百万回転生した勇者

柚木

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魔族信仰 ハバリトス

正に廃墟って感じだな

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「道案内の必要ってないよな」

 クルトへの道のりは大して辛いものではなかった。
 イクシル邸の収容所へ戻り、そこからクルトへ続く道を進むだけだった。

「いえいえ、お兄さんだけであの小屋まで戻れましたか?」

「そりゃそうだけどな」

 一人だったら確かに迷っていたかもしれない。
 そう考えると確かにありがたいのか。

「それにしてもノノさんはよくクルトの事知ってましたね」

「教会では有名です。魔族の滅ぼした町として」

「そうなんですか? 私は聞いたこと無かったですけど」

「ウィルさんが話してないんだろ。血生臭い話だし孫娘に進んで聞かせる奴はいないだろ」

 聖教にはそんな情報も入っているんだな。
 ウィルさんは隠してるみたいなことを言っていたけど、教会には筒抜けってことか。
 そうなるとメイサ辺りには伝わっているのかもな。
 まさか遭遇するなんてこともないだろうけど。

 収容所を抜けるとまたしても小屋の中だった。
 アグリールの道も考えると元々この小屋自体が、収容所から脱走しないかの監視小屋だったのかもしれない。
 小屋を抜けるとここも森の中に繋がっていた。
 この辺も方向をわからなくさせるための処置なのかもしれない。

「また森ですね」

「キックスはもともと森に囲まれてますからね。そう言った観点からも地下の施設を作ったんじゃないですか?」

 その辺りにヴェルモンドが目を付けたのか。
 森を通れば何かを運ぶのも人目を気にしないで済むってわけだ。

「こっちですね」

「ノノさんって凄いですね。こんな所私なら迷子になってしまいます」

「凄くないですよ。知っていれば誰でもわかることです。運搬に使われているなら誰が見てもわかる印はどこかにあります」

 ノノの叩いた木には確かにわかりやすく傷がつけられていた。
 運搬をするのが必ずしも慣れている人だけじゃないってことか。
 身寄りが無かったり逃亡犯だったりそんな連中を使うなら目印は必要ってことか。

「それでは行きましょうか」

 目印を見落とさないように周囲を探索しながら進む。
 流石はノノと言ったところで、目印の大半はノノが発見した。

「そろそろクルトが近いです。静かにしてくださいね」

 森を進むこと二日、目印を探しているとノノからそう言われた。
 確かに遠くから人の気配がする。
 その場所から少し離れ休憩をしながら今後の方針を話し合うことにした。

「この地図はアグリールで拝借したクルトの地図です」

「いつの間に盗ってきたんだよ」

「一度無くなっている町ですので念のためですよ」

 ノノの出した地図はそれなりに精巧なものだった。
 大型の建物は全て記載され、居住区や畑なんかもしっかりと記載されていた。

「居住区が何ヵ所かあります。このどこかにハバリトスの幹部がいると思います」

「これだけの数だとタクト様でも難しいですよね?」

「数はどうってことないけどな。こうも広い範囲だと流石に誰かは逃げるだろうな」

 その逃げるのが幹部ならそのまま地下にもぐってしまう可能性も否めない。
 そうなってしまえば手がかりを失ってしまう。

「なので私はここに身をひそめることを提案します」

 そう言ってノノが指さしたのは居住区から離れた何も書かれていない個所だった。

「ここには何があるんだ?」

「おそらく廃墟がここにあると思います。ハバリトスはこの町に身を隠していますから無駄に居住区を広げ外にバレないように生活していると思います。そんな人達が廃墟なんかを片づけるとは思いません」

「ノノさん凄いです。誰もいない廃墟に身を隠して様子を覗うってことですね」

「正解。そのまま誰にもバレないように姿を隠して準備を整えるんです」

「じゃあその作戦で行こう」

 そのまま森を迂回し、廃墟が立ち並ぶ区域に移動する。

「正に廃墟って感じだな」

 石で作られた家屋は触れると崩れるほどにボロボロで、少なくない数の建物が原型を留めていない。
 天井の無い家、崩れないのが不思議な半分だけの家、一階部分が柱のみになってしまった家。
 しっかりと建物として機能しているのは極わずかだ。

「あの建物ならいくらかマシじゃないですか?」

「そうだな。あれも崩れてるけど他のに比べればマシだな」

 他の家に比べ一階部分は無事な建物に身を隠すことが決定した。

「お兄さん先に入ってください。どんな危険があるかわからないので」

 ノノの言葉に違和感があった。
 別に普通の事でいつも俺が言い出していることで何も違和感はないはずなのに。

 不思議に思いながらドアを開け廃屋に一歩踏み出すとそこに床はなかった。
 本来床があるべきはずの場所に床はなく、どこまで続くかわからない穴だけが口を開け俺を待っていた。

「ここはダメだ。他の所に――」

「ほらフランちゃんも行って」

 辛うじて穴に落ちなかった俺が振り向くと、ノノは無感情にフランを突き落とす。
 突然背中を押されたフランは何の抵抗もなく俺の脇を抜け穴に落ちて行った。

「ほら、早くしないとフランちゃんが死んじゃいますよ。勇者様」

 殺意の宿る顔が笑顔に歪む。
 俺はフランの元に向かうために穴に向かって下りていく。

 フランの手を掴み、急いで上がらないといけない。
 それなのに穴の上からは建物らしき瓦礫が一斉に降り注ぐ。
 フランに怪我が無いようにかばいながら俺の体は地面にたたきつけられる。

 これくらいならまだ平気だ。
 多少の痛みはあるが、それでもまだ平気だ。
 しかし、急激な眠気に襲われる。
 これは、ダメだ……、眠気が、魔法――。
 俺の意識はすぐに眠りの魔法に飲み込まれた。



 俺が目を覚ますと鎖につながれた状態で牢に閉じ込められていた。
 埃臭い布切れを一枚だけ着ているだけで、装備は全部外されているらしい。
 このくらいの拘束ならすぐに壊せるな。
 ここはどこだ?

「タクト・キサラギ目が覚めたみたいだね」

 牢の前に座っていたのはノノだった。
 しかし目の前のノノは笑顔ではなく、面倒くさそうな仏頂面だ。

「これはどういうことだよ」

「お察しの通りだよ。私に騙されてあんたはここで囚われている。要は邪魔だから大人しくしててねってこと」

「俺がこのくらいの牢を抜けられないと思ってるのか?」

「うん。フランちゃんは私の手の中だから。もしあんたが逃げたらフランちゃんは死ぬよ。実験に使われるか慰み者になるかはわからないけど」

 俺を閉じ込めるために物理的ではなく精神的に動きを封じてきたのか。

「わかった。大人しくしてればいいんだな」

「そうしていれば私以外にフランちゃんは触れない。つまり死なないし汚されない」

 どうすればいい?
 フランを助けてここから逃げるにはどうしたらいいんだ?

「それじゃあ、せいぜい頑張って」

 ノノは欠伸をしながら俺の前から姿を消した。
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