『剣聖の愛玩姫(マスコット)』は元勇者 ~レベル999の幼女ですが、働きたくないのでSランク冒険者を盾にします~

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第14話 狂戦士の愛玩動物

翌朝。  『白銀のたてがみ亭』のスイートルームにて。  俺は最高の目覚めを迎えた……はずだった。

「師匠! 大変です! 新聞に載ってます!」

 朝からガルドが騒がしい。  ベッドに飛び込んできた(比喩)ガルドの手には、街で発行されている『バベル日報』が握られていた。

「ん……なんだよ、うるさいな」 「見てください! 昨日のオーク討伐の記事が一面トップです!」

 俺は眠い目をこすりながら、新聞を覗き込んだ。  そこには、デカデカと見出しが躍っていた。

 【Sランク冒険者ガルド、オーク・ジェネラルを一刀両断!】  【見えざる刃! 新必殺技『空斬(くうざん)』の脅威!】

「……よかったな、有名人で」 「よぐないです!!」

 ガルドが泣きそうな顔をしている。

「これ、師匠の技じゃないですか! 俺、棒立ちしてただけですよ!? 詐欺です! 虚偽報告です! 俺は今すぐギルドに行って訂正を……」 「やめろバカ」

 俺はガルドの口をクロワッサンで塞いだ。

「むぐっ!?」 「いいか、これでいいんだ。お前が強ければ強いほど、俺の『か弱さ』が際立つ。俺の平和なニート生活を守るための防波堤になれ」 「師匠……! 俺をそこまで信頼して……! わかりました、この汚名(名声)、甘んじて受け入れましょう!」

 ガルドがクロワッサンを噛み締めながら、悲壮な決意を固めている。  単純な奴で助かる。

「で、続きがあるんだろ?」 「あ、はい。実は記事の後半に、師匠のことも書かれていまして」

 ガルドが申し訳なさそうに新聞の下の方を指差した。  そこには、小さな囲み記事があった。

 【狂戦士の癒やし? 謎の美少女パートナー】  殺伐とした戦場に咲く一輪の花。ガルド氏が連れているFランクの少女は、彼の精神安定剤(マスコット)ではないかと噂されている。オークの死体の横で銅貨を握りしめる姿は、多くの冒険者の涙を誘った。「ガルドの愛玩動物(ペット)」、「戦場の妖精(ニート)」などの愛称で呼ばれ始めているようだ。

「…………」

 俺は新聞を置いた。

「最高だ」

「最高なんですか!?」

 ガルドが驚愕している。

「『愛玩動物(ペット)』ですよ!? 師匠に対してなんと無礼な! 俺が新聞社を焼き払ってきましょうか!」 「ステイ。褒め言葉だ」

 俺はニヤリと笑った。  「ペット」。なんと甘美な響きだろうか。  飼い主(ガルド)に守られ、餌をもらい、ただ愛でられるだけの存在。  それこそが俺の目指す「究極のヒモ生活」の到達点ではないか!

「誰も俺の戦力なんて期待してない。俺はただ、可愛く座っていればいい。……勝ったな」 「師匠の器がデカすぎて、俺には底が見えねぇ……」

 ガルドが戦慄している。  よし、これで世間の認識は固まった。  俺は気分良くベッドから降りた。

「ガルド、出かけるぞ」 「どちらへ? またクエストですか?」 「違う。おやつだ」

 俺は窓の外、街の大通りを指差した。

「昨日、ギルドからの帰りに見かけたんだ。行列のできるクレープ屋を。今日はあれを食べる」 「クレープ……! 承知しました! 店ごと買い占めましょう!」 「一個でいいよ」

   ◇

 街へ出ると、視線が変わっていた。  昨日までは「不審者を見る目」だったのが、今日は「あ、新聞の子だ」「かわいいねぇ」という温かい目に変わっている。  ガルドに対しては「よっ、英雄!」「空斬見せてくれ!」という尊敬の眼差しだ。

 完璧だ。  俺たちは悠々と大通りを歩き、目的のクレープ屋を目指した。

 しかし。  人気店だけあって、長蛇の列ができていた。  ざっと五十人は並んでいる。

「む……並ぶのか」 「俺が全員蹴散らしてきましょうか?」 「やめろ。並ぶのも娯楽のうちだ」

 俺たちは列の最後尾に並んだ。  だが、ここで問題が発生した。

「あ、ガルドさんだ!」 「ガルドさーん! サインくださーい!」 「握手してくれー!」

 冒険者や街の住人たちが、ガルドを見つけて殺到してきたのだ。  あっという間に人だかりができる。  Sランク冒険者は、この世界ではアイドル並みの人気があるのだ。

「ええい、鬱陶(うっとう)しい! 俺は今、お嬢様の護衛中だ!」 「まあまあ、いいじゃないか。ファンサービスしてやれよ」

 俺はガルドの背中を押した。  こいつがチヤホヤされている間に、俺は平和にクレープを楽しみたい。

「し、しかし……」 「行ってこい。俺はここで待ってるから」 「ぐぬぬ……わかりました! すぐに戻ります!」

 ガルドはファンの波に飲まれていった。  よし、邪魔者(ボディーガード)がいなくなった。  俺は一人、列に並び続けた。

 十分後。  ようやく俺の番が回ってきた。

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。何にする?」 「『天使のふわふわスペシャル』ください! 生クリーム増量で!」 「はいよ!」

 手渡されたのは、俺の顔くらいある巨大なクレープだった。  イチゴ、バナナ、チョコソース、そして山盛りのホイップクリーム。  カロリーの爆弾だ。

「いっただっきまーす!」

 俺はクレープにかぶりついた。  甘い! 美味い!  脳がとろけるような糖分の暴力。  これだ。前世の勇者時代、泥のような携行食ばかり食っていた俺へのご褒美だ。

 俺は幸せを噛み締めながら、人混みを避けて路地裏の方へ歩いた。  ガルドはまだファンに囲まれている。  戻ってくるまで、静かな場所でゆっくり食べよう。

 そう思って、一本裏の通りに入った時だった。

「よう、お嬢ちゃん」 「一人かい?」

 前方から、柄の悪そうな男たちが三人、立ちはだかった。  どこにでもいるチンピラだ。  だが、彼らの目は俺の持っている財布……ではなく、俺自身に向けられていた。

「あんた、ガルドの連れだろ?」 「新聞で見たぜ。ガルドの『愛玩動物』だってな」 「へっへっへ……ガルドには恨みがあってな。その大事なペットを攫(さら)えば、あいつも泣きっ面を拝めるって寸法よ」

 ……なるほど。  有名税というやつか。  ガルドに恨みを持つ連中が、俺を弱点だと思って狙ってきたわけだ。

 俺はクレープを食べる手を止めず、モグモグと咀嚼(そしゃく)した。  そして、飲み込んでから一言。

「今、食べてる途中なんだけど」

 男たちの眉間がピクリと動いた。  俺の至福のスイーツタイムを邪魔する罪。  それは万死に値する。

 俺はクレープを持ったまま、冷ややかな目(中身おっさん)で彼らを見上げた。
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