百万回転生した勇者

柚木

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魔族信仰 ハバリトス

少し考え事してただけだから

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 私はやっと私を理解した。
 私はきっと蝙蝠こうもりだ。
 動物でも鳥でもない蝙蝠。
 どちらが勝っても良いように媚びを売る、卑しい卑しいどっちつかずの蝙蝠だ。

 ハバリトスにはあの人を差し出し、洗脳が上手くいけばハバリトスで地位を得る。
 あの人にはフランちゃんを守っているといい、洗脳を回避出来たらあの人の元に戻る。
 さっきあの人に感情をぶつけたのは本心だったのか、演技だったのかわからない。
 自分でもわからなくなるほどに今の生き方に慣れてしまっている。
 だから自分の考えもわからない。
 どちらも立てているせいで私は混乱してしまっている。

 フランちゃんのいる私の部屋が見えてきた。
 私は今どんな顔をすればいいんだろう?
 あの人が洗脳されてしまう事実を伝えて厳しく突き放したらいい?
 それとも洗脳の事を隠して優しく笑顔で接すればいい?

 笑顔で接したほうがいいよね。
 まだどちらに転ぶかわからないんだから今はなあなあに接したほうが安全だ。
 自分の部屋の前に立ち笑顔を浮かべ私は元気に部屋に入る。

「ただいま、元気してた?」

「ノノちゃんお帰りなさい。タクト様はどんな様子どうだった?」

 部屋の中ではフランちゃんはお茶を飲んでくつろいでいた。

「人見知りのあの人も流石に暇そうにしてたよ」

「人見知りでも一人がいいわけじゃないと思うよ」

 そういうものなんだろうか。
 人と関わり合いを持ちたくない人じゃないんだ。

「暇なんだったら私も会いに行きたいな」

「それはダメ。フランちゃんが会いに行ったらあの人はすぐに逃げ出すから」

「今は会えないのはわかってるよ。それでも好きな人には会いたいよね?」

「その気持ちは私にはわからないけど」

 今は会えない?
 フランちゃんは何かしようとしてるの?
 フランちゃんなら確かに強い魔法を使えるし、無理を通せばあの人の元にたどり着けるかもしれない。

「ノノちゃん、顔が強張ってるよ」

「少し考え事してただけだから」

 フランちゃんにあの人の居場所は教えられない。
 私がやらないといけないことは、フランちゃん達とハバリトスの機嫌を損ねないことだけだ。

「ノノちゃんはこの生活って息苦しくない?」

「全然平気。仕事をこなしていれば自由はあるし好きな物も手に入る。キックスの家よりも遥かに広いこの部屋もハバリトスに居たから手に入ったんだよ」

「何不自由なく暮らすのが自由なの?」

 その瞬間私の腹の底が激しく燃え上がる。

「フランちゃんにはわからないよね。貴族に生まれて欲しい物は手に入って優しいおじいちゃんも居て、魔法の才能もあってなんでもできるもんね」

「ノノちゃん?」

 一度火が点いた怒りは次々と燃え広がる。
 羨ましい、妬ましい、恨めしい、悔しい、生まれついて自由だったフランちゃんには私の気持ちがわかるはずはない。

「私みたいな孤児でもなく、両親が居て家族が居てそれが当たり前で、学校に行けたフランちゃんにはわかるはずないんだ!」

 ハバリトスに拾われるまで、泥を啜った、ゴミを食べた、殴られながらハンターのおこぼれを貰った。
 地を這って生き残るために私は泥に塗れ続けてきたんだ。

「ノノちゃんごめんなさい、何も知らずに軽率な発言だったね。でも私が言いたいのはそこじゃないんだ」

「私の不幸自慢に対抗して幸せ自慢?」

「そうなるかもしれない。私はその先を聞きたいの」

「その先?」

 この子は何を言っているんだろう。
 不自由でないなら自由だ。
 欲しい物食べたい物得たい物全てが手に入るのにその先って何を言っているのかわからない。

「ノノちゃんが怒ったのは理解できる。貴族の私に言われたら怒るよね。でもだから言いたいの、不自由じゃないってことは自由ってことじゃない」

 全くもって意味がわからない。
 不自由じゃなきゃ自由じゃないか。
 全てがあるなら自由じゃないか。

「タクト様を見てればわかる。自由ってこういうことだって」

「ごめんフランちゃん何言ってるのかさっぱりわからない」

 本心なのはわかるけど意味がわからない。
 あまりに意味が分からなさ過ぎてもう怒りとかどうでもいいや。

「明日もタクト様に会いに行くよね?」

「死なれるのは困るから生存確認はするつもりだよ」

 怒りが収まれば笑顔が作れる。
 さっきのでムカつくけど今はまだ蝙蝠のままで居よう。
 もしもフランちゃん達が勝った時を考えればここは大人しくしていよう。

「そろそろお腹空いたね晩御飯食べようか。今食べ物貰ってくるね」

 蝙蝠になりきるために心を落ち着けよう。
 いまだに燻っている怒りを完全に消そう。

 私は外に出た。
 少し歩けば崩れた家屋があるけど、この居住区にある建物はどれも綺麗だ。
 今は人が住める建物はたった二十しかないが、あの人が洗脳されればここは魔族の拠点になるだろう。
 そうなればここは王都に引けを取らないほどに成長するはずだ。
 私の地位も安泰で上手くいけば司祭にだってなれるかもしれない。
 司祭になれば自由に生きていける。
 不自由なんてない自由な生活が送れる。

 フランちゃんごめんね。
 私は自分のために二人を殺すよ。
 私は自由になるために二人を見捨てる。

 不自由じゃないってことは自由ってことじゃない。
 フランちゃんが言った言葉の意味はわからないけどその言葉が私の心に残っている。
 純粋な言葉だったからかな?
 友達の言葉だったからかな?

 いつか私にその意味がわかる時が来るのかな?
 わかったとしてもその時にはきっと二人はいない。
 少しだけ寒くなってきたみたいだ。

 私は家に戻り温かい食事を持って部屋に戻った。
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