『剣聖の愛玩姫(マスコット)』は元勇者 ~レベル999の幼女ですが、働きたくないのでSランク冒険者を盾にします~

RIU

文字の大きさ
28 / 34

第29話 勇者の作戦会議(と書いて介護と読む)

翌日、正午。  冒険者ギルドの会議室には、重苦しい空気が漂っていた。

「遅いぞ、ガルド」

 上座にふんぞり返っているのは、勇者ラルフだ。  その隣には、不機嫌そうな聖女エララ。  そして周囲には、彼らの取り巻きである騎士たちが数名控えている。

「申し訳ありません。……準備に手間取りまして」

 ガルドが頭を下げる。  その背中には、巨大なリュックサック。  そして、そのリュックの上には、チョコンと座っている少女が一人。

「……おい」

 ラルフが眉をひそめた。

「なんでそのガキがいるんだ?」 「はい。お嬢様が『ガルドおじちゃんと離れると死んじゃう病』を発症されまして……」

 嘘だ。  俺(リュックの上)は無表情でキャンディを舐めていた。  本当の理由は、「お前らごときに俺の大事な財布(ガルド)を壊されてたまるか」という監視目的だ。  こいつらの昨日の態度を見るに、ガルドを捨て駒にする可能性が高い。

「チッ、まあいい。マスコットがいれば兵士たちの士気も上がるだろう。あるいは……魔物が出た時の囮(おとり)くらいにはなるか」

 ラルフがボソッと呟いたのを、俺の地獄耳は聞き逃さなかった。  ほう。囮、ね。  あとで森の奥に置き去りにしてやろうか。

「さて、作戦を伝える」

 ラルフが地図を広げた。  指差したのは、バベルの北にある山岳地帯。

「調査によると、この『北の廃坑』に、昨日の魔族ジョーカーの仲間が潜伏しているらしい」 「廃坑……ですか」 「ああ。俺たちの目的は、残党の殲滅だ。作戦はこうだ」

 ラルフが得意げに鼻を鳴らす。

「まず、ガルドが先頭を行く。お前の『剣聖』としての防御力で、敵の攻撃をすべて受け止めろ。その隙に、俺が後ろからカッコよく必殺技を決める」

「……は?」

 ガルドが耳を疑うような顔をした。  それは作戦ではない。ただの「盾」だ。  しかも、廃坑のような狭い場所でSランクを前衛に固定し、自分は安全圏から魔法剣を撃つ?  味方を巻き込むリスクを考えていないのか?

「不服か?」 「い、いえ……しかし、狭い坑道では連携が……」 「口答えするな! 勇者の命令は絶対だ!」

 ドンッ!  ラルフが机を叩く。  典型的なパワハラ上司だ。  俺はリュックの上から、冷ややかな視線を送った。  前世の俺なら、こんな作戦を立てた時点でパーティーから追放している。

「わかりました……従います」 「よろしい。出発は一時間後だ。ガルド、俺たちの荷物も持てよ」

 ラルフたちは地図を放り出し、ランチへと出かけていった。

 部屋に残された俺たち。  ガルドが深いため息をつく。

「……すみません、師匠。不甲斐ない姿を」 「気にするな」

 俺はガルドの肩をポンポンと叩いた。

「あいつらは三流だ。まともに相手をする必要はない」 「しかし、作戦行動中に背中を撃たれる可能性が……」 「大丈夫だ。俺がいる」

 俺はニヤリと笑った。

「『北の廃坑』か。……あそこは昔、俺が修行に使った場所だ。構造は庭より詳しい」 「修行……? 廃坑でですか?」 「ああ。レベル500くらいの時に、素手で山を掘り進んで作ったのが、あの廃坑だ」 「師匠が作ったんですか!?」

 ガルドが驚愕している。  そう、あそこは俺の「元・秘密基地」だ。  勝手に入り込んでる魔族がいるなら、不法侵入で家賃を請求しなければならない。

「行くぞ、ガルド。遠足の始まりだ」 「はっ! しかし、荷物が……」 「そんなもん、ヴァイパーに持たせろ」

 天井裏で気配を消していたヴァイパーが、「えっ、俺!?」と小声で叫ぶのが聞こえたが無視だ。

   ◇

 一時間後。  一行は北の廃坑へ向けて出発した。

 先頭を歩くガルド(大量の荷物持ち)。  そのリュックの上で優雅に座るアリシア(俺)。  その後ろを、馬に乗って談笑しながら進むラルフとエララ、そして騎士たち。

「おいガルド! 歩くのが遅いぞ!」 「もっとキビキビ動け! それでも剣聖か!」

 後ろから石が飛んでくる。  いじめだ。小学生レベルのいじめだ。

「師匠……我慢です……これは修行……精神の修行……」 「偉いぞガルド。あとで高級肉を食わせてやるからな」

 俺はガルドを励ましつつ、周囲の気配を探った。  山道に入ると、空気中の魔素濃度が濃くなっている。  やはり、何かいる。  それも、昨日のジョーカーごときとは比べ物にならない、上位の魔族の気配が。

「(……勇者くん、気づいてるか?)」

 俺はチラリと後ろを見た。  ラルフはエララと「この戦いが終わったら温泉に行こうぜ」などと話している。  気づいていない。  危機感ゼロだ。

「(ダメだこいつら。死ぬぞ)」

 俺はため息をついた。  勇者が死ぬと、国が混乱する。そうなれば俺のニート生活にも影響が出る(税金が上がるとか、強制徴兵とか)。  不本意だが、介護してやるしかないか。

 ザッ。  その時、ガルドが足を止めた。

「……何か来ます」 「ああん? ビビってんじゃねぇよ」

 ラルフが嘲笑した瞬間。

 ズズズズズ……!!

 地面が隆起した。  巨大なミミズのような魔物――**【大地の捕食者(ランド・ワーム)】**が、三体同時に出現したのだ。  レベルは推定60。  ラルフたちと同格か、少し格上の相手だ。

「うわっ!? なんだこいつら!?」 「き、気持ち悪いですわ!」

 ラルフたちが慌てふためく。  ワームが大きく口を開け、溶解液を吐き出そうとした。  標的は、馬に乗って目立っているラルフたちだ。

「ヒッ! ガルド! 守れ! 盾になれ!!」

 ラルフが悲鳴を上げてガルドを指差した。  ガルドは即座に大剣を構えようとしたが――。

「(動くな、ガルド)」

 俺が小声で制止した。

「(えっ?)」 「(いい薬だ。少し痛い目を見せてやれ)」

 俺は指先をこっそり動かした。  【土魔法:泥沼(マッド・トラップ)】。

 ラルフたちの馬の足元が、突然液状化した。

「うおっ!?」 「キャアッ!」

 馬が足を取られ、ラルフとエララが地面に放り出された。  そこへ、ワームの溶解液が降り注ぐ――寸前。

「今だ、ガルド。剣圧だけでいい。吹き飛ばせ」 「御意!!」

 ガルドが大剣を真横に薙いだ。  剣はワームに届いていない。  だが、放たれた衝撃波(と俺がこっそり付与した風魔法)が、溶解液ごとワームたちを弾き飛ばした。

 ドォォォォン!!

 ワームたちは遥か彼方の空へホームランされた。  泥まみれになったラルフとエララが、ポカンと口を開けている。

「……た、助かった……?」 「危なかったな、勇者殿」

 ガルドが涼しい顔で振り返る。  そのリュックの上で、俺は無邪気に拍手をした。

「すごーい! お兄ちゃんたち、泥遊び?」

 ラルフの顔が真っ赤になった。  勇者のプライドがズタズタだ。  だが、これはまだ序章に過ぎない。  廃坑の奥には、さらなる地獄(と俺の過去の黒歴史)が待っているのだから。
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

転生したらちびっ子になって、空を落ちていた件 〜もふもふたちのお世話はお任せあれ。ついでに悪もやっつけます!〜

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした高橋凛は、お詫びとして理想の世界へ転生することに。しかし気がつけば幼児の姿で、しかも空を落下中だった!? バカ神、あいつまたミスったな!? そう思いながらも、凛はどうすることもできず、空を落ちていく。しかも更なるアクシデントが凛を襲い……。 が、そのアクシデントにより、優しい魔獣に助けられた凛は、少しの間彼の巣で、赤ちゃん魔獣や卵の世話を教わりながら過ごすことに。 やがてその魔獣を通じて侯爵家に迎え入れられると、前世での動物飼育の知識や新たに得た知識、そして凛だけが使える特別な力を活かして、魔獣たちの世話を始めるのだった。 しかし魔獣たちの世話をする中で、時には悪人や悪魔獣と対峙することもあったため、凛は、『魔獣たちは私が守る!!』と決意。入団はできないものの、仮のちびっ子見習い騎士としても頑張り始める。 これは、凛と魔獣たちが織りなす、ほんわかだけど時々ドタバタな、癒しとお世話の物語。

この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。 しかも自分は――愛され王女!? 前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。 「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」 いつも優しい両親や兄。 戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。 これは罠? それとも本物の“家族の愛”? 愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。 疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う―― じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。 他サイトでも掲載しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!

阿里
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!? 「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。 でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした! 「君がいたから、この国は守られていたんだよ」 えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!? 竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート! そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。