『剣聖の愛玩姫(マスコット)』は元勇者 ~レベル999の幼女ですが、働きたくないのでSランク冒険者を盾にします~

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第9話 勘違いの装備選び

翌朝。  最高の朝だった。

 小鳥のさえずり(高級ホテルの魔法BGMかもしれない)で目覚め、シルクのシーツの中で二度寝、三度寝を堪能する。  ルームサービスで運ばれてきた、焼きたてのパンと半熟卵のエッグベネディクト。  搾りたてのオレンジジュース。

「……勝った」

 俺はテラスで優雅に紅茶(俺はジュースだが)を飲みながら、眼下に広がる街を見下ろして呟いた。  これが俺の求めていた日常だ。  もう泥水を啜(すす)ることも、冷たい石床で寝ることもない。

「お嬢様、そろそろお出かけの時間です」

 背後で、執事のように控えていたガルドが声をかけてきた。  こいつ、本当に一睡もせずに直立していたらしい。目の下のクマが少し濃くなっているが、テンションは異常に高い。

「……出かける? どこへ?」 「装備の調達です! 冒険者たるもの、身支度は完璧でなくては!」

 ガルドが鼻息荒く言う。  ああ、そういえばそうだった。  俺は今、フリフリの貴族風ワンピースを着ている。これは転生した時に最初から着ていた服だ。  素材は良いが、これで森を歩くのはさすがに場違いだし、すぐに汚れるだろう。

「まあ、確かに着替えは必要だな。動きやすい服が欲しい」 「お任せください! この街で一番の武具店を知っています。俺の馴染みの店です!」

 ガルドが自信満々に胸を叩いた。  嫌な予感がしたが、まあSランク冒険者の紹介なら、品質は確かなのだろう。

   ◇

 三十分後。  俺たちは、路地裏にある薄暗い店の前にいた。  看板には『戦鎚と血しぶき亭』と書かれている。  店名がすでに物騒だ。

「ここです、師匠! ドワーフの頑固親父が打つ最高級の防具屋です!」

 ガルドが扉を開ける。  カランカラン……という可愛い音ではなく、ゴウン……という重低音が響いた。

 店内は、鉄と油の匂いが充満していた。  壁一面に飾られているのは、巨大な戦斧、トゲ付きの鉄球、全身を覆うフルプレートアーマー。  どう見ても「ゴリマッチョ専用」の店である。

「おやっさん! いい防具はあるか!」 「おう、ガルドか。今日は何の用だ? ドラゴンの牙でも持ってきたか?」

 奥から、ヒゲもじゃのドワーフ店主が出てきた。  ガルドと並ぶと、岩と岩が会話しているようだ。

「今日は俺じゃねぇ。こっちのお嬢様の装備だ」 「あん?」

 店主が視線を下げ、俺を見た。  俺は愛想よく手を振った。

「こんにちは。動きやすい服ください」 「……ガルド、お前正気か? ここは戦士の店だぞ。お子様用の服なんざ置いてねぇ」 「馬鹿野郎! このお方を誰だと思っている! 見かけで判断すると火傷するぞ!」

 ガルドが店主を怒鳴りつける。  やめろ、ハードルを上げるな。

「とにかく、最強の防具だ! 金に糸目はつけねぇ! 師匠の命を守れる、至高の一品を出せ!」 「……最強、ねぇ」

 店主は渋い顔で髭を撫で、奥の倉庫へ入っていった。  数分後、台車に乗せて運んできたのは――

 黒光りする、禍々しいフルプレートアーマーだった。  兜には悪魔の角のような装飾があり、胸部にはドクロのレリーフが彫られている。  触れただけで呪われそうなオーラを放っていた。

「『魔竜の呪鎧(カースド・メイル)』だ。装備者の生命力を吸い取って防御力に変える。これならドラゴンのブレスでも無傷だぞ」

「おおおお! 素晴らしい! これぞ師匠に相応しい!」

 ガルドが目を輝かせている。  俺は真顔で即答した。

「いらない」 「えっ!? なぜですか師匠! 防御力は最強ですよ!?」 「重い。臭い。あと、可愛くない」 「か、可愛さ……! 盲点でした……!」

 ガルドがショックを受けている。  当たり前だ。十歳の美少女がこんなデスナイトみたいな格好をして歩けるか。  そもそも、俺は【物理無効:EX】のパッシブスキルがあるから、裸でもドラゴンブレスくらい弾けるのだ。防具なんて飾りでいい。

「もっとこう、軽くて、着心地がいいやつないの?」 「軽いのか……なら、こっちはどうだ」

 次に出てきたのは、鎖帷子(チェーンメイル)だった。  まあ、さっきよりはマシだが……。

「あら、ガルドさん? それにアリシアちゃん?」

 その時、入り口から聞き覚えのある声がした。  振り返ると、私服姿の女性が立っていた。  ギルドの受付嬢、ミナだ。  オフなのだろう、今日は胸元が大きく開いたニットを着ている。破壊力がすごい。

「ミナおねえちゃん!」 「奇遇ですね。装備探しですか?」 「ああ。だが、なかなか師匠のお気に召すものがなくてな」

 ガルドが鎖帷子を持ち上げて見せる。  ミナはそれを見て、眉をひそめた。

「……ガルドさん。女の子に鎖帷子を着せるつもりですか?」 「え? 隙間に剣が通らなくて安全ですが」 「肌が傷つくでしょ! それに重いし! アリシアちゃんはFランクの新人なんですよ? もっと動きやすくて、可愛い革鎧とかあるでしょ!」

 ミナが俺の前に立ちふさがり、ガルドを叱責する。  ナイスだ、ミナ。俺の言いたいことを全部言ってくれた。

「ほら、アリシアちゃん。こんな汗臭い店は出ましょう。私がいいお店を知ってるわ」 「ほんと!?」 「ええ、女の子御用達のお店よ。行きましょう!」

 ミナが俺の手を引く。  俺はガルドに「じゃあな」と手を振り、店を出た。  ガルドは「あ、待ってください! 護衛が!」と慌てて呪いの鎧を放り出し、追いかけてきた。

   ◇

 連れてこられたのは、大通りにあるお洒落なブティックだった。  『森の妖精亭』。  ピンク色の看板。ショーウィンドウにはフリルのついた冒険者服が飾られている。  さっきの地獄とは天国と地獄の差だ。

「さあ、アリシアちゃん! 今日は私がコーディネートしてあげる!」

 ミナの目が怪しく光った。  嫌な予感がした。  このお姉さん、昨日も俺を「着せ替え人形」扱いしていたような……。

「これも似合うわ! あ、こっちの猫耳フード付きのローブも可愛い!」 「ちょ、待っ……」 「ダメよ、動かないで! 次はこのスカート!」

 地獄のファッションショーが開幕した。  俺は試着室に放り込まれ、次々と服を着せ替えさせられた。  ミニスカートの革鎧。  魔法少女のようなローブ。  なぜかメイド服。

「うぅ……疲れた……」

 一時間後。  俺は試着室の椅子でぐったりしていた。  勇者時代、ラスボスと戦った時より疲れたかもしれない。

「ふふっ、最高だわ。全部買いましょう!」 「全部!?」

 ミナが興奮気味に叫ぶ。  ガルドは店の隅で、着替えるたびに出てくる俺を見て、いちいち「尊い……」と拝んでいた。こいつもダメだ。

 結局。  俺の装備は以下のものに決定した。

上質な布の服(動きやすいチュニック)

革のショートパンツ

膝までの革ブーツ

フード付きの白いマント(防寒・雨除け)

 見た目は完全に「村娘がちょっと冒険に出ました」風。  防御力は皆無に近いが、動きやすさは抜群だ。  なにより、可愛い。鏡に映った自分を見て、思わず「おお」と唸ってしまった。中身がおっさんでも、可愛いものは可愛い。

「お支払いは?」 「俺が払います! 言い値で!!」

 ガルドが金貨を積み上げた。  店員のお姉さんが悲鳴を上げて喜んでいる。

 こうして、俺の「冒険者ルック」が完成した。  見た目はFランクの新人少女。  中身はレベル999の元勇者。  財布はSランクの狂戦士。

「よし、これで形からは入れたな」

 俺は新しいブーツで地面を踏みしめた。  さあ、いよいよクエストだ。  もちろん、一番楽で、一番安全で、一番早く終わるやつを選ぶぞ。
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