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第22話 優秀なパシリと迷惑な来訪者
『白銀のたてがみ亭』、最上階スイートルーム。 俺はふかふかのソファに深々と体を沈めていた。
「姐さん、ブツを持ってきました」
窓から音もなく侵入してきたヴァイパーが、恭しく紙袋を差し出した。 中には、焼きたての『幻のメロンパン』。 まだ温かい。表面のクッキー生地はサクサクで、甘い香りが部屋に広がる。
「……早いね」 「ハッ! 行列の最後尾から気配を消して割り込……いえ、並んでいる客の隙間を『縮地』で抜け、誰にも気づかれずに購入いたしました」
犯罪スレスレ(というかアウト)な気がするが、結果オーライだ。 俺はメロンパンにかぶりついた。 美味い。並ばずに食べる人気スイーツの味は格別だ。
「合格だ、ヴァイパー。お前は今日から俺の『影』だ」 「ははぁッ!! 光栄の極み!!」
ヴァイパーが床に額をこすりつけて平伏する。 隣で立っていたガルドが、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「フン……。新入りが。調子に乗るなよ? お嬢様の『盾』は俺だ。お前ごときコソ泥は、せいぜいパンの買い出しくらいがお似合いだ」 「ケッ。脳みそまで筋肉が詰まったゴリラに言われたくねぇな。姐さんの真意も理解できずに、棒立ちしてただけの『剣聖』サマがよ」
バチバチと火花が散る。 仲が悪いな。まあ、馴れ合われるよりマシか。
「で、姐さん。パンのついでに、気になる情報を拾ってきました」
ヴァイパーが表情を引き締め、報告モードに入った。 これだ。俺が期待していたのは、この情報収集能力だ。
「情報?」 「へい。最近、街の警備が妙に厳重になっているのにお気づきですか?」 「言われてみれば、衛兵が増えてるような」 「実は……王都から『VIP』が来るそうです」
VIP。 嫌な響きだ。俺の経験上、VIPが来てろくなことになった試しがない。
「誰?」 「この国の第二王子、レオン殿下です」
ブフォッ!! 俺はメロンパンの粉を吹き出した。
「お、王子だと……!?」 「はい。なんでも、最近バベルで話題の『犯罪組織を壊滅させた剣聖』を一目見たいとかで、視察に来られるそうです」
終わった。 俺のニート計画、終了のお知らせだ。 王族が関わってくるということは、国が関わってくるということだ。 もしガルドが謁見して、ボロを出して、俺の存在がバレたら? 「実は黒幕はこの幼女です」なんてことになったら、俺は城に連行され、宮廷魔導士として一生こき使われるに決まっている。
「……逃げるぞ」
俺は即決した。 メロンパンを口に押し込み、立ち上がる。
「ガルド、荷物をまとめろ。夜逃げだ」 「えっ!? なぜですかお嬢様! 王子に会えば、更なる名誉が……」 「名誉なんていらない! 俺が欲しいのは安眠だ! 王族なんて面倒くさい人種、関わったら負けなんだよ!」
前世のトラウマが蘇る。 「勇者よ、次はこれを頼む」「勇者よ、舞踏会に出ろ」「勇者よ、王女の婿になれ」。 あいつらは、人のプライベートを何だと思っているんだ。
「姐さん、その判断は賢明ですが……」
ヴァイパーが窓の外を指差した。
「もう、手遅れかもしれませんぜ」
――パァァァァァァァッ!! ――パラララッパ~~~♪
遠くから、高らかなファンファーレが聞こえてきた。 街の大通りから、ものすごい歓声が上がっている。
「キャー!! レオン様ー!!」 「こっち向いてー!!」
黄色い声援。 俺は恐る恐る窓から下を覗いた。 大通りを、白馬に乗ったキラキラした男が進んでくるのが見えた。 金髪。碧眼。白い軍服。バラの花束。 絵に描いたような王子様だ。
「……着くのが早いよ」
俺は頭を抱えた。 このホテルは大通りに面している。そして、この街で一番高級なホテルだ。 つまり、王子の宿泊先は……。
コンコン。
部屋のドアがノックされた。 フロントマンの焦った声が響く。
「ガ、ガルド様! 大変です! レオン殿下が……殿下が、このホテルの最上階を貸し切りたいと仰っておりまして!」 「あ?」 「そ、それで、ガルド様にご挨拶したいと……今こちらに向かっておられます!」
詰んだ。 逃げ場なし。 すでにエレベーター(魔導昇降機)が上がってくる音がする。
「……ガルド」 「ハッ!」 「俺は隠れる。お前が対応しろ」 「えっ、俺一人でですか!?」 「そうだ。いいか、絶対に俺のことを話すなよ。『ただのペットです』で押し通せ!」
俺はソファの裏……いや、クローゼットの中に飛び込んだ。 ヴァイパーはすでに気配を消して天井裏に張り付いている。
ガチャリ。 ドアが開いた。
「やあ、君が噂の『剣聖』かい?」
甘ったるい声と共に、部屋の中が物理的に明るくなった(ような気がした)。 隙間から覗くと、そこにはキラキラオーラを纏った金髪の青年が立っていた。
第二王子、レオン。 俺の平穏を脅かす、最大の天敵の登場である。
「姐さん、ブツを持ってきました」
窓から音もなく侵入してきたヴァイパーが、恭しく紙袋を差し出した。 中には、焼きたての『幻のメロンパン』。 まだ温かい。表面のクッキー生地はサクサクで、甘い香りが部屋に広がる。
「……早いね」 「ハッ! 行列の最後尾から気配を消して割り込……いえ、並んでいる客の隙間を『縮地』で抜け、誰にも気づかれずに購入いたしました」
犯罪スレスレ(というかアウト)な気がするが、結果オーライだ。 俺はメロンパンにかぶりついた。 美味い。並ばずに食べる人気スイーツの味は格別だ。
「合格だ、ヴァイパー。お前は今日から俺の『影』だ」 「ははぁッ!! 光栄の極み!!」
ヴァイパーが床に額をこすりつけて平伏する。 隣で立っていたガルドが、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「フン……。新入りが。調子に乗るなよ? お嬢様の『盾』は俺だ。お前ごときコソ泥は、せいぜいパンの買い出しくらいがお似合いだ」 「ケッ。脳みそまで筋肉が詰まったゴリラに言われたくねぇな。姐さんの真意も理解できずに、棒立ちしてただけの『剣聖』サマがよ」
バチバチと火花が散る。 仲が悪いな。まあ、馴れ合われるよりマシか。
「で、姐さん。パンのついでに、気になる情報を拾ってきました」
ヴァイパーが表情を引き締め、報告モードに入った。 これだ。俺が期待していたのは、この情報収集能力だ。
「情報?」 「へい。最近、街の警備が妙に厳重になっているのにお気づきですか?」 「言われてみれば、衛兵が増えてるような」 「実は……王都から『VIP』が来るそうです」
VIP。 嫌な響きだ。俺の経験上、VIPが来てろくなことになった試しがない。
「誰?」 「この国の第二王子、レオン殿下です」
ブフォッ!! 俺はメロンパンの粉を吹き出した。
「お、王子だと……!?」 「はい。なんでも、最近バベルで話題の『犯罪組織を壊滅させた剣聖』を一目見たいとかで、視察に来られるそうです」
終わった。 俺のニート計画、終了のお知らせだ。 王族が関わってくるということは、国が関わってくるということだ。 もしガルドが謁見して、ボロを出して、俺の存在がバレたら? 「実は黒幕はこの幼女です」なんてことになったら、俺は城に連行され、宮廷魔導士として一生こき使われるに決まっている。
「……逃げるぞ」
俺は即決した。 メロンパンを口に押し込み、立ち上がる。
「ガルド、荷物をまとめろ。夜逃げだ」 「えっ!? なぜですかお嬢様! 王子に会えば、更なる名誉が……」 「名誉なんていらない! 俺が欲しいのは安眠だ! 王族なんて面倒くさい人種、関わったら負けなんだよ!」
前世のトラウマが蘇る。 「勇者よ、次はこれを頼む」「勇者よ、舞踏会に出ろ」「勇者よ、王女の婿になれ」。 あいつらは、人のプライベートを何だと思っているんだ。
「姐さん、その判断は賢明ですが……」
ヴァイパーが窓の外を指差した。
「もう、手遅れかもしれませんぜ」
――パァァァァァァァッ!! ――パラララッパ~~~♪
遠くから、高らかなファンファーレが聞こえてきた。 街の大通りから、ものすごい歓声が上がっている。
「キャー!! レオン様ー!!」 「こっち向いてー!!」
黄色い声援。 俺は恐る恐る窓から下を覗いた。 大通りを、白馬に乗ったキラキラした男が進んでくるのが見えた。 金髪。碧眼。白い軍服。バラの花束。 絵に描いたような王子様だ。
「……着くのが早いよ」
俺は頭を抱えた。 このホテルは大通りに面している。そして、この街で一番高級なホテルだ。 つまり、王子の宿泊先は……。
コンコン。
部屋のドアがノックされた。 フロントマンの焦った声が響く。
「ガ、ガルド様! 大変です! レオン殿下が……殿下が、このホテルの最上階を貸し切りたいと仰っておりまして!」 「あ?」 「そ、それで、ガルド様にご挨拶したいと……今こちらに向かっておられます!」
詰んだ。 逃げ場なし。 すでにエレベーター(魔導昇降機)が上がってくる音がする。
「……ガルド」 「ハッ!」 「俺は隠れる。お前が対応しろ」 「えっ、俺一人でですか!?」 「そうだ。いいか、絶対に俺のことを話すなよ。『ただのペットです』で押し通せ!」
俺はソファの裏……いや、クローゼットの中に飛び込んだ。 ヴァイパーはすでに気配を消して天井裏に張り付いている。
ガチャリ。 ドアが開いた。
「やあ、君が噂の『剣聖』かい?」
甘ったるい声と共に、部屋の中が物理的に明るくなった(ような気がした)。 隙間から覗くと、そこにはキラキラオーラを纏った金髪の青年が立っていた。
第二王子、レオン。 俺の平穏を脅かす、最大の天敵の登場である。
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