冷徹令嬢(中身42歳)の経営改革 ~企業再建のプロが転生したら、効率重視の行動が「聖女の奇跡」と勘違いされまして~

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第29話:ダンジョン・ファクトリー ~古代遺跡の産業革命~

王立学園の全校集会。  講堂の演壇に立った私は、ざわめく生徒たちを見下ろし、マイクのスイッチを入れた。

「えー、これより『特別課外授業』の実施を発表します」

 私は一枚のプリントを掲げた。

「場所は、本校の地下に発見された『古代遺跡(ダンジョン)』。目的は『資源回収』および『実地訓練』です」 「「「ダンジョン!?」」」

 生徒たちが色めき立つ。冒険への憧れ、未知への恐怖。  だが、私は冷徹に続けた。

「本授業に参加した生徒には、特別単位(クレジット)を与えます。さらに、回収した魔石や遺物の量に応じ、成果報酬(ボーナス)を現金で支給します。……奮って参加するように」

 ――現金支給。  その言葉が、貴族も平民も関係なく、生徒たちの目の色を変えた。  私の食堂改革で「美味いものは金がかかる」と知ってしまった彼らは、今や貪欲な労働者と化していたのだ。

        ***

 地下ダンジョン、第一層。  そこはもう、冒険の場ではなく「巨大な作業現場」と化していた。

「魔法科(サイエンス)班、照明確保! 壁面の魔石含有率を分析しろ!」 「騎士科(スポーツ)班、モンスター発生! スライムだ、焼却処分しろ!」 「普通科(アーツ)班、地図作成(マッピング)急げ! 搬送ルートを確保するんだ!」

 生徒たちが専攻ごとに分かれ、組織的に動いている。  その周囲を警護するのは、用務員服を着た『特務部(元・暗殺者)』たちだ。彼らが影から危険な罠や強力な魔物を排除しているため、生徒たちは安全に「作業」に没頭できる。

「会長! また魔石の鉱脈を見つけました!」 「よし、採掘開始。ドワーフ留学生チーム、発破準備!」

 ドカーン!  爆音と共に壁が崩れ、きらめく魔石がザクザクと溢れ出す。  私はそれをチェックシートに記入していく。

「……含有率よし。品質よし。これで学園の暖房費と実験機材費は十年分賄えるわね」

 ダンジョンとは、要するに「資源の宝庫」だ。  放置すれば魔物が溢れる厄介な場所だが、管理(マネジメント)さえできれば、これほど効率的な資産はない。

        ***

 順調に階層を下り、ついに最深部の第十層に到達した時だった。  巨大な広間の奥に、地響きと共に「それ」は現れた。

 全長十メートルを超える、岩と金属の塊。  古代の守護者、『ミスリル・ゴーレム』だ。

「グオオオオオオ……!!」

 咆哮だけで空気が震える。  生徒たちが悲鳴を上げて後退る。

「くっ、出たなボスキャラ! ここは僕たちが!」 「俺の剣のサビにしてくれる! いくぞジークフリート!」

 ジークフリートとガイウスが武器を構え、勇ましく飛び出そうとした。  だが、私は扇子で二人の頭を叩いた。

「待ちなさい。壊す気?」 「えっ? いや、倒さないと進めないだろう?」 「よく見て。あの素材、純度九九パーセントのミスリルと、オリハルコンの関節よ。破壊したら資産価値が暴落するじゃない」

 私はゴーレムを見上げた。  圧倒的な質量。無限の動力。疲れを知らない強靭なボディ。  私にはそれが、敵ではなく「理想的な重機」に見えた。

「……彼(?)を、採用します」

 私はドワーフの留学生たちに指示を出した。

「ゴーレムの動力回路を解析して。破壊するのではなく、命令系統を『書き換え(リライト)』るのよ」 「ええっ!? そんな無茶な!」 「できるわ。古代語翻訳チーム、マニュアルを解読して。『侵入者を排除せよ』という命令を、『岩を運べ』に変更するだけよ」

 生徒たちが総力を挙げて解析に当たる。  ジークフリートとガイウスが囮になってゴーレムの注意を引きつけている間に、魔法科の精鋭たちが背後の制御紋章にアクセスする。

「解析完了! コマンド入力……承認されました!」

 ズウン……。  ゴーレムの赤い目が、青色に変わった。  暴れていた巨体が、おとなしく停止する。

 私はゴーレムの前に立ち、拡声器で命令した。

「業務命令。そこにある魔石の山を、入り口まで運びなさい。休憩なし、二十四時間稼働で」

 ゴーレムは「了解(ガガガ……)」と低い音を立て、巨大な手で岩をすくい上げ、黙々と運び始めた。  そのパワーは凄まじい。人間が百人がかりで運ぶ量を、一度で運んでしまう。

「……すごい。最強の採掘マシーンだ」

 さらに私は、ダンジョンの通路に「あるもの」を設置させた。  ドワーフたちが鉄とゴムで作った、動く道。  ――『ベルトコンベア』だ。

 ゴーレムが掘り出した鉱石をコンベアに乗せ、それが自動的に地上まで運ばれる。  地上では、生徒たちがそれを分別し、即座に換金する。

 完全なる「自動化工場(オートメーション・ファクトリー)」の完成だ。

        ***

 一週間後。  学園の地下ダンジョンは、もはや魔窟の面影はなかった。  通路は舗装され、魔石灯で明るく照らされ、コンベアが駆動音を立てて走り続けている。

 最深部では、ゴーレム(愛称:ゴロウ丸)が、今日も元気に岩を砕いている。  たまに湧くモンスターは、コンベアの途中に設置された「自動迎撃トラップ(スライム処理機)」によって処理され、素材となって流れてくる。

 生徒会室にて。  私は積み上がった金貨の塔と、希少金属の山を見て、満足げに頷いた。

「今月の収支、黒字幅が過去最高を更新したわ。これで全教室にエアコンとウォシュレットを導入できる」

 ジークフリートとガイウスが、遠い目で窓の外を見ていた。  校庭では、裕福になった生徒たちが、新品の装備や実験道具を手に、生き生きと活動している。

「……リリエラ。君にかかれば、古代の脅威さえも『優秀な社員』になるんだな」 「帝国のダンジョンも、こんな風に開発してほしいものだ……」

 私は紅茶をすすりながら答えた。

「恐怖の対象にするから問題なのよ。管理して、利益を生むシステムに組み込めば、それは『資源』になる。……単純な話でしょう?」

 こうして、王立学園は「世界で最も裕福な学校」となり、最先端の研究設備と、実戦経験豊富な生徒たちを擁する、巨大な機関へと成長した。

 だが、この成功はあまりに目立ちすぎた。  地下から産出される「ミスリル」や「古代遺物」の噂は、海を越えて広がり、ついに「魔族」たちの耳にも届いてしまったのだ。

 ――次なる訪問者は、人間ではない。  魔界からの使者。  学園祭の準備に追われる私の元へ、招かれざる「超VIP」がやってくることになる。
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