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思考

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side:レックス

月光のような白銀の髪の少女が僕の目の前に降り立った。どんな宝石よりも美しいその碧玉の瞳、世の女性が羨むような美術品のようなプロポーションの彼女は女神のように神聖で、巫女のように犯し難く、淫魔のように淫猥な笑みを浮かべて彼女はこちらを見てくる
僕の幼馴染にして人類を背負う最強の勇者
シャーロット=ヘルヴェルミナ

「ねぇ、レックス。私気が付いたの」

魔法のように僕の心を絡めて離さないような心地の良いハスキーボイスが耳朶を打つ

「もう、全部放り出した方が楽なんだーって」

「シャ……シャロ?」

頭が回らない、何が起こっている。シャロが喋る度、シャロを見る度、シャロを感じる度に何故こんなにも僕は興奮・・している?思考が徐々に侵されていく、しっかりしなければ……

「凄いよレックス。全開じゃないとはいえ私の魅力チャームにそこまで抗えるなんて。でも、ちょっと傷つくなぁ……」

「な、何を言って……」

魅力チャーム?何故そんなものを……いや、そんな事よりシャロを……シャロを……あれ?何をするんだっけ
その瞬間、刹那にも満たない隙間をこじ開けるように思考汚染が広がっていく。もはや立っている事すら困難な程に思考が侵される────が
僕は立たねばならない・・・・・・・・

「精神汚染耐性?それとも精神汚染が一定以上進んだ場合に自動発動する思考のクリア化?と、作為的なモノだと願いたいけど多分それデフォルトだよねー」

「はぁ……はぁ……」

「ねぇ、レックス。久し振りに手合わせしない?勝った方は負けた方の人生・・を貰う……拒否権は無いよ。だって私はもう何年も我慢していたんだから、少しくらい我儘言っても許されるよね?」

答えるのが億劫だ。コンディションは最悪、彼我の実力差はかなり開いている。勝つ為には死力を振り絞るのは当然、魂すら贄として差し出しても届くかどうか。絶望を通り越したこの状況、笑えてくる
だが、やらねばならない。ここで負ければ─────あれ?なんでこんな事を……いや、そもそもなんで負けちゃダメなんだ……?

「そう。そこで嗤う・・のね、レックス。魅力チャームを解放したのは失敗だったかも」

目の前の少女てきは哀しそうに笑う。雑念を殺せ、精神を研ぎ澄ませ、殺らねば殺られる……違う、違う、違う。目の前に居るのは幼馴染で、大切な友人なんだ
思考が二方向から汚染されていく。頭が割れるようだ。剣を握り、構えている。なんでだろう、なんでもいいや

目の前に居るのは─────


─────────────────

side:シャーロット

勝負は一瞬だった
いくら勇者の血筋とはいえ思考すらままならず、格上の相手に善戦なんて夢のまた夢。取り敢えず気絶させて背負い、今は魔王城へ行く為の転移門を探している最中だった・・・

「お待ちしておりました」

うやうやしく礼をする魔族、恐らくはハルピュイアに迎えられて転移門まで案内される。探し始めてから五分で見つかるのはいくら私の能力・・が探索特化だとしても異常過ぎる。いや、正確に言えば手際が良過ぎる
相手からすれば突然の来訪だ。仮に事前通達がされていたとしても今日来るということは分からないはずだ。もう少し慌ただしく準備するのが普通なのではないだろうか……それとも、私が考えすぎているのかもしれない

まぁ、今となっては全ては些事だ
転移門を潜り抜け、魔王城まで一気に距離を短縮する。そこからは別の魔族の案内人により魔王城に辿り着く。言葉にすればこれだけなのだが、思いの外複雑な道を歩かされた。構造からして侵入者、もとい城攻めへの対策なのだろう
魔族のホームグラウンドと言えるこの城を攻め落とすとなるとどれだけの人員と物資が必要なのだろうか。少し考えてみたが馬鹿げた数値になり始めたので考えることをやめた

城に辿り着いた私(とレックス)は応接間に通され、魔王いもうとの執務が一区切りするのを待つようにと言われた。正直愛欲殿パンデモニウム・ルクスリアだけ貸してくれればいいのだが、流石に借りる立場なので大人しく従う

レックスを背負って面会する訳にもいかないので、ソファーに寝かせる。枕は当然私の太ももだ。膝枕に実は少し憧れていたんんだけど、中々する機会が訪れなかった。という事でこの機会に存分に堪能する所存である
ぷにぷにとほっぺをつついたり、髪の毛を弄ったり、頭を撫でたりとまるで寝ている我が子をあやすかのように可愛がる。一応面会前なので凛と引き締めておいた顔がだらしなく弛緩するのが感覚で分かる。ヨダレは流石に出ていないはずだが、それを懸念するほどには緩み切っている

だってレックスが可愛いんだもん!!!!

…………ごほん。も、もう少ししたら凛とした表情に戻るのでもうちょっとだけレックスを堪能させて……

「お久しぶりです、姉さ……ま?」

おっと、最悪のタイミングだぞ?
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