『剣聖の愛玩姫(マスコット)』は元勇者 ~レベル999の幼女ですが、働きたくないのでSランク冒険者を盾にします~

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第30話 勇者の探索と黒歴史の遺跡

北の廃坑。  かつて鉱脈が枯れ果てて放棄された場所――というのは表向きの話だ。  実態は、数年前に俺(当時レベル500)が、「人目を気にせず魔法をぶっ放せる場所が欲しい」と思って、山をくり抜いて作った個人的なトレーニングジムである。

「うっ……暗いな。カビ臭い」

 入り口に立った勇者ラルフが鼻をつまんだ。  泥は魔法で落としたようだが、プライドについた泥は落ちていないらしく、不機嫌そのものだ。

「おいエララ、『ライト』だ。足元を照らせ」 「はいはい。……もう、私の神聖な魔力を懐中電灯代わりにしないでくださいな」

 エララが杖を掲げると、光の球が浮かび上がり、坑道を照らし出した。

 そこには、驚くべき光景が広がっていた。

「な、なんだこれは……?」

 ラルフが息を呑む。  坑道の壁も、床も、天井も、鏡のようにツルツルに磨き上げられていたのだ。  人工的な掘削跡ではない。まるで、超高温のエネルギーで岩盤を一瞬にして溶解させたような痕跡。

「こ、これは……『古代竜(エンシェント・ドラゴン)』のブレス跡か!?」 「ありえますわ……! これほど広範囲を溶解させる熱量、現代の魔法では不可能ですもの!」

 ラルフとエララが戦慄している。  リュックの上の俺は、目を逸らした。

「(あー……それ、俺が極大ファイアボールの試し撃ちをした跡だわ)」

 懐かしい。火加減を間違えて、山を貫通しそうになったんだっけ。

「警戒しろガルド! 古代竜が眠っているかもしれん!」 「は、はあ……(竜より怖い人が背中にいますが)」

 ガルドはチラリと俺を見たが、俺は知らんぷりを決め込んだ。

   ◇

 さらに奥へ進むと、巨大な広間に出た。  天井の高さは五十メートル。野球場がすっぽり入りそうな大空間だ。  これも俺が「範囲魔法の練習」で作ったスペースだ。

「おい、見ろ! あそこ!」

 ラルフが指差した先。  広間の中央に、奇妙な石碑が立っていた。  ボロボロに風化しているが、何か文字が刻まれている。

「古代文字か……? 解読できるか、エララ」 「やってみますわ」

 エララが石碑に近づき、目を細めた。  刻まれているのは、俺が当時、中二病全開で書き残した「修行の心得」だ。  内容は『筋肉は裏切らない』『魔法は爆発だ』『今日のご飯はカレー』とか、そんな落書きだ。

「……読めましたわ」 「なんと書いてある!?」 「『汝、力を求める者よ。死の試練を乗り越えよ。さすれば扉は開かれん』……と」

 嘘つけ。  どこをどう意訳したらそうなるんだ。  エララさん、さては読めてないのに適当言いましたね?

「なるほど! やはりここは古代の遺跡か! 宝が眠っているに違いない!」

 ラルフが目を輝かせた。  単純な男だ。

「行くぞ! この奥に魔族どもも隠れているはずだ!」

 ラルフがズカズカと広間の中央へ進んでいく。  だが、俺は気づいていた。  ラルフが踏もうとしている床のタイルが、わずかに色が変わっていることに。

「(あ、そこスイッチ)」

 俺が作った「自動迎撃訓練システム」の起動スイッチだ。  止めるべきか?  いや、止めたら怪しまれるし、勇者の実力(笑)を見るいい機会か。

 カチッ。

 ラルフが踏んだ。  次の瞬間。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 地響きと共に、広場の奥から「何か」がせり上がってきた。  金属と岩石で構成された、身長五メートルの巨人。  全身が黒光りする希少金属「アダマンタイト」でコーティングされている。

「な、なんだコリャァァァァ!?」 「ゴーレム!? いや、ただのゴーレムではありませんわ! あの輝き……まさか全身アダマンタイト!?」

 正解。  俺が当時、貯金をはたいて作った最高傑作、トレーニング用サンドバッグ『ポチ1号』だ。  物理魔法耐性完備。自動修復機能付き。  レベル換算で150相当。  今のラルフ(Lv.58)が勝てる相手ではない。

「ブモオォォォォォ……」

 ポチ1号が起動音を上げ、真っ赤なカメラアイを光らせた。  ターゲット認識。侵入者排除モード。

「へ、へっ! デカい図体しやがって! 所詮はただの人形だろ!」

 ラルフが剣を抜いた。  聖剣(量産型)が輝く。

「見ていろガルド! これが勇者の剣技だ! 『ライトニング・スラッシュ』!!」

 ラルフが疾走し、ポチ1号の足元へ斬り込んだ。  必殺の一撃。  雷を纏った刃が、アダマンタイトの装甲に直撃する。

 ――カィィィィィン!!

 甲高い音が響き渡り、火花が散った。  しかし。

「……は?」

 ラルフが動きを止めた。  ポチ1号の足には、傷一つついていなかった。  それどころか、ラルフの聖剣の刃がこぼれている。

「う、嘘だろ……? 俺の剣が通じない……?」 「ブモ。」

 ポチ1号が無慈悲に右腕を振り上げた。  丸太のような腕による、単純な「はたき落とし」。

「ぐえっ!?」

 ドゴォォォン!!

 ラルフはボールのように弾き飛ばされ、壁に激突してずり落ちた。  一撃KO寸前だ。

「ラルフ様ーッ!!」 「魔法障壁が……一撃で割られただと……?」

 エララと騎士たちが絶句している。  俺はリュックの上で頬杖をついた。

「(そりゃそうだ。あれ、俺の拳を受け止めるために作ったんだから、生半可な攻撃じゃ蚊に刺された程度だぞ)」

 ポチ1号がゆっくりと、次の標的――エララたちへ向き直る。  まずい。このままだと勇者パーティーが全滅する。  それはそれで面白いが、ポチ1号が暴走して街まで行ったら面倒だ。

「ガルド」 「ハッ!」 「出番だ」

 俺は小声で指示を出した。

「あのデカブツの弱点は『右脇の下』だ。そこにある赤いコアを突け」 「了解です! しかし、あの装甲を貫けるかどうか……」 「大丈夫だ。俺が『支援(バフ)』をかける」

 俺はガルドの背中に手を置き、魔力を流し込んだ。  【身体強化:リミッター解除】  【武器強化:斬鉄剣】

 ガルドの筋肉が膨張し、大剣が青白く発光し始めた。

「おおぉ……力が……力が湧いてくるゥゥゥ!!」

 ガルドが雄叫びを上げる。  さあ行け、私の可愛い弟子(と書いてパシリ)よ。  勇者の尻拭いをしてやるのだ。
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