百万回転生した勇者

柚木

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百万回目の転生

百万回目の勇者生活は最悪の始まり方をしました。

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 いつものように俺は草原で大の字での転がっていた。
 体を起こすと遠くには森が見え、反対方向には外壁がいへきがそびえている。
 意識を集中して自分のステータスを確認する。

 レベル:1
 HP:472189087/472189087
 MP:442901839/442901839
 腕力:286197004
 防御:290041288
 魔力:294021313
 魔防:300013765
 速さ:280023149

 使用可能スキルも百万個あるのは確認したので問題なし。
 魔法も面倒だしいいとしてこれでひとまず活動に問題はないよな。

 最初の時はステータスの確認に真面目だったな。
 スキルも効果をしっかり読んだし、魔法を使えるようになってからは魔法も属性ごとに考えてたっけ。

 今回が最後だと思うとどうも感慨かんがい深くなる。
 進学とか就職で悩んでいた時代が馬鹿らしくなる。
 これが終わればこの世界に移住することになるんだし、第一印象を大事にしたい。
 俺くらいの年齢の平均レベルは確か13だったはずだし、近くで何匹か狩ってから町に向かうか。

 この世界にはモンスターが平然と闊歩している。
 モンスターも元はただの野生動物で、周囲の魔力を吸収して狂暴化し体が変異したものがモンスターと呼ばれている。

 この世界の大半の世界線ではレベルと名前の両方が確認ができる。たまに片方だけが確認できる場合、極稀ごくまれに両方確認できない場合がある。
 理想は名前は確認できてレベルは確認できないことだ。
 名前を覚える必要はないし、自分のレベルがどれだけ上がっても気にする必要もない。
 なぜレベルを確認されて困るのかというと、俺の年齢でレベル1だと戦ったことのない箱入り息子、さらにはどこかの貴族の息子だと騒がれ情報収集どころではなくなってしまう。
 最初にそうなったときはその世界を楽しむことなく魔王を討伐した。
 それ以来面倒くさくても最初にモンスターを何匹か倒しレベル10~15の間にしてから向かうようにしている。

 ここに来るとまた魔王討伐が始まると鬱になるんだよな。
 主に人間関係の形成が問題だ。事前に練習を繰り返し、できるだけ見知った顔の人間に話しかける。
 それだけやってもたどたどしいのだから嫌になる。

 森の中に入ると早速一匹のモンスターが飛び出して来た。
 一角いっかくウサギ。見た目はウサギだが、額の中央に大きな硬い鉱物のような角を生やしている。
 その角は異様に硬く、腕力が21以上でないと素手での破壊は不可能だ。
 俺はその角を素手で折り一角ウサギを地面にたたきつける。
 風船のように破裂したウサギの血は、絶命の証明として黒い霧に変わり小さな魔石に変わる。

 一体の一角ウサギを倒すとレベルが上がりレベル3に上がった。
 本来レベルが1上昇すると全てのパラメータが1~5まで上昇するが、最初に神から貰ったチートの一つ【加一倍法】デュアルギフトのおかげで経験値二倍、ステータス上昇二倍、攻撃回数二倍になっているため、成長が早い。

 これはもう十体でいいだろう。
 適当に近くにいた一角ウサギを狩りレベルが13になった所で町に向かう。

「申し訳ありませんがここはどこでしょうか。俺の名前はタクト・キサラギです。名前しか記憶がありません」

 まず町の中に入って知り合いを見つけてこういう。何があってもこの三つだけは伝える。あの町の人はみんないい人必ず助けてくれる。大丈夫大丈夫。
 何度も何度も自分に言い聞かせ、心臓が落ち着くのを十分に待ってから町の入り口に向かう。

 全身がカチカチの石になったかのようなぎこちない動きで歩いていると、当然警備隊けいびたいに見つかり職務質問をされる。
 どうか顔を知っているの警備隊の人でありますように。
 祈っても無駄だと知りながらも神に祈り、俺は詰め所に案内された。

「君明らかに怪しいよね。荷物全部出してくれる? 盗賊とうぞくとかそういうのじゃないの? 最近多いらしいんだよね。それで名前は何ていうの? どこの町の人かな、この辺じゃ見かけない顔だよね」

「えっと、その、タクト、です。タクト・キサラギでしゅ、いや、です。荷物は持ってません。き、記憶が、その忘れて……」

 百万回目の勇者生活は最悪の始まり方をしました。
 結局俺が上手に説明できなかったせいで盗賊扱いを受け、ようやく俺が普通の一般人で記憶喪失きおくそうしつだと説明できたのがついさっきの事だ。
 もう一度最初からやり直させてくれないだろうか……。というか、そろそろコミュ力を上げるスキルを貰えないだろうか……。

 外は夜を迎え、金なし家無しのニートな勇者が誕生した。
 詰め所でご飯出してくれないかな……。
 今までの経験上夜に金がない場合、運が良くないと野宿で朝まで食料はない。
 変に町の外で食料を取ると、記憶がないことを疑われるのも知っている。

「あの……、これどうぞ……」

 そう言って俺にパンを差し出してくれたのは、一人の白い肌の少女だった。
 長い金髪の少女、顔にかかる髪の奥からは髪と同じ色の金色の瞳が覗く。

「天使だ……、ありがとう……」

 金色の天使はそのまま名前も言わずに立ち去って行った。
 これで後は噴水の水でも飲みながら食べれば、明日の朝までなら持つ。
 でもあんな子に助けて貰ったのは初めてのはずだ。あんな奇跡のような出会いは百万回転生して初めてだ。そしてその出会いも一瞬だった……。コミュ力があれば名前くらいは聞けたのに。

 俺は金色の天使を思いながら噴水の近くで眠りにつくことにした。
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