『剣聖の愛玩姫(マスコット)』は元勇者 ~レベル999の幼女ですが、働きたくないのでSランク冒険者を盾にします~

RIU

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第12話 安眠妨害の代償

「……ううん」

 微睡(まどろ)みの中で、俺は幸せを噛み締めていた。  森の空気は澄んでいる。  マントの敷物は意外と快適だ。  このまま夕方まで寝て、帰ってご飯を食べて、また寝る。  最高のルーティンだ。

 ――ガサガサガサッ!!

 突然、騒がしい音が近づいてきた。  何かが森を突き破り、全力疾走してくる音だ。

「助けてくれぇぇぇぇぇ!!」 「こっちくんなよォォ!!」 「ママーッ!!」

 人の悲鳴。  聞き覚えがある声だ。さっき俺たちに絡んできた『暁の牙』の三人組だ。

「(……うるさいな)」

 俺は眉をひそめたが、目は開けなかった。  関わりたくない。  どうせ、ゴブリンか何かに追いかけられているのだろう。自業自得だ。  ガルドがいるから、こっちに来ても追い払ってくれるはずだ。

「しっ!! 静かにしろ小僧ども!!」

 ガルドの押し殺した怒鳴り声が聞こえる。

「お嬢様が就寝中だぞ! 悲鳴を上げるなら、口に布を詰めてからにしろ!」

 無茶を言うな。  だが、新人たちの悲鳴は止まらない。  それどころか、地面を揺らす「ドシン、ドシン」という重低音が近づいてくる。

「む、無理だよぉ! あんなの勝てないよぉ!」 「オーク・ジェネラルだ!! なんでこんな浅い場所にいるんだよ!?」

 オーク・ジェネラル。  豚の顔をした亜人、オークの上位種だ。  身長は三メートルを超え、知能も高く、鋼鉄の斧を振り回す。  Bランク相当の魔物だ。Fランクの新人が勝てる相手ではない。

「ブモオォォォォォォォォォッ!!!」

 耳をつんざくような咆哮(ほうこう)が響き渡った。  空気がビリビリと震える。  俺の鼓膜がキーンとなった。

「(……チッ)」

 俺のこめかみに、青筋が浮かんだ(ような気がした)。  うるさい。  せっかく深い眠りに入りかけていたのに。

「グオォォォッ!」

 オーク・ジェネラルが、俺たちのいる木陰のすぐそばまで迫ってきたらしい。  ガルドが剣を抜く音が聞こえる。

「チッ、貴様……俺の師匠の安眠を妨げるとは、いい度胸だ」

 ガルドが前に出る気配。  だが、オークの斧が振り下ろされる風切り音が聞こえた。  速い。

 ガキンッ!!

 金属音が響く。  ガルドが大剣で受け止めた音だ。  しかし、その衝撃で周囲の木々が揺れ、大量の葉っぱが俺の顔の上にバラバラと落ちてきた。

「ぷっ……ぺっ」

 口の中に枯れ葉が入った。  俺の忍耐(ゲージ)が、音を立てて崩壊した。

「……あのさぁ」

 俺はむくりと起き上がった。  寝癖がついた髪のまま、半眼で周囲を睨みつける。

 目の前には、腰を抜かした新人三人組。  そして、ガルドと鍔迫り合いをしている、巨大な鎧姿の豚野郎。

「あ、お、お嬢様! 申し訳ありません、すぐに片付け……」

 ガルドが焦って言い訳しようとする。  だが、オーク・ジェネラルは俺に気づき、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。  獲物が増えたと思ったのだろう。  ガルドを弾き飛ばし、無防備(に見える)な俺に向かって、その巨大な斧を振り上げた。

「ブヒャヒャヒャ!」

 唾液が飛んできた。  汚い。  臭い。  うるさい。

「静かにしろって、言ってんだろ」

 俺は足元に落ちていた、小指ほどの太さの木の枝を拾った。  なんの変哲もない、枯れ木だ。

 それを、オークに向かって軽く振った。

 ――シュッ。

 ただ、振っただけだ。  魔力強化もしていない。  ただの「素振り」だ。  しかし、レベル999の筋力で振られた枝は、空気の壁を切り裂き、不可視の真空刃(カマイタチ)を生み出した。

 ズンッ!!

 オーク・ジェネラルの動きが止まった。  振り上げられた斧も、空中で静止した。

 一拍置いて。

 パカッ。

 オークの体が、頭のてっぺんから股下まで、綺麗に左右にズレた。  鋼鉄の鎧ごと。  巨大な斧ごと。  豆腐のように両断されたオークは、左右に分かれて地面に倒れ込んだ。

 ドサッ。

 断面があまりに鋭利すぎて、血すら出ていない。

 シン……。

 森に、完全な静寂が戻った。  新人三人組は、目玉が飛び出るほど見開いて、口をパクパクさせている。  ガルドですら、「えっ……?」と固まっている。

 俺は手にした木の枝を見た。  先端がボロボロになっていたので、ポイッと捨てた。

「……ふぁ」

 あくびが出た。  まだ眠い。  俺は再びマントの上にゴロンと横になった。

「ガルド、あと五分寝かせて」 「は、はい……」

 俺はマントを頭まで被り、再び夢の世界へと旅立った。

   ◇

 数分後。  静寂を破ったのは、新人剣士の震える声だった。

「な、な、な……何が起きたんだ……?」

 彼らの目には、何も見えなかったはずだ。  俺が木の枝を振った動作は、速すぎて視認できなかっただろう。  彼らから見れば、オークがいきなり謎の死を遂げたようにしか見えない。

 視線が集まるのは、当然、大剣を構えていたガルドだ。

「ガ、ガルドさんがやったのか……?」 「見えなかった……剣を振る動作すら見えなかったぞ……!」 「すげぇ……これがSランク……『狂戦士』の実力……!」

 勝手な解釈が始まった。  ガルドは一瞬、俺の方(マントの塊)を見たが、すぐに察したように胸を張った。

「フン……。俺の剣技『空斬(くうざん)』だ。遅すぎて止まって見えたか?」

「うおおおおおおおお!!」 「一生ついていきますぅぅぅ!!」

 新人たちがガルドにすがりついて泣いている。  うるさいけど、まあいい。  手柄はすべてガルドのものだ。  俺はただの、寝起きの悪い幼女。それでいい。

 マントの中で、俺はニヤリと笑い、今度こそ安らかな眠りについた。  ……まあ、ギルドに帰ったら、この「場違いな魔物」の報告で大騒ぎになるのだが、それはまだ先の話だ。
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