『剣聖の愛玩姫(マスコット)』は元勇者 ~レベル999の幼女ですが、働きたくないのでSランク冒険者を盾にします~

RIU

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第22話 優秀なパシリと迷惑な来訪者

『白銀のたてがみ亭』、最上階スイートルーム。  俺はふかふかのソファに深々と体を沈めていた。

「姐さん、ブツを持ってきました」

 窓から音もなく侵入してきたヴァイパーが、恭しく紙袋を差し出した。  中には、焼きたての『幻のメロンパン』。  まだ温かい。表面のクッキー生地はサクサクで、甘い香りが部屋に広がる。

「……早いね」 「ハッ! 行列の最後尾から気配を消して割り込……いえ、並んでいる客の隙間を『縮地』で抜け、誰にも気づかれずに購入いたしました」

 犯罪スレスレ(というかアウト)な気がするが、結果オーライだ。  俺はメロンパンにかぶりついた。  美味い。並ばずに食べる人気スイーツの味は格別だ。

「合格だ、ヴァイパー。お前は今日から俺の『影』だ」 「ははぁッ!! 光栄の極み!!」

 ヴァイパーが床に額をこすりつけて平伏する。  隣で立っていたガルドが、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「フン……。新入りが。調子に乗るなよ? お嬢様の『盾』は俺だ。お前ごときコソ泥は、せいぜいパンの買い出しくらいがお似合いだ」 「ケッ。脳みそまで筋肉が詰まったゴリラに言われたくねぇな。姐さんの真意も理解できずに、棒立ちしてただけの『剣聖』サマがよ」

 バチバチと火花が散る。  仲が悪いな。まあ、馴れ合われるよりマシか。

「で、姐さん。パンのついでに、気になる情報を拾ってきました」

 ヴァイパーが表情を引き締め、報告モードに入った。  これだ。俺が期待していたのは、この情報収集能力だ。

「情報?」 「へい。最近、街の警備が妙に厳重になっているのにお気づきですか?」 「言われてみれば、衛兵が増えてるような」 「実は……王都から『VIP』が来るそうです」

 VIP。  嫌な響きだ。俺の経験上、VIPが来てろくなことになった試しがない。

「誰?」 「この国の第二王子、レオン殿下です」

 ブフォッ!!  俺はメロンパンの粉を吹き出した。

「お、王子だと……!?」 「はい。なんでも、最近バベルで話題の『犯罪組織を壊滅させた剣聖』を一目見たいとかで、視察に来られるそうです」

 終わった。  俺のニート計画、終了のお知らせだ。  王族が関わってくるということは、国が関わってくるということだ。  もしガルドが謁見して、ボロを出して、俺の存在がバレたら?  「実は黒幕はこの幼女です」なんてことになったら、俺は城に連行され、宮廷魔導士として一生こき使われるに決まっている。

「……逃げるぞ」

 俺は即決した。  メロンパンを口に押し込み、立ち上がる。

「ガルド、荷物をまとめろ。夜逃げだ」 「えっ!? なぜですかお嬢様! 王子に会えば、更なる名誉が……」 「名誉なんていらない! 俺が欲しいのは安眠だ! 王族なんて面倒くさい人種、関わったら負けなんだよ!」

 前世のトラウマが蘇る。  「勇者よ、次はこれを頼む」「勇者よ、舞踏会に出ろ」「勇者よ、王女の婿になれ」。  あいつらは、人のプライベートを何だと思っているんだ。

「姐さん、その判断は賢明ですが……」

 ヴァイパーが窓の外を指差した。

「もう、手遅れかもしれませんぜ」

 ――パァァァァァァァッ!!  ――パラララッパ~~~♪

 遠くから、高らかなファンファーレが聞こえてきた。  街の大通りから、ものすごい歓声が上がっている。

「キャー!! レオン様ー!!」 「こっち向いてー!!」

 黄色い声援。  俺は恐る恐る窓から下を覗いた。  大通りを、白馬に乗ったキラキラした男が進んでくるのが見えた。  金髪。碧眼。白い軍服。バラの花束。  絵に描いたような王子様だ。

「……着くのが早いよ」

 俺は頭を抱えた。  このホテルは大通りに面している。そして、この街で一番高級なホテルだ。  つまり、王子の宿泊先は……。

 コンコン。

 部屋のドアがノックされた。  フロントマンの焦った声が響く。

「ガ、ガルド様! 大変です! レオン殿下が……殿下が、このホテルの最上階を貸し切りたいと仰っておりまして!」 「あ?」 「そ、それで、ガルド様にご挨拶したいと……今こちらに向かっておられます!」

 詰んだ。  逃げ場なし。  すでにエレベーター(魔導昇降機)が上がってくる音がする。

「……ガルド」 「ハッ!」 「俺は隠れる。お前が対応しろ」 「えっ、俺一人でですか!?」 「そうだ。いいか、絶対に俺のことを話すなよ。『ただのペットです』で押し通せ!」

 俺はソファの裏……いや、クローゼットの中に飛び込んだ。  ヴァイパーはすでに気配を消して天井裏に張り付いている。

 ガチャリ。  ドアが開いた。

「やあ、君が噂の『剣聖』かい?」

 甘ったるい声と共に、部屋の中が物理的に明るくなった(ような気がした)。  隙間から覗くと、そこにはキラキラオーラを纏った金髪の青年が立っていた。

 第二王子、レオン。  俺の平穏を脅かす、最大の天敵の登場である。
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