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魔族の潜む街
勇者としてそれはどうなんだろうか……
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イミュニティーを倒した翌日、キックスの町は勇者の話で持ち切りになっていた。
ものすごく強く、ドラゴンを操る敵を一撃でねじ伏せた、早すぎて目で追えなかった。
そんな賛辞が町中で噂され、俺は外に出たくなくなっていた。
「外はお兄さんの話で持ち切りでしたよ。まだ近くに居るんじゃないかと捜索隊が結成されるみたいです」
昼過ぎに買い物に出てもらったノノから町の様子を聞くと、いまだに町人は俺の行方を追っているらしい。
「この町の人達は勇者をどうしたいんだろう……、人付き合いが苦手な勇者だっているんだぞ、それをみんなで寄ってたかって殺す気なんじゃないか?」
誰が勇者は強くてコミュ力も高い完璧人間だと決めたのか。
天は二物を与えずっていうくらいなんだから、戦闘力が高ければ対人能力は低い位に思ってくれよ。
「英雄像なんてそんなものだと思いますよ。完璧を求められるものだと思いますよ」
「そもそもあの場から逃げ出した時点で「ああ、あの人あんまり話すの得意じゃないんだな」って思うだろ普通。なんで逃げた勇者を追ってるんだよ、犯罪者か!」
「それならいっそ昨日と同じ格好で出て行ったらどうですか。「我は人と話すのが得意じゃない。話しかけるな」って」
「勇者としてそれはどうなんだろうか……」
完全に中二病をこじらせた痛い人だ。一年くらい経った辺りで猛烈に恥ずかしさがこみあげてきて、取り消そうにもすでに手遅れで残念な立ち位置に着く奴だ。
「それならもうこの町では姿を見せない方がいいと思いますよ。人の噂なんてすぐに無くなりますから」
それがいいんだろうけど、そうなるとこの町からなるべく早めに旅立たないといけなくなるな。
俺がいるとまたイミュニティーが来てしまうかもしれない。
「ノノ近いうちに俺はこの町を離れるけど留守を任せてもいいか? 金も家具も好きに使ってくれてもいいから」
「全然問題ないです。寧ろ好きにできるなんて大歓迎ですよ。でも平気ですか? お兄さん人見知りですよね」
「旅なんてモンスター狩って、換金して、宿に泊まるだけだしな。一言も話す必要はない!」
過去百万回の転生の果てにたどり着いた真理だ。
魔王を倒すのに会話は必要ない。
魔王の手下に脅しをかけて情報を引き出す方が情報の質が違う。わざわざ人に聞く必要は微塵もない。
「お兄さんがそれでいいならいいんですけどね。折角の旅なのに観光とかもしないんですね」
「俺の旅は普通じゃないからな」
正直言うとできるならさっさと魔王を倒してゆっくりしたいんだが、情報なしに魔王と戦っても倒すことはできないし。
「そう言われればそうですね。普段のお兄さんを見ていると勇者だということを忘れちゃいますね」
「勇者だって威張るつもりもないしそれでいいんだけどな。そう言えばフランは今日学校なのか?」
昨日も帰って来た時にはいなかったよな。
もしかして授業を真面目にやる気になったのだろうか。
周りと会話をする努力を始めたのかもしれない。
コミュ障は治せるなら治した方がいいしな。俺みたいにこじらせてからでは遅いし。
「それが、昨日騒ぎの後にフランちゃんの父親が来て、無理矢理に連れて帰ったんです。それで……、もうここには近づかせないと言っていきました」
「その言い方からしてあんまり良い父親じゃない無いみたいだな」
「お兄さんにしては勘がいいですね」
「自分の娘を落ちこぼれって言う家族だしな。想像くらいできるさ」
前に学園で叫んだフランの言葉を思い出す。
持ち上げておいてできなければ落ちこぼれの烙印を押す。
そんな親が普通に娘を連れて行くとは思っていない。
「ちょっと出てくる。たぶんすぐに帰ってくるから」
ノノが止めようとしていたがそれを無視し、イージスさんの元に向かった。
イクシル家に行こうと思ったが、俺はその場所を知らなかった。
配達の時も貴族の荷物は専門の人がいるらしく、俺みたいな一般にはその仕事は回ってこなかったからだ。
「イクシル家に何か用でもあるのか? 嫌な奴でも貴族の家だおいそれと言えるわけないだろ。それもそんなに殺気立ってる人間によ」
イージスさんはそう言って中々イクシル家の場所を教えてはくれない。
「別に殴り込みに行くわけじゃないです。フランと話をしに行くだけです」
「それは喧嘩を売りに行くのと変わんねえよ。あの男は自分の子供でさえ道具扱いだ。そんな奴が、流浪人のお前を娘に合わせるとは思えないがな」
やっぱりそういう男なのか。どこの世界にも似たような奴はいるらしい。
「わかりました。自分で探し出します」
「待て待て、場所は教えてやる。その代り一つは質問に答えてくれ。お前は何のために行こうとしているんだ?」
「友達のために何かしてやりたい」
それ以外に嫌な貴族に合う理由なんてない。
「わかった。それなら派手にやるなよ。その友達が居づらくなるからな」
俺が頷くとため息を吐きながらイージスさんはイクシル家の場所を教えてくれた。
教えてくれた場所に着くと中が見えないほどに高い塀に囲まれた豪邸を前にしてここに来たことを少し後悔した。
勢いに乗ってここまで来たことは事実で、イージスさんとの話で少しだけ冷静になってしまった。
たぶんイージスさんはそれをわかっていてああいう風に聞いたんだろう。
俺が中で暴れることがフランにどういう影響を与えるか考えて行動しろと釘を刺したのだろう。
「できるだけ、静かに移動しよう」
門から離れ周囲の音を聞く、呼吸音も無し、気配を消している気配も無し。
ここなら侵入できそうだ。
最新の注意を払い、俺はイクシル邸に侵入した。
ものすごく強く、ドラゴンを操る敵を一撃でねじ伏せた、早すぎて目で追えなかった。
そんな賛辞が町中で噂され、俺は外に出たくなくなっていた。
「外はお兄さんの話で持ち切りでしたよ。まだ近くに居るんじゃないかと捜索隊が結成されるみたいです」
昼過ぎに買い物に出てもらったノノから町の様子を聞くと、いまだに町人は俺の行方を追っているらしい。
「この町の人達は勇者をどうしたいんだろう……、人付き合いが苦手な勇者だっているんだぞ、それをみんなで寄ってたかって殺す気なんじゃないか?」
誰が勇者は強くてコミュ力も高い完璧人間だと決めたのか。
天は二物を与えずっていうくらいなんだから、戦闘力が高ければ対人能力は低い位に思ってくれよ。
「英雄像なんてそんなものだと思いますよ。完璧を求められるものだと思いますよ」
「そもそもあの場から逃げ出した時点で「ああ、あの人あんまり話すの得意じゃないんだな」って思うだろ普通。なんで逃げた勇者を追ってるんだよ、犯罪者か!」
「それならいっそ昨日と同じ格好で出て行ったらどうですか。「我は人と話すのが得意じゃない。話しかけるな」って」
「勇者としてそれはどうなんだろうか……」
完全に中二病をこじらせた痛い人だ。一年くらい経った辺りで猛烈に恥ずかしさがこみあげてきて、取り消そうにもすでに手遅れで残念な立ち位置に着く奴だ。
「それならもうこの町では姿を見せない方がいいと思いますよ。人の噂なんてすぐに無くなりますから」
それがいいんだろうけど、そうなるとこの町からなるべく早めに旅立たないといけなくなるな。
俺がいるとまたイミュニティーが来てしまうかもしれない。
「ノノ近いうちに俺はこの町を離れるけど留守を任せてもいいか? 金も家具も好きに使ってくれてもいいから」
「全然問題ないです。寧ろ好きにできるなんて大歓迎ですよ。でも平気ですか? お兄さん人見知りですよね」
「旅なんてモンスター狩って、換金して、宿に泊まるだけだしな。一言も話す必要はない!」
過去百万回の転生の果てにたどり着いた真理だ。
魔王を倒すのに会話は必要ない。
魔王の手下に脅しをかけて情報を引き出す方が情報の質が違う。わざわざ人に聞く必要は微塵もない。
「お兄さんがそれでいいならいいんですけどね。折角の旅なのに観光とかもしないんですね」
「俺の旅は普通じゃないからな」
正直言うとできるならさっさと魔王を倒してゆっくりしたいんだが、情報なしに魔王と戦っても倒すことはできないし。
「そう言われればそうですね。普段のお兄さんを見ていると勇者だということを忘れちゃいますね」
「勇者だって威張るつもりもないしそれでいいんだけどな。そう言えばフランは今日学校なのか?」
昨日も帰って来た時にはいなかったよな。
もしかして授業を真面目にやる気になったのだろうか。
周りと会話をする努力を始めたのかもしれない。
コミュ障は治せるなら治した方がいいしな。俺みたいにこじらせてからでは遅いし。
「それが、昨日騒ぎの後にフランちゃんの父親が来て、無理矢理に連れて帰ったんです。それで……、もうここには近づかせないと言っていきました」
「その言い方からしてあんまり良い父親じゃない無いみたいだな」
「お兄さんにしては勘がいいですね」
「自分の娘を落ちこぼれって言う家族だしな。想像くらいできるさ」
前に学園で叫んだフランの言葉を思い出す。
持ち上げておいてできなければ落ちこぼれの烙印を押す。
そんな親が普通に娘を連れて行くとは思っていない。
「ちょっと出てくる。たぶんすぐに帰ってくるから」
ノノが止めようとしていたがそれを無視し、イージスさんの元に向かった。
イクシル家に行こうと思ったが、俺はその場所を知らなかった。
配達の時も貴族の荷物は専門の人がいるらしく、俺みたいな一般にはその仕事は回ってこなかったからだ。
「イクシル家に何か用でもあるのか? 嫌な奴でも貴族の家だおいそれと言えるわけないだろ。それもそんなに殺気立ってる人間によ」
イージスさんはそう言って中々イクシル家の場所を教えてはくれない。
「別に殴り込みに行くわけじゃないです。フランと話をしに行くだけです」
「それは喧嘩を売りに行くのと変わんねえよ。あの男は自分の子供でさえ道具扱いだ。そんな奴が、流浪人のお前を娘に合わせるとは思えないがな」
やっぱりそういう男なのか。どこの世界にも似たような奴はいるらしい。
「わかりました。自分で探し出します」
「待て待て、場所は教えてやる。その代り一つは質問に答えてくれ。お前は何のために行こうとしているんだ?」
「友達のために何かしてやりたい」
それ以外に嫌な貴族に合う理由なんてない。
「わかった。それなら派手にやるなよ。その友達が居づらくなるからな」
俺が頷くとため息を吐きながらイージスさんはイクシル家の場所を教えてくれた。
教えてくれた場所に着くと中が見えないほどに高い塀に囲まれた豪邸を前にしてここに来たことを少し後悔した。
勢いに乗ってここまで来たことは事実で、イージスさんとの話で少しだけ冷静になってしまった。
たぶんイージスさんはそれをわかっていてああいう風に聞いたんだろう。
俺が中で暴れることがフランにどういう影響を与えるか考えて行動しろと釘を刺したのだろう。
「できるだけ、静かに移動しよう」
門から離れ周囲の音を聞く、呼吸音も無し、気配を消している気配も無し。
ここなら侵入できそうだ。
最新の注意を払い、俺はイクシル邸に侵入した。
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