百万回転生した勇者

柚木

文字の大きさ
32 / 57
魔族信仰 ハバリトス

本当に偶然ですから

しおりを挟む
 夕食を食べ終わり二人で仲良く雑談をしていると部屋の外から声が聞こえた。

「ノーナアルヴェルス祈りの時間だ」

「わかりました。この人質はどうしましょうか」

「置いていけ」

「すぐに準備します」

 足音がドアの前からいなくなり私は黒いローブを身に纏う。
 三日に一度行われるハバリトスへの祈りの儀式。
 自分達を守ってもらえるように、ハバリトスの意思を守っていると報告するための儀式。

「ごめんフランちゃん私少し出てくるから大人しくしててね」

 準備を終え私は礼拝の場所に向かう。
 教会とは別の広い礼拝堂。
 崩れている民家の地下にある広い地下空間。
 そこには私と同じように黒いローブを来た人が集まっている。
 前方には司祭様が祭壇に立ち、地下を薄く照らす燭台が一定間隔に並ぶ。

 私は最後尾に並び他の人に倣い膝を着き全員が到着するのを待つ。

「これより礼拝を始める」

 全員が揃い司祭様が祈りの言葉を告げ、信者である私達も続けて復唱する。
 それが終わると司祭様から聖典に書かれている言葉を頂き、祈りをささげる。
 敬虔な信者とは言えない私には少しだけ退屈な時間だ。

「それではこれより定例報告を行う」

 信者全員が顔を上げ司祭様を見上げる。

「皆が知っている通り我らが盟友ノーナアルヴェルス・ランスグライスが、本日我らにあだなす異教徒を捕縛した。我らが崇める魔族に匹敵するほどの力を持つ存在だ」

 魔族に届く力に周囲がにわかに騒ぎ出す。
 司祭様はそれを制し話を続ける。

「信じられない気持ちもわからんではない。しかし私はお前達が嘘を吐くはずはないと信じている」

 司祭様の言葉に全員が閉口した。

「今回それほどまでに力ある存在を無傷で手に入れたのは真に喜ばしい。近いうちに洗脳の魔法を得意とする魔族ウール様が直々にその男を洗脳しにやってくる。それが終われば我らハバリトスはより強大な力を得ることができる!」

 鼻息荒い司祭様の言葉に周囲は騒ぐ。
 ハバリトスのなお叫び、司祭様と声を上げ地下の礼拝堂が震え始める。

「私はこの作戦が成功したあかつきにはノーナアルヴェルス・ランスグライスの功績を称え、私の後を継ぐ司祭として任命しようと思うが異論はあるか?」

 割れんばかりの歓声が上がり、祈りの時間は終了した。

 順調だ。
 人間よりも力のある魔族の庇護を受けるハバリトスの司祭。
 そこまで上がれれば私は自由になれる。
 好きに生きられる。

「ランスグライスさんおめでとうございます。大出世ですね」

 私が去る直前に二人の男女が私に近づいてきた。

「ありがとう」

 誰だっけ。
 同じハバリトスだから顔は見覚えあるけど、名前は思い出せないな。

「さっき言ってたのって本当なのか? 魔族にも匹敵するって話」

「本当、魔族ヴェルモンドを単独で討伐した」

「そんな人とどこで知り合ったの? やっぱり王都とか大きな所に行かないと出会えないかな?」

「僕達も別の町で一週間探したけどまともな人がいなかったんです」

 なるほどこの二人は私から情報を引き出したいのか。
 それにしても一週間で何が見つかるというのか。
 手っ取り早く成果を上げる方法を教えろってことか。

「知り合ったのはキックスです。町の大きい小さいに関してはわかりません」

「それならなんでキックスにしたんですか? 普通ならあんなところ選ばないですよね?」

「意味なんてないです。あの男を見つけたのも本当に偶然ですから」

「何か町を選ぶ条件が――」
「本当に偶然です! 私はこれから人質の面倒を見ないといけないので失礼します」

 あまりのしつこさに普段はやらないのに話を強制的に切り、名前も知らない二人に背を向けた。

「待ってくださいよ、俺達も司祭様のお役に立ちたいんです。なんでもいいので教えてください」

 男の方が私の手を掴み懇願するが、明らかな嘘。
 役に立つなんて微塵も考えていない、私から楽なやり方を聞いて真似して力が欲しいだけの浅ましい人間だ。
 本当に偶然なのにこいつらは勝手にそれは誤魔化しているだけで、本当は強い人間の集まる場所を知っていると思い込んでいる。
 これ以上の相手をする必要は無いしこれは逆鱗に触れて怒らせる方が得策か。

「さっきも言いましたが本当に偶然です。それにもし知っていたとしてもあなた達に教える義理なんてないでしょ?」

「やっぱり知ってるん――」
「知らない。地道に探して声をかけるそれ以外には無い」

「それは私達もやっていますよ。一週間も一つの町に――」
「それは聞き飽きたんだけど。わざわざ丁寧に断ってるのがわからないの?」

 こいつらが今一番言われたくない言葉はなんだろう。
 シンプルな方が良さそうかな。
 自分では真面目にやってるのに結果が出ない可哀想な自分とか思い込んでそうだし。

「はっきりと言うね。あんたらと話してるより人質の世話の方がマシだから帰るね」

 はっきりとした拒絶を受け動きが無いことを確認し背を向ける。

「おい、待てよ! ふざけるなよ自分だけいい思いしようとしてるんだろ、そうなんだろ!」

 男はナイフを構える。
 おそらく武器を持って戦ったことも無いのだろう。
 ナイフを持つ手が震え、呼吸も荒く発汗している。

「お前はぶっ殺して――、えっ……」

 私は自分のナイフを投げた。
 男の腕にナイフが刺さると男は悲鳴を上げ持っていたナイフを落とした。
 落ちたナイフは私の持っている物よりも重量があり、攻撃力が高そうな立派なナイフだった。

「あんた、自分が何をしたのかわかってるの?」

「ナイフを先に出したのはそっちでしょ? それにその程度で悲鳴上げるとか、根性も無いんだね」

 私が懐からナイフをもう一本取り出すと、二人は恐怖の顔を浮かべる。
 あんな連中がいるなんてハバリトスの人材不足も馬鹿にならなくなってきたな。
 私がここで司祭になった時には、そういう奴らは排除しよう。
 そう心に決め礼拝堂から外に出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...