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首都ヨルセウス
急に常識人っぽいことを……
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トクレスを発ってもうすぐ二週間、俺達はようやく王都ヨルセウスに到着した。
行商人と別れを終え、俺とフランはまたしても人の波に酔っていた。
「人類なんて滅びればいいのに……」
「なんで魔王さんは早く人類の半分を滅ぼさないんでしょうか……」
「二人とも本当に何を言ってるの?」
路地裏で膝を抱えている俺達に、一人だけ平気なノノが声呆れた声で話しかける。
アグリールでもすでに瀕死だったのに更に人が多いヨルセウス皇国の首都。
首都の名に偽りないほどの人の群れだ……。
こんな裏路地でさえ人が多い……。
「十三番隊の拠点に向かうんじゃないんですか?」
「ノノにはわからないだろうが、コミュ障の俺にこんな人の群れに飛び込めと言うのか? ノノにもわかりやすく言うと、この数の魔族の中を歩いて目的地に向かえと言っている様なものだぞ?」
俺の言葉にフランも首を縦に振る。
「いえ、全然違うと思います。魔族と違って町の人達は攻撃しないですよね?」
「そこが違っているんだよ。な、フラン」
「タクト様の言う通りです、私達は常に攻撃にさらされているんですよ。視線という圧倒的な暴力です!」
コミュ障仲間のフランとお互いの手を握り合う。
やはり同士はこういうことを深く理解してくれる。
「こう言っちゃなんですが、お二人を誰も気にして見てませんよ?」
「わかってないな、フランちゃんは。ですよね、タクト様」
「そうだぞ。ノノみたいなコミュ力強者はいつもそういうが、俺達にはそんなのは関係ないんだ。見られているかもという考えと見られているは同義だぞ?」
同士と更に友情が深まり、お互いの親指を立て健闘をたたえ合う。
わかり合えないノノは頭痛がするのか頭を抑え始めた。
「それなら私が町の人全員を眠りにつかせようか?」
「「それだ!!」」
「絶対にやめる様に!!」
俺達の心の叫びに通行人から注目されてしまい、俺とノノは身を縮め物陰に隠れる。
「そんなことしたらお騒ぎになりますから。そんなに見られるのが嫌なら見られないように透明化の魔法使ったらいいじゃないですか」
「そんなのこんな人通りの多い場所で使ったら迷惑だろ」
「急に常識人っぽいことを……」
「透明化が使えるなら使えばいいだろ。屋根伝いに行けば迷惑にもならない」
シスの言葉に俺達三人は納得してしまう。
住人が多いため、建物の高さも安定している。
屋上に出るような物好きも少なく、迷惑にもならない。
完璧な作戦だった。
シスの案を採用し透明化の魔法をかけ建物の上を移動する。
途中で憲兵を見つけ、ノノに十三番隊の宿舎を聞いてもらい、俺達は出発から数分で目的の場所に到着することができた。
四階建ての石造りの建物、門も鉄柵も無い一見するとただの民家と変わりはないように見える。
ここが普通じゃないとわかるのは扉の前に立つ二人の兵士。
彼らが十三番隊の見張りなのだろう。
「ノーナアルヴェルス・ランスグライスというものですが、隊長さんはいらっしゃいますか? アグリールの件でタクト・キサラギが会いに来たと伝えて頂ければ伝わると思います」
ノノがそう伝えると見張りの一人はそのまま宿舎に入る。
そして数分後、見張りと一緒にメイサが出てきた。
「どうかしたのかい? 今更僕の提案を受けに来たわけではないだろ?」
「ここだと聞かれたくない。できれば中に入れてもらえるか?」
大きな荷物の荷物を見せると、メイサは頷き俺達を中に招いてくれた。
「人払いはした。ここには僕とトゥワイスしかいない」
応接室に通されるとそこにはトゥワイスがすでに座っていた。
「用意がいいな」
大した時間もないなかここまでやってくれたってことは、最初から内緒話だとバレていたわけか。
「それじゃあ、話を聞こうかな?」
「用件は情報の提供と解析の依頼だ」
俺は袋を取り出し、中から一つの魔石を取り出す。
「これは……」
「普通の魔石じゃないね」
ヤギ頭を倒した時の魔石。
強力な魔族だと一目でわかる大きさだが、問題は大きさではなく形だ。
闇に染まった水晶の様な魔石は他の結晶と結合している。
魔石と結合している結晶は召喚結晶で間違いない。
結晶の中にはドラゴンや、スライムが見えその全てが魔石に取り込まれる様に吸収されていた。
「こんなのをどこで手に入れたんだい? 長いこと魔族討伐をしているけどここまでぶっ飛んだ魔石を僕は初めて見たよ」
「俺も初めてだ。この魔石はクルトで戦った魔族の物だ」
「その魔族の名前はウール、あなた達なら名前を知っていますよね?」
あのヤギ頭そんな名前だったんだな。
「悪魔ウールか。洗脳の魔法が得意だと聞いてたけど、タクトくんには大した敵ではなかったってことだね」
「しかし何をすれば召喚結晶と魔石が融合してしまうのか……」
「そのウールってヤギ頭は召喚結晶を飲み込んでた。そしたらヤギ頭が急に変化し始めたよ。言葉が段々不自由になって力がどんどん高まってた」
より強くなるための異形への変化は忘れようがない。
あれを魔族全部が使えるならそれこそ脅威だ。
「なるほど、よくわかった。それが君達の情報提供ってわけか。魔族は召喚結晶を摂取することで能力の強化を行う。だから摂取する隙を与えないように殲滅しろってことだね」
「そうなるな。飲まれた場合は即逃げるか、完全に獣になってから殺すかだな」
「知性が無くなるからってことか。うん、有益な情報だ。その情報となら引き換えでこの魔石の解析も行えるだろう」
ノノが足で俺に合図する。
まあ、知ってはいたが嘘だってことだろうな。
向こうはあくまで情報の対価に解析をするという体を取りたいのだろう。
「おいおい、それだと情報をくれてやったのに、解析の情報もそっちが独り占めじゃないか?」
「そう聞こえたなら謝るよ。解析には費用もかかるからね、この情報があればその費用も手に入れやすいって言いたかったんだよ」
もう一度ノノから合図が来る。
トゥワイスは嘘に加担する気は無いらしく目も口も閉ざし微動だにしない。
「メイサ、あんまり調子に乗るなよ? こっちは善意で言ってやってるんだ、魔族を討伐する仲間としてな」
「メイサ、もういいだろう。これ以上はこの者達との関係が悪化するぞ」
「そうみたいだね。全く君は本当にやりにくいよ」
ノノの合図に当然気づいていたってことか。
それを知ったうえで二度も騙しにくるその度胸は感服する。
「それじゃあ、こっちは任せて貰っていいけど、結果が出るのに数日かかるからその間ゆっくり王都を見て回るといい」
行商人と別れを終え、俺とフランはまたしても人の波に酔っていた。
「人類なんて滅びればいいのに……」
「なんで魔王さんは早く人類の半分を滅ぼさないんでしょうか……」
「二人とも本当に何を言ってるの?」
路地裏で膝を抱えている俺達に、一人だけ平気なノノが声呆れた声で話しかける。
アグリールでもすでに瀕死だったのに更に人が多いヨルセウス皇国の首都。
首都の名に偽りないほどの人の群れだ……。
こんな裏路地でさえ人が多い……。
「十三番隊の拠点に向かうんじゃないんですか?」
「ノノにはわからないだろうが、コミュ障の俺にこんな人の群れに飛び込めと言うのか? ノノにもわかりやすく言うと、この数の魔族の中を歩いて目的地に向かえと言っている様なものだぞ?」
俺の言葉にフランも首を縦に振る。
「いえ、全然違うと思います。魔族と違って町の人達は攻撃しないですよね?」
「そこが違っているんだよ。な、フラン」
「タクト様の言う通りです、私達は常に攻撃にさらされているんですよ。視線という圧倒的な暴力です!」
コミュ障仲間のフランとお互いの手を握り合う。
やはり同士はこういうことを深く理解してくれる。
「こう言っちゃなんですが、お二人を誰も気にして見てませんよ?」
「わかってないな、フランちゃんは。ですよね、タクト様」
「そうだぞ。ノノみたいなコミュ力強者はいつもそういうが、俺達にはそんなのは関係ないんだ。見られているかもという考えと見られているは同義だぞ?」
同士と更に友情が深まり、お互いの親指を立て健闘をたたえ合う。
わかり合えないノノは頭痛がするのか頭を抑え始めた。
「それなら私が町の人全員を眠りにつかせようか?」
「「それだ!!」」
「絶対にやめる様に!!」
俺達の心の叫びに通行人から注目されてしまい、俺とノノは身を縮め物陰に隠れる。
「そんなことしたらお騒ぎになりますから。そんなに見られるのが嫌なら見られないように透明化の魔法使ったらいいじゃないですか」
「そんなのこんな人通りの多い場所で使ったら迷惑だろ」
「急に常識人っぽいことを……」
「透明化が使えるなら使えばいいだろ。屋根伝いに行けば迷惑にもならない」
シスの言葉に俺達三人は納得してしまう。
住人が多いため、建物の高さも安定している。
屋上に出るような物好きも少なく、迷惑にもならない。
完璧な作戦だった。
シスの案を採用し透明化の魔法をかけ建物の上を移動する。
途中で憲兵を見つけ、ノノに十三番隊の宿舎を聞いてもらい、俺達は出発から数分で目的の場所に到着することができた。
四階建ての石造りの建物、門も鉄柵も無い一見するとただの民家と変わりはないように見える。
ここが普通じゃないとわかるのは扉の前に立つ二人の兵士。
彼らが十三番隊の見張りなのだろう。
「ノーナアルヴェルス・ランスグライスというものですが、隊長さんはいらっしゃいますか? アグリールの件でタクト・キサラギが会いに来たと伝えて頂ければ伝わると思います」
ノノがそう伝えると見張りの一人はそのまま宿舎に入る。
そして数分後、見張りと一緒にメイサが出てきた。
「どうかしたのかい? 今更僕の提案を受けに来たわけではないだろ?」
「ここだと聞かれたくない。できれば中に入れてもらえるか?」
大きな荷物の荷物を見せると、メイサは頷き俺達を中に招いてくれた。
「人払いはした。ここには僕とトゥワイスしかいない」
応接室に通されるとそこにはトゥワイスがすでに座っていた。
「用意がいいな」
大した時間もないなかここまでやってくれたってことは、最初から内緒話だとバレていたわけか。
「それじゃあ、話を聞こうかな?」
「用件は情報の提供と解析の依頼だ」
俺は袋を取り出し、中から一つの魔石を取り出す。
「これは……」
「普通の魔石じゃないね」
ヤギ頭を倒した時の魔石。
強力な魔族だと一目でわかる大きさだが、問題は大きさではなく形だ。
闇に染まった水晶の様な魔石は他の結晶と結合している。
魔石と結合している結晶は召喚結晶で間違いない。
結晶の中にはドラゴンや、スライムが見えその全てが魔石に取り込まれる様に吸収されていた。
「こんなのをどこで手に入れたんだい? 長いこと魔族討伐をしているけどここまでぶっ飛んだ魔石を僕は初めて見たよ」
「俺も初めてだ。この魔石はクルトで戦った魔族の物だ」
「その魔族の名前はウール、あなた達なら名前を知っていますよね?」
あのヤギ頭そんな名前だったんだな。
「悪魔ウールか。洗脳の魔法が得意だと聞いてたけど、タクトくんには大した敵ではなかったってことだね」
「しかし何をすれば召喚結晶と魔石が融合してしまうのか……」
「そのウールってヤギ頭は召喚結晶を飲み込んでた。そしたらヤギ頭が急に変化し始めたよ。言葉が段々不自由になって力がどんどん高まってた」
より強くなるための異形への変化は忘れようがない。
あれを魔族全部が使えるならそれこそ脅威だ。
「なるほど、よくわかった。それが君達の情報提供ってわけか。魔族は召喚結晶を摂取することで能力の強化を行う。だから摂取する隙を与えないように殲滅しろってことだね」
「そうなるな。飲まれた場合は即逃げるか、完全に獣になってから殺すかだな」
「知性が無くなるからってことか。うん、有益な情報だ。その情報となら引き換えでこの魔石の解析も行えるだろう」
ノノが足で俺に合図する。
まあ、知ってはいたが嘘だってことだろうな。
向こうはあくまで情報の対価に解析をするという体を取りたいのだろう。
「おいおい、それだと情報をくれてやったのに、解析の情報もそっちが独り占めじゃないか?」
「そう聞こえたなら謝るよ。解析には費用もかかるからね、この情報があればその費用も手に入れやすいって言いたかったんだよ」
もう一度ノノから合図が来る。
トゥワイスは嘘に加担する気は無いらしく目も口も閉ざし微動だにしない。
「メイサ、あんまり調子に乗るなよ? こっちは善意で言ってやってるんだ、魔族を討伐する仲間としてな」
「メイサ、もういいだろう。これ以上はこの者達との関係が悪化するぞ」
「そうみたいだね。全く君は本当にやりにくいよ」
ノノの合図に当然気づいていたってことか。
それを知ったうえで二度も騙しにくるその度胸は感服する。
「それじゃあ、こっちは任せて貰っていいけど、結果が出るのに数日かかるからその間ゆっくり王都を見て回るといい」
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