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第28話:闇ギルドの襲来と、ホワイト過ぎる雇用契約
深夜の生徒会室。 私は一人、魔石ランプの灯りの下で、体育祭の賭博……もとい、振興くじの収支報告書を作成していた。
「……純利益で金貨三千枚。悪くない数字ね」
羽ペンを走らせていると、ふと、背後の窓が開く気配がした。 風ではない。音もなく、何者かが侵入したのだ。
「――稼いでいるようだな、生徒会長リリエラ」
低い、押し殺した声。 振り返ると、黒装束に身を包み、顔を布で隠した男が立っていた。 手には塗料が塗られた(光を反射しない)短剣。プロの仕事だ。
「王都を牛耳る『影のギルド』からの使いだ。……単刀直入に言おう。この学園でのシノギ、我々にも分配してもらおうか。売上の五割だ」
典型的な「みかじめ料」の請求だ。 普通の令嬢なら悲鳴を上げて失禁する場面だろう。 だが、私の中のおっさん(経営者)は、冷静に男の装備を観察(チェック)していた。
(……靴底がすり減っている。短剣の手入れは完璧だが、柄の革が古い。服も継ぎ接ぎがあるな)
私は羽ペンを置き、椅子を回転させて彼に向き合った。
「……貴方たち、経営状態(キャッシュフロー)が悪いの?」 「あ?」 「その靴、穴が開く寸前よ。それに、今の侵入経路……三階の窓からフリークライミングでしょうけど、もし落ちたらどうするの? 『労災』は下りるの?」
男の眉がピクリと動いた。
「……我々に失敗はない。落ちれば死ぬだけだ」 「つまり、保障なし。ハイリスク・ローリターンね。……今の王都の相場だと、暗殺一件の報酬は金貨十枚程度でしょう? 依頼がなければ収入はゼロ。不安定な『ギグ・ワーカー(単発労働者)』そのものだわ」
私は机の引き出しから、一枚の羊皮紙を取り出した。
「ねえ、転職(キャリアチェンジ)に興味はない?」 「……は?」 「私の下で働きなさい。条件はこうよ」
私が提示したのは、前世の日本でも優良企業レベルの『雇用契約書』だ。
1.固定給制度: 依頼の有無に関わらず、毎月金貨五枚を支給。成果報酬(インセンティブ)は別途あり。
2.福利厚生: 制服支給、食事付き(マヨネーズ食べ放題)、寮完備。
3.医療保障: 任務中の怪我は全額治療費負担。後遺障害補償あり。
休日: 完全週休二日制。有給休暇あり。
「こ、こていきゅう……? しゅうきゅうふつか……?」
男が目を見開き、震える手で羊皮紙を受け取った。 裏社会の人間にとって、見たこともない単語の羅列だ。
「闇ギルドの仕事は過酷でしょう。上納金に追われ、怪我をすれば捨てられ、明日の食事もままならない。……そんなブラックな環境で、一生を終えるつもり?」
私は甘く囁いた。悪魔の勧誘のように。
「私の組織(生徒会)に入れば、老後の『年金』まで積み立ててあげるわよ?」
「ね、年金だとぉぉぉ!?」
ガタッ。 男が短剣を取り落とした。 「老後の保障」。それは、明日をも知れぬアウトローたちが、喉から手が出るほど欲しい夢の言葉。
「お、俺だけじゃない……仲間も……仲間も食わせてやれるのか?」 「ええ。優秀な『諜報員(スパイ)』や『工作員』は、いくらいても困らないわ。……ボスを呼んでらっしゃい。団体交渉の時間よ」
***
一時間後。 生徒会室には、王都の裏社会を統べる『影のギルド』のマスターと、幹部たちが正座していた。 強面の大男たちが、一枚の契約書を食い入るように見つめ、涙を流している。
「……本当に、歯の治療費まで出してくれるんですかい?」 「出します。身体が資本ですから」 「家族への遺族年金も……?」 「当然です。安心して危険な任務に就いてもらうための『必要経費』です」
ギルドマスター(隻眼の老人)が、震える声で言った。
「……リリエラ様。いや、会長(ドン)。我々は今まで、闇の中で使い捨てにされてきた。こんな……人間らしい扱いを受けたのは初めてだ」
彼は床に頭を擦り付けた。
「この命、預けます! 影のギルドは今日から、あんたの『庭師』だ!」 「「「一生ついていきます! 会長(ドン)!」」」
こうして、王都最恐の犯罪組織は、私の生徒会直轄組織『特務監査部(通称:用務員室)』へと生まれ変わった。 表向きは学園の清掃員や用務員だが、その実態は、学園内外の情報を収集し、敵対勢力を秘密裏に無力化する諜報機関(CIA)だ。
***
その効果は絶大だった。 翌日から、私の机の上には、学園内のあらゆる「裏情報」が毎朝レポートとして提出されるようになった。
『・Aクラス担任、教材費の着服の証拠』 『・隣国の留学生、実はスパイ。本国の指令書を入手』 『・マクシミリアン前会長、隠れてリリエラ様のマヨネーズ同人誌を執筆中』
……最後のは知りたくなかったが、とにかく情報が集まる。 私はこれらの情報を切り札(カード)として使い、学園内の反対派閥を次々と懐柔・排除していった。
暴力はいらない。「貴方のこの秘密、バラされたくなければ……わかりますね?」と笑顔で囁くだけで、誰もが私の軍門に下るからだ。
ある日の放課後。 生徒会室に、ジークフリート王子とガイウス皇太子がやってきた。 二人は、校庭の隅で黙々と落ち葉掃除をしている「用務員(元・凄腕の暗殺者)」たちを見て、首を傾げた。
「最近、学園の清掃員たちの身のこなしが異常に鋭くないか? 落ち葉を拾う動きが、まるで剣技のようだ」 「ああ。それに、俺の気配に気づいて一瞬で姿を消す奴もいる。……リリエラ、あいつらは何者だ?」
私は紅茶をすすりながら、涼しい顔で答えた。
「ただの『シルバー人材センター』の方々よ。再就職支援の一環です」
「……ふうん。まあ、君がやることだ。きっと何か深い考え(金儲け)があるんだろうな」
二人は納得(?)してくれたようだ。
これで、学園の「表」の権力(生徒会・予算)と、「裏」の権力(情報網・武力)の両方を手に入れた。 私の支配体制は盤石だ。
だが、優秀な「特務部」の調査能力は、私が知りたくなかった「学園の秘密」まで掘り起こしてしまった。
「……会長。報告があります」
ある夜、元ギルドマスター(現・用務員長)が、深刻な顔で一枚の古地図を持ってきた。
「学園の地下深くに、巨大な空洞反応があります。……どうやら、この学園は『古代遺跡(ダンジョン)』の上に建てられているようです」
「……は?」
「しかも、最近その封印が解けかかっているようで……地下から魔力が漏れ出しています。このままでは、校舎が崩壊する恐れが」
私は天を仰いだ。 やっと学園を掌握したと思ったら、今度は物理的に学校が潰れそうだというのか。 しかも、ダンジョン? 魔物? そんなファンタジーな案件、経営者の管轄外だ。
しかし、私の中の「そろばん」が、カチリと音を立てた。
(待てよ。ダンジョンということは……『資源』があるということか?)
レアメタル、魔石、古代の遺物。 それらは全て、金になる。 崩壊のリスクは、適切な「開発」によって「収益」に変えられるのではないか?
「……総員、配置につきなさい」
私は不敵に笑った。
「これより、『学園地下再開発プロジェクト』を始動する。……お宝は根こそぎ回収して、学園の修繕費に充てるわよ!」
「……純利益で金貨三千枚。悪くない数字ね」
羽ペンを走らせていると、ふと、背後の窓が開く気配がした。 風ではない。音もなく、何者かが侵入したのだ。
「――稼いでいるようだな、生徒会長リリエラ」
低い、押し殺した声。 振り返ると、黒装束に身を包み、顔を布で隠した男が立っていた。 手には塗料が塗られた(光を反射しない)短剣。プロの仕事だ。
「王都を牛耳る『影のギルド』からの使いだ。……単刀直入に言おう。この学園でのシノギ、我々にも分配してもらおうか。売上の五割だ」
典型的な「みかじめ料」の請求だ。 普通の令嬢なら悲鳴を上げて失禁する場面だろう。 だが、私の中のおっさん(経営者)は、冷静に男の装備を観察(チェック)していた。
(……靴底がすり減っている。短剣の手入れは完璧だが、柄の革が古い。服も継ぎ接ぎがあるな)
私は羽ペンを置き、椅子を回転させて彼に向き合った。
「……貴方たち、経営状態(キャッシュフロー)が悪いの?」 「あ?」 「その靴、穴が開く寸前よ。それに、今の侵入経路……三階の窓からフリークライミングでしょうけど、もし落ちたらどうするの? 『労災』は下りるの?」
男の眉がピクリと動いた。
「……我々に失敗はない。落ちれば死ぬだけだ」 「つまり、保障なし。ハイリスク・ローリターンね。……今の王都の相場だと、暗殺一件の報酬は金貨十枚程度でしょう? 依頼がなければ収入はゼロ。不安定な『ギグ・ワーカー(単発労働者)』そのものだわ」
私は机の引き出しから、一枚の羊皮紙を取り出した。
「ねえ、転職(キャリアチェンジ)に興味はない?」 「……は?」 「私の下で働きなさい。条件はこうよ」
私が提示したのは、前世の日本でも優良企業レベルの『雇用契約書』だ。
1.固定給制度: 依頼の有無に関わらず、毎月金貨五枚を支給。成果報酬(インセンティブ)は別途あり。
2.福利厚生: 制服支給、食事付き(マヨネーズ食べ放題)、寮完備。
3.医療保障: 任務中の怪我は全額治療費負担。後遺障害補償あり。
休日: 完全週休二日制。有給休暇あり。
「こ、こていきゅう……? しゅうきゅうふつか……?」
男が目を見開き、震える手で羊皮紙を受け取った。 裏社会の人間にとって、見たこともない単語の羅列だ。
「闇ギルドの仕事は過酷でしょう。上納金に追われ、怪我をすれば捨てられ、明日の食事もままならない。……そんなブラックな環境で、一生を終えるつもり?」
私は甘く囁いた。悪魔の勧誘のように。
「私の組織(生徒会)に入れば、老後の『年金』まで積み立ててあげるわよ?」
「ね、年金だとぉぉぉ!?」
ガタッ。 男が短剣を取り落とした。 「老後の保障」。それは、明日をも知れぬアウトローたちが、喉から手が出るほど欲しい夢の言葉。
「お、俺だけじゃない……仲間も……仲間も食わせてやれるのか?」 「ええ。優秀な『諜報員(スパイ)』や『工作員』は、いくらいても困らないわ。……ボスを呼んでらっしゃい。団体交渉の時間よ」
***
一時間後。 生徒会室には、王都の裏社会を統べる『影のギルド』のマスターと、幹部たちが正座していた。 強面の大男たちが、一枚の契約書を食い入るように見つめ、涙を流している。
「……本当に、歯の治療費まで出してくれるんですかい?」 「出します。身体が資本ですから」 「家族への遺族年金も……?」 「当然です。安心して危険な任務に就いてもらうための『必要経費』です」
ギルドマスター(隻眼の老人)が、震える声で言った。
「……リリエラ様。いや、会長(ドン)。我々は今まで、闇の中で使い捨てにされてきた。こんな……人間らしい扱いを受けたのは初めてだ」
彼は床に頭を擦り付けた。
「この命、預けます! 影のギルドは今日から、あんたの『庭師』だ!」 「「「一生ついていきます! 会長(ドン)!」」」
こうして、王都最恐の犯罪組織は、私の生徒会直轄組織『特務監査部(通称:用務員室)』へと生まれ変わった。 表向きは学園の清掃員や用務員だが、その実態は、学園内外の情報を収集し、敵対勢力を秘密裏に無力化する諜報機関(CIA)だ。
***
その効果は絶大だった。 翌日から、私の机の上には、学園内のあらゆる「裏情報」が毎朝レポートとして提出されるようになった。
『・Aクラス担任、教材費の着服の証拠』 『・隣国の留学生、実はスパイ。本国の指令書を入手』 『・マクシミリアン前会長、隠れてリリエラ様のマヨネーズ同人誌を執筆中』
……最後のは知りたくなかったが、とにかく情報が集まる。 私はこれらの情報を切り札(カード)として使い、学園内の反対派閥を次々と懐柔・排除していった。
暴力はいらない。「貴方のこの秘密、バラされたくなければ……わかりますね?」と笑顔で囁くだけで、誰もが私の軍門に下るからだ。
ある日の放課後。 生徒会室に、ジークフリート王子とガイウス皇太子がやってきた。 二人は、校庭の隅で黙々と落ち葉掃除をしている「用務員(元・凄腕の暗殺者)」たちを見て、首を傾げた。
「最近、学園の清掃員たちの身のこなしが異常に鋭くないか? 落ち葉を拾う動きが、まるで剣技のようだ」 「ああ。それに、俺の気配に気づいて一瞬で姿を消す奴もいる。……リリエラ、あいつらは何者だ?」
私は紅茶をすすりながら、涼しい顔で答えた。
「ただの『シルバー人材センター』の方々よ。再就職支援の一環です」
「……ふうん。まあ、君がやることだ。きっと何か深い考え(金儲け)があるんだろうな」
二人は納得(?)してくれたようだ。
これで、学園の「表」の権力(生徒会・予算)と、「裏」の権力(情報網・武力)の両方を手に入れた。 私の支配体制は盤石だ。
だが、優秀な「特務部」の調査能力は、私が知りたくなかった「学園の秘密」まで掘り起こしてしまった。
「……会長。報告があります」
ある夜、元ギルドマスター(現・用務員長)が、深刻な顔で一枚の古地図を持ってきた。
「学園の地下深くに、巨大な空洞反応があります。……どうやら、この学園は『古代遺跡(ダンジョン)』の上に建てられているようです」
「……は?」
「しかも、最近その封印が解けかかっているようで……地下から魔力が漏れ出しています。このままでは、校舎が崩壊する恐れが」
私は天を仰いだ。 やっと学園を掌握したと思ったら、今度は物理的に学校が潰れそうだというのか。 しかも、ダンジョン? 魔物? そんなファンタジーな案件、経営者の管轄外だ。
しかし、私の中の「そろばん」が、カチリと音を立てた。
(待てよ。ダンジョンということは……『資源』があるということか?)
レアメタル、魔石、古代の遺物。 それらは全て、金になる。 崩壊のリスクは、適切な「開発」によって「収益」に変えられるのではないか?
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