『剣聖の愛玩姫(マスコット)』は元勇者 ~レベル999の幼女ですが、働きたくないのでSランク冒険者を盾にします~

RIU

文字の大きさ
16 / 34

第17話 戦慄の報告書とギルドのアイドル

場所は変わり、街の裏通りにある寂れた酒場の地下室。  そこは、この街の裏社会を牛耳る犯罪組織『赤蛇(レッドスネーク)』のアジトだった。

「……で? 失敗しただと?」

 ドスの利いた声が響く。  部屋の奥、豪華な椅子にふんぞり返っているのは、組織のボスであるボルゾイだ。  全身に蛇の刺青を入れた巨漢で、その凶暴さは裏社会でも恐れられている。

 その前で、一人の男が膝をついていた。  暗殺者ヴァイパーだ。  彼は脂汗を流しながら、赤紫色に腫れ上がった右手首を抑えている。

「も、申し訳ありません……ボス」 「言い訳は聞かんぞ、ヴァイパー。相手はガルドとかいう脳筋と、十歳のガキだろ? お前ほどの手練れが、なぜ不覚を取った」 「ガキが……いえ、あのアリシアという少女が、異常なんです」

 ヴァイパーの声が震える。

「俺は夜襲をかけました。ガルドは寝ていた。完全に無防備な少女の寝首をかこうとした瞬間……寝たままで、俺の腕をへし折ろうとしたんです」 「ああん?」 「握力が……ドラゴンのようでした。あれは人間じゃねぇ。人の皮を被った魔獣です」

 ヴァイパーの必死の訴えに、ボルゾイは鼻で笑った。  馬鹿馬鹿しい、と言わんばかりに。

「夢でも見たか? それとも、失敗の言い訳にしてももう少しマシな嘘をつけんのか?」 「嘘じゃありません! 現に俺の手首は……!」 「黙れ」

 ドォン!  ボルゾイが机を拳で叩き割った。

「俺が欲しいのは『結果』だ。ガルドに恥をかかされた報復として、その大事なペットを攫ってきて嬲(なぶ)り殺しにする。それが俺たちのメンツを保つ方法だろ?」 「し、しかし……」 「お前がビビって使い物にならねぇなら、他の手を使うまでだ」

 ボルゾイは凶悪な笑みを浮かべ、指を鳴らした。  闇の奥から、数十人の荒くれ者たちが姿を現す。

「数で押し潰す。ガルドがいようが関係ねぇ。白昼堂々、ギルドの前で攫ってやれ。それが一番の『見せしめ』になる」 「ボス、それは無茶だ……!」 「うるせぇ。行け、野郎ども! あの生意気なガキを俺の前に引きずり出してこい!」

 ヴァイパーは絶望的な顔で天を仰いだ。  ボスは知らない。  あの少女が、虎の尾どころか、竜の逆鱗であることを。

   ◇

 一方その頃、冒険者ギルド。

「はい、アリシアちゃん。アーンして?」 「あーん」

 俺は受付カウンターの椅子に座り(足が届かないのでブラブラさせながら)、ミナにクッキーを食べさせてもらっていた。

「おいしい?」 「うん! おいしー!」 「よかったぁ。これ、私が焼いてきたのよ」

 ミナがとろけそうな笑顔で俺の頭を撫でる。  周囲の冒険者たちも、その光景をニヤニヤしながら眺めていた。

「おい見ろよ、今日も癒やしの時間が始まったぞ」 「アリシアちゃん、俺の飴ちゃんも食うか?」 「こら、変なもん食わせんじゃねぇよ!」

 完全に「ギルドのアイドル」扱いである。  昨日のオーク討伐(ガルドの手柄)の件もあり、俺は「あの狂戦士ガルドが唯一心を許すマスコット」として、不可侵の聖域のような扱いを受けていた。  座っているだけでお菓子が出てくる。  喉が渇いたと言えばジュースが出てくる。

「(……天国か?)」

 俺はクッキーを咀嚼しながら思った。  冒険者稼業とは、こんなに楽なものだったのか。  前世の俺に教えてやりたい。「世界を救うより、愛想を振りまく方が飯が食えるぞ」と。

「お嬢様、そろそろ依頼を受けに行きませんか?」

 俺の後ろで直立不動のガルドが、申し訳なさそうに声をかけてきた。  彼は周囲の冒険者たちから「アリシアちゃんの保護者」として、以前よりも少しだけ親しみを持たれている(それでも怖がられているが)。

「えー、まだお菓子食べてるのにー」 「しかし、体を動かさないと鈍りますぞ。それに、今日の夕食代も稼がねば」

 確かに。  ガルドの財布(Sランク報酬)があるとはいえ、俺自身のFランク活動実績も少しは作っておかないと、「冒険者」としての体裁が保てない。

「ちぇっ。わかったよ」

 俺は椅子から飛び降りた。

「ミナおねえちゃん、いってくるね」 「ええ、気をつけてね! ……あ、そういえば」

 ミナが何かを思い出したように、声を潜めた。

「今日は『南区』の方には行かないほうがいいわよ」 「南区? なんで?」 「最近、裏社会の組織が騒いでるらしくて、治安が悪いの。子供が近づく場所じゃないわ」

 南区。スラム街や歓楽街があるエリアだ。  俺はコクンと頷いた。

「はーい、わかったー!」

 もちろん近づくつもりはない。  俺の活動範囲は、安全な大通りと、高級ホテルと、ギルドだけだ。  危険な場所には近寄らない。それがニートの鉄則である。

 ……そう思っていたのだが。

   ◇

 一時間後。  俺は南区の入り口に立っていた。

「お嬢様、なぜこちらへ?」 「……売り切れだったんだ」

 俺の声は低かった。地獄の底から響くような低音だった。

「はい?」 「『王都屋』の限定シュークリームが……売り切れだったんだ!!」

 ギルドを出た後、俺はお目当てのスイーツを買いに走った。  しかし、店主は申し訳なさそうにこう言ったのだ。  『すまないねお嬢ちゃん。材料を運んでくる馬車が、南区のチンピラ共に襲われちまって……今日は作れないんだよ』

 ――許せない。  俺の平穏を、俺の糖分を奪う奴は、万死に値する。

「行くぞ、ガルド」 「は、はい! しかし、ミナ嬢が危ないから行くなと……」 「俺のシュークリームを邪魔した奴らが、この先にいる。……駆除するぞ」

 俺はスタスタと、治安の悪い路地へと足を踏み入れた。  ガルドは慌てて追いかける。

「お、お供します! ……しかし師匠、殺気漏れてます! 一般人が失神するレベルで漏れてます!」

 知るか。  俺の食べ物の恨みは、魔王の呪いよりも深いのだ。  こうして、「近づくな」と言われた危険地帯へ、自ら(シュークリームのために)飛び込んでいくことになった。  そこで待ち受けるのが、自分を狙う犯罪組織の本拠地だとも知らずに。
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

転生したらちびっ子になって、空を落ちていた件 〜もふもふたちのお世話はお任せあれ。ついでに悪もやっつけます!〜

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした高橋凛は、お詫びとして理想の世界へ転生することに。しかし気がつけば幼児の姿で、しかも空を落下中だった!? バカ神、あいつまたミスったな!? そう思いながらも、凛はどうすることもできず、空を落ちていく。しかも更なるアクシデントが凛を襲い……。 が、そのアクシデントにより、優しい魔獣に助けられた凛は、少しの間彼の巣で、赤ちゃん魔獣や卵の世話を教わりながら過ごすことに。 やがてその魔獣を通じて侯爵家に迎え入れられると、前世での動物飼育の知識や新たに得た知識、そして凛だけが使える特別な力を活かして、魔獣たちの世話を始めるのだった。 しかし魔獣たちの世話をする中で、時には悪人や悪魔獣と対峙することもあったため、凛は、『魔獣たちは私が守る!!』と決意。入団はできないものの、仮のちびっ子見習い騎士としても頑張り始める。 これは、凛と魔獣たちが織りなす、ほんわかだけど時々ドタバタな、癒しとお世話の物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!

阿里
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!? 「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。 でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした! 「君がいたから、この国は守られていたんだよ」 えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!? 竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート! そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。

「お前の看病は必要ない」と追放された令嬢——3日後、王子の熱が40度を超えても、誰も下げ方を知らなかった

歩人
ファンタジー
「お前の看病などいらない。薬師がいれば十分だ」 王太子カールにそう告げられ、侯爵令嬢リーゼは静かに宮廷を去った。 誰も知らなかった。夜ごとの見回り、薬の飲み合わせの管理、感染症の予防措置——宮廷の健康を守っていたのは薬師ではなくリーゼだったことを。 前世で救急看護師だった記憶を持つ彼女は、辺境の診療所で第二の人生を始める。 一方、リーゼが去った宮廷では原因不明の発熱が蔓延し、王太子自身も倒れる。 迎えに来た使者にリーゼは告げる——「お薬は出せます。でも、看護は致しません」