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第20話 英雄の称号、愛玩の称号
シュークリーム騒動から数日後。 俺とガルドは、冒険者ギルドに呼び出されていた。
ギルド内は、いつになく厳粛な空気に包まれていた。 中央の掲示板の前には、多くの冒険者たちが集まっている。 俺たちが足を踏み入れると、モーゼの海割りのように道が開けた。
「……来たぞ」 「噂の二人組だ」 「組織を一つ壊滅させたってマジかよ……」
畏怖の視線。 その中心を、ガルドは胸を張って歩き、俺はその影に隠れるようにチョコバーを齧(かじ)りながらついていく。
「ガルド様、アリシア様。こちらへ」
受付嬢のミナが、少し緊張した面持ちで手招きした。 カウンターではなく、ギルドの中央にある演台の前だ。 そこには、ギルドマスターのゼッドが立っていた。
「よく来たな、暴れん坊ども」
ゼッドがニヤリと笑う。 その顔を見て、俺は嫌な予感がした。 まさか、裏社会のアジトを吹き飛ばした件で説教か? それとも賠償請求か?
「皆の者、聞け!」
ゼッドが杖を突き、よく通る声で宣言した。
「先日、南区の犯罪組織『赤蛇』が壊滅した。これにより、長年この街を苦しめていた物資の強奪や人攫いが激減することになるだろう」
おおぉ……とどよめきが起こる。
「これは公式な依頼ではない。だが、街の治安を守った功績は大きい。よってギルドは、実行者であるガルドに対し、特別報酬と……新たな『二つ名』を授与することとした!」
二つ名。 それは、一流の冒険者だけに与えられる名誉ある称号だ。 ギルドカードに刻まれ、その名は大陸中に轟くことになる。
「ガルド、前へ」 「ハッ!」
ガルドが進み出る。 ゼッドが新しいギルドカードを手渡した。
「オーク・ジェネラルを一刀両断し、悪の組織を単身で粉砕したその武勇。もはや『狂戦士』の名では収まりきらん。今日から貴様はこう名乗れ」
――『剣聖(ソード・マスター)』ガルド。
ワァァァァァァァッ!! ギルド中が歓声に包まれた。 『剣聖』。剣の道を極めた者への最高級の称号だ。
「剣聖……! 俺が……!」
ガルドが震える手でカードを見つめている。 違う。断じて違う。 お前は剣を振ってすらいない。棒立ちしていただけだ。 だが、俺は後ろで必死に拍手をした。 いいぞ、全部持っていけ。その重すぎる称号を背負って、俺の盾になってくれ。
「……そして」
ゼッドの視線が、俺に向けられた。
「そこの嬢ちゃん。アリシア」
ビクッ。 俺はチョコバーを喉に詰まらせそうになった。 な、なんだ。俺は関係ないはずだ。
「お前さんも、その場にいたそうじゃな」 「い、いたけど……見てただけだよ?」 「そうじゃろうな。だが、あの地獄のような戦場で、平然とお菓子を食べていたという度胸。……多くの冒険者が、お前さんの姿に『癒やし』を感じているようじゃ」
ゼッドが悪戯っぽく笑った。
「よって、アリシアにも『二つ名』を与える」
えっ。 いらない。目立ちたくない。 俺が拒否しようと口を開いた瞬間、ゼッドが高らかに宣言した。
「その名は――『剣聖の愛玩姫(マスコット・プリンセス)』!!」
……は?
シン……と一瞬静まり返り、次の瞬間。
「おおおおおおお!!」 「ぴったりだ!」 「マスコット姫! かわいい!」 「ガルドのペットから昇格したな!」
爆笑と拍手の嵐。 俺は口をポカーンと開けたまま、新しいカードを受け取った。
【氏名】アリシア 【ランク】F 【称号】剣聖の愛玩姫
「…………」
屈辱だ。 元勇者に対して、愛玩姫だと? 俺は愛玩動物ではない。人間だ。しかも中身は三十八歳のおっさんだ。
だが。 周囲の目を見て気づいた。 誰も俺を「戦力」として見ていない。 「ガルドにくっついてる可愛いオマケ」「守ってあげなきゃいけないお姫様」。 その認識が、この称号で完全に固定されたのだ。
「(……待てよ?)」
これは、最強の隠れ蓑(みの)ではないか? 「愛玩姫」が魔王を倒すなんて、誰も思わない。 「愛玩姫」がドラゴンを殴り飛ばすなんて、想像もしない。 俺が何をしても、「ああ、ガルドが守ったんだな」と解釈される無敵の免罪符。
「……ふっ」
俺はニヤリと笑った。
「ありがとー! おじいちゃん!」
俺はカードを掲げて見せた。 歓声がさらに大きくなる。
隣でガルドだけが、脂汗を流して震えていた。 「し、師匠を愛玩などと……不敬にも程がある……! あとで俺が消されるんじゃ……?」と怯えているが、無視だ。
こうして、俺たちのギルドでの地位は確立された。
最強の勘違い英雄『剣聖』ガルド。 その可愛いペット『愛玩姫』アリシア。
このふざけたコンビ名が、やがて世界中を巻き込む大騒動の中心になるとは、この時の俺たちは(ゼッド以外)まだ知らなかったのである。
ギルド内は、いつになく厳粛な空気に包まれていた。 中央の掲示板の前には、多くの冒険者たちが集まっている。 俺たちが足を踏み入れると、モーゼの海割りのように道が開けた。
「……来たぞ」 「噂の二人組だ」 「組織を一つ壊滅させたってマジかよ……」
畏怖の視線。 その中心を、ガルドは胸を張って歩き、俺はその影に隠れるようにチョコバーを齧(かじ)りながらついていく。
「ガルド様、アリシア様。こちらへ」
受付嬢のミナが、少し緊張した面持ちで手招きした。 カウンターではなく、ギルドの中央にある演台の前だ。 そこには、ギルドマスターのゼッドが立っていた。
「よく来たな、暴れん坊ども」
ゼッドがニヤリと笑う。 その顔を見て、俺は嫌な予感がした。 まさか、裏社会のアジトを吹き飛ばした件で説教か? それとも賠償請求か?
「皆の者、聞け!」
ゼッドが杖を突き、よく通る声で宣言した。
「先日、南区の犯罪組織『赤蛇』が壊滅した。これにより、長年この街を苦しめていた物資の強奪や人攫いが激減することになるだろう」
おおぉ……とどよめきが起こる。
「これは公式な依頼ではない。だが、街の治安を守った功績は大きい。よってギルドは、実行者であるガルドに対し、特別報酬と……新たな『二つ名』を授与することとした!」
二つ名。 それは、一流の冒険者だけに与えられる名誉ある称号だ。 ギルドカードに刻まれ、その名は大陸中に轟くことになる。
「ガルド、前へ」 「ハッ!」
ガルドが進み出る。 ゼッドが新しいギルドカードを手渡した。
「オーク・ジェネラルを一刀両断し、悪の組織を単身で粉砕したその武勇。もはや『狂戦士』の名では収まりきらん。今日から貴様はこう名乗れ」
――『剣聖(ソード・マスター)』ガルド。
ワァァァァァァァッ!! ギルド中が歓声に包まれた。 『剣聖』。剣の道を極めた者への最高級の称号だ。
「剣聖……! 俺が……!」
ガルドが震える手でカードを見つめている。 違う。断じて違う。 お前は剣を振ってすらいない。棒立ちしていただけだ。 だが、俺は後ろで必死に拍手をした。 いいぞ、全部持っていけ。その重すぎる称号を背負って、俺の盾になってくれ。
「……そして」
ゼッドの視線が、俺に向けられた。
「そこの嬢ちゃん。アリシア」
ビクッ。 俺はチョコバーを喉に詰まらせそうになった。 な、なんだ。俺は関係ないはずだ。
「お前さんも、その場にいたそうじゃな」 「い、いたけど……見てただけだよ?」 「そうじゃろうな。だが、あの地獄のような戦場で、平然とお菓子を食べていたという度胸。……多くの冒険者が、お前さんの姿に『癒やし』を感じているようじゃ」
ゼッドが悪戯っぽく笑った。
「よって、アリシアにも『二つ名』を与える」
えっ。 いらない。目立ちたくない。 俺が拒否しようと口を開いた瞬間、ゼッドが高らかに宣言した。
「その名は――『剣聖の愛玩姫(マスコット・プリンセス)』!!」
……は?
シン……と一瞬静まり返り、次の瞬間。
「おおおおおおお!!」 「ぴったりだ!」 「マスコット姫! かわいい!」 「ガルドのペットから昇格したな!」
爆笑と拍手の嵐。 俺は口をポカーンと開けたまま、新しいカードを受け取った。
【氏名】アリシア 【ランク】F 【称号】剣聖の愛玩姫
「…………」
屈辱だ。 元勇者に対して、愛玩姫だと? 俺は愛玩動物ではない。人間だ。しかも中身は三十八歳のおっさんだ。
だが。 周囲の目を見て気づいた。 誰も俺を「戦力」として見ていない。 「ガルドにくっついてる可愛いオマケ」「守ってあげなきゃいけないお姫様」。 その認識が、この称号で完全に固定されたのだ。
「(……待てよ?)」
これは、最強の隠れ蓑(みの)ではないか? 「愛玩姫」が魔王を倒すなんて、誰も思わない。 「愛玩姫」がドラゴンを殴り飛ばすなんて、想像もしない。 俺が何をしても、「ああ、ガルドが守ったんだな」と解釈される無敵の免罪符。
「……ふっ」
俺はニヤリと笑った。
「ありがとー! おじいちゃん!」
俺はカードを掲げて見せた。 歓声がさらに大きくなる。
隣でガルドだけが、脂汗を流して震えていた。 「し、師匠を愛玩などと……不敬にも程がある……! あとで俺が消されるんじゃ……?」と怯えているが、無視だ。
こうして、俺たちのギルドでの地位は確立された。
最強の勘違い英雄『剣聖』ガルド。 その可愛いペット『愛玩姫』アリシア。
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