『剣聖の愛玩姫(マスコット)』は元勇者 ~レベル999の幼女ですが、働きたくないのでSランク冒険者を盾にします~

RIU

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第5話 光る村人A

城塞都市バベルの大通り。  ここは、この世界でも有数の賑わいを見せるメインストリートだ。  馬車が行き交い、露店が並び、多くの人々が歩いている。

 だが、俺たちの周りだけ、モーゼの十戒のように人が割れていた。

「おい、あれガルドだぞ……」 「『狂戦士』が帰ってきたのか」 「目を合わせるなよ、殺されるぞ」

 人々が蜘蛛の子を散らすように避けていく。  Sランク冒険者ガルド。  その凶悪な顔面と、背負った巨大な剣は、通行手形ならぬ「通行払い手形」として機能していた。

「快適ですね、師匠!」

 ガルドが真っ二つに割れた人混みの中を、王様のように闊歩しながら振り返る。

「ああ、そうだな。……目立つことを除けば」

 俺はため息をつきながら、ガルドの巨大な背中の影に隠れるように歩いた。  注目されたくない。  誰も俺を見ないでくれ。俺は道端の石ころだ。

 俺は歩きながら、最重要課題に取り掛かった。  **【ステータス隠蔽】**だ。  これから向かう冒険者ギルドでは、登録時に「魔力水晶」によるステータス測定が行われる。  あそこで「レベル999」などと表示されたら、その瞬間に俺のニート計画は終了する。

「(設定は……『村人』でいいか)」

 俺は脳内で、自分のステータスにフィルターをかける魔法を構築する。  高度な幻影魔法の一種だ。  水晶玉を騙し、偽の情報を表示させる。

 【表示名】アリシア  【種族】人間  【職業】村人  【レベル】1  【スキル】家事Lv1

 完璧だ。  これ以上ないほど無害な、どこにでもいる村娘。  俺は構築した魔法を、自分の体に纏(まと)わせた。

「『隠蔽(コンシール)』、発動」

 カッ!!!!

 その瞬間。  俺の体から、目も眩むような黄金の光が噴出した。

「うおっ!?」

 ガルドが驚いて振り返る。  周囲の通行人たちも、一斉に足を止めた。

「な、なんだあの光!?」 「少女が……光っている!?」 「神々しい……! 天使様か!?」

 俺は自分の体を見た。  全身がLED照明の百倍くらいの輝度で、神々しく発光している。  直視できないレベルだ。

「(な、なんでだ!?)」

 俺は焦った。  理論は完璧なはずだ。  なぜ隠そうとしているのに、逆に目立っているんだ。

 ……あ。  原因に思い当たった。  「魔力出力」が高すぎるのだ。

 レベル999の俺の魔力は、常人の数万倍。  その魔力を使って「隠蔽魔法」を使った結果、魔法の密度が高すぎて、物理的に光となって漏れ出してしまっている。  マジックペンで文字を消そうとしたら、インクが濃すぎて紙が発光したようなものだ。

「師匠……! これは……!」

 ガルドが目を細めながら、感動に打ち震えている。

「なんという『覇気(オーラ)』……! 力を隠そうとしても、溢れ出る王者の品格が隠しきれずに光となって具現化しているのですね!?」

「違う! ただの出力ミスだ!」

 俺は慌てて魔力を絞る。  ダメだ、微調整が難しい。  蛇口をひねったらダムが決壊するような感覚だ。

「くっ……鎮まれ、俺の魔力……!」

 俺は必死に魔力を圧縮した。  光を内側に押し込む。  輝きを質量に変え、皮膚の表面に極薄の膜として定着させる。

 ギュウウウウウウ……。

 黄金の光が、徐々に収まっていく。  一分ほどの格闘の末、ようやく発光現象が止まった。

「ふぅ……」

 危なかった。  俺は額の汗を拭う。  周囲の人々は、「今の光はなんだったんだ?」「幻覚か?」とざわついている。  なんとか誤魔化せた……か?

「さすがです、師匠」

 ガルドが感心したように頷いた。

「太陽のような輝きを、一瞬で『無』に帰すとは。……『能ある鷹は爪を隠す』と言いますが、師匠の場合は『能ある竜が蟻のフリをする』ようなもの。その謙虚さ、勉強になります!」

「お前はそろそろ黙らないと、給料(食事)抜きにするぞ」 「ひぃッ! それだけはご勘弁を!」

 ガルドが青ざめて口をつぐんだ。  よし、静かになった。

 とりあえず、ステータスの偽装は成功した(はずだ)。  今の俺は、水晶玉を通せば「ただの村人」に見えるはずである。

「行くぞ。ギルドはどこだ」 「あちらです。この街で一番デカい建物がそうですぜ」

 ガルドが指差した先。  大通りの突き当たりに、巨大な石造りの建物が鎮座していた。  屋根には、剣と盾を交差させた紋章の旗がはためいている。

 『冒険者ギルド・バベル支部』。

 荒くれ者たちの巣窟であり、依頼(クエスト)の仲介所であり、俺のニート生活の第一歩となる場所だ。

「(……頼むから、変な奴に絡まれませんように)」

 それは完璧なフラグだったが、今の俺は気づかないフリをした。  俺は深呼吸をして、ギルドの重厚な扉の前に立った。

「開けますぜ、師匠」

 ガルドが恭しく扉に手をかける。  ギィィィィィィ……。  重い蝶番(ちょうつがい)の音と共に、扉が開かれた。

 ドッ、と中から熱気と喧騒が溢れ出してくる。  酒と汗の匂い。  男たちの怒号と笑い声。

 俺は一歩、その魔窟へと足を踏み入れた。
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