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二次創作
黄金の剣姫と紅の疵獣
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「決闘です!!!」
黄金の髪を持つ女が学生食堂の机をドンと叩き、美しい顔を怒りに染めて此方に詰め寄る
「えぇ………」
どうしてこうなった
───────────────────
「…………はい?」
自宅の食卓で(俺が作った)飯を囲んでいると目の前の金髪幼女がぶっ飛んだことを言ってきた
「だーかーらー。君には遠征して貰うって話、OK?あ、これ上司命令ね。決定事項で申請書類も提出済み、出立は明日の朝」
「ちなみに、その間の飯はどうすんの?」
隣で飯を食ってたニート野郎が巫山戯たことを更に抜かす。自炊しろ
「この子の貯金から引き出して出前」
「了解」
「殺すぞクソガキィ……」
お前ら、俺の貯金で遊ぶのマジでやめて欲しい。働けニート共
翌日、マジで準備させられて異世界に放逐された。ここまでの描写が短過ぎるのは理解しているが、本当にトントン拍子で進んで何も話すことが無い
なので、取り敢えず俺が入学させられる事になった『スプリンド学園』とやらに頭を下げに行く
何が悲しくて高校生にならなきゃいけないんだと嘆息しているがそんな事は無駄だとも理解している
ちなみに何故こんなことになったのかと言うと「学生って楽だよね!ある程度の情報を持ち帰ってくるだけでOKだよ。あ、入学手続きは全部終わってるから安心してね」と、金髪幼女から説明された。毎度のことなのでもう慣れている
なんやかんやで学長室の前まで来た。事がすんなり進んでいる為に今後に不安がある
「失礼します」
ドアをノックして入る。そこでため息を堪えた俺を褒めて欲しい
ピンクの髪のロリがフカフカな椅子に座って寝てやがる。嘘だろおい
「あのー、学園長」
恐る恐る喋りかける。もう嫌だ帰りたい……なんてことは流石に言わないが、もう少しマトモな人材を学園長に据えろとは思う
この目の前で眠る桃髪合法ロリがスプリンド学園の学園長『レムリア・スプリンド』だ。所持しているヘキサウェポンは【眠り姫】、自動書記能力……らしい。クソの役にも立たないアイテムを持ってることしか分からないが、どうせ他にもあるのだろう。一応事前書類には目を通してあるので備考欄の「いつも寝てる」ってのにも頭に入れてたが……来客がある時くらいは起きろ。社会人だろ
「ん~?あ~、君が~」
あ、起きた
「そこ。おやすみ」
おい、寝るな
桃髪合法ロリが指した先には部屋の鍵と思われるものとトランクケースが鎮座していた
9731号室だ……いや、結構部屋多いな。無理やりねじ込んだからこんな部屋番なのかもしれんが、まぁいいだろうとトランクケースを持って部屋に向かう
「えーっと……お、此処らへんか?」
1時間くらいかけてようやく9730室を探し出した。迷うぞこんにゃろう……と、隣の部屋へ向かおうとすると此方を物凄い形相で睨み付ける金髪の女の子が居た。その手には武器の柄の様なものが握られており、臨戦態勢だろうということが見て取れる
「不審者……成敗です!」
柄の先に現れる薄蒼の刃。そして構えは両手持ちの剣士としてスタンダードなタイプだが……ふむ。かなり練度が高いな。と、悠長に敵戦力を分析している暇もなく、敵手の左足の踏み込みに合わせて此方も右足を引いて半身になり、迫る切っ先を回避する。今のは恐らく小手調べだろう、次は本命の一撃が切り返しで来るはずなので─────
「隣に越してきましたシャアです!宜しくお願いしまァす!」
「問答無用ッ!」
嘘だろこのバーサーカー。せっかく小便臭い小娘なんぞに敬語使ってやったのに無視して攻撃続行してきやがった
とは言っても、超常的なパワーとか無い人間の体なのでそりゃあもうぶった斬られる訳で……
ガギィン!と硬質な音を響かせて辛うじてトランクケースで剣を受け止める。いや今絶対中身まで傷付いたぞ。絶対弁償させる
「へぇ……なかなかやるね」
なに調子のいいことを言ってやがる。こちとら今殺されかけたんだぞ
「あー、その。なんだ、隣に越してきたんだが……」
大事なことなので二回言うことにした。一回じゃ理解できないみたいだし
「屋内でフード被ってる不審者にしては物凄く真っ当な言い訳ね。でも、生憎と隣の部屋の鍵は学園長が昨日────」
「ほれ」
ポケットから部屋番が書かれた鍵を取り出す
「え″?」
今なんか女の子として終わった声出したぞ。いいのかそれで……
「…………ザ・不審者みたいな格好してる君が悪いんだからね!」
「……それはまぁ、ご最もで……」
そこに関しては反論出来ない。室内でフード付きマントを羽織って正体を隠してるような野郎は確かに不審者だ。でも、襲ってくる事はないと思う
「…………それじゃ」
「え、あ、うん」
面倒なので彼女を押しのけて部屋に入った。いやホント死ぬかと思ったぞ……
アレが『ウェポン』とやらか。フォーシスと呼ばれる魔力みたいな物を燃料として現出するこの世界固有の武器、その中でも一般的なのが先程のテトラウェポン。学園長が持っていた特殊能力付きのウェポンがヘキサウェポン
対応した名称の鉱石から造られるということまでは知らされている。例えばヘキサウェポンならばヘキサクォーツと言った感じらしい。テトラクォーツは一般流通しているらしく、建材等にも使用されているとの事だ
さて、それでは俺のウェポンを見ていこう。トランクの中に全部入っていると出立前に金髪幼女から言われたので、多分この中の全てが俺のウェポンだろう
まず最初に飛び込んできたのは無数の武器の柄。二、三十はあるだろう。仮にウェポンに詳しい人物が居ればその殆どが異なる武器だと分かるだろう
そして、次に深い赤色のマント。一応ウェポン扱いだが、機能は柄と大きさの変更。フォーシスを使用しての修復機能だけで完全に趣味の代物だ
最後に……
「あちゃぁ……」
二重の意味で溜息を吐く。そこにあったのは顔面に大きな傷の入った下顎の無い異形の獣の仮面。確かに顔を見られたくないからと前日に無理を言って仮面を申請したがこんな禍々しいデザインはお兄さんちょっとどうかと思う。あと、この傷絶対金髪バーサーカーのせいだよね?
「こう、俺が今更言うのもアレだが見た目、痛いな……いや、カッコイイけどさ」
ノリノリで全身機械鎧で戦ったり、三枚刃チェーンソーや1m超えのトリプルブースターでアーマード・コアごっこしてたんだ。カッコイイのは大好きだ。だが、流石に日用品はもう少し控え目な方が悪目立ちしないとお兄さん思うんだ
いや、自分の見た目が悪目立ちしまくりな格好だというのは十分に理解している。しかし、諸々の都合で顔を隠さないといけないんだ。周囲の皆さんは頑張って慣れてくれ
取り敢えず、今着ている黒のマントを外してマントを羽織る。そして、仮面を付ける
その後、マントの内側に大量のウェポンの柄部分であるデバイスを括り付ける
はい、テロリストスタイルの完成
姿見で確認したが、やはり不審者だ。いや、見方によっては不審者からテロリストにランクアップした気もする
生徒の自主性を重んじるこの学園ならば許されるだろう
───そうして、俺の学園生活が始まった
なんて壮大な前置き風味のモノローグをしたが、ぶっちゃけちょっと野蛮で現代日本高校とそこそこ違うだけで授業内容は余り変わらない
結構暇だ。いや、クラスの面々と話してはいる。それに趣味の料理も結構楽しんでいる。だが何故かこの格好でもあまり驚かれなかった事に若干の悔しさを感じている自分がいる。学園長がアレなんだ、こういうこともあるだろう
それで飯を食ってたら冒頭に戻る
───────────────────
「えっと、何だ?」
ここまでの流れで、この目の前の女から襲われた意外の接点は無い。いや、実はチラチラと此方を伺ってる所を見たし、話し掛けられるのを待ったりしていたのだが面倒なのでスルーしていた
たったそれだけなのに決闘を叩き付けられた。俺が社会常識を説くのはどうかと思うが、それにしてもコイツ社会常識がねぇな
「もう少しアクション起こしてくださいよ!このままじゃ私がイヤな奴でしょ!?」
「いや知るかボケ。斬りかかったことは許すから帰った帰った」
ザワザワと周りが騒ぎだす。まぁ、それはそうだろうな。変な仮面を被った不審者が一番人気のメニューであるカツカレーを食べてたら……いや、なんかもう相手するの面倒だしアツアツのカツカレー食うか
「え、マジで無視して食い始めたよこの人」
うめぇ……いやほんとうめぇ……
学生になってラッキーと思えるのはニート二人の世話をしなくていい事だ。貯金がガンガン減ってくが、贅沢はしない方なのでまぁいい。料理したい時に料理して、ある程度勉強して、ある程度クラスの人と話す。うーん、喪われた青春を今満喫しているのでは?
──────剣気
抜かせてはダメだ。死ぬ
乱暴に椅子を引き、手に持ったフォークを出来うる限りの速度で奴の首元に突き付け────
「「動くな」」
俺の頬から流れた血が黄金の刀身を持つ片手半剣を伝って学食の地面を汚す
コイツ、一瞬本気で斬るつもりだったか……?
「へぇ……見た目通りね」
宝玉の様な碧眼が値踏みするようにこちらを睥睨する。その眼に宿っているのは戦に飢えた獣だ。先程までは好奇心でこちらを揶揄していた奴らも今は水を打ったように静まり返っている。それもそうだろう、いきなりこんなことになったんだ
「……満足か?」
分かり切った問いをかける。返答は悍ましい程に美しい笑みだ。俺は確かに歴戦ではあるが、猛者ではない。あるのは胆力と判断力と経験だけ。戦闘センスも身体能力も平均程度だ
幾度もの死線を潜り抜けたからこそ、目の前の女が俺より身体能力が上だと直感的に理解している
それに何より────
「ヘキサウェポン……」
「あら、よくご存知で」
これは逃げられないな……
仕方が無い。俺は特に強い訳でも無いのに、こんなに執着される言われはないのだがな。戦闘訓練の時も特に目立った動きはしていなかったし、そういう気配も出してなかった
「では、もう一度問います。私と決闘しましょう」
「…………OK」
最初の振る舞いから雰囲気変わりすぎじゃないかなぁ……
──────────────────
『剣姫』ヴィントホーぜ・エリザベスと謎の新入生の決闘の噂は瞬く間に広まった
そもそも、転校生というもの自体が珍しい上に容姿がテロリストに近いというトンデモ人間だ
しかし、渦中の男は容姿が極めて異端ということ以外は殊更特筆すべき事項が上がらぬ一般生だということも割と知られていた。当然、当初は戦闘訓練でも注目されていたが至って普通の戦い方であった為にすぐに皆の興味は薄れていった
対する相手、エリザベスは圧倒的な学園トップクラスのフォーシス量を誇り、その圧倒的な身体能力と剣技。そしてヘキサウェポンを所有している。更に【風鷹戦】にも選抜さた猛者であり、スプリンド学園内ランキングでは6位を記録している
戦闘訓練室に集まった皆は、『剣姫』の勝利を信じて疑わなかった。それどころかどれくらいで倒されるかで小さな賭けすら始まる始末
しかし、特段おかしなことはない。戦力が未知の人物相手ならいざ知らず、ヘキサウェポンも持たぬ凡庸な男が勝てる相手では無いのだ
それほどまでにヘキサウェポンというのは強力な武器であり、それを扱う彼女も洗練された戦士であるのだ
──────────────────
準備は完了した……が。いやはや、流石に相手が悪すぎる一般生徒ならいざ知らずトップの相手に目をつけられるとは不運過ぎる
はっきり言って勝てる見込みは無い。別に俺はどこぞの第一監視対象みたくアホ高い身体能力や剣技は無いからな。別世界ならいざ知らず、この世界でこれからも学生やってくには俺の異能力は全て封印する必要がある。というか基本封印されている。召喚機獣も機構甲冑も【引き裂く者】も論外だ
となると、後に残る俺はただの一般人であり特に何も無い。訓練室ではダメージを肩代わりしてくれるらしいのが救いか
「ったく…………おい、さっさと終わらせろよ」
「あら、負けるつもり?」
「いいや、彼我の戦力差を測れないほどバカじゃないってだけだ。確かに修羅場は潜ったが、それも過去の話。今はただの一般人さ」
「へぇ。でも……やる気が無いみたいだけど」
「どうだか」
当たり前だろ
いやホントなんでこの女俺のことこんなに買い被ってるんだ?ウソだろ、目ぇ腐ってんだろ……
「それじゃ、こうしよっか。君、負けたら私のパートナーとしてタッグを組みなさい」
「やだ」
「勝ったら私を好きにしていいわ」
「アホなのか?」
うーむ。いや、普通は魅力的な提案だろう。表現としてはアレだが、男好きする身体をしてるし性格に目を瞑れば見てくれも悪くない
ただ……
「あら、枯れてるの?」
「そんなところだ」
「え″」
ざわめく会場。そして男女両方から向けられる哀れみの目線。お前ら、タッグうんぬんに関しては何も反応無いのに何でここで反応するの?
いやまぁ、ホントすまん。なんかもう性欲とか基本湧かないんすわ
「えっと……それなら、この剣を賭けるわ!ヘキサウェポン、【剣聖】よ」
既に顕現している黄金の剣を掲げ、目の前の金髪バーサーカーは高らかに宣言する
「いるかボケ」
「なんなのこの人」
それこっちのセリフ
「えっと、じゃあ君の勝った時の報酬は好きな時に私に命令でいいよね!」
「もうそれでいいか……どうせやるまで返して貰えないんだし」
両手を広げ、テトラウェポンのデバイスを片手に一つづつ持つ。基本に忠実に行こうか
コチラが構えたのを見た彼女はやや不満そうな顔で剣を構える。しかし、そこに油断は微塵も無い
《試合開始》
アナウンスと同時に颶風となった剣姫。このままわざと斬られてもいいが───
なに、少し足掻いてみるのも悪くは無いか
両手に顕現する棘付き盾。武器としてはマイナーで無駄が多く、扱い辛いというのが総評だ。しかし俺には関係無い、弱い代わりにあらゆる武器を扱えるってのが今の俺の強み。それを活かすのが今の勝ち筋だ
昔も今も変わらず、俺の戦い方は情報アドバンテージの差を利用した初見殺し。未知の分野で攻めることで相手のリズムを崩す事を得意としている
「はぁっ!」
左の盾から採掘音の如く五重に響く硬質な連撃音。クラスメイトから貰った情報に拠れば彼女の『ソードエスカトス』は追加斬撃の効果を持ち、彼女自身の巧みな剣技をより厄介にしているという、武器本体の性能でゴリ押しする他のヘキサウェポン使いとは少々異なる戦い方をするようだ
彼女に関して言えば、極論としてヘキサウェポンを持たなくてもトップクラスの実力を持つ。武器が使い手を補助するという武器本来の役割をソードエスカトスは見事に果たし、それに見合う使い手として更に成長したのがヴィントホーぜ・エリザベスという女傑なのだ
「「面白い」」
重なる声と気持ち
右のスパイクシールドで彼女をぶん殴る様に攻撃する。しかし、反撃されると分かっていたのか後方に跳躍して回避
最初の攻防で倒されるなんてことは無かったが受け止めた左腕が骨の髄まで痺れてる。何度も受け止めれば此方のウェポンが破壊されるか、左腕が使い物にならなくなるだろうな
長柄で距離を離すか?短弓やクロスボウでチマチマ行くか?いや、そのどちらも攻撃を躱されて懐に入られる可能性が高いか
一旦盾を消して次の攻防に備える。ウェポンの展開中は常にフォーシスを消費するため、こうして何も無い時はウェポンを消すのも一つの選択肢ではある
「盾使いなんて珍しい。だけど、そう何度も受け止められるほど私の剣は甘くないわ!」
「そうだろうな」
敵手の再度の加速。刀身の付近に顕現する刃は六、かなり攻めてきているな
迎え撃つは二振りの手斧。片方の斧は使い潰すつもりで盾がわりにして黄金の刃を受け止め、至近距離でもう片方の斧を斬りながらぶん投げる。表現としてはぶん投げてるって表現だけで事足りるが、なにぶんソードエスカトスの追加の刃を切り伏せながら投げてるからこう表現せざるを得ない
「ッ!」
ど真ん中ストライク。回避は間に合わんだろう?コイツで痛い目見ときなお嬢さ────
「さっすが」
嗤ってやがる
本能が嫌という程に死の危険を告げてきやがる
ここが俺の居場所だと
「踊れ──【狂嵐怒濤】」
一陣の風が走る
本能に任せて背後にもう片方の斧をぶん投げながら振り返る
そには投げた斧を弾き、血に飢えた獣のような笑みを浮かべながら喜悦に満ちた表情を浮べる女が居る
魔人共の巣窟の中、単純に武器性能だけで6位になることなんて不可能。そのカラクリがこの2つ目のヘキサウェポン
彼女の祖先がかつて神樹戦で優勝した際に産み出されたヘキサウェポン、その家名でもあるコイツだ
能力は単純にして協力無比
馬鹿みたいに速い
使われる前に勝負を決めたかったが流石に無理か……さて、詰み筋が見えなくなった。対スピードアタッカー戦のセオリーは範囲攻撃やカウンターだが、そのどちらも彼女相手だと厳しいだろう。薙ぎ払いは剣で弾かれ、カウンターは決める前に離脱される。捨て身ならば可能性はあるが、勝負を焦るのは得策ではない
「行くね」
クソっ、速い。ある程度距離を離せばあるいはかと思ったがそんなに甘くはないか
盾は不要。削り殺される
ならば重さで勝負するか?いや、この相手にそれは悪手だろう。それなら、多少腕に負担をかけるがコイツで行くか
「そんなものまで使えるの!?」
放たれた剣撃を拳撃で弾いて迎え撃つ。かなり痛い筈だが、アドレナリンのおかげか
今回選択したのは少々大きめのガントレット。攻防一体とはいかないが、小回りが効いて防御も可能となるとコイツくらいなもんだ
弾きは剣士相手だと割と有効な返しだ。まぁ、その難易度に目を瞑ればだが
しかし、もう片方で追撃を仕掛けようにも奴の方が速い。だがそれは想定済みであり、だからこそもう片方のガントレットには更にデバイスを握りこんでいる
わざわざ回りくどい方法を取った理由は間合いの誤認にある。ガントレットの間合いなら逃げられると油断させている所をこのように……
「ふふふっ」
瞬時に伸びる槍が女の脇腹を掠める
槍の石突きにより攻撃されるため、背後には回れないはずだ。故に斜め後方に跳躍して一旦体勢を立て直すつもりだろう。追うように槍を薙ぎ払っても奴の方が速く、当初の読み通り間合いの外に逃げられてしまった
野生の獣か何かかよこの女……仮面で表情を隠してるから結構自信あったんだがな
決めれるとは思ってなかったが、深手を負わせるくらいの意気込みはあったぞ
明らかに想定していたよりダメージは少ない
「君、どれくらい武器を隠し持ってるの?」
「こんな所だ」
流石に襲っては来ないだろうから武器を仕舞い、マントを広げてその内側を見せてやる。どうせ大量に武器を持ってるのはバレているんだ、構いはしない
マントの内側に太腿や脚に腕、付けられるありとあらゆる場所に大量に取り付けられたデバイス群が披露される。その数は概算でも60近くもあり、一人が抱え込む量としては少々所ではない異常さだ。仮に、一人で戦争に行くと言われても納得が行くだろう
「いいね。やっぱり最高だよ君」
「そりゃどうも」
マントから手を離し、マントの内側で武器を換装する。何を使うか分からないという未知はアドバンテージであり、俺の生命線でもある
さて、今度は最近滅多に使わなくなった双剣で行こうか。右手では順手、左手は逆手に持つことによりいきなり背後に回られて対処出来ずとも、痛み分け程度には持って行けるはずだ
「これで終わりッ!」
「さぁ、来いッ!」
風が走る、黄金と蒼が煌めく
コイツ本来の……いや、本気の構え
今までが生温いと思える程の剣気が迸り、スイッチが入ったかのように纏う雰囲気がガラリと変わる
そろそろ来るとは思っていたぞ。最早今までみたいに一々足は止めてくれないだろう。こうなれば削り殺されるのが時間の問題だが、それでも粘るしかない
大丈夫だ。俺はコイツより速い奴を何人も知っている。知っているから、対処してみせる
一撃目
黄金の剣を左手の剣で受け止める
二撃目
迸る青の騎士剣を右手の剣で受け止める
三撃目から六撃目
追加の斬撃を左手の剣で捌くが五撃目で剣が破壊されて腕を斬られる
「ふふふっ」
「クックック」
七撃目
剣を失った左方向から回って俺の背後へと回った奴の蒼の斬撃。腰より少し高い場所に括り付けておいた盾型ウェポンを励起して防ぐ
八撃目から十四撃目
奴は黄金剣により斬撃を放ちながら俺から見て左方向へと場所を移動。盾型ウェポンを解除し、メイスを顕現させれば追加斬撃ごと叩き潰しながら奴へと攻撃……するも届かない。圧倒的なフォーシスによる高威力連撃によりメイスは砕かれたが一応防いだ
「アッハッハッハッハッ!」
「クッハッハッハッハッ!」
十五撃目
真正面から蒼の断頭刃が横薙ぎに振るわれるので片手斧で剣を叩き斬ろうとする──が、フォーシス量の差で逆に此方にヒビが入る。しかし防げた
十六撃目
襲い来る黄金を太腿からふんだくるように掴んだクソでかい肉切り包丁を技もへったくれもなく顕現させて追加斬撃ごと圧殺しようとする。フォーシスによる肉体強化のなせるゴリ押しだ
十七撃目から二十撃目
十字に交差した刃。これを平面座標に見立てた時に生まれる第一象限から第四象限の部分から刺突が襲い来る。第一と第二、第四象限の方は身体を逸らして回避するも第三象限部分の刺突は脇腹に刺さり灼熱の痛みと共に肩代わりの代金を奪い取る
「「ハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」」
響き渡る二匹の獣の歓喜の声
大気を震わせる激突音すら掻き消す程に両者は昂っていた
そう、血色の外套を纏う男もまた闘争の宿痾から逃れられぬ戦闘狂
互いを貪り、血を啜り、刻まれた傷と刻んだ傷に酔いしれる戦いにこそ強く己と生を実感出来る狂人共の演武は更に更にと加速する
舞い散る刃片は燐光のようにすぐに空に還るが、消え去るまでの一瞬で剣姫の柔肌に傷を付ける。己の武器の強度をわざと下げることで砕かせ、その破片を持って散弾とする荒業
普段から似たような戦いをしているからこそ可能な彼固有の破壊戦技
それだけでは無い。腰元に据えた槍型のウェポンは序盤の時のように意識外からの強襲を仕掛ける。それも背後にも伸びるようにと括り付けられているのだ。戦い方を聞いた時に編み出した切り札なのだが……
それで仕留められてくれるほど剣姫に可愛げはない。刃も槍も徐々に対応し、今では生み出した刃に遅延をかけることで事前防御していた
一際大きな金属音を響かせて両雄距離を取る
剣姫もそこそこ消耗しているが、仮面の男の方は息も絶え絶えといったところだ。地面に散らばるデバイスの数は30を越え、何度も攻撃を受け続けた左腕は感覚が麻痺しており満足に動かせない
しかし、闘志は消えておらず
剣姫もまた侮ることはない
「これの何処が一般人なの?」
「……ふぅ……やってることは普通だろ」
「へぇ……本気で欲しくなっちゃった」
「気色の悪いこと抜かすな」
見せてない札は残り二つ。うち一つは使い所があるかすら分からず、残りは試運転すらしてない危険物
両者ともに単体だけでは機能せず、相乗効果も産みにくい。使い所はほぼ無いだろう……というか後者の方は知り合いが使ってたからお遊びで導入したけど真っ当な人間だとどう足掻いても活かせない代物だ。あの全身凶器、よくこんなの使ってるなと今猛烈に内心で感嘆している
だが、この残り体力と残存フォーシスではジリ貧で負けるのは確実。ここで確実に獲るしかない
「ふぅ……第5位の為に作ったフォーシスアーツを使うしかないか……」
ノラ……?いや、そういえばクラスメイトに居たな……真面目な委員長タイプって女の子だったか
ノラ・アーキテクト。『聖騎士』の名を戴く学園5位の猛者
そしてフォーシスアーツって確か必殺技みたいな物だったよな。怪物曰く「通常展開に必要な量の約1.5倍のフォーシスをウェポンに流し込んで、武器の性能を最大限引き上げる大技。ウェポンと人の数だけフォーシスアーツがあると言われている」……だったか。真面目に授業受けといて良かった
件の『聖騎士』は鉄壁の守備を誇ると聞いたが、そいつの対策ということは恐らく…………ならば、ここが勝機か
己の位置を調整し、後は天に祈るだけだ
読みを外せば俺が倒れる。読み当てれば俺の勝利が近付く
左手でヒーターシールドを前に構え、右手には斧を構える。ここで剣ではなく斧を選択したのは単純な殺傷能力の高さからだ。確かに剣の方が使い慣れているが、この瞬間ではこちらの方が最善だろう
「【絶閃────────
奴の姿がブレる刹那、足で踏んだデバイスを起動。刃を上に向けた斧が俺の左右に出現する。この為に俺は戦場にデバイスを無駄にばら撒いたのだ
────────葬奏】」
右脚に衝撃。切り札の一つが機能し、予想通り奴は斧に引っかかって転んでくれた。認識不可能な速度での移動と斬撃、俺の読みはバッチリ当たった
前には盾が構えてあり、背後にも盾が括り付けられているのを彼女は知っている。それ故に左右から攻撃を仕掛けるように誘導したまでの話だ
いかに認識不可能だろうと、通る場所が割れればこちらのものだ
刹那に襲い来る暴力的なまでの採掘音と衝撃。中途半端な所で放たれてもヘキサウェポンのフォーシスアーツは伊達ではない。左腕があらぬ方向に曲がるが別に構うことは無い。今生きていればそれでいい
左腕は役割を果たしてくれた、これで首を獲るだけ……──────ッ!
コイツはまだ死んじゃいない
フッハッハッハッハッ!そうだ、それでこそだろう!互いに抜かりなどなかった、単純に奴の方もこちらの狙いに気付いていただけの話ということか!敵ながら天晴れ、と言ったところか……
奴は転倒しながらではあるが、左手の蒼剣が振り抜かれようとしている。この軌道なら顔面が上下に真っ二つだろう。仮に斧で受け止めたとしても追撃が出来ずに逃げられる。それでは左手が死んだ俺ではどう足掻いても敗北は覆せない
回避不能
斧で防御しても敗北
防御しなくても敗北
それは不可避の敗北。どう足掻いても詰みの状況
故に───────
《試合終了》
きっかり1秒後にそのアナウンスは流れた
「え?」
紅く眼を光らせた異形の獣に噛み付かれた蒼剣に剣姫の首を断つ起動で振り抜かれた斧
倒れ伏すのは黄金の髪の姫ただ一人
全てを覆したのはたった一つのウェポン
そう、仮面型ウェポンだ
下顎を生成し、噛み付く為のウェポン。それがギリギリの所で蒼剣を文字通り食い止めていたのだ
しかし、それだけでは説明がつかない。高速で迫り来る斬撃を噛んで止めるなど本物の獣ではあるまいし、不可能だろう
故にこその「オプション」である。このようなあまり戦闘向きではないウェポンには大抵オプションと呼ばれるフォーシスを消費して使用する特殊機構が備わっていることがある
最初に軽く説明したマントの色彩変更もこれに含まれる。そして彼が発動したのは『動体視力強化』のオプション
それ故に正確無比に剣姫の絶剣を止められたのだ
「「「「「「「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」
一瞬の沈黙の後に大歓声が響き渡る
驚異的な粘り強さと、工夫を凝らした戦術
油断無く、隙無く、本気の剣姫を打ち倒した猛者に誰もがその健闘を称える言葉を送った
勿論、敗者である剣姫にも労いの言葉は絶え間無く送られている
眠っていた、燻っていた闘志を焚き付けるような熱い試合に誰もが熱狂した。誰もが夢を見た
「負けちゃったか……」
「なに、俺もだいぶ運に助けられた。次はこうもいかないだろう」
実際、薄氷の勝利であったことは事実だ
最後のフォーシスアーツが力によるゴリ押しや空中歩行、貫通力や破壊力の高い技だったのなら受けきれずに負けただろう
それに本来の実力差は歴然であり、次に試合を行えば剣姫が勝つ確率は九割は越えるだろう
「それで、勝者の権利は今行使しますか?」
「いや、別に使う気は無いぞ」
というか、ホント疲れた
帰って寝たい
「ということで帰るわ。んじゃな」
……学園6位に勝利してしまった
やっべ、どうしよ。死にたい
途中までノリッノリで戦ってた自分をぶん殴りたい。マジでどうしよう。引き篭ろうかな
そうして、波乱の日々に戦々恐々としながら男は自室へと帰っていった
黄金の髪を持つ女が学生食堂の机をドンと叩き、美しい顔を怒りに染めて此方に詰め寄る
「えぇ………」
どうしてこうなった
───────────────────
「…………はい?」
自宅の食卓で(俺が作った)飯を囲んでいると目の前の金髪幼女がぶっ飛んだことを言ってきた
「だーかーらー。君には遠征して貰うって話、OK?あ、これ上司命令ね。決定事項で申請書類も提出済み、出立は明日の朝」
「ちなみに、その間の飯はどうすんの?」
隣で飯を食ってたニート野郎が巫山戯たことを更に抜かす。自炊しろ
「この子の貯金から引き出して出前」
「了解」
「殺すぞクソガキィ……」
お前ら、俺の貯金で遊ぶのマジでやめて欲しい。働けニート共
翌日、マジで準備させられて異世界に放逐された。ここまでの描写が短過ぎるのは理解しているが、本当にトントン拍子で進んで何も話すことが無い
なので、取り敢えず俺が入学させられる事になった『スプリンド学園』とやらに頭を下げに行く
何が悲しくて高校生にならなきゃいけないんだと嘆息しているがそんな事は無駄だとも理解している
ちなみに何故こんなことになったのかと言うと「学生って楽だよね!ある程度の情報を持ち帰ってくるだけでOKだよ。あ、入学手続きは全部終わってるから安心してね」と、金髪幼女から説明された。毎度のことなのでもう慣れている
なんやかんやで学長室の前まで来た。事がすんなり進んでいる為に今後に不安がある
「失礼します」
ドアをノックして入る。そこでため息を堪えた俺を褒めて欲しい
ピンクの髪のロリがフカフカな椅子に座って寝てやがる。嘘だろおい
「あのー、学園長」
恐る恐る喋りかける。もう嫌だ帰りたい……なんてことは流石に言わないが、もう少しマトモな人材を学園長に据えろとは思う
この目の前で眠る桃髪合法ロリがスプリンド学園の学園長『レムリア・スプリンド』だ。所持しているヘキサウェポンは【眠り姫】、自動書記能力……らしい。クソの役にも立たないアイテムを持ってることしか分からないが、どうせ他にもあるのだろう。一応事前書類には目を通してあるので備考欄の「いつも寝てる」ってのにも頭に入れてたが……来客がある時くらいは起きろ。社会人だろ
「ん~?あ~、君が~」
あ、起きた
「そこ。おやすみ」
おい、寝るな
桃髪合法ロリが指した先には部屋の鍵と思われるものとトランクケースが鎮座していた
9731号室だ……いや、結構部屋多いな。無理やりねじ込んだからこんな部屋番なのかもしれんが、まぁいいだろうとトランクケースを持って部屋に向かう
「えーっと……お、此処らへんか?」
1時間くらいかけてようやく9730室を探し出した。迷うぞこんにゃろう……と、隣の部屋へ向かおうとすると此方を物凄い形相で睨み付ける金髪の女の子が居た。その手には武器の柄の様なものが握られており、臨戦態勢だろうということが見て取れる
「不審者……成敗です!」
柄の先に現れる薄蒼の刃。そして構えは両手持ちの剣士としてスタンダードなタイプだが……ふむ。かなり練度が高いな。と、悠長に敵戦力を分析している暇もなく、敵手の左足の踏み込みに合わせて此方も右足を引いて半身になり、迫る切っ先を回避する。今のは恐らく小手調べだろう、次は本命の一撃が切り返しで来るはずなので─────
「隣に越してきましたシャアです!宜しくお願いしまァす!」
「問答無用ッ!」
嘘だろこのバーサーカー。せっかく小便臭い小娘なんぞに敬語使ってやったのに無視して攻撃続行してきやがった
とは言っても、超常的なパワーとか無い人間の体なのでそりゃあもうぶった斬られる訳で……
ガギィン!と硬質な音を響かせて辛うじてトランクケースで剣を受け止める。いや今絶対中身まで傷付いたぞ。絶対弁償させる
「へぇ……なかなかやるね」
なに調子のいいことを言ってやがる。こちとら今殺されかけたんだぞ
「あー、その。なんだ、隣に越してきたんだが……」
大事なことなので二回言うことにした。一回じゃ理解できないみたいだし
「屋内でフード被ってる不審者にしては物凄く真っ当な言い訳ね。でも、生憎と隣の部屋の鍵は学園長が昨日────」
「ほれ」
ポケットから部屋番が書かれた鍵を取り出す
「え″?」
今なんか女の子として終わった声出したぞ。いいのかそれで……
「…………ザ・不審者みたいな格好してる君が悪いんだからね!」
「……それはまぁ、ご最もで……」
そこに関しては反論出来ない。室内でフード付きマントを羽織って正体を隠してるような野郎は確かに不審者だ。でも、襲ってくる事はないと思う
「…………それじゃ」
「え、あ、うん」
面倒なので彼女を押しのけて部屋に入った。いやホント死ぬかと思ったぞ……
アレが『ウェポン』とやらか。フォーシスと呼ばれる魔力みたいな物を燃料として現出するこの世界固有の武器、その中でも一般的なのが先程のテトラウェポン。学園長が持っていた特殊能力付きのウェポンがヘキサウェポン
対応した名称の鉱石から造られるということまでは知らされている。例えばヘキサウェポンならばヘキサクォーツと言った感じらしい。テトラクォーツは一般流通しているらしく、建材等にも使用されているとの事だ
さて、それでは俺のウェポンを見ていこう。トランクの中に全部入っていると出立前に金髪幼女から言われたので、多分この中の全てが俺のウェポンだろう
まず最初に飛び込んできたのは無数の武器の柄。二、三十はあるだろう。仮にウェポンに詳しい人物が居ればその殆どが異なる武器だと分かるだろう
そして、次に深い赤色のマント。一応ウェポン扱いだが、機能は柄と大きさの変更。フォーシスを使用しての修復機能だけで完全に趣味の代物だ
最後に……
「あちゃぁ……」
二重の意味で溜息を吐く。そこにあったのは顔面に大きな傷の入った下顎の無い異形の獣の仮面。確かに顔を見られたくないからと前日に無理を言って仮面を申請したがこんな禍々しいデザインはお兄さんちょっとどうかと思う。あと、この傷絶対金髪バーサーカーのせいだよね?
「こう、俺が今更言うのもアレだが見た目、痛いな……いや、カッコイイけどさ」
ノリノリで全身機械鎧で戦ったり、三枚刃チェーンソーや1m超えのトリプルブースターでアーマード・コアごっこしてたんだ。カッコイイのは大好きだ。だが、流石に日用品はもう少し控え目な方が悪目立ちしないとお兄さん思うんだ
いや、自分の見た目が悪目立ちしまくりな格好だというのは十分に理解している。しかし、諸々の都合で顔を隠さないといけないんだ。周囲の皆さんは頑張って慣れてくれ
取り敢えず、今着ている黒のマントを外してマントを羽織る。そして、仮面を付ける
その後、マントの内側に大量のウェポンの柄部分であるデバイスを括り付ける
はい、テロリストスタイルの完成
姿見で確認したが、やはり不審者だ。いや、見方によっては不審者からテロリストにランクアップした気もする
生徒の自主性を重んじるこの学園ならば許されるだろう
───そうして、俺の学園生活が始まった
なんて壮大な前置き風味のモノローグをしたが、ぶっちゃけちょっと野蛮で現代日本高校とそこそこ違うだけで授業内容は余り変わらない
結構暇だ。いや、クラスの面々と話してはいる。それに趣味の料理も結構楽しんでいる。だが何故かこの格好でもあまり驚かれなかった事に若干の悔しさを感じている自分がいる。学園長がアレなんだ、こういうこともあるだろう
それで飯を食ってたら冒頭に戻る
───────────────────
「えっと、何だ?」
ここまでの流れで、この目の前の女から襲われた意外の接点は無い。いや、実はチラチラと此方を伺ってる所を見たし、話し掛けられるのを待ったりしていたのだが面倒なのでスルーしていた
たったそれだけなのに決闘を叩き付けられた。俺が社会常識を説くのはどうかと思うが、それにしてもコイツ社会常識がねぇな
「もう少しアクション起こしてくださいよ!このままじゃ私がイヤな奴でしょ!?」
「いや知るかボケ。斬りかかったことは許すから帰った帰った」
ザワザワと周りが騒ぎだす。まぁ、それはそうだろうな。変な仮面を被った不審者が一番人気のメニューであるカツカレーを食べてたら……いや、なんかもう相手するの面倒だしアツアツのカツカレー食うか
「え、マジで無視して食い始めたよこの人」
うめぇ……いやほんとうめぇ……
学生になってラッキーと思えるのはニート二人の世話をしなくていい事だ。貯金がガンガン減ってくが、贅沢はしない方なのでまぁいい。料理したい時に料理して、ある程度勉強して、ある程度クラスの人と話す。うーん、喪われた青春を今満喫しているのでは?
──────剣気
抜かせてはダメだ。死ぬ
乱暴に椅子を引き、手に持ったフォークを出来うる限りの速度で奴の首元に突き付け────
「「動くな」」
俺の頬から流れた血が黄金の刀身を持つ片手半剣を伝って学食の地面を汚す
コイツ、一瞬本気で斬るつもりだったか……?
「へぇ……見た目通りね」
宝玉の様な碧眼が値踏みするようにこちらを睥睨する。その眼に宿っているのは戦に飢えた獣だ。先程までは好奇心でこちらを揶揄していた奴らも今は水を打ったように静まり返っている。それもそうだろう、いきなりこんなことになったんだ
「……満足か?」
分かり切った問いをかける。返答は悍ましい程に美しい笑みだ。俺は確かに歴戦ではあるが、猛者ではない。あるのは胆力と判断力と経験だけ。戦闘センスも身体能力も平均程度だ
幾度もの死線を潜り抜けたからこそ、目の前の女が俺より身体能力が上だと直感的に理解している
それに何より────
「ヘキサウェポン……」
「あら、よくご存知で」
これは逃げられないな……
仕方が無い。俺は特に強い訳でも無いのに、こんなに執着される言われはないのだがな。戦闘訓練の時も特に目立った動きはしていなかったし、そういう気配も出してなかった
「では、もう一度問います。私と決闘しましょう」
「…………OK」
最初の振る舞いから雰囲気変わりすぎじゃないかなぁ……
──────────────────
『剣姫』ヴィントホーぜ・エリザベスと謎の新入生の決闘の噂は瞬く間に広まった
そもそも、転校生というもの自体が珍しい上に容姿がテロリストに近いというトンデモ人間だ
しかし、渦中の男は容姿が極めて異端ということ以外は殊更特筆すべき事項が上がらぬ一般生だということも割と知られていた。当然、当初は戦闘訓練でも注目されていたが至って普通の戦い方であった為にすぐに皆の興味は薄れていった
対する相手、エリザベスは圧倒的な学園トップクラスのフォーシス量を誇り、その圧倒的な身体能力と剣技。そしてヘキサウェポンを所有している。更に【風鷹戦】にも選抜さた猛者であり、スプリンド学園内ランキングでは6位を記録している
戦闘訓練室に集まった皆は、『剣姫』の勝利を信じて疑わなかった。それどころかどれくらいで倒されるかで小さな賭けすら始まる始末
しかし、特段おかしなことはない。戦力が未知の人物相手ならいざ知らず、ヘキサウェポンも持たぬ凡庸な男が勝てる相手では無いのだ
それほどまでにヘキサウェポンというのは強力な武器であり、それを扱う彼女も洗練された戦士であるのだ
──────────────────
準備は完了した……が。いやはや、流石に相手が悪すぎる一般生徒ならいざ知らずトップの相手に目をつけられるとは不運過ぎる
はっきり言って勝てる見込みは無い。別に俺はどこぞの第一監視対象みたくアホ高い身体能力や剣技は無いからな。別世界ならいざ知らず、この世界でこれからも学生やってくには俺の異能力は全て封印する必要がある。というか基本封印されている。召喚機獣も機構甲冑も【引き裂く者】も論外だ
となると、後に残る俺はただの一般人であり特に何も無い。訓練室ではダメージを肩代わりしてくれるらしいのが救いか
「ったく…………おい、さっさと終わらせろよ」
「あら、負けるつもり?」
「いいや、彼我の戦力差を測れないほどバカじゃないってだけだ。確かに修羅場は潜ったが、それも過去の話。今はただの一般人さ」
「へぇ。でも……やる気が無いみたいだけど」
「どうだか」
当たり前だろ
いやホントなんでこの女俺のことこんなに買い被ってるんだ?ウソだろ、目ぇ腐ってんだろ……
「それじゃ、こうしよっか。君、負けたら私のパートナーとしてタッグを組みなさい」
「やだ」
「勝ったら私を好きにしていいわ」
「アホなのか?」
うーむ。いや、普通は魅力的な提案だろう。表現としてはアレだが、男好きする身体をしてるし性格に目を瞑れば見てくれも悪くない
ただ……
「あら、枯れてるの?」
「そんなところだ」
「え″」
ざわめく会場。そして男女両方から向けられる哀れみの目線。お前ら、タッグうんぬんに関しては何も反応無いのに何でここで反応するの?
いやまぁ、ホントすまん。なんかもう性欲とか基本湧かないんすわ
「えっと……それなら、この剣を賭けるわ!ヘキサウェポン、【剣聖】よ」
既に顕現している黄金の剣を掲げ、目の前の金髪バーサーカーは高らかに宣言する
「いるかボケ」
「なんなのこの人」
それこっちのセリフ
「えっと、じゃあ君の勝った時の報酬は好きな時に私に命令でいいよね!」
「もうそれでいいか……どうせやるまで返して貰えないんだし」
両手を広げ、テトラウェポンのデバイスを片手に一つづつ持つ。基本に忠実に行こうか
コチラが構えたのを見た彼女はやや不満そうな顔で剣を構える。しかし、そこに油断は微塵も無い
《試合開始》
アナウンスと同時に颶風となった剣姫。このままわざと斬られてもいいが───
なに、少し足掻いてみるのも悪くは無いか
両手に顕現する棘付き盾。武器としてはマイナーで無駄が多く、扱い辛いというのが総評だ。しかし俺には関係無い、弱い代わりにあらゆる武器を扱えるってのが今の俺の強み。それを活かすのが今の勝ち筋だ
昔も今も変わらず、俺の戦い方は情報アドバンテージの差を利用した初見殺し。未知の分野で攻めることで相手のリズムを崩す事を得意としている
「はぁっ!」
左の盾から採掘音の如く五重に響く硬質な連撃音。クラスメイトから貰った情報に拠れば彼女の『ソードエスカトス』は追加斬撃の効果を持ち、彼女自身の巧みな剣技をより厄介にしているという、武器本体の性能でゴリ押しする他のヘキサウェポン使いとは少々異なる戦い方をするようだ
彼女に関して言えば、極論としてヘキサウェポンを持たなくてもトップクラスの実力を持つ。武器が使い手を補助するという武器本来の役割をソードエスカトスは見事に果たし、それに見合う使い手として更に成長したのがヴィントホーぜ・エリザベスという女傑なのだ
「「面白い」」
重なる声と気持ち
右のスパイクシールドで彼女をぶん殴る様に攻撃する。しかし、反撃されると分かっていたのか後方に跳躍して回避
最初の攻防で倒されるなんてことは無かったが受け止めた左腕が骨の髄まで痺れてる。何度も受け止めれば此方のウェポンが破壊されるか、左腕が使い物にならなくなるだろうな
長柄で距離を離すか?短弓やクロスボウでチマチマ行くか?いや、そのどちらも攻撃を躱されて懐に入られる可能性が高いか
一旦盾を消して次の攻防に備える。ウェポンの展開中は常にフォーシスを消費するため、こうして何も無い時はウェポンを消すのも一つの選択肢ではある
「盾使いなんて珍しい。だけど、そう何度も受け止められるほど私の剣は甘くないわ!」
「そうだろうな」
敵手の再度の加速。刀身の付近に顕現する刃は六、かなり攻めてきているな
迎え撃つは二振りの手斧。片方の斧は使い潰すつもりで盾がわりにして黄金の刃を受け止め、至近距離でもう片方の斧を斬りながらぶん投げる。表現としてはぶん投げてるって表現だけで事足りるが、なにぶんソードエスカトスの追加の刃を切り伏せながら投げてるからこう表現せざるを得ない
「ッ!」
ど真ん中ストライク。回避は間に合わんだろう?コイツで痛い目見ときなお嬢さ────
「さっすが」
嗤ってやがる
本能が嫌という程に死の危険を告げてきやがる
ここが俺の居場所だと
「踊れ──【狂嵐怒濤】」
一陣の風が走る
本能に任せて背後にもう片方の斧をぶん投げながら振り返る
そには投げた斧を弾き、血に飢えた獣のような笑みを浮かべながら喜悦に満ちた表情を浮べる女が居る
魔人共の巣窟の中、単純に武器性能だけで6位になることなんて不可能。そのカラクリがこの2つ目のヘキサウェポン
彼女の祖先がかつて神樹戦で優勝した際に産み出されたヘキサウェポン、その家名でもあるコイツだ
能力は単純にして協力無比
馬鹿みたいに速い
使われる前に勝負を決めたかったが流石に無理か……さて、詰み筋が見えなくなった。対スピードアタッカー戦のセオリーは範囲攻撃やカウンターだが、そのどちらも彼女相手だと厳しいだろう。薙ぎ払いは剣で弾かれ、カウンターは決める前に離脱される。捨て身ならば可能性はあるが、勝負を焦るのは得策ではない
「行くね」
クソっ、速い。ある程度距離を離せばあるいはかと思ったがそんなに甘くはないか
盾は不要。削り殺される
ならば重さで勝負するか?いや、この相手にそれは悪手だろう。それなら、多少腕に負担をかけるがコイツで行くか
「そんなものまで使えるの!?」
放たれた剣撃を拳撃で弾いて迎え撃つ。かなり痛い筈だが、アドレナリンのおかげか
今回選択したのは少々大きめのガントレット。攻防一体とはいかないが、小回りが効いて防御も可能となるとコイツくらいなもんだ
弾きは剣士相手だと割と有効な返しだ。まぁ、その難易度に目を瞑ればだが
しかし、もう片方で追撃を仕掛けようにも奴の方が速い。だがそれは想定済みであり、だからこそもう片方のガントレットには更にデバイスを握りこんでいる
わざわざ回りくどい方法を取った理由は間合いの誤認にある。ガントレットの間合いなら逃げられると油断させている所をこのように……
「ふふふっ」
瞬時に伸びる槍が女の脇腹を掠める
槍の石突きにより攻撃されるため、背後には回れないはずだ。故に斜め後方に跳躍して一旦体勢を立て直すつもりだろう。追うように槍を薙ぎ払っても奴の方が速く、当初の読み通り間合いの外に逃げられてしまった
野生の獣か何かかよこの女……仮面で表情を隠してるから結構自信あったんだがな
決めれるとは思ってなかったが、深手を負わせるくらいの意気込みはあったぞ
明らかに想定していたよりダメージは少ない
「君、どれくらい武器を隠し持ってるの?」
「こんな所だ」
流石に襲っては来ないだろうから武器を仕舞い、マントを広げてその内側を見せてやる。どうせ大量に武器を持ってるのはバレているんだ、構いはしない
マントの内側に太腿や脚に腕、付けられるありとあらゆる場所に大量に取り付けられたデバイス群が披露される。その数は概算でも60近くもあり、一人が抱え込む量としては少々所ではない異常さだ。仮に、一人で戦争に行くと言われても納得が行くだろう
「いいね。やっぱり最高だよ君」
「そりゃどうも」
マントから手を離し、マントの内側で武器を換装する。何を使うか分からないという未知はアドバンテージであり、俺の生命線でもある
さて、今度は最近滅多に使わなくなった双剣で行こうか。右手では順手、左手は逆手に持つことによりいきなり背後に回られて対処出来ずとも、痛み分け程度には持って行けるはずだ
「これで終わりッ!」
「さぁ、来いッ!」
風が走る、黄金と蒼が煌めく
コイツ本来の……いや、本気の構え
今までが生温いと思える程の剣気が迸り、スイッチが入ったかのように纏う雰囲気がガラリと変わる
そろそろ来るとは思っていたぞ。最早今までみたいに一々足は止めてくれないだろう。こうなれば削り殺されるのが時間の問題だが、それでも粘るしかない
大丈夫だ。俺はコイツより速い奴を何人も知っている。知っているから、対処してみせる
一撃目
黄金の剣を左手の剣で受け止める
二撃目
迸る青の騎士剣を右手の剣で受け止める
三撃目から六撃目
追加の斬撃を左手の剣で捌くが五撃目で剣が破壊されて腕を斬られる
「ふふふっ」
「クックック」
七撃目
剣を失った左方向から回って俺の背後へと回った奴の蒼の斬撃。腰より少し高い場所に括り付けておいた盾型ウェポンを励起して防ぐ
八撃目から十四撃目
奴は黄金剣により斬撃を放ちながら俺から見て左方向へと場所を移動。盾型ウェポンを解除し、メイスを顕現させれば追加斬撃ごと叩き潰しながら奴へと攻撃……するも届かない。圧倒的なフォーシスによる高威力連撃によりメイスは砕かれたが一応防いだ
「アッハッハッハッハッ!」
「クッハッハッハッハッ!」
十五撃目
真正面から蒼の断頭刃が横薙ぎに振るわれるので片手斧で剣を叩き斬ろうとする──が、フォーシス量の差で逆に此方にヒビが入る。しかし防げた
十六撃目
襲い来る黄金を太腿からふんだくるように掴んだクソでかい肉切り包丁を技もへったくれもなく顕現させて追加斬撃ごと圧殺しようとする。フォーシスによる肉体強化のなせるゴリ押しだ
十七撃目から二十撃目
十字に交差した刃。これを平面座標に見立てた時に生まれる第一象限から第四象限の部分から刺突が襲い来る。第一と第二、第四象限の方は身体を逸らして回避するも第三象限部分の刺突は脇腹に刺さり灼熱の痛みと共に肩代わりの代金を奪い取る
「「ハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」」
響き渡る二匹の獣の歓喜の声
大気を震わせる激突音すら掻き消す程に両者は昂っていた
そう、血色の外套を纏う男もまた闘争の宿痾から逃れられぬ戦闘狂
互いを貪り、血を啜り、刻まれた傷と刻んだ傷に酔いしれる戦いにこそ強く己と生を実感出来る狂人共の演武は更に更にと加速する
舞い散る刃片は燐光のようにすぐに空に還るが、消え去るまでの一瞬で剣姫の柔肌に傷を付ける。己の武器の強度をわざと下げることで砕かせ、その破片を持って散弾とする荒業
普段から似たような戦いをしているからこそ可能な彼固有の破壊戦技
それだけでは無い。腰元に据えた槍型のウェポンは序盤の時のように意識外からの強襲を仕掛ける。それも背後にも伸びるようにと括り付けられているのだ。戦い方を聞いた時に編み出した切り札なのだが……
それで仕留められてくれるほど剣姫に可愛げはない。刃も槍も徐々に対応し、今では生み出した刃に遅延をかけることで事前防御していた
一際大きな金属音を響かせて両雄距離を取る
剣姫もそこそこ消耗しているが、仮面の男の方は息も絶え絶えといったところだ。地面に散らばるデバイスの数は30を越え、何度も攻撃を受け続けた左腕は感覚が麻痺しており満足に動かせない
しかし、闘志は消えておらず
剣姫もまた侮ることはない
「これの何処が一般人なの?」
「……ふぅ……やってることは普通だろ」
「へぇ……本気で欲しくなっちゃった」
「気色の悪いこと抜かすな」
見せてない札は残り二つ。うち一つは使い所があるかすら分からず、残りは試運転すらしてない危険物
両者ともに単体だけでは機能せず、相乗効果も産みにくい。使い所はほぼ無いだろう……というか後者の方は知り合いが使ってたからお遊びで導入したけど真っ当な人間だとどう足掻いても活かせない代物だ。あの全身凶器、よくこんなの使ってるなと今猛烈に内心で感嘆している
だが、この残り体力と残存フォーシスではジリ貧で負けるのは確実。ここで確実に獲るしかない
「ふぅ……第5位の為に作ったフォーシスアーツを使うしかないか……」
ノラ……?いや、そういえばクラスメイトに居たな……真面目な委員長タイプって女の子だったか
ノラ・アーキテクト。『聖騎士』の名を戴く学園5位の猛者
そしてフォーシスアーツって確か必殺技みたいな物だったよな。怪物曰く「通常展開に必要な量の約1.5倍のフォーシスをウェポンに流し込んで、武器の性能を最大限引き上げる大技。ウェポンと人の数だけフォーシスアーツがあると言われている」……だったか。真面目に授業受けといて良かった
件の『聖騎士』は鉄壁の守備を誇ると聞いたが、そいつの対策ということは恐らく…………ならば、ここが勝機か
己の位置を調整し、後は天に祈るだけだ
読みを外せば俺が倒れる。読み当てれば俺の勝利が近付く
左手でヒーターシールドを前に構え、右手には斧を構える。ここで剣ではなく斧を選択したのは単純な殺傷能力の高さからだ。確かに剣の方が使い慣れているが、この瞬間ではこちらの方が最善だろう
「【絶閃────────
奴の姿がブレる刹那、足で踏んだデバイスを起動。刃を上に向けた斧が俺の左右に出現する。この為に俺は戦場にデバイスを無駄にばら撒いたのだ
────────葬奏】」
右脚に衝撃。切り札の一つが機能し、予想通り奴は斧に引っかかって転んでくれた。認識不可能な速度での移動と斬撃、俺の読みはバッチリ当たった
前には盾が構えてあり、背後にも盾が括り付けられているのを彼女は知っている。それ故に左右から攻撃を仕掛けるように誘導したまでの話だ
いかに認識不可能だろうと、通る場所が割れればこちらのものだ
刹那に襲い来る暴力的なまでの採掘音と衝撃。中途半端な所で放たれてもヘキサウェポンのフォーシスアーツは伊達ではない。左腕があらぬ方向に曲がるが別に構うことは無い。今生きていればそれでいい
左腕は役割を果たしてくれた、これで首を獲るだけ……──────ッ!
コイツはまだ死んじゃいない
フッハッハッハッハッ!そうだ、それでこそだろう!互いに抜かりなどなかった、単純に奴の方もこちらの狙いに気付いていただけの話ということか!敵ながら天晴れ、と言ったところか……
奴は転倒しながらではあるが、左手の蒼剣が振り抜かれようとしている。この軌道なら顔面が上下に真っ二つだろう。仮に斧で受け止めたとしても追撃が出来ずに逃げられる。それでは左手が死んだ俺ではどう足掻いても敗北は覆せない
回避不能
斧で防御しても敗北
防御しなくても敗北
それは不可避の敗北。どう足掻いても詰みの状況
故に───────
《試合終了》
きっかり1秒後にそのアナウンスは流れた
「え?」
紅く眼を光らせた異形の獣に噛み付かれた蒼剣に剣姫の首を断つ起動で振り抜かれた斧
倒れ伏すのは黄金の髪の姫ただ一人
全てを覆したのはたった一つのウェポン
そう、仮面型ウェポンだ
下顎を生成し、噛み付く為のウェポン。それがギリギリの所で蒼剣を文字通り食い止めていたのだ
しかし、それだけでは説明がつかない。高速で迫り来る斬撃を噛んで止めるなど本物の獣ではあるまいし、不可能だろう
故にこその「オプション」である。このようなあまり戦闘向きではないウェポンには大抵オプションと呼ばれるフォーシスを消費して使用する特殊機構が備わっていることがある
最初に軽く説明したマントの色彩変更もこれに含まれる。そして彼が発動したのは『動体視力強化』のオプション
それ故に正確無比に剣姫の絶剣を止められたのだ
「「「「「「「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」
一瞬の沈黙の後に大歓声が響き渡る
驚異的な粘り強さと、工夫を凝らした戦術
油断無く、隙無く、本気の剣姫を打ち倒した猛者に誰もがその健闘を称える言葉を送った
勿論、敗者である剣姫にも労いの言葉は絶え間無く送られている
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「なに、俺もだいぶ運に助けられた。次はこうもいかないだろう」
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それに本来の実力差は歴然であり、次に試合を行えば剣姫が勝つ確率は九割は越えるだろう
「それで、勝者の権利は今行使しますか?」
「いや、別に使う気は無いぞ」
というか、ホント疲れた
帰って寝たい
「ということで帰るわ。んじゃな」
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やっべ、どうしよ。死にたい
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0
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