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『帰郷』
しおりを挟む迷宮国家『ダンメリズ』の中心に位置するこの国最大の迷宮である【深淵極圏】は未だ攻略されていない。幾多の英雄が挑み、帰らなかった奈落の入口である。
この迷宮は神代以前から存在している最古の迷宮であり、その本来の名前はこの世界では誰にも知られてはいない。それを知りうるのは世界を創り出した者のみ。始まりの女神によって名付けられたその真の名は
【根源迷宮】
今日も一人、伝説に挑む戦士が来た
その男は孤独だった
たった1人で未攻略迷宮を歩むのは本来蛮行でしかない。その理由として挙げられるのは言わなくても分かるだろうが生存率の上昇だ。並の冒険者ならば4人1組のパーティーを組むのが常識である。前衛2枚、後衛2枚という形が理想的である。確かに簡略化した2人1組の前衛1枚、後衛1枚も強者ならば選択肢に入るが荷運びや緊急時の対処などやはり4人1組が最適と言われている
1人でダンジョン攻略に挑む者は3種類に別れる
愚か者と欲深き者と異常者
前2人は死にやすく、数は少ない。最後の1人はもっと少ない。この男はどれか……
当然ここまで来れる者である
マッピングされた既知エリアは既に遠く離れた。当然出現する魔物も高レベル、高ランクであるのだが数々の魔物はその男に襲いかかろうとするも刹那の間に両断される。第三者がその光景を見たのならばその者はきっと『鎧袖一触』と表現するだろう
毒の吐息を放つ蛇女は剣圧で吐息を散らして両断し、全身が砂で出来た流体の砂漠巨人は一撃でその存在の核となっているコアを砕かれる。心·技·体のどれもが高レベルで完成されている歪な存在だ。この男の戦闘スタイルは魔術も使える剣士、即ち魔導剣士だ
この男がこの迷宮に潜った理由はただ1つ
富でも名声でも自尊心でも無い
とある存在を殺すためだけにこの迷宮に入った
己の師匠が迷宮で死んだと報せが入ったのは地上時間で1ヶ月前だ
迷宮では深く潜る程に地上と時間の流れに齟齬が生じるのだ。この男はその知らせを受けるとすぐに支度してこの迷宮国家に来訪した。彼の手持ちの食糧では迷宮での生存圏内は3日、しかし1週間経ってもその男は戻らなかった
ダンメリズに着いて暫くするとある噂が流れ、この男の耳にも届いた。その内容は未探索領域でやたら強いアンデッドが出現するというものだ。目撃証言によると彼の師匠と似ていた。この時点で彼は確信に至った
『それは己の師である』と
迷宮という極限状況で彼の五感は、いや第六感までもが極限を越えて研ぎ澄まされた。そんな時を見計らったかのように目の前の巨大な部屋、所謂ボス部屋という奴から懐かしくも鋭い気配を感じ取る
部屋の中に入ると、全身鎧の戦士が立っている。一見すれば全身鎧という事も相俟って人間かと勘違いするかもしれないが、濃密なまでの死臭と殺気が既に彼が命無き存在であることを物語っていた
始まりは互角に終わった
両者共に極限まで加速して必殺の斬撃を放つ。結果としてコースが被り鍔迫り合いの状況になった
次に両者の背後に風の刃が出現して、両者共に魔術障壁でそれを防ぐ
男の読みではこの先63手は鏡写しの攻防が続く
故に此処でイレギュラーを挟む事にする
世界が
───蒼く
─────染まり
────────閃光が
───────────奔る
奥義とも言えるその一閃。極限まで己を絞った末に放たれる超速の斬撃は正確に己の師の首へと放たれる
無論これで落とせる程度温くないことは理解している。ここで欲しいのは死ではなく迎撃時に生じる一瞬の間である
師はスローモーションの中でも滑らかに動き最適の動きで迎撃する。予想以上の速さであり、技術に思わず口角が上がってしまう
迎撃された瞬間に追撃となる閃光が更に奔る。師より与えられた奥義を更に昇華した斬撃は刹那の間を置いてまた同じ斬撃を放つというものである。達人同士の死合いはコンマ数秒が命取りとなる、故に完璧なリズムを崩すための楔としてブレることすらなく重なった本命の刃は師の剣を強打する結果を生み出す
しかし流石はアンデッド。剣を落とすことは無く、後方に飛んで体勢を整える
着地地点に落とし穴を作るも、空中に足場を作って落とし穴に落ちること無く再加速して必殺の斬撃を─────未知の奥義を此方も新たな奥義で迎撃する
迫る無限の斬撃
迎え撃つ無の斬撃
師が放つはあらゆる斬撃を放ち、回避不能を実現した『必殺』
己が放つは必ず斬れるという解答を創り出し、回避不能を実現した『必殺』
奇しくも師弟が編み出した『回避不能』は逆の思想である。回避不能を撃ち落とすには回避不能を使うのが手っ取り早い
無限が零と相殺した刹那に両者はお互いの首筋目掛けて放つが初手のように剣筋が交錯する
魔術は最小限に留める。意識を僅かにでも割けばその間隙から突き崩される恐れがあるからだ
故に男の脳内では71手先の未来までが『相打ち』で終わると確信している。恐らく相手も同じだろう
深く深く撃ち合う。第六感を越えた先に何かを掴みかける
故に男は剣に埋没する。無心に、されど己を回想しながら変わることの無い予想に何の感慨も抱かずに予め定められた動きを行う
思い出すのは師の訃報を聞いた時の感情だ。まず湧き上がったのが猛烈な悔恨であり、次に絶望である
『己が殺すことが出来なかった』
その感情が己を支配したのだ。愛すべき、憎むべき師。越えるべき師を己は殺せなかった。故に師を殺した迷宮に挑もうと考えたのだ
するとどうだろう。師の亡霊が彷徨っているというではないか。コレは天の導きなのだ、コレは天啓である
故に殺さなければ。誰かに奪われる前に殺さなければ
そんな歪な情念により彼は突き動かされたのだ
ふと意識を浮上させれば69手目まで終わっていた。次は互いに袈裟斬りを放ち鍔迫り合い、その次は上に跳ね上げた両者の剣で斬り下しを放つ
未来が現在なのか現在が未来なのか分からなくなるまでに溶けた世界は遂に終わったのだ
鍔迫り合い、この次の手は未知
どうすれば相手を越えられるのかを探す為に思考が引き伸ばされて世界が止まる。極限状態故に可能なその荒業は脳をジリジリと焼きながら分からないという結論を乱雑に投げ渡してくる。だが容赦なく「まだ考えろ」と思考に投げ返す。あらゆる知識と知恵と記憶をひっくり返して涅槃寂静の先に訪れる終局の先に立つ為に─────
記憶と知識が────幼かったぼくにお師匠様はオーギ─────まず剣はこうやって持つんだ───混雑す─────を教えてくれた────基礎の基礎だ、釣竿から糸を伸ばすように振るえ──────キソはオーギだって──────る。壊れた脳み───さぁ、やってみろ───そは脳の信号を待たずに
『やぁ!』
剣を振り抜いた
気が付いた時には師匠の鎧だけが両断されていた。中身は無かったが、何故だか不思議には思わなかった
両断されていた鎧を持ち帰り、迷宮を出る
墓守に頼み込んで中身の無い師匠の墓の下にこの鎧を埋めて貰った
これ以上何も語ることは無い
いや、一つだけ残っていたな
最後の一撃の名は───────────
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