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百万回目の転生
お兄さん、お腹が空いているのではありませんか?
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朝日が顔を出し始めたタイミングで目を覚ます。
あまりここで長く寝ていると公園の浮浪者として有名になってしまう。そんな汚名を被ったまま余生を過ごしたくない。
噴水で顔を洗い、警備隊の元に向かう。
今回が最後ということで、ここの町に生活の基盤を作っておかないと、魔王を消滅させたらニートになってしまう。
そういうわけで手に職を付けるために仕事の斡旋を頼みに来たわけなのだが、コミュ障の俺がすんなりいくはずもない。
「なるほどな。ここで暮らすために仕事が欲しいと」
俺は言葉を発せずに頷いた。ここまで説明するのに一時間近くかかったので喉が痛い。
「お前さんの場合は肉体労働しかないわけだが、酪農と狩猟どっちがいい?」
「狩猟で!」
「おう、わかった……と、言いたいところなんだがな、今あるのは配達業だけなんだが、頼めるか?」
「うす!」
なら聞くなよ。と思ったが配達業ならあまり話す必要もないし、昨日の天使を探すのに持って来いで一石二鳥だ。
そのまま警備隊の人に地図を貰い、町の中を歩き始める。
今回のこの町の名前はキックスというらしくい。
地図を見る限り、町の構造は前回とあまり違いが無いらしく困ってしまう。
体が曲がり角を覚えているため、よく壁にぶつかりそうになってしまう。
もっと大きく変わっていてくれると助かるんだが、今回は中々にハードモードだ。
ステータスの見え方も名前もレベルもなしという鬼畜仕様で、名前もしっかり覚えていかないといけない。
さっきの警備隊の人の名前は何だっけ、おっさんでいいか。結構軽そうな人だったしすんなり受け入れてくれそうだ。
そうこうしながらキックスを進むこと十分ほどで目的地にたどり着いた。
配達業はやはりいいな。ノックして宅配です。と荷物を渡すだけでお金が手に入る。
それから何度か宅配の仕事をしてお昼を迎えた。
ステータス画面で所持金の確認をすると、三千円に増えている。
特別仕様のステータス画面では全て日本円の表記になっている。たとえ手に持っているのがこの大陸で発行されている銀貨で別の国の銀貨でも全て日本円の表記になっている。
ちなみに看板も日本語表記で俺には見えている。これもチートスキルの一つ【意思疎通】の能力である。
「お兄さんお兄さん、お腹が空いているのではありませんか?」
どこかで食べようと考えていると真っ赤な少女が笑顔で話しかけてきた。
くりくりと丸いルビー色の瞳が真直ぐに俺を捕らえ、燃える様な真っ赤な髪はあちこちに跳ねていて、それをポニーテールでまとめている元気っ子。
「しがない弁当売りです。一個五百円ですよ。値段は安くて量が多いですよ。でもでも安心してください、味も天下一品です」
「そ、そうなんだ……」
「あっと、すいません。私がこんなに話していたら断り難いですよね。それでは邪魔にならないように失礼しますね」
俺が何も返事をしないので怒っていると思ったのか少女はすぐに立ち去ろうとしてしまう。
「待って、えっと、一つください」
「ありがとうございます!」
ここでこの子を行かせてしまうのは何か罪悪感がある。
五百円なら払えない額じゃないし、腹が減っているのは確かだし仕方ないよな。
「お兄さんは優しい人ですね、でもこの辺りでお見かけした記憶がありませんが、最近こちらに来たのですか?」
「そう。記憶が無くて、昨日からいるんだ」
弁当と箸をお金と交換すると赤い少女は、食べるのにいい場所がありますと俺の手を引っ張って行く。
「記憶が無いということは、ご自分のお名前も忘れてしまったのですか? 折角なのでお聞きしようと思ったのですが」
「名前は憶えてる、タクト・キサラギ。君の名前は?」
「ノーナアルヴェルス・ランスグライスです。短くノノとでも呼んでください」
自己紹介が済むと小さな広場にたどり着いた。
テーブルと椅子のセットが全部で三組並んでいるところを見ると、花見や何かのイベントに使う場所なのだろう。
「記憶が無いってことは現在職なしということなのでしょうか?」
普通は聞きにくいことをズバッと聞いてくる子だな。それでもムカつかないってところがコミュ力の高さなんだろうな。
「一応配達をさせてもらっている」
「そうなんですね。しばらくこの町にいらっしゃるのでしたら明日もお弁当お渡しに来ますよ。女将さんが一番上手にできたお弁当をお渡ししますけどどうします?」
ニコニコと人懐っこい笑顔でそう聞かれてしまえば、コミュ障の俺ができる返事は一つしかない。
「じゃあ、宜しくお願いします」
「承りました。もしも町から旅立ってしまう時は一言言ってくださいね。勝手に出て行かないでくださいよ。お弁当が一個無駄になってしまうので、絶対に教えてくださいね」
こんな笑顔が可愛い子に詰め寄られては男として断れない。
「あはは、わかったよ。必ず伝える。いらない時もノーナアルヴェルスに伝えたらいいのか?」
「ノノです。もう知らない仲でもありませんし、必ずそう呼んでくださいね。不要な時は私にでもいいですし、モータスって食堂で言ってくれてもいいですから。これからも御贔屓にしてくださいね」
ノノは軽く会釈をするとすぐに走り出して行った。
あのくらいコミュ力があればさぞモータスって店は繁盛していることだろう。
なにせ俺が普通に会話できるほどだ、あれはあの子のスキルなのだろうか。まあ人柄だろうな……。
あまりここで長く寝ていると公園の浮浪者として有名になってしまう。そんな汚名を被ったまま余生を過ごしたくない。
噴水で顔を洗い、警備隊の元に向かう。
今回が最後ということで、ここの町に生活の基盤を作っておかないと、魔王を消滅させたらニートになってしまう。
そういうわけで手に職を付けるために仕事の斡旋を頼みに来たわけなのだが、コミュ障の俺がすんなりいくはずもない。
「なるほどな。ここで暮らすために仕事が欲しいと」
俺は言葉を発せずに頷いた。ここまで説明するのに一時間近くかかったので喉が痛い。
「お前さんの場合は肉体労働しかないわけだが、酪農と狩猟どっちがいい?」
「狩猟で!」
「おう、わかった……と、言いたいところなんだがな、今あるのは配達業だけなんだが、頼めるか?」
「うす!」
なら聞くなよ。と思ったが配達業ならあまり話す必要もないし、昨日の天使を探すのに持って来いで一石二鳥だ。
そのまま警備隊の人に地図を貰い、町の中を歩き始める。
今回のこの町の名前はキックスというらしくい。
地図を見る限り、町の構造は前回とあまり違いが無いらしく困ってしまう。
体が曲がり角を覚えているため、よく壁にぶつかりそうになってしまう。
もっと大きく変わっていてくれると助かるんだが、今回は中々にハードモードだ。
ステータスの見え方も名前もレベルもなしという鬼畜仕様で、名前もしっかり覚えていかないといけない。
さっきの警備隊の人の名前は何だっけ、おっさんでいいか。結構軽そうな人だったしすんなり受け入れてくれそうだ。
そうこうしながらキックスを進むこと十分ほどで目的地にたどり着いた。
配達業はやはりいいな。ノックして宅配です。と荷物を渡すだけでお金が手に入る。
それから何度か宅配の仕事をしてお昼を迎えた。
ステータス画面で所持金の確認をすると、三千円に増えている。
特別仕様のステータス画面では全て日本円の表記になっている。たとえ手に持っているのがこの大陸で発行されている銀貨で別の国の銀貨でも全て日本円の表記になっている。
ちなみに看板も日本語表記で俺には見えている。これもチートスキルの一つ【意思疎通】の能力である。
「お兄さんお兄さん、お腹が空いているのではありませんか?」
どこかで食べようと考えていると真っ赤な少女が笑顔で話しかけてきた。
くりくりと丸いルビー色の瞳が真直ぐに俺を捕らえ、燃える様な真っ赤な髪はあちこちに跳ねていて、それをポニーテールでまとめている元気っ子。
「しがない弁当売りです。一個五百円ですよ。値段は安くて量が多いですよ。でもでも安心してください、味も天下一品です」
「そ、そうなんだ……」
「あっと、すいません。私がこんなに話していたら断り難いですよね。それでは邪魔にならないように失礼しますね」
俺が何も返事をしないので怒っていると思ったのか少女はすぐに立ち去ろうとしてしまう。
「待って、えっと、一つください」
「ありがとうございます!」
ここでこの子を行かせてしまうのは何か罪悪感がある。
五百円なら払えない額じゃないし、腹が減っているのは確かだし仕方ないよな。
「お兄さんは優しい人ですね、でもこの辺りでお見かけした記憶がありませんが、最近こちらに来たのですか?」
「そう。記憶が無くて、昨日からいるんだ」
弁当と箸をお金と交換すると赤い少女は、食べるのにいい場所がありますと俺の手を引っ張って行く。
「記憶が無いということは、ご自分のお名前も忘れてしまったのですか? 折角なのでお聞きしようと思ったのですが」
「名前は憶えてる、タクト・キサラギ。君の名前は?」
「ノーナアルヴェルス・ランスグライスです。短くノノとでも呼んでください」
自己紹介が済むと小さな広場にたどり着いた。
テーブルと椅子のセットが全部で三組並んでいるところを見ると、花見や何かのイベントに使う場所なのだろう。
「記憶が無いってことは現在職なしということなのでしょうか?」
普通は聞きにくいことをズバッと聞いてくる子だな。それでもムカつかないってところがコミュ力の高さなんだろうな。
「一応配達をさせてもらっている」
「そうなんですね。しばらくこの町にいらっしゃるのでしたら明日もお弁当お渡しに来ますよ。女将さんが一番上手にできたお弁当をお渡ししますけどどうします?」
ニコニコと人懐っこい笑顔でそう聞かれてしまえば、コミュ障の俺ができる返事は一つしかない。
「じゃあ、宜しくお願いします」
「承りました。もしも町から旅立ってしまう時は一言言ってくださいね。勝手に出て行かないでくださいよ。お弁当が一個無駄になってしまうので、絶対に教えてくださいね」
こんな笑顔が可愛い子に詰め寄られては男として断れない。
「あはは、わかったよ。必ず伝える。いらない時もノーナアルヴェルスに伝えたらいいのか?」
「ノノです。もう知らない仲でもありませんし、必ずそう呼んでくださいね。不要な時は私にでもいいですし、モータスって食堂で言ってくれてもいいですから。これからも御贔屓にしてくださいね」
ノノは軽く会釈をするとすぐに走り出して行った。
あのくらいコミュ力があればさぞモータスって店は繁盛していることだろう。
なにせ俺が普通に会話できるほどだ、あれはあの子のスキルなのだろうか。まあ人柄だろうな……。
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