい・・・」
結局目的地は変わってないものの、彼のくぐもった声音はさっきまでの『めんどくさいバカ女をとっとと大聖堂に押し付ける』とは違う。
これが乙女ゲームのセオリー通りなら、私の身体に浮かぶ痣がこの世界にとって何か意味があるとか。もしくは花嫁候補の証だとか。
次々と候補がよぎるけど、どれをとっても私には胸アツかつ俺得な展開だ。
苦節24年、生身の男性と触れあわず二次元ハーレムで暮らしてきたのも、今こうしてすんなり異世界に馴染むための修行だったのかもしれない。
私はようやくヒロインになれたのだ。
今までの自分を捨てて、望み通りのハッピーエンドルートを辿って行こう・・・
「おい・・・」
「はいっ、いつでも準備オーケーで」
「じゃねえだろうが!!余計な事考えるなっつってんだろ!」
漫才コンビだったら容赦なく平手で突っ込む勢いで怒鳴られ、慌てて背筋を伸ばす。
今のは余計なことじゃなく私の一大決心なんだけど、テレポートには邪魔だったようだ。
無心無心、と唇の中で呟いて、目を閉じ彼に身体を預ける。
何も考えない、集中・・・そうだ、集中だ。神経を研ぎ澄ませて、彼と一体化するんだ。
触れあう胸から伝わる鼓動を意識して。匂いを吸い込んで呼吸を合わせよう。
呼吸・・・ああ、ちょうど耳元に当たってる。
彼の熱い息遣いが耳たぶをくすぐって――
「・・・・・・・・」
「はっ、」
まるで、熱く抱き合ってるみたい。
無意識に考えて恍惚の笑みを浮かべた瞬間、髪の毛を掴まれ思い切り後ろに引っ張られた。
グキッと鳴る首の向こうで、彼が怒りの頂点に達した顔をしている。人ってこんなきれいな青筋浮かぶんだ。
「ごめんなさいっ、あの今度こそちゃんと無心で無表情で意識飛ばしてでも頑張りますか んむっ」
必死に取り繕う私の顔下半分に、大きな手のひらが叩き付けられた。黙れということに違いない。
鼻まで塞がれもがく私を睨み付け、彼は「もういい」と切り捨てる。そして手のひらごと私から離れ、背を向けて歩き出してしまった。
やばい!ヒロインになったと思ったのにもう見限られた!
きっとこのまま無かったことにされる、それは嫌だと再び縋りつこうとしたその時、彼が立ち止まって空を見上げる。
「この距離なら届くか」
「え」
「こんな荷物抱えちゃいつまでも飛べやしねえ。こっちに呼ぶんだよ」
「へ・・・?」
「チッ」
*****
と、こうして『そろそろ本気で殺したい』感満載の舌打ちが飛び出た現在に至るのだった。
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