冷徹令嬢(中身42歳)の経営改革 ~企業再建のプロが転生したら、効率重視の行動が「聖女の奇跡」と勘違いされまして~

RIU

文字の大きさ
32 / 33

第32話:学園万博(エキスポ)と、世界経済の完全掌握

アグランド王立学園の正門前には、かつてないほどの緊張感が漂っていた。  ずらりと並んだのは、周辺諸国の国旗を掲げた豪華な馬車列。  降り立ったのは、各国の国王、宰相、そして将軍たちだ。

「……ここが、『世界の火薬庫』と呼ばれる学園か」 「アグランド、ガルディア、そして魔界……。次世代の指導者たちが一箇所に集まり、怪しげな実験を繰り返していると聞く」 「今日こそ、その危険な研究の実態を暴き、解散させねばならん!」

 彼らは「国際査察団」としてやってきた。  学園が持つ異常な軍事力(特務部)と経済力(ダンジョン工場)を恐れ、圧力をかけに来たのだ。

 迎える側の私は、生徒会役員たちと共に正門に立っていた。  隣にはジークフリート(アグランド王子)、ガイウス(帝国皇太子)、ヴェルネット(魔界姫)。  世界最強の布陣だ。

(……やれやれ。面倒なクレーマーたちが来たわね)

 私は内心で舌打ちしたが、顔には営業用のスマイルを貼り付けた。

「ようこそ、諸国の代表者様。……本日は、当学園の研究成果発表会――『学園万博(エキスポ)』へご招待いたします」

「万博だと? 誤魔化すな! 我々は兵器の査察に来たのだ!」 「ええ。どうぞ見ていってください。我々が開発した『世界を変える兵器』を」

 私はニヤリと笑い、ゲートを開いた。

        ***

 パビリオン1:物流革命『魔導列車』

 校庭に敷設されたレールの上を、鉄の塊が音もなく滑っていく。  ダンジョン産の魔石を動力とし、浮遊魔法で摩擦をゼロにした『リニアモーターカー(魔導列車)』だ。

「な、なんだあの速度は!? 馬車の十倍……いや、二十倍は出ているぞ!」 「あんなもので軍隊を輸送されたら、我々の国境など一瞬で突破される!」

 将軍たちが青ざめる。  私は拡声器(ハンズフリーマイク)で解説した。

「ご安心ください。これは兵器ではなく『物流インフラ』です。これを使えば、海のない内陸国にも新鮮な魚を届けられますし、飢饉の地域へ即座に食料を送れます。……皆様の国にも、駅(ステーション)を作りませんか?」

「えっ? 我々の国にも?」 「はい。線路を繋げば、物流コストは十分の一になります。……ただし、規格(レール幅)は当社の基準に合わせていただきますが」

 各国の経済大臣たちの目が、恐怖から「欲」へと変わった。  これを導入すれば、自国の経済は飛躍的に発展する。導入しなければ、他国に置いていかれる。

 パビリオン2:情報革命『通信魔導板(タブレット)』

 次に案内したのは、情報通信室。  そこでは、生徒たちが板状の魔道具を操作し、遠く離れたダンジョン深層の映像をリアルタイムで見ていた。

「こ、これは……『遠見の魔法』か? いや、誰でも使えるのか!?」 「はい。音声と映像を双方向でやり取りできます」

 私はタブレットを各国の王に手渡した。

「これでホットラインを結べば、わざわざ馬車で数日かけて会談する必要はありません。戦争の誤解も、テレビ会議(ズーム)で即座に解決できます」

「……なんという技術だ。これがあれば、世界のどこにいても指揮が執れる」 「諜報活動も無意味になるな……」

「一台、金貨百枚で販売します。月額使用料は別途かかりますが、今なら『学園割』で初期費用無料です」

 王たちが我先にと契約書にサインを求めた。  彼らは気づいていない。この通信網の「サーバー(親機)」は、私が管理していることに。つまり、世界中の通信は私の掌の上にあるのだ。

        ***

 メインイベント:晩餐会『世界平和のフルコース』

 日が暮れ、講堂での晩餐会が始まった。  テーブルには、世界中から取り寄せた食材を使った料理が並ぶ。  アグランドの野菜、帝国の肉、魔界のキノコ、そして海国の魚介。

 それらを一つにまとめているのが――

「……美味い。なんだこの白いソースは?」 「全ての食材の個性を殺さず、まろやかに調和させている……!」

 そう、マヨネーズだ。  前菜のサラダから、メインの肉料理のソース、そしてデザートの隠し味まで。  マヨネーズという「接着剤」が、バラバラだった各国の味を一つのコース料理として成立させていた。

 私はグラスを掲げ、壇上に立った。

「皆様。この料理こそが、私の目指す『世界征服』の形です」

 会場が静まり返る。

「異なる国、異なる種族、異なる文化。それらは無理に混ぜ合わせる必要はありません。ですが、このソースのように『共通の利益(プラットフォーム)』があれば、互いの良さを引き立て合うことができます」

 私は王たちを見渡した。

「列車で物を運び、タブレットで言葉を交わし、同じテーブルで食事をする。……戦争などという非効率な行為に、コストを割いている暇はありませんよね?」

 王たちは顔を見合わせた。  彼らは完全に呑まれていた。  この小さな少女が提示した「利益」の前に、武力による対立など無意味だと悟らされたのだ。

 一人の老王が、震える手でグラスを掲げた。

「……完敗だ。我々は剣で戦おうとしたが、貴女は『豊かさ』で我々を殴りつけた」 「学園の解散は撤回しよう。……むしろ、頼む。我が国にもその技術を、そのソースを分けてくれ!」 「我が国とも提携を! 関税は撤廃する!」

 会場は一転して、巨大な商談会場となった。  私はハンスと生徒会役員たちに指示を出し、次々と契約を結んでいった。

 『国際鉄道敷設条約』  『世界通信規格統一協定』  『マヨネーズ輸出入に関する覚書』

 これら全ての中心(ハブ)にいるのは、アグランド王立学園――いいや、私、リリエラだ。

        ***

 夜、学園のテラスにて。  私は星空を見上げながら、心地よい疲労感に浸っていた。  隣にはジークフリートがいる。

「……すごいな、リリィ。今日一日で、君は世界の実質的な『支配者』になった」 「人聞きが悪いわね。私はただの『学生起業家』よ」 「各国の王が、君に頭を下げて契約を懇願していたよ。……君が女王になることを拒否した理由がわかった気がする」

 ジークフリートは苦笑した。

「一国の女王なんて枠じゃ、君には狭すぎるんだな」

 違う。  私はただ、面倒な公務から逃げて、好きな時に好きな商売がしたかっただけなのだ。  だが、結果として、私は一国の王よりも遥かに強大な「経済圏の主」になってしまった。

(……まあ、いいか。これで誰も私の商売を邪魔できないし、老後の資金も国家予算レベルで貯まった)

 私は手すりに寄りかかり、伸びをした。

「さて、次はどうしようかしら。……宇宙開発(スペース・ロケット)でも始めて、月の土地でも分譲しようかしら」 「ははは! 君なら本気でやりそうだ」

 冗談めかして言ったが、私の中のおっさんは既に計算を始めていた。  重力制御魔法と、ドワーフの耐熱素材があれば、不可能ではない……。

 私の「効率的すぎる改革」は、留まるところを知らない。  でも、それはもう少し先の話。  まずは明日、溜まったレポートを片付けて、ゆっくりと購買部の焼きそばパンを食べるのだ。    だって私は、まだ「学生」なのだから。
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています